庶民視点がおもしろい! 老舗映画サイト「破壊屋」の人が厳選したハズさない「金融映画」4本

庶民視点がおもしろい! 老舗映画サイト「破壊屋」の人が厳選したハズさない「金融映画」4本

みなさん、こんにちは。私は2000年から続く映画サイト「破壊屋」の管理人です。

今回は金、カネ、かね! な金融映画のオススメ作品を紹介します。懐具合が気になる年末にぴったりでしょ! というゲスな話はさておき、金融映画は意外にもハズレなしのジャンルなんでどれもオススメできます。

でもハズレはないけどちょっと問題点があります。

金融映画あるある

金融映画の定番といえば、昔だと1987年の『ウォール街』、最近だと2013年の『ウルフ・オブ・ウォールストリート』を挙げる方も多いはず。エリートの金持ちがさらに大金持ちになって、はしゃいでいる姿と裏に渦巻く人間の欲望と破滅が存分に描かれています。あまりに深い業(ごう)、だからこそ金融映画は面白い。



金融映画の主人公たちはいいスーツ着て、いい給料をもらい、いい車を転がし、いいオンナといい家に暮らす、いわゆる勝ち組人生を謳歌します。



最近のもので凄かった作品は『マージン・コール』というリーマン・ブラザーズをモデルにした金融映画です。リーマン・ショックを引き起こす原因になった社員たちの苦悩が描かれるんですが、彼らは苦悩している一方で両親に莫大な仕送りをして、ペットの犬に1日1,000ドルもかけているんですよ。世界経済をめちゃくちゃにしながら犬に気をかける姿が面白い金融映画でした。



金融映画の問題点

でもさぁ、庶民のこっちとしては金融エリートに感情移入がしにくいんだよ! スーツは安物、車や持ち家なんてもってのほか。今年は「給料安い」が理由で女にフラれた私のようなヤツを主人公にした映画はないのか! マンガを映画化する前に俺を映画化しろよ! ってそんな映画あったら絶対に駄作ですね。
でも庶民を題材にした面白い金融映画は実際にあるのです! 今回はそんな作品を紹介します。




               ◆

主人公っぽくないヤサ男が主人公!『アザー・ガイズ 俺たち踊るハイパー刑事!』

映画のオープニングは超ド派手です。サミュエル・L・ジャクソンとドウェイン・ジョンソン演じるスーパーコップがニューヨークの街を爆走カーチェイスしながらの銃撃戦! そして大爆発!


でも彼らは主人公ではありません。本当の主人公は何をしているのかというと、引きこもりがちの経理出身の刑事で、現場に出たくないために延々とデスクワーク。それに付き合わされる相棒は延々とパソコンでソリティアやってます。そんな「The Other Guys=その他の奴ら」な刑事コンビがひょんなことから大規模な金融犯罪に気が付いて……というアクション・コメディです。



敵は大資本による金融犯罪

劇中、経理出身の刑事がこんなセリフを言います。

「彼らは金融犯罪をきちんと捜査するよ。例外はエンロン、AIG、バーナード・マドフ、ワールドコム、ベアー・スターンズ、リーマン・ブラザーズ……」

金融犯罪はちゃんと捜査されてない! という皮肉ですが、ここに出てくる企業名や個人名は全て、アメリカ経済に大ダメージを与えた当時者たちです。実名を出してネタにできるのがアメリカ映画らしいですね。この映画が憎む敵は大資本による金融犯罪で、この映画が応援するのは「その他」大勢の一般市民なんです。



エンドクレジットが面白い!

ところでこの映画が一番凄いのはエンドクレジットです。アメリカで今まで起きた金融犯罪がどれほど途方もないのかをアニメーションで解説してくれます。これがとても分かりやすい。私もまさか「この映画の一番の見所はエンドクレジットです!」なんて文章を書く日が来るとは思わなかった。

ちなみにエンドクレジットで流れる曲はちょっと解説が必要です。曲のタイトルは低賃金労働への恨みを綴った『マギーズ・ファーム』。歌詞を書いたボブ・ディランは過去にノーベル文学賞を受賞しましたね。



しかし映画で使われているのはボブ・ディラン版ではなくて、レイジ・アゲインスト・ザ・マシーン版。レイジ・アゲインスト・ザ・マシーンとは、反体制バンドの象徴的存在です。彼らは庶民から金を吸い上げ続けるウォール街(経済を牛耳る企業)に抗議するために、ウォール街を不法占拠しライブを決行したことがあります(仕掛け人のマイケル・ムーアはもちろん逮捕された)。この映像も一見の価値ありです。



