税理士が解説 今のうちに知っておくべき「相続と相続税」について【○×クイズ付き】

税理士が解説 今のうちに知っておくべき「相続と相続税」について【○×クイズ付き】

こんにちは。税理士の高橋浩之です。今回は、相続とそれに関する税金──相続税・贈与税がテーマです。

多くの人にとっては、相続や相続税なんて、一生のうちにそう何度も遭遇するものではありませんよね。そうはいっても、いつかは起こり得ること。その時はしっかりと対応をしなければならないわけです。いろいろ誤解や勘違いが多いのも今回のテーマの特徴なので、早めに覚えおくことが節税にもつながります。

相続と相続税に関する○×クイズ

まずは、相続と相続税に関する○×クイズから。

【問1】 相続は生前にできる
【問2】 旦那さんが死んで妊娠中の奥さんが残された場合、お腹の中の赤ちゃんも相続人になる
【問3】 亡くなる直前にお金をおろすと相続税の節税になる
【問4】 生きているうちにお墓を買っておくと相続税の節税になる
【問5】 相続で争ってしまうような親不孝者の相続税は高い
【問6】 遺言の内容と違う遺産の分け方はダメ



それでは、 答え合わせといきたいところですが……ここでは控えておきます。この記事の中から答えを見つけて答え合せしてみてください! その方が(受け身にならず)知識がしっかり身に付きますからね。



相続は誰かが亡くなって始まる

「今のうちに息子に土地を相続させようと思うんだけど……」「生前相続だとどのくらい税金がかかるの?」たまにこんなことを聞かれます。

もっともな質問に聞こえます。でも、この質問には、ちょっとした勘違いがある。実は生きているうちは、相続はできないんですね。民法では次のように決まっています。

つまり、生きているうちに相続はできません。できるのは、贈与。正しく質問するならば、「今のうちに息子に土地を贈与しようと~~」「生前贈与だと~~」ですね。

【コラム】相続は争族(?)
相続を「争族」なんて言い方をすることがあります。亡くなった人の財産をめぐって、遺族がひと悶着、ふた悶着。「そんなのドラマの中だけの話さ。うちは争うほどの財産がないから大丈夫」こんなことを言う人は多いです。でも、意外な事実をご紹介しましょう。

(少し古いですが)平成23年度の最高裁判所の統計*1によると、遺産分割争い事件のうち、財産が1,000万円以下の家庭の割合は、なんと31%! それに、財産が5,000万円以下の家庭を加えると割合は76%に及びます。つまり、裁判所に持ち込まれる分割争いの3件に1件は財産が1,000万円以下で、4件に3件は5,000万円以下というわけ。

相対的に財産が少ない家庭の数が多いことが影響しているにしてもこのデータは、遺産分割争いが、財産の多い少いに関わりなく起こり得ることを示しています。

相続税とは?

相続税の対象は、亡くなった人の正味財産

人が亡くなって相続が起こります。相続が起きると、相続税が発生します。


そう、亡くなった人の遺族(以下、相続人といいます)は、亡くなった人の財産を引き継いだら、相続税の申告・納付をしなければならないんですね。



相続税の対象は、亡くなった人の正味財産。亡くなった人のプラスの財産(現金、預貯金、土地建物、株式などなど)からマイナスの財産(借入金残高、ローン残高など)を差し引いた残りが正味財産です。



プラスの財産-マイナスの財産=正味財産(=相続税の対象)

【コラム】お宝鑑定番組の明と暗

プラスの財産には、原則として、亡くなった人が所有していた財産的価値のあるもの全てが含まれます。もちろん、書画骨董美術工芸品などといわれる、いわゆるお宝だって言わずもがな。

某テレビ局にお宝鑑定番組がありますよね。喜怒哀楽があって見ていて面白い。数百万円、数千万円までいかなくても、それなりの高額鑑定が出ると、依頼人は大喜び。当然です。でも、世の中には明があれば暗がある。高額のお宝は喜ばしい反面、それには将来相続税がかかるという暗(?)があります。

〇〇円以下のお宝なら、プラスの財産にしなくていい。こんな基準はありません。値が付いたお宝であれば、いくらであってもプラスの財産に入れなければならないんですね。黙ってれば分からないなどという邪(よこしま)な考えは持ってはいけませんよ。いや、黙っていればって、すでにテレビで、持ち主と価格が堂々と公表されてしまっていますし。

さらに基礎控除を差し引いた残りに相続税がかかる

正味財産に対して即、相続税の税率をかけるのかといえば然(さ)にあらず。そこから、さらに相続税の基礎控除なるものを差し引いた残りの金額が課税遺産になるのです。

相続税の基礎控除は、相続人の数によって決まります。基本的な控除額3,000万円がまずあって、相続人1人当たり600万円を加算します。相続人が2人なら4,200万円。

3人なら4,800万円です。

相続人が多いほど基礎控除も多くなるというわけですね。



さて以下の場合は基礎控除はいくらになるでしょう?

