「食の変態」が語る、節約までして食べたい鮨の魅惑

「食の変態」が語る、節約までして食べたい鮨の魅惑

初めまして。「すしログ」というブログや食べログに、鮨、日本料理、和菓子などのレビューを書いている「辣油は飲み物」です。

全国の美味しい鮨、日本料理、和菓子の名店をキレイな写真で紹介!マニアックさではどこにも負けません(笑)

さて、鮨と言えば、誰もが認める高級料理の一つ。ご褒美やお祝いでスシ! というのが一般的かと思います。しかし、筆者は下手すると1日に2軒の鮨店を訪問するほどの鮨好き。

僕が鮨の魅力に目覚めたのは、20代後半のころ。「好きこそ物の上手なれ」とはよく言ったもので、経営者でもなければお金持ちでもない普通の会社員の僕は、給料をやりくりして鮨店に通い続け、今や鮨職人と調理や仕入れについての話が盛り上がるまでになりました。友人からは「食の変態」と呼ばれています。

かの食の賢人・北大路魯山人は「身銭を切って食事しなければ、真の食通にはなれない」という意の言葉を残しています。これは至言。自らのお金を使わなければ、シビアに食と向き合うことは不可能です。今回は、奥深い鮨の魅力を広く伝えるとともに、普通の会社員が鮨を食べ歩くために心掛けていることをお伝えしたいと思います。

なぜ、食にお金をつぎ込むのか?

いきなり結論となりますが、理由は「食は人を幸せにしてくれる」からです。

衣・食・住。何にお金を使って幸せを享受するかは人それぞれですが、僕の場合は「食」です。食事はいつでもどこでも楽しめて、ストレートに喜びにつながります。食事を共にする人と、瞬時に感動を共有できるところも素晴らしい。

そして、料理の中でも、鮨は一口で複雑な味覚を楽しませてくれる料理だと僕は思います。たった一口で幸せになれるなんて、もはや奇跡ではないでしょうか。

しかし「鮨」を食べる上で必要不可欠なのが「お金」です。もともと食べることが好きで、学生〜20代後半はラーメン、カレー、エスニック料理などを食べ歩いていましたが、これらの料理ならば週に4回食べても3,500円程度で収まります。懐事情もあり、もともと鮨は縁遠い領域でした。

当時の生活費のざっくりとした内訳は以下の通り。「食」より、「住」や「衣」への支出が多かったです。

しかし、27歳のころに契機が訪れます。

きっかけは、僕の誕生日に、友人が鮨店に連れて行ってくれたこと。カウンターだけの、いわゆる「回らない鮨店」です。それまでは「回転寿司でも高めのお店であればアリ」と考えていましたが、連れて行ってもらったお店は別モノで別次元。タネ(=鮨種、魚)のクオリティーが違うのは明白でしたが、何よりも感動を覚えたのはシャリ(すし飯)でした。

口の中でパラッとほどける食感は実にドラマティック。そして、一瞬にしてタネと一体化する。このとき、自分が鮨好きであることを確信しました。

しかし、いかに鮨に一目惚れしたとしても、翌日から食べ歩きを始めるほどの勇気はありませんでした。鮨などの高級料理は、経済力もさることながら、飛び込む勇気も必要だからです。

僕が鮨店に飛び込む勇気を得たのは、食べ歩きの過程で知り合った鮨好きの友人のおかげでした。この友人とは「鮨におけるシャリの重要性」で意気投合し、「シャリベース」での食べ歩きをすべく、月に1度、一緒に鮨店を巡るようになりました

この頃から、食べ歩きの訪問店舗数と食費は飛躍的に上がりました(笑)。鮨の食べ歩きという「趣味」を極めるため、節約手段や食費の捻出方法を編み出したのもこの時期から(詳しくは後述)。そして、自由に食べ歩きたいがために、転職を試み、キャリアアップを果たしました。

