お金をかけずともヒットは作れる! 老舗映画サイト「破壊屋」の人が選ぶ、傑作低予算映画4本
みなさん、こんにちは。
私は2000年から続く映画サイト「破壊屋」の管理人です。
私は自分の思春期だった90年代の映画が大好きです。あのころは映画の宣伝に高額な製作費の金額がよく使われていました。私の宝物である90年代ハリウッド娯楽映画のパンフレットをいくつか調べましたが、札束で人の頬を殴るような景気のよい言葉が並んでいました。例えば……
『クリフハンガー』
「本年度最高の製作費7,300万ドル」
『カットスロート・アイランド』
「巨費8,500万ドルを費やした」
『ターミネーター2』
「史上最高の製作費1億ドル」
『ウォーター・ワールド』
「ジュラシックパークの3倍の巨額1億7,500万ドル」
これらの数字は私が所有するパンフレットに実際に記載されている金額です。 数字の背後に「コスト削減とか知ったことか! 景気よく金使え!」と吠えるハリウッドのプロデューサーたちの姿が目に浮かぶようです。
お金をかけたからといって、必ずしもいい映画ができるわけではありませんが、思春期の私は「すげー! 製作費がめっちゃ高い!」と宣伝にノセられて興奮していました。ちょっと余談ですが、90年代のパンフレット読み返していたら、どのパンフレットにも
「この映画は『ジュラシック・パーク』を越えた!」
って書いてあって笑いました。当時は『ジュラシック・パーク』が絶対的な基準だったのですね。
映画はハイリスク・ハイリターン
しかし映画興行はハイリスク・ハイリターンの博打のような商売です。当たれば大きいけど失敗したら借金で首が回らなくなります。実際に、莫大な製作費をかけた『カットスロート・アイランド』という映画は大コケしたせいで映画会社(カロルコ*1)が潰れています。
『カットスロート・アイランド』のパンフレットには「IF YOU BUILD UP! BLOW IT UP(創ったらブチ壊せ!)」というレニー・ハーリン監督直筆のメッセージがあります。これは莫大な製作費をかけたセットであろうと、ド派手なシーンを撮るためなら容赦なくブチ壊せ! という意味であると解釈していますが、実際にブチ壊れたのは映画会社でした。今で言う爆死映画ですね。
では現在の製作費はどうなっているのかというと、ますます高騰していて、2億ドル超えも珍しくありません。ハリウッド映画はロシアや中国といった人口の多い国でも人気の娯楽となっているうえに、劇場公開終了後に、DVD化やネット配信など二次利用の機会も多く、収入が増えているのです。なので映画の製作費は増大し、とんでもなく豪華な映像の映画が次々に公開されています。
これほどに巨額のコストをかけて、どれくらい儲かるのでしょうか? 2017年に公開された『トランスフォーマー/最後の騎士王』ですが、
製作費 | 世界興行収入 |
比率 |
---|---|---|
約2億1700万ドル | 約6億ドル |
約2.8倍 |
製作費の2.8倍稼いでいます。3倍で成功と言われているので、まあちょっと物足りないくらいですね。でも低予算映画なら、この製作費と興行収入の比率がもっと高くなると思いませんか?
