株式の配当税制は20.315%だけじゃない。総合課税の魅力とは

株式の配当税制は20.315%だけじゃない。総合課税の魅力とは

株式投資でせっかく配当が出たのに、2割以上税金が引かれているのは納得できないですよね。

多くの人は「株の配当金はNISA口座でない限り、源泉徴収した金額が振り込まれて手が出せない。」と考えているのではないでしょうか。

2013年の軽減税率が終了してから、実は確定申告を行って総合課税を選択したほうが有利になるケースが増えているのです。

株式の配当税制をしっかり勉強して、少しでも税金を節約しましょう。

株式の配当は確定申告で『申告分離課税』か『総合課税』を選択できる

配当金はNISA口座で管理されているもの以外、私たちの手元に来たときには税金が引かれています。
 
10万円の配当が出た人は、20.315%にあたる2.315万円も引かれてしまうのです。
 
これを「源泉徴収」といいます。

本来なら、収入があった場合は税務署に申告が必要となります。
 
配当金は既に源泉徴収されているため、申告不要です。
 
ただ、申告をすれば『申告分離課税』か『総合課税』のどちらかを選択できます。

申告をすれば税金が戻ってくる場合があるのです。
 
その他にも、損失繰り越しができるなどの様々なメリットが得られます。

申告分離課税と総合課税って何?

申告分離課税とは『他の所得と合算せず分離して税額を計算し、確定申告により納付する税』のことをいいます。
 
収入が100万円でも1億円でも、所得と合算しませんので、税率は同じになります。

それに対して総合課税とは、『納税義務者の各種の所得を一つに合算した額に対して課税すること』を指します。
 
給与所得があって、アパート経営で収入があり、さらに配当金をもらった人が総合課税を選択すると、3つ全部の所得に対して税金が決まるのです。

気になる税率ですが、『申告分離課税』の配当金の税率は源泉徴収と同じ20.315%です。
 
つまり、苦労して確定申告しても税金は戻ってきません。

『申告分離課税』は使う意味がないのかというと、譲渡損失が出ている場合はこちらの方を選択したほうがいい場合があります。
 
この点については、後程詳しく説明します。

『総合課税』を選択した場合は所得に組み込まれます。
 
日本では所得が大きい人ほど税率が高い累進課税制度が導入されています。
 
この累進課税制度が配当金の税率の運命を分けるのです。

自身の税率をチェック

ここで、所得税の決定プロセスを復習してみましょう。
 
所得税は前年の収入に対して税金を納めます。
 
税金は所得によって税率が変わります。

所得というものは給与額面の収入ではありません。
 
所得は『給与等の収入金額から給与所得控除額を差し引いて算出』されます。
 
給与所得控除の金額は以下の計算式で算出します。

給与所得控除額
平成31年給与等の収入金額 (給与所得の源泉徴収票の支払金額) 
給与所得控除額
162万5千円以下である場合 65万円
162万5千円超~180万円以下 収入金額×40%
180万円超~360万円以下 収入金額×30%+18万円
360万円超~660万円以下 収入金額×20%+54万円
660万円超~1000万円以下 収入金額×10%+120万円
1000万円超 220万円

年収600万円の人がいると仮定しましょう。
 
600万円ですから、600万円×20%+54万円=174万円が基礎控除額になります。

600万円から174万円を引いた後、さらに社会保険料の支払額、基礎控除を引いた数字があなたの『給与所得』です。

人によっては保険会社の保険に入っている方もいるでしょう。
 
生命保険や地震保険、年金保険に入っている人はここから一定額差し引かれ、より給与所得が小さくなります。
 
確定拠出年金に入っていて、該当の職場に勤めている人も同様に差し引かれます。

さらにアパート経営などをしている人は『不動産所得』、原稿料の受け取りなど副業で利益を挙げている人は『雑所得』を計算して合算します。
 
全ての項目で計算された金額が『課税所得』になります。

こうして計算された課税所得の大きさに対して、以下の税率が適用されます。

所得税の税率
課税される所得金額(平成31年)
税率 控除額
195万円以下 5% 0円
195万円を超え330万円以下 10% 97,500円

330万円を超え695万円以下 20% 427,500円

695万円を超え900万円以下  23% 636,000円
900万円を超え1,800万円以下  33% 1,536,000円

1,800万円を超え4,000万円以下  40% 2,796,000円

4,000万円超 45%  4,796,000円

配当所得を総合課税にいれるということは?住民税への影響に注意!