完全庶民目線で描く人情劇『奪命金』

ちょっと怖いタイトルですね。しかも香港映画。香港映画に慣れていない人にはハードルが高いかもしれません。でもこちらの作品、万人に自信を持ってオススメできる映画です。なぜなら金融映画としては珍しく、完全に庶民目線の映画なんです。登場するのは3人の庶民。

-銀行の投資商品の営業ウーマン

-マンション購入に悩む刑事

-仲間の保釈金集めに奔走するチンピラ





この3人が2010年に本格化した“ユーロ危機*1”に巻き込まれていく群像劇です。一見何の関係もない3人ですが、ある殺人事件との断片的な関わりが、少しづつ明らかになっていきます。



ガンバレ庶民!

とにかくこの3人の演技も演出も最高なんです!
営業ウーマンは、成績が悪くいつも責められます。残業しながら頑張って顧客に営業しますが中々結果が出ない。



刑事は、高めのマンション購入を考えている奥さんに振り回されます。奥さん視点で見ると大切な人生設計の相談をしてるのに、すぐにはぐらかす夫にやきもきしています。



チンピラのエピソードは男性観客のハートを直撃すること間違いなし!

このチンピラはあまり賢くないのですが、義理を通すので周りからは好かれています。お人好しヤクザの彼は、仲間の保釈金を集めようと必死になりますが、集金作業に嫌気が差した部下たちに逃げられてしまいます。困った彼を同郷の成功者が仕事に誘ってくれたことをきっかけに、一念発起し人生に変化が見えてきます。



金融人情劇

この映画の監督はジョニー・トー。日本ではヤクザな男たちの絆を描いた『ザ・ミッション 非情の掟』『冷たい雨に撃て、約束の銃弾を』が人気作ですが、ジョニー・トーは運命に翻弄される人間を描くのが上手いです。

『奪命金』はタイトルの通り悲惨な事件も起きる映画ですが、ラストシーンは意外にも……。是非ご確認いただきたい!

私が一番心に残ったのは営業ウーマンのエピソード。彼女は二人の顧客に投資商品を薦めます。頭の切れる顧客は「銀行が高い手数料で儲かるだけ」と断ります。もう一方のあまり賢くない顧客はどんなに説明を聞いても、リスクを理解できません。そしてリスクが現実のものになり資産を減らしてしまうのです。



このエピソードがなぜ心に残ったかというと、私も頭の悪い方の顧客と全く同じ行動を取って投資信託に失敗したから……。



豪華スタッフ&キャストが描く、新しい金融映画『マネー・モンスター』

日本ではあまり話題にならなかったハリウッド映画ですが、監督は何と大女優のジョディ・フォスターで、主演はジョージ・クルーニーとジュリア・ロバーツ。めっちゃ豪華!


テレビ番組が生放送中にジャックされるという内容ですが、この手の限定状況テロリストモノは『テロ、ライブ』『崖っぷちの男』など当たり作品が多い鉄板ジャンル。『マネー・モンスター』はそこに金融映画の要素も加えた快作です。



庶民の生活が見えないテレビ局

ジョージ・クルーニーが演じるのは金融取引の解説番組「マネー・モンスター」の司会者で、ジュリア・ロバーツはそのプロデューサー。司会者は下品で低俗な言葉を使いながら金融取引を煽って調子に乗りまくり。ところが生放送中に銃を持った若者が乱入、番組が乗っ取られます。若者は番組の言葉を信じて遺産を株につぎ込み、溶かしてしまったのです。

「オマエらのせいで俺の人生は終わりだ!」

と若者が叫びますが、司会者もプロデューサーも自分たちが薦めた株の内容を全く覚えておらず、慌てるシーンが怖いです。



豪華な生活を送っている司会者は庶民である若者に心の底から同情をしますが、若者は逆に論破します。



「1,000ドルのスーツを着て語るより、俺と同じ低賃金の仕事をしてみろよ!」

司会者は口先だけで庶民の現実が見えていないことが暴かれます。



高頻度取引を描いた作品

この映画は、金融映画の新しい世界観を取り入れた作品になっています

ハリウッドではちょっとした金融映画ブームが続いていますが、その題材は全て欧米が経験してきた金融危機でした。



しかし『マネー・モンスター』が描くのは金融危機ではなく「高頻度取引」です。高頻度取引とは、プログラムのアルゴリズムを利用してコンピュータがミリ秒単位で自動的に株取引することです。別名「アルゴ」とも呼ばれており、劇中でも「アルゴ」という言葉が使われています。