Q.夫が亡くなって、妊娠中の妻が残された。他に相続人はいない。さて、基礎控除はいくら?

A. 相続人は2人です。民法に「胎児は、相続に関しては、すでに生まれたものとみなす」という規定があるのです。

基礎控除の計算では、相続税の申告書の提出の日までに生まれていないときは、その胎児はいないものとして取り扱います。その場合の基礎控除は3,600万円(=3,000万円+600万円×1人)。その後、無事生まれたら、基礎控除4,200万円(=3,000万円+600万円×2人)として、相続税の申告をやり直し、税金が還付されます。

プラスの財産についてちょっと詳しく

預貯金

プラスの財産がいつ時点のものかといえば、もちろん亡くなった日現在のもの。まれに聞かれることがあります。「亡くなりそうになったら、銀行口座からお金を引き出しておけば、相続税の節税になりますよね?」つまり、亡くなった日には口座にお金はないんだから、相続税はかからなくて済むよね、というわけです。

亡くなった日に口座にお金がなかったのは間違いない。でも、手元に現金、つまりキャッシュがあったわけです。それは当然、プラスの財産。ということでこのケース、残念ながら節税にはなりません。

土地

土地は原則として、路線価なるもので評価します。路線価とは、国税庁が決めた1㎡当たりの価格。道路に価格がついているんですね。路線価が10万円だとしたら、その道路に面している土地は1㎡あたり10万円です。あとはその土地の面積に10万円を掛ければ、それがその土地の評価額になります。



ただし、路線価は、土地がほぼ正方形で平坦地であるときの価格です。細長かったり、不整形だったり、がけ地だったり。こんなときは割引補正します。逆に、角地だったり、裏も表の道路に面しているような土地は、利用価値が高いので、割増補正することになります。

【コラム】Q. 私の土地の隣が墓地で「出る」んです

その影響でか、地元の不動産屋さんに聞くと、この辺りの土地一帯は、値引きをしないとなかなか買い手がつかないんだとか。このウチの土地、相続のとき、路線価を割引補正することはできますか?

A. 可能性大です。いわゆる「忌み」により取引価格が影響を受けいるときは、路線価を10%割引くことになっています。

お墓

亡くなった人の財産は、何から何まで、どんなものであってもプラスの財産になることはありません。相続税がかからない財産もあるのです。例えば、お墓。祖先崇拝の慣行を尊重する意味でも、お墓には相続税がかからないことになっています。関連して、仏壇仏具も同様です。

そうはいっても、例えば、純金の仏壇(?)なんてものはNGです。投資目的という意味合いも出てくるので、非課税にはなりませんよ。

財産をあげれば贈与税がかかる

相続税がいやなら生前にあげちゃえばいい?

ここまでの復習です。人が亡くなると相続が始まって、相続税が発生するのでした。では、もし相続税を支払いたくないのであれば、「生きているうちに贈与しちゃえばいいよね?」とこんな考えも出てきます。その通り。相続が始まる前に(つまり生きているうちに)全ての財産を子どもにあげちゃえば相続税はかかりません。そう、相続税はかからない。でも、そんな簡単に税金の世界から逃れることはできません。贈与税なる税があるからです。財産をあげれば、もらった人に贈与税がかかる。贈与税には、相続税を逃れることを防止する役割があるのです。

【コラム】日本で一番高い税金、その名は贈与税
日本には多くの種類の税金があります。その中で一番高いのが、贈与税です。最高税率は55%。そうは言いつつ、相続税の最高税率もおなじく55%。同じじゃん! と言いたいところですけど、実は違う。

両方の税金とも、税率はある段階ごとに上がっていきます。超過累進税率と呼ばれる仕組みですね。その段階が贈与税の方が急なのです。つまり、次の高い税率にいく基準が低い。結果として、負担が大きいというわけ。例えば、1,000万円に対してかかる相続税が100万円なのに対して、贈与税は210万円です。

他人同士の贈与なら贈与税はかからない?

贈与税には、相続税からの逃亡を防ぐ役目があると説明しました。であれば……他人同士の贈与には贈与税はかからないのでは? なぜなら、他人同士なら相続はありえ得ない。従って相続税も発生しない。相続税がないんだから、それからの逃亡を防ぐ贈与税もないのでは?

