JALとANA、投資するならどっち?
日本航空(JAL)が経営難により、2010年に会社更正法の適用を申請して倒産し、上場廃止となったことはまだ記憶に新しいのではないでしょうか。
日本航空は全日空(ANA)と共に日本を代表する航空会社であっただけに、その倒産のニュースは日本に衝撃を与えました。
日本航空の株は値動きがそれほど大きくないということや、全日空と並んで日本の空輸を代表する企業であるため、安心して持てるということから、短期での売買目的ではなく、長期での保有を考えてお持ちだった方も多いはずです。
そんな「安心して持てる」と思っていた株を発行している巨大企業が急に倒産し、その株がただの紙切れになってしまった事実は、多くの人に「投資は危険だ」というイメージを強める原因にもなったのではないでしょうか。
その後、新経営陣のもと、政府の支援と指導を受けながら再生への道を歩んできた日本航空。
2012年には再上場を果たし、「企業再生支援機構が保有する全株式は約6,500億円で売却」されました。
日本航空は今年の4月には新規投資や路線開設が解禁となり、新たな戦略に挑戦することができるステージにまで到達しました。
JALの倒産から再生、そして今後の新たな挑戦はライバル企業である全日空(ANA)の業績や株価にはどのような影響を与え、また、今後も与えていくでしょうか。
格安航空会社の参入などもあり、ますます競争が激しくなる航空業界で今後両者の業績や株価がどのようになっていくのでしょうか。
これまでの日本航空と全日空を比較しながら考えていきましょう。
JAL、倒産から再上場まで
日本航空が倒産したのは2010年。
日本の中でも大企業である日本航空が倒産するというニュースは、日本全国だけでなく、世界の航空関連業界に大きな衝撃を与えました。
その結果、日本航空は企業再生支援機構から3,500億円もの出資(公的資金)を受け、さらに金融機関から5,200億円の債務免除を受けたのです。
なんとその倒産から再生への事例はハーバード大学での教材で取り上げられるほどのもの。
大学では日本航空の倒産事例から「倒産・再建の手法を学ぶだけではなく、負債を使って資金調達することのデメリット」を学生たちに学んでもらっているそうです。
JAL倒産がハーバード大学の教材に選ばれた理由 | ハーバードの知性に学ぶ「日本論」 佐藤智恵 | ダイヤモンド・オンライン
それでは、一体なぜ日本航空は倒産という結末に至ってしまったのでしょう。
その倒産原因は一体何だったのでしょうか。
倒産原因はやはり「親方日の丸体質」
倒産が公表された当時に挙げられていた倒産原因は、親方日の丸体質を未だに継続した経営方針でした。
日本航空は半官半民の体制で始待ったということもあり、社内ではコストに対するシビアな意識がなかったようです。
経営不振の中でも職員の給与等の待遇が良かったという点や不採算路線に関してもなかなか撤退の決断をせずに、そのまま運行を続けていた点も経営状況に大きく影響していたものと思われます。
実際に会社更生手続き申請をしてからの日本航空は国際線と国内線ともに多くの採算が取れない路線を廃止することとなりました。
倒産で変わった経営方針
倒産後、日本航空の再建を担うこととなったのはKDDIの創業者でもある稲盛和夫氏。
日本航空の会長となって社内の体制を一新し、社員の意識改革を行いました。
本人のウェブサイトにもその再建までについて綴られていますが、日本航空を再建させるために取ったのは「アメーバ経営」。
その導入により、「社員一人ひとりに経営者意識が芽生え、いかに自部門の売上を伸ばし、経費を削減できるかを全社員が主体的に考えるようになった」ということです。
2010年 日本航空の再生を支援 | 稲盛和夫 OFFICIAL SITE
「アメーバ経営」というのは6〜7名で小集団(アメーバ)を組織させ、アメーバごとに時間あたりの採算を算出し、その採算の最大化を図るというものです。
日本航空はコスト意識が低いと言われていたこともあり、社員のコストに対する感覚を一から変えていく策がまず取られたということです。
新たな経営が功を奏し、翌期には営業利益1,884億円をあげるまでになり、そして、2012年には再上場することとなりました。
政府からの支援もありながらの改革ではありましたが、会長の社内改革により、早いスピードで日本航空は再建を果たすことができたと言えるのではないでしょうか。
その後順調な業績回復
倒産後の改革により、業績が改善してきた日本航空。
倒産当時には非常に低かった自己資本率も大きく改善していきました。
それはもちろん倒産後の所得税の優遇措置が取られていたために、税額が大幅に少ない額で済んでいたというところも理由の一つにはなるでしょう。
しかし、それ以外でも不採算路線からの撤退、社内リストラ、退職金等の減額などの努力も報われて結果がでてきたのだと言えます。
今年3月期の決算を見てみると日本発需要が堅調に高まっていることなどが理由で、営業利益は前年度比0.9%増、経常利益は前年比1.3%増となっています。
JALグループ 2019年3月期 連結業績 | プレスリリース | JAL企業サイト
JAL倒産のANAへの影響は?