『マネー・モンスター』は「アルゴ」のバグで莫大な損失が出るというオープニングで幕を開け、最終的にはこの謎を解く物語です。いまだかつて直面したことのない金融危機を描いています。



『マネー・モンスター』ではアルゴを作ったシステムエンジニアが「アルゴにバグがありました」というニュースを呆然と観ているシーンがあるのですが、私の本業もSEなので思いっきり感情移入してしまいました。



たった一人の不正で銀行崩壊『マネー・トレーダー 銀行崩壊』

「僕はニック・ニーソン、聞き覚えがあるはずだ」


このセリフはイギリス映画『マネー・トレーダー 銀行崩壊』のオープニングです。ニック・ニーソンはイギリスの名門銀行であるベアリングス銀行のトレーダーですが、彼が出した8.6億ポンド(約1,380億円)もの損失によってベアリングス銀行は崩壊しました。本国イギリスでは当然ながら有名な犯罪者です。



でも日本人の多くはリック・ニーソンを知らないと思います。なぜならベアリングス銀行が崩壊しニック・ニーソンが逮捕された1995年2月、日本では同時期に発生した阪神・淡路大震災のショックの方が遥かに大きかったからです。ちなみにベアリングス銀行にトドメを刺すキッカケとなったのは同震災による日経株価指数の急落です。彼が出す損失の金額の単位が円だったりするので意外と日本絡みの事件なんですよ。



失敗の発覚に怯える物語

『マネー・トレーダー 銀行崩壊』はニック・リーソンの自伝の映画化であり、ベアリングス銀行崩壊事件を描いています。

ニック・リーソンは10代の時に学校を中退して事務員として銀行業界に入った男。映画の序盤では事務員のニック・リーソンは投資に手を出し成功していきます。この時点ですでに立身出世モノとして面白いのですが、映画の中盤以降は巨額損失の発覚にビクビク怯えるニック・リーソンの姿を描いていきます。



意外と悪運強くなかなかバレずに済んでいく様子が面白い。自分の失敗が上司や顧客たちにどう影響を与えてしまうのかと、ビクビクしている姿は私にも思い当たるので、ものすごく感情移入できます。



金融犯罪マニアにはたまらない

実は私、数ある犯罪の中でも横領犯罪や不正取引といった事件が大好きで(実行するのが好きじゃなくて記事を読むのが好きなので誤解しないように!)、ひたすらネット上にある横領事件や不正取引の記事を探し、何年も繰り返し巡っています。異常な趣味かもしれませんが、ネット上にあるFXに失敗した記事などを読むのが好きな方なら、この趣味の面白さが少し分かってもらえるかと思います。

そんな私にとって、1,000億円を越える損失を隠しながら出勤したり日常生活を送るニック・リーソンの姿はたまらなく魅力的です。この姿が大好きすぎて、同作を何度も何度も観返していますが、いつも中盤から再生しています。

                ◆◆
今回は、庶民である我々が感情移入しやすい金融映画の良作を紹介しました。

最初に書いた通り金融映画の大定番は『ウォール街』です。『ウォール街』では「強欲は善だ」と言い切り、庶民から金を吸い上げていく投資家のゲッコー(マイケル・ダグラス)が有名。しかしオリバー・ストーン監督が『ウォール街』で表現したかったのは、劇中ゲッコーと対決する庶民(マーティン・シーン)です。その庶民は金稼ぎには興味がなく、労働組合の仲間を守ることに一生懸命な工員です。でも映画史に残る人気キャラクターになり続編まで作られたのはゲッコーの方でした。今回庶民目線の映画を紹介して、庶民に感情移入しまくりの庶民な私だけど、やっぱり私もゲッコーになりたいなぁ!

2000年から映画サイト「破壊屋」を続けています。今は「破壊屋ブログ」がメインです。スパイダーマンスーツとスパイダーマンパーカーを10着以上持っていて、土日はプロフ画像みたいな格好でうろついています。

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*1:2009年10月のギリシャの財政赤字の危機的実態が判明し、これを皮切りに、欧州の単一通貨ユーロの信用が一気に低下。ギリシアの国家財政が破綻し,債務不履行(デフォルト)への不安から、ギリシア国債が暴落し、これに連動しユーロ下落。世界の株価の下落が起こった。

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