住民税の普通徴収と特別徴収はどう違う? それぞれのメリットやデメリットを解説
住民税は1月1日の居住地における「個人都道府県民税」と「個人市町村民税」を合計した税金で、前年の所得により計算されます。原則的に住民税は居住地の行政サービスに利用される税収で、各地方自治体では「福祉」、「教育」、「街づくり」などさまざまな用途に使用します。
住民税の納付(徴収)は収入の受取り方により「普通徴収」と「特別徴収」の2種類があり、自営業者は自ら納付する普通徴収、サラリーマンなどの給与所得者は給与から差し引かれる特別徴収がおこなわれています。また特別徴収の該当者が普通徴収へ切り替えるには、厳格な基準が定められており簡単には切り替えられません。
それぞれの徴収方法の特徴とメリット、デメリットを解説します。
住民税の普通徴収と特別徴収には3つの違いがある
住民税の納付には普通徴収と特別徴収があり、一定の条件で区別されます。最初にそれぞれの違いを表で比較してみましょう。
徴収方法 |
徴収対象 |
徴収回数 |
徴収方法 |
普通徴収 |
個人事業主(自営業) 無職 |
年4回 (6月、8月、10月、1月) |
納付通知書により納付 |
特別徴収 |
サラリーマン 公務員 給与所得者 |
年12回(毎月の給与) | 給与天引き |
それでは各々の特徴を項目にそって解説します。
対象者の違い
住民税の普通徴収は「納税者が自ら住民税を納付する徴収方法」です。普通徴収の該当者は、個人事業者など給与所得者を除く人です。普通徴収の該当者をまとめてみましょう。
- 個人事業主(給与所得者を除く)
- 無職(転職中も含む)
- 特別徴収から普通徴収への切り替えが認められた人
上記のとおり個人事業主を除く「無職」の人も給与所得がないことから普通徴収が適用されます。普通徴収の該当者は居住市町村から送られてくる「納付通知書」を使用して、自ら納付しなくてはなりません。
これに対して特別徴収は普通徴収の該当者を除く住民で、主にサラリーマンや公務員などの給与所得者だと考えてください。
- サラリーマン(給与所得者)
- 公務員
- アルバイト、パートで一定の給与所得がある人
特別徴収は給与を支払う事業主(会社)が従業員から「代行徴収」をおこない、納税者に代わって住民税を支払う徴収方法です。ただし年間の住民税額は普通徴収と違いはありません。
徴収回数の違い
普通徴収は毎年送られてくる「納付通知書(納税通知書)」により、「6月」、「8月」、「10月」、「翌年1月」の合計4回払いです。前年の所得から計算された住民税額を4等分して、それぞれの納付期限までに所定の方法で納付しなくてはなりません。
1回あたりの納税額(普通徴収) = 年間住民税 ÷ 4回
これに対して特別徴収は事業主(会社)が毎月の給与から住民税を天引きすることから、徴収回数は毎月1回で年間12回です。年間の住民税額を12等分するので、普通徴収より1回の徴収が安くなりますが合計額は変わりません。
1回あたりの納税額(特別徴収) = 年間住民税 ÷ 12回
徴収方法の違い
普通徴収は居住する自治体から送られてくる納付通知書を使用して、税額を確認してから納付します。納付は銀行窓口やコンビニ、さらに自治体窓口でも可能です。また自治体によっては「クレジットカード」を使用した支払いや、「インターネットサービス」を利用した納付にも対応しています。
特別徴収は毎月の給与からの天引きなので個人的な納付手続きは必要ありません。特別徴収の場合は各自治体から事業主(会社)へ住民税の「決定通知」が送られ、その金額を毎月の給与から差し引いて会社が代行して納付します。給与明細に住民税が含まれていれば、納付はおこなわれているので安心してください。
普通徴収のメリットとデメリット
普通徴収は自分で住民税を支払わなくてはなりません。普通徴収のメリットとデメリットを見てみましょう。
- クレジットカードで納付ができる
- 期限内であれば好きなタイミングで納付ができる
- 1回の納税金額が大きい
- 自分で管理が必要
- 納税を忘れることがある
- 滞納リスクがある
メリット:クレジットカード払いができる
税金の納付は「銀行振込み」か「現金」と考えてしまいますが、現在ではクレジットカードを使用した納付が可能です。住民税をクレジットカードで支払うことで、決済額に対してクレジットカード会社の「還元ポイント」がもらえるメリットが生まれます。