そして、30代中ごろとなった、現在の支出内訳がこちら。

まず、大幅にカットしたのが「衣」。若いころに比べ、流行の服やブランドに興味が薄くなったということもありますが、必要最低限の衣服以外の購入を控え、食費に回すようにしました。「住」に関しては、転職に成功して収入が増えることで必然的に比率が下がりました。しかし、収入が増えても高層マンションに住むことはなく、計画的に貯金をするようにしました。

一介の会社員が、「鮨店」に通うお金をどう捻出するのか

では「収入の36%を食費に当てる」ために、どういった工夫をしているのか。それは、至ってシンプルな以下3つの心掛けです。

【1】自炊の励行
【2】
無駄な食費の排除
【3】お店を見極める「眼」の鍛錬

【1】自炊の励行

自炊は一人暮らしを始めた18歳のころからしており、料理好きであれば楽しく節約できる最良の方法だと思います。

自炊を始めるに当たり、参考になったのは「料理人のレシピ本」でした。ユーザー投稿型のレシピサイトや料理研究家のレシピよりも、難易度は高くなりますが、よりお店に近い味を作れるのは間違いありません。しかも、調理技術や本格的な調味料を求められるからこそ、ハマると楽しい。

そして、節約のポイントは「食材選び」。物価を意識して安い食材を入手し「食材からその日のメニューを決める方法」が節約につながると思います。最初はなかなかメニューが浮かびませんが、プロの料理人のレシピを参考にしているうちに、食材の転用やレシピの応用が利くようになります。プロのレシピを参考にコツコツ作り続けて、レパートリーを増やしていけば、どんな食材からも美味しい料理が作れるようになります。

また、僕は営業職なのですが、社内で業務を行う日は予算250円で弁当を作るようにしています。シーズンによっては大半が内勤の月もありますので、外食との差額分で鮨代を貯めることが可能です。

こういった工夫により、僕の自炊代は月々2万円ほどに収まっています。しかし、自炊や弁当を増やして食費を増やしたところで、鮨連発は厳しいだろうと思われることでしょう。実際に、厳しいです

【2】無駄な食費の排除

そこで重要になってくるのが、無駄な食費を排除すること。僕は基本的に付き合いの飲みや突然誘われる食事には行かないようにしています。これによって、かなりの出費を減らせます。

「若い子は飲みに行かない」と嘆かれがちな昨今、これは若くなくてもチャンスと捉えるべき良い傾向です。よって、意を決して誘いを断り続ければ、誘われなくなります。「人付き合いは大丈夫?」と思われるかもしれませんが、仕事で人以上の成果を出し、日常的に円満な人間関係を構築していれば問題ありません。

ただ、自身の外食の為に断っていることは、断固として秘密にしましょう。食に理解ある同僚や職種ならば良いのですが、なぜか食は嫉妬の対象になりやすいのです。特に、外食(特に高級店)は批判されやすいような印象があります。不思議に思いますが、正直に明かすのはやめておいた方がベターかと思います。

ちなみに僕は、友人からの誘いであっても美味しいお店でなければ行かないようにしています。「こいつは人格破綻者か!?」と思われるかもしれませんが、美味しくないお店でお金を使いカロリーを摂取することほど無駄な行為はありません

そんなことをすると友人との関係が崩れるのでは……と懸念されるかもしれませんが、むしろ極端だからこそ良い人間関係を築けるように感じます。熱心な食好きであることを表明していれば、食好きの友人が増えて、自然と美味しいお店に行く機会が増えます。結果的に、没個性的なお店や食べ飲み放題のようなお店への誘いは激減するのです。

社会人にとって、人と会う時間は極めて貴重。自分の趣味に合致する人、勉強になる人と会う時間を増やした方が、後々の人生にも活きると、僕は思います。

【3】お店を見極める「眼」の鍛錬

最後に、究極の節約術は、お店を見極める眼を鍛えることです。「お店(=出費の原因)」を選ぶことが節約につながるとは少々妙に思われるかもしれませんが、「良いお店」が選べるようになることで失敗(=余計な出費)を減らすのは強い節約術です。

