これから「会計・税金」を学びたい人におすすめする、税理士が厳選した書籍5冊

これから「会計・税金」を学びたい人におすすめする、税理士が厳選した書籍5冊

こんにちは、税理士の高橋浩之です。これまで私が執筆してきた「マネ会」のコラムでは、税金の仕組みなどを解説してきました。

今回は少し趣向を変えて、「会計」と「税金」について分かりやすく学べる5冊の本を、どういった内容が書かれているのかを交えながら紹介したいと思います。

対談形式で進む『経済ってそういうことだったのか会議』

2002年9月発売
日本経済新聞社
著者:佐藤雅彦/竹中平蔵


どんな本?

経済学者・竹中平蔵さんと、童謡「だんご3兄弟」の作詞家で知られるクリエイター・佐藤雅彦氏の対談集です。佐藤さんが竹中さんに経済・貨幣・株・税金などについて聞くという内容で、テーマ別に話が進みます。対談だけあって、平易な言葉遣いで読みやすいです。

1980年代を代表する日本のロックバンド・RCサクセションの「ブン・ブン・ブン」という曲をご存じですか? アナーキーな雰囲気と反権力的な歌詞で構成されたこの曲には、ちゃんと税金を払っているぜというメッセージが組み込まれています。その不調和ぶりがいいですね。税金という、真面目な言葉(?)がシュールに聞こえます。ちなみに作詞・作曲は、ボーカルを担当していた忌野清志郎さんです。

『経済ってそういうことだったのか会議』では、竹中氏が「アメリカの映画を観ていていつも感じるんですが、あっちの映画には『私は税金を払っている』というセリフが実によく出てくるんですね。日本のドラマで、こういうセリフは聞いたことがない」(2002年 日本経済新聞社 佐藤雅彦・竹中平蔵 『経済ってそういうことだったのか会議』 106Pより)と語っています。

いやいや竹中先生、ドラマの中に出てこなくても、ロックバンドの歌詞には出ていました。

それぞれの映画にこんなせりふはありません。念のため。


それはさておき。働く人々が行き交う東京・新橋駅の前で、会社員に「あなた税金払ってますか?」と聞けば、皆さん「払っている」と答えるはずです。しかし、続けて「昨年いくら払いましたか?」と聞いても、おそらくほとんどの人が答えられないでしょう。

それはなぜか。会社員の税金は、毎月の源泉徴収と年末調整で完結するからです。12月にその年最後の給与が振り込まれるときには、会社が税金の処理を済ませてくれています。それじゃあ、いくら税金を支払ったなんて意識する暇はありませんよね。

竹中氏は、さらに「いまの徴税の仕方の下で普通のサラリーマンは無関心でいられる。むしろ無関心でいさせるシステムなんですね」(2002年 日本経済新聞社 佐藤雅彦・竹中平蔵 『経済ってそういうことだったのか会議』 108Pより)「年末調整までやってくれると、サラリーマンはもう税務署がどこにあるかすらも知らないまま、一生を過ごすこともあるんです」(2002年 日本経済新聞社 佐藤雅彦・竹中平蔵 『経済ってそういうことだったのか会議』 106Pより)と説明しています。

今後、電子申告(e-Tax)が主流になるのであれば、税務署がどこにあるかは知らないままでも特に困りません。でも、源泉徴収・年末調整というシステム(特に年末調整)が税金への関心度を低くしているのは確かです。

払っている税金に関心がないということは、それがどのように使われているか、あるいは何に使われていないかということにも無関心になってしまう……。

税金には「公平・中立・簡素」という理想があります。この『経済ってそういうことだったのか会議』では、「理想の税は何か」についても議論されています。それに対する、竹中氏が示した一つの答えとは何だったのでしょうか。それは、この記事の最後で紹介しましょう。

◆ コラム ◆ この本で知った素敵なエピソード~ウォーレン・バフェットの髭剃り~
アメリカの有名な投資家に、ウォーレン・バフェットという方がいます。名前くらいは聞いたことがあるかもしれませんね。バフェット氏は長らく、カミソリ製品で有名なジレット社の筆頭株主*1でした。なぜ、ひげ剃り会社の株を手放さないのか。こう問われて、史上最も成功したといわれる投資家いわく。

──寝る前に、今この瞬間にも人々のひげが伸びていると想像すると、安眠できる──

これが投資の神髄か⁉ 何かとても良い話を聞いたような気がします(税金に関係のない話で失礼しました)。

中小企業の社長に読んでほしい『収支をつければパチンコ・パチスロは負けない』

2012年6月発売
ワニブックス
著者:南まりか


どんな本?