ただしクレジットカード納付は各自治体で対応に違いがあるので、事前に確認することも大切です。また「Yahoo! 公金払い」などのインターネットサービスを利用したクレジットカード払いは、ポイント獲得以外にも24時間手続きができるなどの利便性があります。利用できる自治体はYahoo! 公金払いのサイトで確認してください。
さらに普通徴収は納付期間内であれば、自分の都合で支払うことが可能です。給与以外にボーナスなどの手当金で支払うことも可能です。
デメリット:1回あたりの金額が高く、管理する必要がある
普通徴収の納付は年に4回なので1回あたりの納付金額が高くなります。特別徴収が年12回なので単純に3倍の金額を1回に納付しなくてはなりません。このことから納税の負担が重く感じてしまい、生活を圧迫する要因にもなります。
また納付も6月、8月、10月、1月と毎月ではなく納付月を管理する必要があります。忘れてしまうと滞納してしまうこともあり、一定期間滞納すると「延滞金」が加算され、さらに督促状が送られてきます。普通徴収はしっかりと管理をおこない納付期限を過ぎないように注意しましょう。
特別徴収のメリットとデメリット
特別徴収の最大のメリットは自分で納付する必要がないことです。すべての手続きを会社が代行してくれるので、自分で管理する必要がありません。
- 会社が代行して支払ってくれる
- 1回の納税額が少ない
- 管理の必要がない
- クレジットカードが利用できない
- 毎月の給与からの納付になる
このように特別徴収は意識せずに納税できることから、自分で管理する手間や滞納リスクもないので納税トラブルが起こりません。ただし原則として給与天引き納付なので、自分で支払い方法を指定することはできません。
住民税の徴収方法を切り替えるには?
原則として事業主(会社)は特別徴収義務者として、従業員の給与から住民税を差引き、代行納付しなくてはなりません。しかし一定の条件を満たす場合は特別徴収から普通徴収へ切り替えが認められています。
普通徴収への切り替えが認められるケース
特別徴収は経理上においても会社に負担を強いることから、従業員が2名以下の会社は特別徴収ではなく普通徴収が利用できます。またこれ以外にも普通徴収への切り替えが認められるケースがあります。
- 従業員が2名以下
- ほかの事業所で特別徴収を受けている
- 給与が少なく税額が引けない(給与支給額が93万円以下)
- 給与の支給が不定期(毎月支給されない)
- 専従者給与が支給されている(個人事業主のみ)
- 退職者および退職予定者
たとえばダブルワークで別の事業所で特別徴収を受けている人は、二重に特別徴収を受けられません。また給与が一定以下で収入の少ない人も同様です。さらに給与が毎月支払われない期間従業員や退職予定者も特別徴収の対象外です。
現在特別徴収をおこなっていてもこの条件に該当する場合は、手続きにより特別徴収から普通徴収への切り替えが可能です。
切り替えの手続き方法
普通徴収への切り替えをおこなうには居住する自治体へ個人住民税の「普通徴収切替理由書」を提出します。普通徴収切替理由書に該当する理由を記載して、事業主で作成する「給与支払報告書」と一緒に提出すれば手続きは完了です。
国の方針で住民税の特別徴収が推進されるように!
総務省(国)の方針により平成29年から住民税の特別徴収が全国で推進されています。これは住民税の未払いを防ぐ目的で、たとえば東京都では原則としてすべての事業者を対象に「特別徴収義務者の指定」をおこなっています。
先ほど紹介した「普通徴収切替基準」に合わない人は、原則的に特別徴収になると覚えておいてください。
住民税の普通徴収と特別徴収のまとめ
住民税の納付には普通徴収と特別徴収がありますが、自治体サイドとしては滞納の恐れが低い特別徴収を推進しています。これにより給与所得者の大部分が特別徴収となり、現実的には普通徴収への切り替えは難しいと考えてください。
ただし勤務日数が減り収入が少なくなったり、給与が不定期になったりしたケースでは、特別徴収から普通徴収への切り替えも可能です。ただし普通徴収に切り替わると納付を自分の管理でおこなう必要があるので、滞納には気をつけましょう。
上場企業のサラリーマンから会社経営を経てファイナンシャルプランナー(FP)に。FPとして個人資産の相談業務をおこなう傍ら、金融系ライターとして銀行コラムや各種金融商品などの記事を多数制作。その他にも年に数回、お金の講演会や各種学校にて高校生、PTAに対して公的奨学金についての講演もおこなっている。また投資家としての面もあり過去にはFXで大損した経験も…その記憶を忘れないように現在では固い投資を心がけている。