では「良いお店」の定義とは何なのか。それは、メディアで紹介されたお店や予約困難店などではなく、(調理技術は大前提として)自分にとって個性があるお店や良心的なお店を指します。僕が探しているのは、「自身に刺激を与えてくれるお店」や「料理人が素敵なお店」。対義的に「悪いお店」とは、調理法や食材の選択に個性がない、高級食材を多用した分のコストをお客に転嫁する、人気とともに値上げする、といったお店だと思います。

僕は「良いお店」を探すとき、レビュー(文章)ではなく、写真で選びます。文章や言葉は嘘をつくが、写真は嘘をつかないと思うからです。

見るポイントは、まず「良い食材や面白い食材を使用しているか」。その次に「調理技術」を見ます。日本料理であれば包丁の切り付けが鋭く切断面が美しいか、ピッツァであればコルニチョーネ(耳)が程良く焦げつつふんわり感とサクサク感を併せ持っているか、焼鳥であれば串打ちがうまく焦げがないか、蕎麦ならばネギが薄く均一に切られているか、などなど。

そして、鮨ならば包丁の切り付けに加えて、シャリの粒を見ます。口に入れた時、パラッと散るような米粒かどうか。そして、基本的な技術の確認が取れたあと、次々と料理写真に目を走らせ、お店の「個性」を検証していきます。簡単に言うと、美味しそうな料理の写真を探すわけです。ラーメンであれば「薬味が綺麗に切られ散らされているか」や「麺が美しく盛り付けられているか」などをチェックする方がいるかと思いますが、それと同じです。ちなみに、SNS映えを意識した画像加工写真はスルー対象です。これは文章ではなく写真が嘘をつく例と言えます。

また、写真を見て美味しいお店かどうかを判断する技術は、先述した節約術である「自炊」で養うことができます。自分で料理をしない場合、相当な軒数を巡らねば体得できないスキルだとも思います。

3つめに関しては僕なりの方法論なので完璧だとは思っていませんが、有限であるお金自体を節約するだけでなく、価値を見極めて良質なモノにコストを投じることも節約術であると考えています。

節約してでも行きたい鮨店ガイド

さて、ここまで長文にお付き合いいただき、ありがとうございました。本項では肩の力を抜き、実際のお店を紹介しながら鮨の魅力をお伝えしたいと思います。東京にあり、比較的リーズナブルなお店を中心に、僕のオススメ店をピックアップしましたので、「節約してでも行きたい!」と思う鮨の魅力を感じていただければ幸甚です。

【今回意識した分類】

・予算:リーズナブル~標準的・用途:一人鮨、友人、デート、あるいは何でもOK 

弁天山美家古寿司@浅草

江戸前鮨の源流である、與兵衛寿司の流れを汲む老舗中の老舗です。「鮨好き」でも訪問していない方が多いのではないでしょうか。全てのタネに「仕事」を施し、軍艦巻は出さないという昔ながらのポリシーを貫きます。ちなみに、軍艦巻は1941年に銀座久兵衛の今井親方が考案したとされてます。

小鰭(こはだ)。昔ながらのしっかりした〆加減

穴子。「爽煮」と呼ばれる仕事を施し、白く仕上げる

玉子。シャリに「鞍掛」にするのも昔のスタイル

・予算:おきまり2,200円~、コース5,500円~・用途:一人鮨、友人

こちらは190年前に編み出された「與兵衛寿司」の姿をうかがい知れる、 鮨の古典とも言える老舗です。 全てのタネに仕事を施し、軍艦は出さない。 頑ななまでの老舗のポリシーです。 北寄貝を甘めに軽く煮たり、中トロを漬けにするなど、なかなか面白いです。 伝統的な仕事を施された握りは、今や珍しい程に実直で、鮮烈な個性があります。 正に温故知新。 「若手の人気店を巡るよりも勉強になる」と言われる所以を、 身をもって実感しました。 鮨屋をある程度巡った後に伺うと、斬新さを感じることが出来ます。 シャリは程よい硬さで、塩と酢は控え目。口の中で優しく、甘くほどけてゆく。お江戸を感じる大ぶりのフォルムながらに、…