ようやく本題です。今回はそんな大成功した傑作低予算映画をご紹介したいと思います。
ハイスクール・ハードボイルド『BRICK ブリック』
製作費 | 世界興行収入 | 比率 |
---|---|---|
約45万ドル | 約390万ドル | 約8.7倍 |
監督と主演俳優が大出世
低予算映画で成功した人たちは出世します。なぜかというとハリウッドは新しい才能に敏感なので、監督・俳優を問わず低予算でもヒットに貢献した人はあっさりと超大作映画にキャスティングされます。
大成功した低予算映画『BRICK ブリック』の主演であるジョゼフ・ゴードン=レヴィットは、『インセプション』や『ダークナイト ライジング』といった大作映画に出演しています。また、監督のライアン・ジョンソンは、まだ皆さんご存知ないかもしれませんが、2017年の年末に世界的な有名人になります。なぜなら『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』の監督に抜てきされたから。なので今のうちに『BRICK ブリック』に注目しておきましょう。
現代のハードボイルド
『BRICK ブリック』は典型的なハードボイルド映画です。タフで孤高の高校生である主人公が、麻薬絡み(BRICKとは麻薬の塊のこと)の事件で消えた女を捜査するうちに、裏で手を引く支配者や権力者に行き着き対決します。ハードボイルド映画はほとんど消えてしまったジャンルなのですが、『BRICK ブリック』はそれを現代に復活させました。ハードボイルド映画の伝説的傑作『マルタの鷹』からの強い影響が感じられます。
『BRICK ブリック』が特徴的なのは舞台が高校ということ!主人公は孤高の存在とはいえ、実像は単にリア充に馴染めないメガネくん。支配者は不良の親分(高校生)で、権力者は学校の先生です。
ネット上には中2病の息子と母親のやりとりである「たかし、ごはんよ」のネタがありますが、『BRICK ブリック』でも似たようなシーンがあります。
主人公「オマエの秘密を押えたぜ……」
高校の支配者(高校生)「貴様は俺を恐れてないようだな……」
高校の支配者の母「あらお友達? コーンフレークとジュース出すわね」
ハードボイルドの世界観と身近な高校生活が同居していて、不思議な世界観が楽しめる映画です。ちなみに低予算映画なので、撮影のほとんどがグラウンドや駐車場で行われます。
劇場公開時は原題通りに『BRICK ブリック』だったのですが、DVD発売時に『消された暗号 BRICK』と暗号サスペンスモノとして売り出しました。この映画に暗号はあまり関係ないんですけど『BRICK ブリック』だけじゃ確かに宣伝しにくい……。
ロードムービー+家族愛『リトル・ミス・サンシャイン』
製作費 | 世界興行収入 | 比率 |
---|---|---|
約800万ドル | 約1億ドル | 約12.5倍 |
サンダンス映画祭でフィーバーした映画
低予算映画の傑作を探すキーワードはインディペンデント映画*3専門の「サンダンス映画祭」です。とはいえ近年のサンダンス映画祭では大資本による買い付けが横行し、インディペンデントの魂が失われているともいわれています。
そのきっかけを作ったのが『リトル・ミス・サンシャイン』です。サンダンス映画祭で上映されるや否や、各社がこの映画を買おうとして金額がつり上がり、破格の1000万ドルオーバーで買われました。つまりこの映画は試写しただけで黒字になったのです。もちろん興行収入も別途製作者たちの手に入ります。
負け犬家族の物語
『リトル・ミス・サンシャイン』は「勝ち組」になることに取り憑かれている父親を筆頭に、個性的な家族が娘のミスコン出場のために奮闘する物語です。当時のアメリカでもこの父親のような発想の人間は多かったようで、脚本家は執筆の動機を
「アメリカの高校で『人生の敗者を軽蔑する』といった演説が行われていたから」
と語っています。そういえばこの映画が公開された2006年は日本でも「勝ち組・負け組」という言葉が流行っていましたね。
『リトル・ミス・サンシャイン』のクライマックスは衝撃的です。私は映画館で観た時に「こんなことやっても大丈夫なのか! 倫理的に!」と驚愕しました。一見の価値あり!
映画のクライマックスでは、ファンクミュージシャンのリック・ジェームスが歌う『スーパー・フリーク』という下品な曲が印象的に使われます。
「オレ様のオンナは超エロくて最高だぜ」
と延々と自慢しているだけなんですが、『リトル・ミス・サンシャイン』を観て以来『スーパー・フリーク』を聞いただけで映画の感動が呼び起こされてしまい、目頭が熱くなってしまいます。
600ドルでもここまでできる!『エル・マリアッチ』
製作費 | 世界興行収入 | 比率 |
---|---|---|
約0.7万ドル | 約204万ドル | 約291倍 |
真の低予算映画
さきほどの『リトル・ミス・サンシャイン』はもっとも有名な低予算映画の1つなわけですが、そうは言っても製作費は800万ドル。これだけのお金をポンと出資できる人は少ないでしょう。
もっと個人で出せる範囲の低予算映画はないものか? 有名なのが『エル・マリアッチ』です。その製作費はたったの7,000ドル。製作費の出どころは監督が治験(新薬の人体実験のこと)のバイトで得たお金だそう。ちなみにこの7,000ドルの大半はフィルム代と現像代で、撮影に不可欠なその他の予算はたったの600ドルです。
限られた予算でも、見応え抜群アクション!
