年末調整した会社員も「確定申告」で還付金? 税理士が教える「所得控除」のポイント

年末調整した会社員も「確定申告」で還付金? 税理士が教える「所得控除」のポイント

平成30年が始まって早くも1カ月が過ぎ、もう2月ですね。そろそろ所得税の確定申告が始まる季節です。

会社員にとっては縁遠いようにも思える確定申告。でも、会社員だからこそ確定申告でトクすることがある! ということで今回は、東京・町田市で会計事務所を構える私こと税理士の高橋浩之が、「会社員こそ知っておきたい確定申告のポイント」を紹介します。

そもそも「所得税」って?

あなたの所得に対してかかる税金のこと。例えば100の収入があったけど、そのために経費が20必要だった。そのときの差し引き80が所得です。1月1日~12月31日の1年間のすべての所得から、所得控除を差し引いた金額に対して、決まった税率で課されます。所得控除については、この記事でたっぷり解説します。

「年末調整」と「確定申告」は違うの?

この疑問、抱かれている方も多いのではないでしょうか。

どちらも「あなたの所得税を決める」という意味では、年末調整も確定申告もやることは同じです。ただ、多くの会社員は、会社からもらう「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」に記入し、控除証明書など必要書類と一緒に提出するだけで税金の処理は終わります。



一方、所得や控除の計算、所得税の確定、申告書の提出を、あなた自らが行うのが確定申告



要は、会社がやるか、あなたがやるかの違いなんですね。

じゃあ会社員の「所得税」ってどうやって決まるの?

まず、前提として会社員の所得税は次のように計算します。

(年収-控除A-控除B)×税率=所得税


年収はよろしいですよね。手取り額ではありませんよ。社会保険料やら所得税やら住民税やら、いろいろが差し引かれる前のもの。いわゆる額面金額です。

控除Aは必要経費、個人的事情に配慮なし

その年収から、まず控除Aなるものを差し引きます。この控除Aは会社員にとっての必要経費のことで「給与所得控除」といいます。

「必要経費なんだから人それぞれでしょ」と思いきや、さにあらず。会社員の必要経費は、年収が決まれば自動的に決まることになっているんです。

つまり年収が同じなら、独身者も、家族を養っている人も、社長さんも、ヒラ社員も、控除Aは同じ。人生いろいろ。立場もいろいろ。立場が違えば、必要経費も違うはず。でも、年収のみによって決まり、あなたの立場や個人的な事情にはいっさい配慮なし。これが、控除A=会社員の必要経費=給与所得控除なんです。

控除Bは、あなたの個人的事情によって決まる

次に差し引くのが、控除Bなるもの。単に所得控除といいます。さきほどの控除Aでは、あなたの個人的事情は見事に無視されました。でも、この控除Bは……あなたの個人的事情によって決まる

万が一に備えていれば控除がある(生命保険料控除・地震保険料控除)。配偶者や子ども、親などを扶養していれば控除がある(配偶者控除・扶養控除)。医療費の負担が多ければ控除がある(医療費控除)。身体的なハンディキャップがあれば控除がある(障害者控除)。寄付をしたら控除がある(寄附金控除)。ドロボウに入られたら控除がある(雑損控除)……などなど。まさに人生いろいろ。人それぞれ。人によってあったりなかったり、多かったり少なかったりするのが、控除B=所得控除なのです。

会社員にとっての確定申告=所得税の還付

会社員は、年収がハッキリしています。年収が決まれば、次に差し引く控除Aも決まるんでしたよね。あとは、あなたの個人的事情(=控除B)いかんによって、所得税が多くなったり少なくなったりするわけです。それを税務署に申告することによって、すでに給与から天引きされていた所得税が戻ってくることがある! これが多くの会社員にとっての確定申告なのです。

でも、実はあなたはもう個人的事情を申告しています。誰に?会社に。そう「年末調整」ですね。「配偶者控除・扶養控除」や「障害者控除」などについては、あなたはすでに会社に個人的事情を伝えて、年末調整で所得税の還付を受けているはず。

じゃあ確定申告する必要ないじゃん

多くの人にとってはそのとおり。でも、年末調整が済んでいる会社員だって個人的事情の内容によっては、税務署に確定申告することで所得税の還付が受けられるケースがあるのです。

還付金はどこから支払われる?

所得税を払いすぎていた場合に戻ってくる「還付金」。年末調整の還付金は会社から振り込まれます。これに対して、確定申告の還付金はあなたの口座に直接、税務署から振り込まれます。

給与所得しかない会社員は、青色申告できない

税務署に確定申告? 分かった! 「青色申告」のことだな。青色申告は節税に有利って聞くし。青色申告で追加の控除というわけか。

……残念ながらそれはちょっと違う。実は青色申告は、会社員のためのものではないんですね。誰のためのものかといえば自営業者アパートオーナーのための制度で、事前に税務署へ書類を提出する必要があります(「個人事業の開業届出書」と「青色申告承認申請書」)。給与所得しかない会社員は、どんなにがんばっても青色申告はできないのです。

「青色申告」と「白色申告」
確定申告は「青色申告」と「白色申告」の2つに分かれます。上記で紹介したように「青色申告」は控除などで有利になる一方、「青色申告」の要件として、きちんとした帳簿をつけなければなりません。対して、「白色申告」は事前の届け出が不要で手間も少なめ。ただし、それに比例して節税の効果も少なめです。

会社員の確定申告=どんな個人的事情があるか

ということで、会社員に青色申告は関係ありません。会社員にとっての確定申告のキモは、あなたに“どんな個人的事情があるか(=控除B)”にあります。

会社には話せないような個人的事情がある人、もとい、年末調整では受けなかった(受けられなかった)類の個人的事情がある人は、税務署に確定申告をすることでさらに所得税の還付が受けられるのです。



実は、先ほど控除Bでの項目で紹介した医療費控除、寄附金控除、雑損控除は年末調整では差し引けず、確定申告の必要があります。また最近よく耳にするところでは「ふるさと納税」による控除も、確定申告をする必要があります。なお、10年以上の住宅ローンを使って家を購入したりリフォームしたりした場合は、1年目のみ確定申告が必要で、2年目からは年末調整で差し引くことができます。

医療費控除の申告をすると、ふるさと納税の控除がゼロに?