会計を一生懸命やってどうなる? こんな疑問を持つ多くの中小企業の社長に“意識革命”を起こさせる。タイトルからは想像がつかない(?)隠れた名著です。パチンコ・パチスロも勝てるようになって一石二鳥⁉

「会計で会社の業績がアップするか?」「会計なんて業績アップには関係ないだろう?」こう思っている中小企業の社長は、少なからずいます。会計をやる暇があったら、得意先の1件でも顔出すわい、というわけですね。

あなたが会社員なら「会社なら会計処理なんて当たり前でしょ」と思うかもしれませんね。でも、会計と、その前提となる帳簿付けを嫌がる社長は意外と多い。まあ、なんというか地味な作業ですから。それに面倒くさい。

とはいえ、もしあなたが中小企業の社長なら(あるいは近い将来起業する予定なら)会計だって一生懸命やらなければならないのです。なぜなら……パチンコ・パチスロは収支をつければ負けないから。

収支をつければ、今まで“なんとなく”の世界にあったものが、冷徹な数字として目の前に現れる。数字は圧倒的な現実。赤字なら「どうにかしなきゃ」と真剣になる。著者である南まりかさんは、それを“意識革命”と表現しています。

まさにその通り。見えていなかった数字を見るという“意識革命”によって立ち回りが変わり、結果が変わるというわけです。

クレームつける暇があったら(?)収支をつけよう!


会計にも同じことが言えます。面倒でも、しっかりと会計をすることによって、社長の頭の中にしかなかったものが明確になります。もしかしたらそれは、社長が“なんとなく”描いていた数字とは違って、下手をすれば赤字が浮かび上がるかもしれません。

たとえ赤字だったとしても「赤字じゃないか!」と怒ってはいけません。むしろ、赤字だと分かったことを喜ばなきゃ。その上で、どうにかしなきゃと真剣になる。真剣に対応することで業績も変わってくる。そう、まさに会計が会社の業績を上げるんですね!

◆ コラム ◆ この本の兄弟本(?)『いつまでもデブと思うなよ』
記録することで、意識を変え、結果(現実)を変える。んっ? どこかで同じようなロジックの本があったな。こう思ったあなた……そう、岡田斗司夫さんの書籍『いつまでもデブと思うなよ』のレコーディングダイエットに通ずるものがありますよね。なお『収支をつければパチンコ・パチスロは負けない』の中でも、この『いつまでもデブと思うなよ』に触れています。

あらためて『いつまでもデブと思うなよ』を読んだところ、あるページの右端が折られていました(私は気になるページの端を折るのです)。そこからの引用です。

──カード破産する人は、全員必ず、自分の借金の総額を知らない──
(2007年 新潮社 岡田斗司夫 『いつまでもデブと思うなよ』84Pより)

知ることが怖くて、何かから目をそらす。これはよくないというわけですね。「どうやって現状を乗り越えるべきか? 打開策の第一歩は? すべて、具体的な数字の把握から始めるしかない」(2007年 新潮社 岡田斗司夫 『いつまでもデブと思うなよ』84Pより)そう、どんなに怖くても、まずは知ることから始まる。それが、パチンコ収支をつけることであり、会社の会計であり、体重の記録なのだ。

税金の基本が学べる『財政のしくみがわかる本』

2007年6月発売
岩波書店
著者:神野直彦


どんな本?

大学教授が10代の若者に向けて書いた本。税の仕組み、税がどのように使われているかの基本の“き”がしっかりと学べます。入門書は、最も薄い本か、ジュニア向けに書かれた本を選べば間違いないのです。

「じつは、この租税は私たちの生活している市場社会のルールから考えると、異常なしくみなのです」(2007年 岩波書店 神野直彦 『財政のしくみがわかる本』 54Pより)なぜでしょう? それは、税金は強制的に徴収されるのに、それに対する明確な反対給付がないからだといいます。

普通、お金はあなた自身が使うか・使わないかを自由に決めることができます。結果として、使ったらサービスを受けたり、商品を手にしたりします。

でも、税金はそうではない。あなたの意思にかかわらず強制的に取られるし、支払っても直接何かを手にできるわけではない。つまり、税金には強制性と無償性があるのです。これが市場社会の中では“異常な仕組み”というわけなんですね。

そんな“異常な仕組み”は、その異常さゆえか、各国の歴史の中でさまざまな反乱の原因になったといいます。この『財政のしくみがわかる本』では、その中の1つである1381年にイギリスで起きたワット・タイラーの乱が紹介されています。