このように倒産から再上場を果たし、順調に業績が改善してきた日本航空。
この日本航空の一連の動きの中で、ライバル会社である全日空(ANA)にはどのような影響があったでしょうか?
ANA株価上昇
日本航空が倒産した2010年には全日空の株価は上昇しています。
やはり日本の2大航空会社の一つが倒産ということになれば、その利用者がもう一方に流れてくることが想定できます。
「JALが撤退した路線での収益を全日空が伸ばすことができる」と考えられたことが、株価の上昇につながったと言えるでしょう。
旅客者数も増え、業績は回復基調
日本航空が倒産した時期を含む2009年度は、まだリーマンショック後まもないということや、新型インフルエンザによる需要減退ということもありました。
その影響下にあって、全日空は営業損益、経営損益、そして最終損益において赤字となりました。
まだJALが倒産したということがダイレクトに全日空の業績には影響してこなかったと言えそうです。
しかし、翌年度の決算では大幅な増収増益を発表し、業績が回復しています。
羽田空港の国際化が進んだことにより、国際線の拡充が功を奏したようです。
そこにはJALが撤退した路線での需要が増えたことや政府による全日空への発着枠の傾斜配分等も大きく影響しているでしょう。
この傾斜配分は日本航空への優遇措置に対する不公平感を軽減するために全日空の発着枠を多く配分するという措置です。
全日空が出している「国内線旅客マーケット1」という統計結果によると、2009年までは全日空と日本航空の国内線旅客者数はほぼ同じでした。
しかし、2010年ではやや全日空が上回り、2011年、2012年では大幅に全日空が日本航空の旅客者数を上回る結果となっています。
日本航空の倒産が、少なからず全日空の利用者数の伸びにつながったことは間違いなさそうです。
全日空の2019年3月期決算短信によると売上高、営業利益はともに過去最高を更新しましたが、経営利益については整備部品の除却が増加したことなどをうけ前期比2.5%減となりました。
JALとANA株価が好調なのはどっち?
日本航空が再上場を果たした2012年から、はや7年。
その株価はどのように推移してきているのでしょうか?
また、業績が好調な全日空の株価はそれを反映して好調なのでしょうか?
JAL株は今後も株価上昇の可能性
再上場当時、1,800円台でスタートした日本航空株は5年間で2倍程度の価格にまで上昇しています。
2015年には5,000円台に近づいた時期もあり、その時期に比べると今はやや株価が落ち着いたと言えます。
ここ3ヶ月の株価の推移を見ても、上げ下げはありながらも全体として上昇傾向にあります。
また、配当利回りも悪くないという点も投資対象としては魅力的と言えます。
ANA株価は少し割高感?
一方、全日空株も好調と言えます。
JALが再上場した時期からの同じ期間における推移を見てみると、順調に上昇し、2012年に1,500円台だった株価が最近では3,000円台後半になっています。
すでに株価が高くなってしまっている印象はありますが、ANA株はこれまで5,000円台に到達したしたこともありますので、それを考えると、業績が好調ということもあり、今後も株価は上昇する可能性はあります。
ただ、配当利回りが高くない点が長期で所有したい方にはあまり魅力的とは言えないかもしれません。
再生を遂げ、新たなステージに突入した日本航空は投資してみる価値あり!
このように業績や株価を見てみると、日本航空、全日空ともになかなか好調で、投資対象としては魅力的と言えそうです。
2社でどちらに投資をするかを検討する場合は、業績や今後の成長性だけでなく、株価の動き、配当利回りの状況など、様々な点を考慮して決めるのが一番です。
日本航空は倒産から多くを学び、社内の体質改善が実現しました。
そういったフレッシュな感覚で新たな事業に取り組める段階まで来たことを考えると、日本航空株の今後には期待ができるのではないでしょうか。
著者:Yuka
元証券会社の営業担当として得た知識を活かしてみなさんにわかりやすい金融情報を紹介します。