なぜ、お金はお金がある場所が好きなのか?~金利を笑う者は、金利に泣く~

なぜ、お金はお金がある場所が好きなのか?~金利を笑う者は、金利に泣く~

こんにちは、マクロエコノミストの崔真淑(さいますみ)です。前回のコラムでは、なぜ私たちはお金に翻弄されるのかについてお話ししました。

そもそもお金ってなんだろう?~お金の正体について真面目に考えてみた!~

 1万円札に描かれている福沢諭吉は、著書『学問のすゝめ』のなかで、「天は人の上に人を造らず、人の下に人を造らず」と、人間は平等であることに触れています。

 でも、これには続きがあります。そうは言っても世の中には富む人もいれば、貧しい人もいます。彼は、その理由をこう説いています。「賢人と愚人との別は学ぶと学ばざるとによりてできるものなり」と。つまり、生まれてきてから富む者と富まない者の差は、学びの有無にあると言っているわけです……。もちろん、何をもって“富む”と考えるかはその人次第です。清貧という言葉もあるぐらいですから、お金を意識しない生き方も一つの考え方でしょう。

 一方で、お金を稼ぐことに成功してきた人は、お金のどんな性質を意識し、そしてお金の何を学ぶことに時間を費やしているのでしょうか? 私は、仕事で大手企業の経営者の方々にインタビューを行う機会が多くあります。彼らの中には、お金の3大要素を常に意識している人が多いということが、非常に印象深いです。

 それは、「金利」「為替」「物価」という、お金の価格を決める3つの要素です。前回、お金はモノの交換を円滑にするために存在することをお話ししました。そして、モノには価格が存在します。例えば、バナナが日本円というお金によって、100円という価格で示されるわけです。日本円、米ドル、ユーロ……あらゆるお金の価格に影響を及ぼすのが、これらの3大要素です。

3大要素のひとつ「金利」とは?

 これらの中で、日常生活において最も重要なのが「金利」です。「金利」とは、そのお金を保有するための「レンタル料」です。

 例えば、どうしても欲しい100万円の車があるとします。しかも、超限定モデル。とにかく今すぐ欲しいわけです。勤勉な人は、手元に100万円がなければ、貯蓄して次のチャンスに備えようとするかもしれません。



 それでも欲しいと思ったら、誰かから100万円を借りてこなくてはいけません。でも、タダでお金を貸してくれる人・企業はそうそうないです。お金が返ってこないリスクがあるからです(タダで貸してくれるならば、それはよっぽど親切な人か、裏があると見た方がいいですね)。

このとき支払うのが、「金利」という「お金のレンタル料」で、経済学では「お金の時間価値」ともいわれます。低金利ならば、借金をしてでも物を買いたい人は少なくないでしょう。

 同様に、ビジネスの現場でも「金利」は重要です。経営者は手元にお金がなかったとしても、新たな投資先の利益率が、お金を借りる際の「金利」よりも高ければ、投資を実行します。個人にとっても企業にとっても、「金利」が上昇することは購入や投資を控えさせる要因になるし、逆ならば積極的になる要素になるでしょう。

 そして、この「金利」はお金の量によって影響を受けます。そうした要素をコントロールするのが、日本銀行なんですね。「金利」が経済活動にとって重要ということは感じていただけたかと思います。

お金は、お金が集まる場所が好き

 お金を借りる側から「金利」を見てきました。次は、貸す側からみてみましょう。
 
 ここで1つ質問です! 原価100万円の車を100万円で販売します。でも、この企業は利益が出ています。なぜでしょうか?

 答えは「ローン」です。つまり、「金利」で稼いでいるのです。お金を貸すところといえば、銀行を思い描くでしょう。この質問は極端な例ではありましたが、子会社に金融機関を持つなどして、意外にも自動車メーカーや百貨店などが「金利」収益を伸ばしているのです。

 例えば、トヨタ自動車。同社は、新興国での自動車販売を進めています。しかし、新興国では所得がまだそこまで高くない人が多いわけです。そこで、リースやローンなど金融事業を展開して、手元にお金がない方々に対しても自動車を購入する機会を作っています。これは、本業の自動車事業の支えになっているんですね。同様の事業は、日本や先進国でも展開しています。

 しかも、補完事業としてのためだけに金融事業を行っているわけではありません。2016年3月期の自動車事業の営業利益率は約9%。一方で、金融事業は約18%(!)と非常に高い利益率なんですね。しかも、トヨタ自動車の資産の約7割は、金融資産という自動車製造に直接的に関係のない資産からできています。企業分析者の間では、トヨタ銀行と揶揄されることもあるぐらいです。

 その他には、百貨店の丸井も、「金利」ビジネスの成功企業としても有名です。2016年3月期の営業利益の約66%(!)は、「金利」ビジネスから生まれています。ローンや、リボ払い等のカード事業が、その根幹です。

 「金利」で稼ぐということは、まさにお金でお金を稼ぐということ。そして、貸すお金となる原資があればあるほど、「金利」によってお金が集まってきやすいのです。しかも、この「金利」ビジネスは一般的には利益率が非常にいい! そりゃ、この事業を始めたい企業が多いわけです。

 でも、同時にこれは一つの現実も示唆しています。お金は、お金があるところに集まりやすい一方で、手元にお金がない人がお金を借りるために、お金のない人からお金のある人にお金が流れやすいということです……。

それ、本当に買いたいモノ?

 お金を借りる場があることは、「どうしても欲しいもの」「今手元にある資金では買えないもの」を買う機会を与えてくれます。なので、「金利」という概念を否定する気はありません。

 でも、「金利」はあくまでコストであり、レンタル料です。そのコストを払ってでも絶対に必要な買い物なのか、さらにはその「金利」を払ってでも始めるべきビジネスなのか……。いろいろな意思決定の場面で「金利」は私たちに影響してきます。

 銀行の普通預金の「金利」は、良くて年間0.05%ほどです。この背景には、経済が低成長を続けていることがあり、お金を増やすのが本当に難しい時代を物語っています。

 一方で、身の回りによくあるカードローンなどは、年間10%を超えるものがほとんどです。この差は、なんと200倍(!)。下がったといわれる住宅ローンだって、安くて年間0.5%ほどです。

 もちろん、これらの金利を単純に比較するのはナンセンスです。でも、お金を増やすのが難しい時代でも、お金を借りるのは容易で、そして貸し出してくれるときの金利は、なかなか下がりにくいもの。そのイメージをつかんでいただけるとうれしいです。私も、いま一度「金利」を侮らずに、仕事を頑張っていきます!

 次回では、お金の3大要素のうち残りの2つ、「為替」と「物価」にフォーカスしていきます!

関連記事: お金の歴史と金利の歴史

マクロエコノミスト。Good News and Companies代表。昭和女子大学現代ビジネス研究所研究員。化粧品会社エイボン・プロダクツ社外取締役。1983年生まれ。神戸大学経済学部、一橋大学大学院(ICS)卒業。大和証券SMBC金融証券研究所(現:大和証券)では株式アナリストとして活動し、最年少女性アナリストとして株式解説者に抜擢される。2012年に独立。経済学を軸にニュース・資本市場解説をメディアや大学等で行う。若年層の経済・金融リテラシー向上をミッションに掲げる。 

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