初心者向け投資手法「バリュー投資」を理解すればあなたも立派な「投資家」に
前回は年齢別の理想的な資産配分というテーマで、お話しをさせていただきましたikahonokahoと申します。
今回はリスク資産にカテゴライズされる「株式」に関して、有効とされている投資手法をご紹介します。その投資手法はバリュー投資と呼ばれます。バリュー投資とは“バリュー”というだけあって、株式の価値(value)に注目した投資手法です。
価値に注目することは、ある意味当たり前に聞こえるかもしれませんが、株式の価値に注目しない投資手法も、広くもちいられています。株式の価値に注目しない投資手法として、代表的なものには「テクニカル分析」があります。
ゴールデンクロス(短期の移動平均線が長期の移動平均線を、下から上に交差することでできた点)が形成したことで上昇トレンドと判断して買う。一方、移動平均線かい離率(株価がある期間のトレンド<移動平均線>からどれだけ離れているのかをみる指標)がマイナス30%になったので、下げ過ぎと判断して買う。などは株価の値動きに注目した投資手法であり、株式の価値を度外視した投資手法でもある。
これからご紹介するバリュー投資は、株価の値動きにとらわれず、株価の本源的な価値を探ろうとする投資手法です。そして長期間にわたる実証により、バリュー投資は長期的な有利性が確認されています。
まとめると個別株投資を始めるにあたってバリュー投資は、
-株価の本質的な価値を判断できるようになる
-有利な投資手法として実績がある
バリュー投資は、初心者がはじめに学ぶべき投資手法と言えます。
バリュー投資が株式の価値に注目する投資手法と書きましたが、「価値とは何か?」という問いにはいくつかの答えがあります。「株式の価値とは何か?」について考えながら、バリュー投資の基本について順に学んでいきましょう。
「価値」に注目しよう
15g(グラム)の金のみで作られた指輪があったとします。この指輪の値段(売値)は10万円だったとしましょう。金価格は1gあたり5,000円だったとします。
この指輪には15gの金が使われているので、15(g)×5,000(円/g)=75,000円(金価格ベースで算出)の価値があるといえます。売値が10万円なので、残りの2.5万円分は加工賃だったり、ブランドの価値であったりするわけですが、含まれている金の価値から見たら割高な値段で売られている、と考えることもできます。
仮にこの指輪が5万円で売っていたらどうでしょうか? 指輪に含まれている金の価値だけで、7.5万円の価値があるわけですから、文句なしに買っておくことが経済的に合理的ですね。実際にはこのような価格で売られている指輪はありません。
しかし、株式ではこのようなバーゲンセールは起こり得ます。
資産から見た「割安」な株とは?
企業が持っている純資産(資産マイナス負債)の価値は、資産面から見たその企業の価値といえます。先ほどの指輪の例で金の重量に相当するのが、企業における純資産というわけですね。
株主は、株価という代金を支払って企業の株主になります(株式を取得します)。株式とは企業の部分所有権なので、企業の純資産は株主が間接的に所有していると考えられます。となれば、株式に含まれている純資産(1株当たりの純資産)が、資産面から見た株式の価値といえそうです。
-株式の値段=株価
-株式の価値=1株当たりの資産(BPS、Book-value Per Share)
株式が割高か割安かを判断するには、株価と1株当たりの純資産を比較してあげればよいのです。
この図の例では、左側の図は300円の純資産に対して、500円の値段(株価)がついているので割高な例です。右の図は700円の純資産に対して500円の値段がついているので割安な株式の例です。
PBR(株価純資産倍率)がひとつの目安
株式の価値を純資産からみる場合、数字で測ることができれば、多くの企業が同時に比較できて便利です。
そのための指標をPBR(株価純資産倍率、Price Book-value Ratio)と言い、次のように計算できます。
PBR=株価÷1株当たり純資産
このPBRが1倍を下回っていれば、純資産以下の金額で株式が取得できるということなので、割安株の1つの目安となります。上の図の右側の例からPBRを計算すれば以下になります。
このPBRが0.5倍を下回っている株式は、価値の半額の値段しかついていない、ということで割安株のひとつの目安になります。
資産の価値に注目した割安株へ投資する戦略は、企業の成長に期待せず、持っている資産を評価する、という意味で最も保守的な投資戦略です。企業の質はそこまで厳密にみる必要はありません。経営の質ではなく、企業の持っている資産に注目して投資しているわけですから。