「たったの600ドルで何が撮れるのか?」と思いますが、『エル・マリアッチ』はバリバリのアクション映画です。流しのギター弾きである主人公は仕事を探しにある街に向かうのですが、運悪く、ギターケースの中に武器を入れた殺し屋が暴れまくっている街にたどり着いてしまいます。
「殺られる前に殺る」が鉄則となった街で、主人公は殺し屋と間違われてしまうのです。『ダイ・ハード』のように運の悪い主人公ですが、『ダイ・ハード』と違ってただのギター弾きなので状況はさらに最悪。
派手な銃撃戦が楽しめる映画ですが、主人公と殺し屋の入れ替わりのタイミングも絶妙で、ストーリーもお見事です。
もし『エル・マリアッチ』のDVDが入手できたのなら、是非コメンタリーも聞いてください。この映画は監督の解説が最高に面白い! 低予算でどうやって映画を撮れたのか謎が明かされます。
たとえば主人公が泡風呂に入るシーンは、バスソープを買う金すらなかったので食器用洗剤を使ったとか、食事代も出せないので撮影は午前中に終わらせたとか。
『エル・マリアッチ』は間違いなく「映画史上もっとも続編がパワーアップした作品」です。続編の『デスペラード』は製作費にゼロが3つ増えてその額、700万ドル。銃撃戦が思いっきりド派手、かつトリッキーになっており、繰り返し再生必須です。
シリーズ第3弾の『レジェンド・オブ・メキシコ/デスペラード』は、そこからさらに4倍以上増えて製作費2900万ドル。主人公の相棒役はなんとジョニー・デップです。
自宅で撮影した映像が世界へ『パラノーマル・アクティビティ』
製作費 | 世界興行収入 | 比率 |
---|---|---|
約1.5万ドル | 約2億ドル | 約13,333倍 |
低予算映画の頂点
製作費と興行収入費の比率を紹介してきましたが、『パラノーマル・アクティビティ』が映画史上、最もこの比率が高い映画です。その倍率は約13,000倍以上!ビジネスというよりも宝くじみたいな話です。この記録はおそらく、今後も塗り替えられることはないでしょう。
どうして製作費がここまで安いのかというと、監督の自宅で撮影しているからです。
本作は「サンディエゴ市警と遺族から提供された映像」という設定の映画で、こういったドキュメンタリーを模した製作手法は「ファウンド・フッテージ」と呼ばれ、低予算映画の常套手段となっています。
映画の内容はとあるカップルが自宅で起きる心霊現象をカメラで録画するだけ……なのですが、恐怖描写がすごい! 固定カメラで室内を写した映像がひたすら続くのですが、心霊現象が起きるのは全部画面の左側。だから映画館で左側の席に座っていた私はメッチャ怖くて「右側の席に移動したい……」と後悔し続けました。
ホラーだけどストーリーも面白い
カップルの片方、女性のケイティは悪霊に取り憑かれていて、幼いころから心霊現象に悩まされています。
一方、男性のミカは心霊現象でテンションが上がってしまい、恋人のストレスを気にすることなく、映像機材を駆使して心霊現象を撮影する毎日。
ケイティも観客もミカの態度にイラついてくるのですが、実は、悪霊もイラついていて、悪霊のターゲットがミカに変更になるシーンは気の毒ながら笑ってしまいました。
『パラノーマル・アクティビティ』は2億ドルも稼ぎ出したので、その後シリーズ化されます。その結果レンタルDVD店の棚に『パラノーマル・アクティビティ』シリーズがずらーっと並ぶことに。片っ端から観ればケイティの秘密が少しづつ判明していきます。
しかしこれらの作品は時系列が入り組んでいる上に、スピンオフが混ざっているので観る順番が相当難しい。ネット上でも『パラノーマル・アクティビティ』を観る順番を解説しているサイトはたくさんあります。
『パラノーマル・アクティビティ2』は『パラノーマル・アクティビティ1』の前日譚で、『パラノーマル・アクティビティ3』はさらにその前日譚。加えて『パラノーマル・アクティビティ 第二章』という日本オリジナル続編も存在してややこしい。
Wikipediaを調べても無駄です。
『パラノーマル・アクティビティ/呪いの印』は、『パラノーマル・アクティビティ』シリーズの5作目である。
と書いてあって『パラノーマル・アクティビティ/呪いの印』と『パラノーマル・アクティビティ5』のどっちが真の第5作なのか、がわかりません。こういう場合は製作順に観るのが1番なので、正確な順番をお伝えしておきます。
パラノーマル・アクティビティ
パラノーマル・アクティビティ 第2章/TOKYO NIGHT
パラノーマル・アクティビティ2
パラノーマル・アクティビティ3
パラノーマル・アクティビティ4
パラノーマル・アクティビティ/呪いの印
パラノーマル・アクティビティ5
低予算映画の豆知識
最後に低予算映画にまつわる、要注目のエピソードをいくつかご紹介。
サンダンス映画祭
前述したサンダンス映画祭とは、アメリカのユタ州で行われる、メジャーな映画会社が関わってない独立系映画が集まる映画祭のこと。なので、低予算の傑作がたくさん発掘されます。『BRICK ブリック』も『リトル・ミス・サンシャイン』もサンダンス映画祭で注目されて大ヒットしました。
サンダンス映画祭に出品された映画は大ヒットの可能性があるので、映画祭の買い付け競争はかなり熾烈です。
面白い映画だったら、買い付けの担当者は映画の上映中に抜け出して買い付け準備をするともいわれています。最後まで観なくて大丈夫なのかしら? 未解決オチ((劇中でさんざん煽った問題が何も解決しないままラストシーンを迎える映画、低予算映画がよくやる))だったらどうするのだろう?