納税先の自治体が1年間で5自治体までであれば、確定申告の必要がない「ふるさと納税ワンストップ特例制度」を利用できます。実は、このワンストップ特例は、確定申告をしない人専用の制度。ワンストップ特例を受けた人が(医療費控除に限らず)確定申告をすると、ワンストップ特例は無効になってしまいます。ということで、ワンストップ特例を受けたあなた、確定申告するときは、確定申告書にふるさと納税の記載も忘れずに。ワンストップ特例だから申告不要なんて思い込んでいると、ふるさと納税による控除がゼロになってしまいますので。

その他、個人的事情が会社にしっかりと伝わっていなかったり、年末調整が終わったあとに立場が変わった人。こんなときも確定申告をすると所得税の還付があります。例えば……。

私、離婚したんだ。子どもは私が引き取った。これからは母子2人でがんばる!でも、このことは、まだちゃんと会社に言えてなくて……。そういえば、離婚した女性には税金の控除があるって聞いたんだけど。

⇒そのとおり。本来ならば、年末調整で「寡婦(かふ)控除」が受けられたはず。でも、あなたは、あなたの個人的事情を会社に伝えていないようです。確定申告をして寡婦控除を受けましょう。

大晦日に婚姻届を提出した。パートナーは2人の連れ子のいるバツイチでパート勤務。気軽な独身から一挙に3人養う身になっちゃったよ。ますますがんばらなきゃ<

⇒年末調整をしたあとに立場が変わったケースです。所得税の基準日は12月31日。つまり大晦日。誰かを控除対象にできるかどうかは、大晦日の状況によることになっているんですね。その日の状況で配偶者控除、扶養控除の要件に当てはまれば、それぞれの控除が受けられます。控除に“日割り”という考え方はないのです。元旦に結婚するのもおめでたくていいでしょう。でも、税金のことだけ考えたら、1日早く大晦日にしたほうがおトクというわけですね。

※配偶者控除、扶養控除の要件は省略します。

俺、一応、大学生。バイトしている。バイト代は月10万円くらいかな。親の扶養からは外れるよね。んっ? 働く学生には税金の控除があるって? なにそれ? バイト先は分かってくれてるかな~?

⇒余談ですが、会社員ではなく働く学生さんという立場の場合は「勤労学生控除」が受けれられる可能性があります。でも、勤労学生控除は、案外見落とされがち。源泉徴収票を確認して勤労学生控除がなければ、確定申告で控除を受けましょう。

確定申告の必需品、源泉徴収票はこう見る

会社員が税務署に確定申告をするにあたって必要なもの。それは源泉徴収票。正しくは、「平成〇年分 給与所得の源泉徴収票」といいます。会社員の方は、平成29年分をすでに会社からもらっているはずです。

サイズは、A4コピー用紙の半分の大きさ。ちなみに、以前はさらに半分のサイズでした。平成28年分から今の大きさになっています。

<源泉徴収票の見方>

これまで説明してきたことを振り返りつつ、源泉徴収票の見方を解説しましょう。

【1】:支払金額
あなたの年収です。いろいろ差し引かれる前の額面金額でしたね。ちなみに、通勤費には税金がかからないので、含まれていません。

【2】:給与所得控除後の金額
年収から控除Aを差し引いた金額です。控除Aは会社員の必要経費。あなたの立場や個人的事情に関係なく、年収によって決まるんでしたよね。

【3】:所得控除の額の合計額
控除B、つまりあなたの個人的事情による控除の合計です。もちろん、ここに載っているのは“会社に伝えてある分”だけ。これ以外の個人的事情を税務署に申告することによって、それに対する所得税が戻ってきます。

【4】:源泉徴収税額
②から③を引いた金額に税率を掛けたもの。あなたが負担している所得税の額です。負担している以上の税金が戻ってくることはありません。ということで、この欄に載っている金額よりも多い還付金はありえません。もし、ここの金額がゼロだとしたら……あなたがどんな立場にいようと、あなたにどんな個人的事情があろうとも、所得税の戻りはゼロです。

まとめ:会社員は「控除B」をしっかりチェックしよう!

ちなみに、会社員が「なんらかの個人的事情」で所得税を還付してもらいたい場合は、過去5年にさかのぼって申告できます。今年は平成30年なので、5年前といえば平成25年。つまり、平成25年以降の分ならばOKです。この場合は確定申告期間に関係なく、平成30年12月31日までに申告すれば還付が受けられるのです。

これまで説明してきたように、会社員の多くは年末調整で税金の手続きは終わっているはずです。しかし、なんらかの個人的事情がある人は、確定申告をすることで所得税が戻ってきます。控除B(=所得控除)にはどんなものがあるか、忘れている控除Bはないか、このあたりをしっかりとチェックすることをおすすめします。

※2018年2月1日15:30ごろ、青色申告に関する説明について、記事の一部を修正しました。ご指摘ありがとうございました。

税理士。ややこしい税金のことを分かりやすく伝えるために奮闘中。事務所は東京都町田市。

…続きを読む

本記事の情報は、2018年1月30日時点のものです。

関連記事