もちろんそんなことはなく、他人に財産をあげれば、もらった人に贈与税がかかります。まあ、他人に贈与といっても、道行く赤の他人にするわけはなく、何らかの「近しい関係にある他人」に贈与するんでしょうけど。

あげる人、もらう人の関係によって税率が異なる

贈与税の税率は、単一ではありません。まずは、原則的な税率があって、それに対する特例的な税率があります。もちろん、特例的な税率の方が低いです。


【特例的な税率(=低い税率)が適用できる条件】

もらう人➡20歳以上
あげる人➡もらう人の父母、祖父祖母などの直系尊属

以前は、贈与税の税率は1つでした。それが2つになったのは、特例的な税率を設けることによって、早期に、高齢者が貯めこんでいる(?)財産を若い世代に移してもらいたい。そうすれば世の中に回るお金が多くなって、景気が良くなるはず。こんな国の意向があったのかもしれません。



ただし、特例的な税率でも、相続税の累進税率よりも高いことに変わりはありません。

親不孝者で相続税は高くなる⁉

さて、相続税に話を戻します。


亡くなった人の正味財産から基礎控除を差し引いた残りの財産に相続税がかかります。その相続税は、各相続人が、それぞれ引き継いだ財産の割合に応じて負担します。仮に相続人が3人で、均等に財産を分けたとします。そのときは、相続税も1/3ずつ負担しなければなりません。



これは、亡くなった人の財産がしっかりと分けられた場合のお話。



仮に、いわゆる「争族」で亡くなった人の財産が分けられなければ……もちろん財産の名義変更もできないし、なんと! 相続税が高くなることもあるんです! 財産をめぐって相続人同士が争うなんて、いってみれば親不孝。そんな親不孝で相続税が高くなるとは?

相続税の計算では、いろいろな優遇制度があります。例えば、

●亡くなった人が住んでいた土地の評価を割り引く制度

●配偶者が財産を取得したとき、相続税を少なくする制度

など。どちらも、これが適用できるかできないかでは、税金に非常に大きな差が出る制度です。



これらの優遇制度は、期日までに亡くなった人の財産がしっかりと分けられていることが要件なんですね。「争族」になって分けることができない場合は、適用できないのです。

※適用できなくても、後日財産が分けられたら申告をやり直して、そのときに優遇措置を受けることはできます。

生前における相続の準備~遺言のすすめ~

生きているうちに相続はできない。でも、準備をしておくことはできます。


「俺が死んだら、俺の財産は〇〇△△というふうに分けてほしい。決して、決して争族など起こしてくれるなよ」

このように願うなら、すべきことは明確です。そう、遺言です。もちろん、遺言があるから、争族が絶対に起きないとは言い切れません。でも、意思を残しておくことは大切。故人の意思は、尊重されるべきですから。

いくら尊重されるべきでも、こういった遺言は……もちろん無効

方式不備がなければ、こんな遺言もOK。ただし、その場合でも、彼の相続人たちは、最低限保証された相続分をとなりの奥さんに請求することができます。

【コラム】遺言と違う分け方はダメ?
亡くなった人の法律的に有効な遺言が見つかりました。でも、あなた方相続人は、話し合いで遺言とは違う形で財産を分けちゃった……。
さて、これは……もちろん有効です。遺言の内容と違う分け方をしていても、相続人全員の合意があれば構いません。相続人に文句がなければ、その他に文句を言える人はいませんから。

ご紹介した他にも、まだまだ相続や相続税・贈与税については、誤解や勘違いをしやすいことが多い。加えて手続きも厄介です。法律的な手続き、登記のこと、税金の申告……。全部をこなすのは大変です。その際はぜひ専門家の力を借りることをおすすめします。

【○×クイズの答え】
【問1】 相続は生前にできる
【答】相続は人が亡くなって始まります。従って、×

【問2】旦那さんが死んで妊娠中の奥さんが残された場合、お腹の中の赤ちゃんも相続人になる
【答】相続では、胎児はすでに生まれたものとみなされます。ただし、お腹の中で亡くなってしまったときはその限りにあらず。従って、答えは△(○×クイズでありながら、△というあるまじき答えになってしまいました……)

【問3】 亡くなる直前にお金をおろすと相続税の節税になる
【答】預金は減ってもキャッシュが残ります。従って、×

【問4】 生きているうちにお墓を買っておくと相続税の節税になる
【答】お墓は非課税財産。相続税のかかる預金が非課税財産に変わるので、○

【問5】 相続で争ってしまうような親不孝者の相続税は高い
【答】争いがあって、遺産を期日まで分けられないと、相続税の優遇制度が受けられません。しがって⇒○

【問6】 遺言の内容と違う遺産の分け方はダメ
【答】残された相続人の話し合いで、全員が合意すればOKです。従って、×

税理士。ややこしい税金のことを分かりやすく伝えるために奮闘中。事務所は東京都町田市。

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