久いち@浅草

銀座久兵衛に17年務められた親方のお店。浅草の観音裏にあり、シックな内装と江戸っ子的な接客が心地良いです。価格に対してお得な内容となっており、久兵衛仕込みの仕事とオリジナルの仕事を両方楽しませてくれます。久兵衛出身者は多いですが、その中でも好きなお店です。

小鰭。昔ながらの塩梅を残しつつ、モダンさも併せ持つ〆加減

針魚(さより)。赤酢と米酢をブレンドした甘酢で〆る、抜群の針魚

蛤(はまぐり)。「漬け込み」という仕事を用い、非常にジューシーに仕上げる

穴子。塩と煮ツメの両方をいただけるところがうれしい

・予算:握りのコース5,000円、7,000円、10,000円・用途:何でもOK

こちらは何かと使い勝手の良い、浅草の優良店です。 親方は久兵衛で長らく握られていたので、江戸前の素地が正に「徹底」されており、 同時に個性的な仕事も開発されているところが魅力です。 更に下町的なホスピタリティも抜群なので、 友人、恋人、家族の誰と伺っても満足度が高いお店だと思います。 今回は2017年の鮨納めで訪問しました。 頂いたコースはいつも通り【大島】6,000円。 年末でちょいとバタバタされていたので、 定番の先付をつまみ、日高見1合を飲みながら待ちます。 実に心地良い時間です。 鮃 塩を振って旨味を凝縮している。 こちらのシャリの美味しさを再認識。 金目鯛 昆布〆。これはストレートに…

㐂寿司(喜寿司)@人形町

1923年創業で、弁天山美家古寿司と同じく與兵衛寿司の流れを汲む「三大始祖」の一つ。油井親方の粋な佇まいと、古色蒼然たる建物の雰囲気は唯一無二の魅力です。もちろん握りも美味しく、旬の真梶木(マカジキ)のハラモ*1は格別。ランチは非常にリーズナブルにいただけます。

小鰭。ナカズミサイズ*2の大きなものでも端正に握り上げる

真梶木。この存在感!

玉子。こちらもまた「鞍掛」だが、弁天山と全く異なるフォルム

・予算:握りコース3,000円、おまかせ握り10,000円・用途:一人鮨、友人

こちらは1923年創業の江戸前鮨の老舗。 握り鮨を考案した華屋與兵衛の流れを汲む、「三大始祖」の一つです。 また、それと同時に、僕にとっては、 行きつけの幸鮓のご主人が修行されたお店でもあります。 お店は外観、内装ともに素晴らしい。 木造の一軒家には時の風情が積り、 ガラスの引き戸はノスタルジックな期待を高めます。 椅子に掛けられた白布のカヴァーも、これぞ鮨屋と言った感。 昨今の鮨屋には失われつつある魅力が、鮨の欲求を入店直ぐに高めてくれます。 こちらは雰囲気のみならず、接客にも目を瞠るものがあります。 老舗ながら一見客であっても区別はしない。 適度な距離感。 油井隆一氏は長年付け場に立ち客あ…

幸鮓@蔵前

僕が鮨の食べ歩きをし始めたころから通っているお店です。もともと蔵前は問屋街でしたが、今や外国人旅行者が増えてお洒落な街に変貌。こちらは寿司で修行された篠原親方のお店で、小鰭が大変美味しいです。小鰭は「鮨は小鰭にとどめを刺す」と言われるほど重要な魚。江戸前鮨の真骨頂は小鰭の仕事にあると思います。

小鰭。食感と旨味の封印が絶妙な〆加減!