と言っても、投資する企業には一定の質を求めることでより成功率は上がります。資産面から見た割安株投資の提唱者であるグレアム*1は
・過去10年間赤字を出していない
・年平均2%以上の成長
を条件にしています。
収益から見た割安株とPER(株価収益率)
バリュー投資には、企業の資産面からみるほかに、収益から見た割安株投資があります。株式を保有するということは、その企業が稼ぎ出す収益を受け取る権利を得ることと同様なので、株価に対して企業がどれだけ収益を稼いでいるか、をみる考え方です。
株式を買うことで得られるメリットのなかに、配当があります。配当利回りが3%の株なら、企業が稼いだ収益から、毎年株式の買値に対して3%分の配当が得られるという意味で非常に分かり易い指標です。
しかし、企業は稼いだ利益の全額を配当に回しているわけではありません。稼いだ利益の一部は配当に当てるものの、残りは企業の内部に残し、資産になったり将来の成長の原資となったりします。株式を評価するには、この配当されない部分の収益も評価することが必要です。
そのためには、株価を1株当たり利益で、株価を割った指標で評価すれば良さそうです。その指標をPER(株価収益率、Price Earnings Ratio)と呼びます。一般に、この数値が小さいほうが割安な株式とされます。
次の図のケースではPERが10倍になっており、これは株価が収益の10倍になっているという意味です。
PERの逆数が、株式の(PERが変動しない場合の)理論上の収益率になります。上記のケースでは、10倍の逆数で、収益率は10%になり、10年間保有すれば、獲得した利益分で、株価がすべてカバーされます。
企業がこの利益を仮に全額配当しようとすれば、投資家はキャッシュで株価分が全額受け取れます。(なおかつ手元には株式が残る)
ちなみにPERが20倍なら逆数の5%が、理論上の収益率ですね。PERが大きくなれば収益率が落ちるのがわかると思います。
つまり、仮に同じ株価の株式を買うなら、収益率が高い株式のほうが割安だと言えます。PERが10倍というのが、割安株投資のひとつの目安です。
「成長」する企業への投資は初心者には難しい
企業の「成長」にも価値があります。でも成長性を判断するのは難しく、ここで行った収益の議論は、ある意味では乱暴なものです。
企業の成長性は企業ごとにさまざまで、現実の株式市場ではその成長率の違いに応じて、一般にPERが小さいほど割安と書きましたが、年率1%成長でPERが10倍の企業と、30%成長でPERが20倍の企業では、通常は後者の方が割安とされます。
成長性を企業の評価に加えたものとしてPEGレシオ(Price/Earnings to Growth ratio)という指標があり、PERを成長率で割った数値になります。しかしPEGレシオについては、今回は簡単に触れるだけに留めます。
なぜかと言えば、企業の成長性を判断する作業はかなりの困難を伴うからです。企業の成長性を判断するには、企業が事業対象とする市場の規模と成長性、市場内でのマーケットシェアを理解する作業が必要になります。これは非常に難しく、熟練した投資家が行ったとしても高い精度は得られません。投資初心者にはかなり困難な作業と言えるでしょう。
また、成長株投資は株式投資の醍醐味ともいえる分野であり、多くの投資家が群がります。成長株投資をするということは、群がる多くの投資家と勝負するということでもあります。そうした競争の厳しい市場で勝負するよりは、少なくとも初心者のうちは成長性がなく地味だけど割安な銘柄で勝負する方が、勝算が高いと思っています。
資産面からの評価と収益面からの評価を組み合わせよう
資産面からみたPBRと収益面から見たPERを組み合わせれば、それぞれ単独では見えてこなかった割安株を発掘できるかもしれません。
先ほどご紹介した、バリュー投資の創始者とも評されるグレアムは、PBRとPERを掛け合わせた値が22.5以下の株式を割安株としています。
PBR1倍ならPERは22.5倍までが割安株とみなされ、PBRが2倍ならばPERは11.25倍まででしか割安株として許容されないことになります。この関係をグラフにすると以下のようなイメージです。割安株を探す目安のひとつとして参考にしてください。
個別株に投資するなら、その価値を合理的に測定できるバリュー投資から始めてみるのはいかがでしょうか?
ブログFX初心者向けまとめ解説(株式投資もあるよ)を運営。
関連書籍
賢明なる投資家 - 割安株の見つけ方とバリュー投資を成功させる方法 作者:ベンジャミン グレアム, 土光 篤洋出版社:パンローリング |
*1:ベンジャミン・グレアム(Benjamin Graham)/「バリュー投資の父」と呼ばれるプロの投資家。著書である『証券分析』、『賢明なる投資家』はいずれもバリュー投資の古典として有名。