税金が原因で起こった大きな出来事といえば、アメリカの独立も挙げられます。アメリカ独立戦争のきっかけの1つは、1773年のボストン茶会事件。この事件は、イギリス本国が税収を増やそうとしたことに対する人々の反発によって起こったのです。「事件のウラに税金あり」ですかね。

このように、“異常な仕組み”は国のカタチを変える力も持っています。日本はどんな国を目指すのか。国民がお互いに助け合っていこうとする国を目指すのか。それとも、自分の責任で生きていく社会を目指すのか。

前者なら社会保障を充実させなければならないし、貧しい人々にも税金の負担を求める必要があります。しかし後者なら、所得が少ない場合は税金を負担しなくていいということになります。ただ、その代わりに待っているのは、自己責任で生きていく世の中……。

この本の税金に関する章は、次のような言葉で締めくくられています。「日本はどのような社会をめざすのかを明らかにしたうえで、税金のあり方を考えていかないと、社会は混乱するばかりです。もちろん、日本の社会のめざす方向を決め、税金のあり方を決めるのは、国民だということも忘れてはなりません」(2007年 岩波書店 神野直彦 『財政のしくみがわかる本』 93Pより)

◆ コラム ◆ 「税」の字の成り立ち

漢字の「税」を分解すると、へんが穀物を表し、つくりが人が口を開けているさまを表現しているといいます。つまり、「税」という字は、穀物が税として納まって、役人たちが口を開けて喜んでいる様子を描いているのです。私はこの本で、初めて「税」という漢字の成り立ちを知りました。

日本が抱える税金の課題とは? 『税金考 ゆがむ日本』

2016年7月発売
日本経済新聞社


どんな本?

パナマ文書、消費増税、配偶者控除、中小企業の事業承継税制、ビール系飲料をめぐる税金などなど、網羅的に税金の今日的課題を知りたい人におすすめです。

「世界中で社会が二つの階級に分かれてきている。ひとつは普通に税金を支払う階級で、もうひとつは、いつ、どのように税金を払うかを、あるいは、払うか払わないかさえも自分で決め、そうするための手段を持っている階級だ」(2016年 KADOKAWA フレデリック・オーバーマイヤー 『パナマ文書』 252Pより)

租税回避行為にまつわる機密文書「パナマ文書」の流出事件が報道されたとき、あなたはどう思いましたか?

「ほう、金持ちはいいな。稼ぐだけでは飽き足らず、税金までも自分の思い通りにしているのか。政治家・VIP御用達の税制があるようなもんだな。まっ、でも俺には関係ないか。タックス・ヘイブンがどこにあるかも知らないし」

こう思ったあなた、確かにパナマ文書はあなたに関係ないかもしれません。タックス・ヘイブンがどこにあるか知らなくても構いません。でも、パナマ文書に象徴されるような税金にまつわる矛盾は、あなたに大いに関係ある! この本は、日本が抱える税金の今日的課題を明らかにしています。

◆ 日本が抱える税金の課題その1 不自然でも非合法でなければOK? ~大きな中小企業の話~

税金の世界では、資本金1億円以下(つまり、1億円ぴったりまで)の会社は中小法人になります。そして、法人税においては「中小法人は経済的基盤が弱いので保護されるべき」というような考えのもとで、中小法人に対して優遇税制を適用しています。例えば軽減税率だったり、欠損金の控除制限不適用だったり。

ということは、この制度を逆手に取って資本金を1億円にすれば、売上がどんなにあったとしても、社員がどれだけ多くても、税の優遇が受けられる!誰もが知っているような企業の中にも、資本金1億円ぴったりという会社は多いといいます(『税金考 ゆがむ日本』には、こういった会社へのインタビューが載っています)。

世間的には大企業。でも、資本金は1億円。ゆえに税優遇を受ける。不自然だけど、非合法ではない。合法だから何も言われる筋合いはないのか。それとも……。

趣旨にそぐわないとの会計検査院による指摘を受け、優遇制度の見直しが図られました……が、見直しは一部にとどまり、基本的には存続です。


◆ 日本が抱える税金の課題その2 秘書の税率>富豪の税率 ~所得税率の歪み?~

所得税の税率、お金持ちより秘書のほうが高い⁉ こんなことあるのか。


「自分が納めている所得税の税率は秘書より低い」。ウォーレン・バフェット氏にこんな名言(?)があります。どういうことでしょうね。世界的に有名な投資家、さぞかし所得税の税率も高かろうに……。ここでのキーワードは「税率」です。税額ではないことにご留意を。さて、このからくりは?