蛤。こちらは煮蛤も格別です

真梶木。こちらの真梶木も美味しい

玉子。「鞍掛」の変形型

・予算:おまかせ9,000円~・用途:何でもOK

こちらは当ブログの第1回で取り上げた通り、僕にとって非常に馴染み深いお店です。 極めて良心的な価格で、本物の江戸前の仕事を楽しませて頂けるところは、 何回伺っても魅力が色褪せません。 むしろ、何回か伺って更なる魅力を知るようになる、鮨店の悦びがある鮨店です。 一流のタネや飲み鮨を求める方には不向きですが、 魚を旨くする仕事=「鮨」を体感出来るお店なので、 若い人、鮨に興味がある人にはいつもオススメしております。 今回の訪問は8月末。 アップまで期間が空いてしまい、申し訳ありません…。 こちらではいつも酒肴を三品だけ頂き、すぐに握りを頂いております。 蛸 酢を利かせ、柚子胡椒を軽く用いており、 …

小笹寿し@下北沢

都内に何軒かある小笹寿し。下北沢の小笹寿しでは、かつて「名人」と謳われた岡田親方の跡を西川親方が継ぎ、鮨好きに愛されています。予約は受け付けておらず、全て当日訪問のみという硬派なシステム。しかも「おまかせ」はなく、「お好み」のみ。

昨今「予約〇ヶ月待ち」という予約困難店ばかりが脚光を浴びておりますが、鮨とは本来そういうものではない。食べたいときに美味しい握りをいただけるのは、幸せなことです。

鯛。生の鯛も「寝かせ」ることで抜群に旨くする

鯖(さば)。しっかりした〆に、ネギとショウガを叩いた付け合せの調味料。この付け合せは、岡田周三氏が考案したとされる

鮑(あわび)、烏賊(いか)、蛤の煮もの三兄弟。やはり古い仕事を継承するお店は煮ものが美味い

潮汁。こちらの潮汁は非常に美味しい

・予算:コースはなく、お好みのみ・用途:一人鮨

昨年11月下旬に訪問した粋な鮨店。 予約不可、お好みのみと言う鮨好きとしてはグッと来るスタイルのお店で、 記憶に残る味わいでしたので、この度、季節を変えて再訪しました。 気合を入れて平日の16時半に伺いましたが、既に先客2名。 その後も続々と訪問され、開店17時の段階でカウンターは満席。 しかも、他は全員常連さん。 前回は17時でもカウンターに空きがありましたが、日によって違う模様。 なので、訪問される場合は、16時半頃に伺うか、 18時半〜19時頃に下北沢駅から電話確認するのが確度が高いかと思います。 たくさんある種札を眺め、迷いながら13貫を頂きました。 なお、この度はほぼ全て1枚撮りなの…

しみづ@新橋

こちらも1週間前くらいの予約しか受けていない、きょうび珍しいお店。神保町の老舗・鶴八の系譜で、親方の赤酢のシャリに影響された職人は多い。今は赤酢のシャリが流行っておりますが、今なお強い個性を感じさせてくれるシャリだと思います。

小鰭。バッチリ〆て強いシャリと協奏させる

鯖。こちらの〆鯖は絶品!

蛤。濃厚な味わい、旨味の煮ツメが堪らない

玉子。「鞍掛」にして、端正な飾り包丁!

・予算:コースはなく、お好みのみ・用途:一人鮨、友人

1年少々開けての再訪です。 この度は昔からの常連さんと共にお伺いして、 親方のお任せで頂きました。 前回はこちらの赤酢のシャリについて、 「酢の尖った酸味や香りは無い」と感じましたが、 今回は酢が結構しっかりめで、粒も硬めに仕上げておられました。 これぞしみづさんのシャリなのかと。 そして、シャリとタネの一体感に改めて目を瞠るとともに、 仕入の素晴らしさ、仕事のオリジナリティに感銘を覚えた次第です。 親方の仕事は、正統派の江戸前でありながら個性を志向し、 その方向性は江戸前を「前に進める」と言うよりも「深く掘り下げる」ようであると感じました。 江戸前を進化させているのは間違いないのだけど、「深…

鮨處やまだ@銀座

ザ・江戸前というべきお店を中心に紹介してきましたが、こちらは進化系の仕事を楽しめるお店です。東京では珍しいタネであっても、目利きと仕事で江戸前に落とし込む手腕は見事。また、山田親方は無類の小鰭好きなので、小鰭も美味しい。1日に数種類の小鰭を用意していることもザラ。コストパフォーマンス抜群です。

小鰭。甲冑のような雄々しいフォルム!