日本映画
製作費をとことんケチる国といえば、我らが日本です。日本映画は製作費を発表することが少ないため正確な現状は把握しにくいですが、低予算に苦しんでいる撮影現場の話は非常に多いです。
しかしながら、やはり低予算からでも傑作は生まれています。近年だと、製作費5万円で作られた不良映画『孤高の遠吠』がメッチャ面白いです。出ている不良はホンモノ。さらに「これ違法撮影じゃない?」と疑いたくなるシーンが登場するなど、スポンサー付きの映画では絶対に不可能なことをやってのけます。
ホラー映画
低予算映画の世界では、ホラー作品が活躍します。「低予算、だけどヒットしたホラー映画」という例はいくつも挙げられます。事実、IMDb*5にある低予算の成功映画一覧にはホラー作品がたくさんランクインしています。
ジェイソン、フレディ、貞子というホラー映画界のスーパースターたちの作品も、その多くが低予算映画としてスタートしています。『ロッキー・ホラー・ショー』『死霊のはらわた』『イレイザーヘッド』といった伝説的ホラー映画も然り。
大ブームを起こした作品も、概してその製作費は“潤沢"とは言い難いものです。例えば……
・『ゾンビ』(ゾンビモノ)
・『ハロウィン』(スプラッター)
・『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』(擬似ドキュメンタリー)
・『ソウ』(監禁モノ)
低予算のホラー映画が社会現象を巻き起こす様は痛快です。
映画の製作費が高騰していることは説明しましたが、将来はさらに高騰するでしょう。最近では映画『アバター』が10億ドルかけて続編4作を一気に撮影することが発表されました。さらに『アベンジャーズ』の第3作と第4作の製作費も合計10億ドルいくのでは? と噂されています。だとすれば1本の製作費は5億ドルで、「史上最高額の製作費」は大幅更新となるでしょう。
でも最近の私は超高額製作費の映画に慣れすぎて新鮮味を感じなくなってきました。これらの映画は物語が複雑で、登場人物が多く、内容はやたらグローバルです。そしてシリーズ化を前提としているので映画のラストシーンはどれも「どうせ続くんでしょ?」状態。
逆に低予算映画はアイデア勝負なので、意外な傑作がたくさんあります。どの映画にも不意打ちを食らうような新鮮さがあります。知名度が低い映画だと自分だけの映画のようにも感じます。それに低予算映画にお金を払えば、才能への投資になるかもしれません。
そういえば昔は映画の製作費の高さにワクワクしていた私ですが、今は「そんだけ金があるなら、俺にくれないかなー」と夢のないことを考えるようになりました。実際は映画の入場料を払っているので、「俺にくれないか」どころか逆に金を注ぎ込んでいる側なんだけどなぁ。
2000年から映画サイト「破壊屋」を続けています。今は「破壊屋ブログ」がメインです。スパイダーマンスーツとスパイダーマンパーカーを10着以上持っていて、土日はプロフ画像みたいな格好でうろついています。
*1:カロルコ・ピクチャーズのこと。『ランボー』シリーズや『ターミネーター2』など大ヒット作を多数作り出すも、その後、不振が続き96年に倒産。
*2:以降記事内にでてくる「製作費」「世界興行収入」は『Box Office Mojo』(http://www.boxofficemojo.com/)を参考にしています
*3:自主製作映画
*4:劇中でさんざん煽った問題が何も解決しないままラストシーンを迎える映画、低予算映画がよくやる
*5:Internet Movie Database インターネット・ムービー・データベース(略称:IMDb)。俳優、映画、テレビ番組、テレビ・スターおよびビデオゲームに関する情報のオンラインデータベース