秘書が貰っているのは給与です。給与所得には累進税率が適用されます。給与の額が増えるにしたがって、税率も段階的に上がっていくというわけです。対して、投資家の主な収入源である配当に対する税率は一定。つまり、配当収入が増えても税率は上がっていかない。これが税率逆転現象の理由です。

この仕組みは、日本も同様です。上場株の配当は、源泉徴収されるだけで確定申告をしなくて良かったり、確定申告する場合でも、累進税率の適用外とすることが選べるようになっていたりするのです。秘書の税率>富豪の税率。この現象を生む制度は是正すべき? それとも……。

◆ 日本が抱える税金の課題その3 ビールメーカーVS国 ~ビール系飲料をめぐる戦いの勝者は?~

ビール系飲料の歴史は、酒税をめぐる、メーカーと国の戦いの歴史でもあります。メーカーが酒税の低い(つまり、価格を安くできる)新ジャンルの商品を開発し、国が封じ込めるといった図式ですね。1994年に発売された発泡酒は、1996年に税率が引き上げられました。その後、2004年に「第三のビール(ビール風味の発泡アルコール飲料の名称)」が発売されますが、2006年には第三のビールも税率が引き上げることになります。

国内でそんなことをしているうちに、メーカーはグローバル市場で置いてきぼりをくらってしまった。世界で通用しない酒税法対策の技術革新に気をとられ過ぎたつけだといいます。

酒税の税収は、この20年あまりで約4割減ったそうです。先ほどお話ししたように、その間にメーカーは海外勢との競争で遅れをとった。一体、ビール税戦争の勝者は誰なのでしょうか。メーカー? 国? それとも、まさかまさかの私たち消費者?(いやいや、これは絶対にないですよね)

ビール系飲料の税金について、今後ビールは減税、発泡酒・第三のビールは増税です。
段階的に見直しが図られて、202610月までに統一されることになっています。


起業するなら読んでおきたい『稲盛和夫の実学 -経営と会計-』

2000年11月発売
日本経済新聞社
著者:稲盛和夫


どんな本?

京セラ、KDDIを創業した稲盛和夫氏による、経営のための会計学の本。古典的名著です。

常識にとらわれるのではなく、原理・原則、本質を見極めて、普遍的に正しいかどうかを判断基準にする。これが『稲盛和夫の実学 -経営と会計-』で貫かれている思想です。

いや、この本のというより、この考え方は著者の生き方そのものといえます。そのような価値基準……何がその本質なのかによって判断することの大切さは、経営における重要な分野である会計の領域においても、全く同じだといいます。

この本には、しばしば著者と経理担当者の会話が登場します。いずれも、著者が「どうして? なぜ?」と問い掛けています。

「なぜ、こんな伝票を使うのか?」「なぜ、会計ではそうなるのか?」「機械を買うとなぜ減価償却をするのか?」「儲かったお金はどこにあるのか?」「配当するお金がなくて、銀行からお金を借りても、それでも儲かったといえるのか?」

それに対して、専門家が答えます。それは、専門家にとって実務の常識です。でも、専門家の言葉にたじろいで「そのようなものか」となんとなく納得してはいけない。納得したくなるけれど、グッと我慢する。たとえ実務の常識がそうだったとしても、原理原則に照らしてみるとどうか。この基準で考えるべき。……著者は繰り返しこう語りかけてきます。

「まえがき」からの引用です。「本書は、私の考える経営の要諦、原理原則を会計的視点から表現したものであり、(中略)『会計がわからんで経営ができるか』という思いで出版させていただいた」(2000年 日本経済新聞社 稲盛和夫 『稲盛和夫の実学 -経営と会計-』 6Pより)

この本は、これから起業を目指す方なら1冊持っておいてほしい。

さて、冒頭でご紹介した、理想的な税として竹中氏が示した一つの答え。それは「人頭税*2」です。どこかで聞いたことがあるという人もいるでしょう。全ての国民一人一人に同じ税金。老若男女関係なし。所得の大小関係なし。それが人頭税です。

ゼイ、ゼイ、ゼイゼイうるさいね。でも、だれもが同じ額の税金を負担する。これが人頭税だ!


計算(?)は簡単。異論はないでしょう。ではこれは果たして公平なのか? 中立なのか? ……これにはいろいろな考えがあるはずです。人頭税こそ、理想の税。うなずけますか? それとも……。

税理士。ややこしい税金のことを分かりやすく伝えるために奮闘中。事務所は東京都町田市。

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*1:ジレット社は2005年にP&G社に吸収合併され、バフェット氏は自動的にP&G社の株主になりました。しかし、2018年現在はP&G株から撤退しているそうです。
*2:竹中氏は、あらゆる意味で人頭税が理想的だと言っているわけではありません。念のため。

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