小鰭。同じく甲冑(かっちゅう)のようだが包丁の入れ方が異なり、違った魅力がある

小鰭。オーソドックスな切り付けの小鰭を提供されることも

小鰭(新子)。新子は4~6枚以上でつけることが多いが、あれは単なる縁起物で、美味しいのは2枚サイズ

……小鰭以外は訪問してのお楽しみということで(笑)

・予算:握り15貫10,000円・用途:一人鮨、友人

今回は少し時間が空いてしまいましたが、晩秋に訪問しました。 感想としては、シャリもタネもバシッと決まっており、 改めて魅力を体感した次第です。 こちらのシャリはかなり硬めに炊いており、 しかも温度帯をタネに調整して出されるため、 訪問のタイミングによっては誤差があるのが正直なところ。 マニア的な差なので(笑)、一般的には美味しいものですが、 バシッと決まった時の美味しさは格別です。 そして、脂が乗った濃厚な味わいのタネとの相性が特に良いと感じました。 また、もう一つ再認識した点。 こちらは15貫10,000円のコースが基本ですが、 20貫にアップグレードした時の満足度が半端無いです。 変態的な…

すし佐竹@銀座

もう一軒、変わり種のお店を。こちらはシャリに対する既成概念を砕き、何と「熱いシャリ」を使います。初めての訪問は恐る恐るでしたが、脂の強いタネで威力を発揮。高温をうまくコントロールしており、シャリを用いて自身の仕事を構築しています。ランチは圧倒的にお得です。

鮪(まぐろ)赤身。一発目、熱々のシャリに鮪! 印象に強く残る一貫

鮪血合いギシの赤身。別の日(夜)に伺った際の赤身。同じ赤身といっても味わいは全く異なる

鰯(いわし)。鰯の脂を熱いシャリが溶かして美味い

鯖。鰯だけでなく鯖の〆加減も絶妙

・予算:ランチ握り4,800円、夜おまかせ握り12,000円~・用途:一人鮨、友人、デート

こちらは2016年8月にオープンした新進気鋭の鮨店です。 場所は銀座の中心から離れた築地市場駅の近く。 こちらに出店された理由を伺ったところ、 鮨を心から味わってくれるお客さんに来てもらいたいから、との事。 立地的にグループでの接待や同伴の影響を蒙りにくいので、 生粋の鮨好き、食好きには嬉しい限りですね。 頂いた感想としては、既に確固たる個性を確立されており驚嘆。 親方は硬派な仕事と王道のタネを用いて 江戸前鮨の新境地を切り拓く職人さんだと感じました。 まず、生命線のシャリがとっても美味しい。 赤酢主体のシャリで酸味を強めに利かせつつ、 塩気は赤酢のシャリとしては比較的穏やかで、ごく硬めの炊き…

鮨いち伍@千歳烏山

都心から少し離れて一軒。こちらは住宅街の千歳烏山にありますが、都心の人気店に負けない握りを出しておられます。非常に端正な握りは、全ての人を笑顔にするはず。上品な雰囲気の内装、温かみのある接客は大切な人との食事にも使えます。