所得税率の決定プロセスはわかっていただいたでしょうか。
 
ではここから本題に入り、配当所得を総合課税にいれることを説明していきます。

配当所得を総合課税にいれるということは、上述の給与所得の他に『配当所得』が課税対象に入るということです。
 
配当所得はそのまま全てが課税所得に組み込まれるわけではありません。

人によって税率が違いますが、10%が控除されます。
 
これを「配当控除額」といいます。

課税所得が330万円超~695万円以下の人が配当金を10万円受け取ったとします。
 
申告しなかったり、申告分離課税で所得にいれなかったりすれば、20.315%となる20,315円が源泉徴収されてしまっています。

総合課税に組み入れると税率はどう変わるのでしょうか。

課税所得が330万円超~695万円以下の人の所得税率は20%です。

配当10万円だけに着目すれば、2万円とられることになります。

ただし配当控除が10%、つまり1万円戻されますので、実質所得税は1万円です。

源泉徴収された20,315円より少ないですね。

つまり、課税所得が330万円超~695万円以下の人が確定申告を行えば、税務署からは10,315円が取り戻せるわけです。

これで完結するといいのですが、もう1つ考えなければいけません。

それは配当所得で課税所得が増えた影響で『住民税』が上がってしまうことです。

330万円超~695万円以下の人の住民税は税率10%、配当控除2.8%、実質7.2%になります。

7,200円も住民税が増えるというわけですね。

税務署からは10,315円返ってくるけれど、住民税として自治体に7,200円払うことになります。

差し引きは3115円と少なくなってしまいます。

ちなみに、住民税は前年の所得に対して6月に決定され、職場に通知されます。

6月から住民税の天引きがちょっと増えてしまう構図になるので気づきにくいです。

重要なポイントになりますので、よく理解してください。

総合課税を選択することにより配当金が返還される可能性があるか、課税所得ごとにまとめてみましたので、ぜひ参考にしてみてください。

課税所得が695万円以下の人は『総合課税』を選択した方が有利になる可能性があります。

課税対象は年収じゃなく課税所得ですので、多くの人が対象になると思われます。

課税所得のまとめ
課税所得 所得税 配当控除 差引所得税 住民税 配当控除 差引住民税 実質的な税率
195万円以下 5% 10% 0% 10% 2.8% 7.2% 7.2% 税金が安くなる可能性あり
総合課税選択を検討
195万円超330万円以下 10% 10% 0% 10% 2.8% 7.2% 7.2%
330万円超695万円以下 20% 10% 10% 10% 2.8% 7.2% 17.2%
695万円超900万円以下 23% 10% 13% 10% 2.8% 7.2% 20.2% 税金が高くなる可能性があるので、そのまま無申告か譲渡損失があれば「申告分離課税」
900万円超1000万円以下 33% 10% 23% 10% 2.8% 7.2% 30.2%
以降は省略

総合課税を選択する注意点

ここまで読んでいただいた方には、総合課税が魅力的に映ったかもしれません。
 
最後に総合課税を選択する場合の注意点をお伝えします。

総合課税を選択するということは課税所得が増えるということになります。

課税所得は少ない方がいいことがあるのです。

例えば、自治体では課税所得が一定値以下の家庭は入れる保育園が優先されたりします。
 
基準以下で優遇されていた人が配当所得で基準以上になったらどうなるでしょう。
 
もちろん優遇は取り外されます。

年金をもらっている人が総合課税を選択することにより、国民健康保険の金額が変わることもあります。
 
特別な病気の人が自治体の医療支援制度を打ち切られるといったケースも考えられます。

また通年で譲渡損失が出ているのであれば、『申告分離課税』を選択した方が得になる場合があります。
 
配当金と譲渡損失は『申告分離課税』で確定申告をすれば通算することができるのです。
 
つまり、配当金の税金以上の譲渡損失が発生していれば、税金は全て取り戻すことが可能です。

これらの状況はケースバイケースです。
 
自身がどの様な制度を受けているのか、トータルで得になるのかよく勉強して、それでもわからない人は税理士などに相談してみましょう。
 
完全に理解してから確定申告を行うことをおすすめします。

まとめ

  • 配当金は20.315%を源泉徴収されている
  • 無申告でもかまわないが、確定申告で『申告分離課税』か『総合課税』を選択できる
  • 『総合課税』を選択すれば収入の少ない人なら税金が節約できる可能性あり
  • 課税所得が増えると公的支援が打ち切られる場合に注意
  • 自身のケースがどの様になるかよく調べて確定申告を

著者:先ず隗より始めよ

現役金融マン。証券アナリストの資格あり。ちょっとマニアックな金融知識やニュースをわかりやすく書いていきます。

関連記事