鮪大トロ。リーズナブルなのに大間産の大トロとは驚いた

小鰭。新子の二枚づけ

牡蠣。「漬け込み」により、しっとり美味

鯵(あじ)。良い包丁の入れ方です

・予算:おまかせ10,000円強・用途:何でもOK

2015年の8月に初めてお伺いしたこちら。 もっと早めに再訪したいと思っていたのですが、 何だかんだで1年以上が過ぎてしまいました。 今回の訪問は晩秋…もしくは初冬。 初雪が降り、異常に冷え込む晩に訪問しました。 結論から申し上げますと、 やはりこちらのお店は都内屈指のコストパフォーマンスです。 確かな江戸前仕事を満喫出来て、お腹一杯頂けのに、リーズナブル。 鮨種は何でもかんでも超一流である必要はありません。 これぞ鮨の醍醐味!と感じさせてくれる、非常に貴重なお店だと再認識しました。 鮨店に「仕事」と「握り」を求める方には、申し分無くオススメします。 こちらのシャリを改めて頂いたところ、赤酢の…

鮨店のマナーと楽しみ方

と、オススメの9店を紹介しましたが、上記以外にも魅力的なお店は何軒もあります。今回紹介したお店をきっかけに、他のお店も巡る鮨好きが一人でも増えるならば、今回の記事を書いたかいがあります!

しかし、友人からもよく聞かれるのが、鮨店のルール。僕も、初めての訪問は勇気がいりました。しかし、食べ歩く中でちょっとしたマナーさえ押さえれば、むしろ緊張感が程良いアクセントとなるのが鮨店だということに気付きました。臆する必要などないのです。

ただ、ここでマナーを細かく述べると、更に文章が長くなってしまうので、以下のコラムをご参照ください。

ずいぶん仰々しいタイトルを付けましたが、ライトに書きます(笑) このような文章を書こうと思った理由は、 最近、友達からとても頻繁に、 「鮨屋って敷居が高くない?」とか、 「鮨屋でどう振る舞えばいいの?」と尋ねられたり、 果ては「鮨屋は怖そう(笑)」と言われることが多いためです。 鮨を愛する者として、みんながもっと気軽に鮨店に行けたら良いなという願いを込めて書くことにしました。 率直に言うと、確かに鮨店は他の料理店に比べると、緊張感を覚えるジャンルかと思います。 お店にキリッと引き締まった雰囲気が漂っていることが一般的で、 カウンター越しに凛とした職人さんと向き合う必要がある…。 しかし、僕はそ…

簡単なマナーを押さえところで、最後に鮨を食べる際に意識すると楽しいポイントを紹介します。

一つは度々登場している「シャリ(=すし飯)」で、もう一つは「仕事(=調理)」です。シャリと言っても、鮨好きでなければ「単なる酢飯でしょ?」とか「そんなに変わるの?」などと思われるかもしれません。

しかし、「美味しい鮨」や「本格的な江戸前鮨」であるか否かの判断基準は、紛れもなく「シャリ」と「仕事」によって規定されます。

個人的に「美味しい鮨」や「本格的な江戸前鮨」というものは、お店の格式や職人さんの修行先よりも、「シャリ」と「仕事」によって定義されると考えます。後者の「仕事(=調理)」が重要であることは疑いの余地がないでしょう。しかし、シャリで変わるとは、どういうことか。

僕個人の判断ポイントとしては、「温度」と「ほどけ加減」に尽きると思います。理想は人肌に近い温度で、パラッとほどけるシャリ。味覚レベルでは、「塩味」「酸味」「甘味」がシャリの構成要素となりますが、よりプリミティブな感覚が「温度」と「ほどけ加減」なのです。

鮨に魅了されたらなかなか抜け出せない

さて、かなりの長文となってしまいましたが、最後まで読んでいただきまして、ありがとうございます。もしも鮨の魅力の一端を感じていただけたならば心から嬉しく感じます。

鮨は、やりくり次第、お店選び次第で実は庶民でも楽しめる料理です。「非日常の料理」というイメージを捨てて、ひとたび訪問すれば、鮨を食す快感に目覚められるのではないかと思います。

僕は、美味しい食との出会いがあれば、人は大変なことも乗り切れるはずだと信じております。仕事と趣味は両輪。どちらが欠けても良い結果は残せないと思いますので、是非とも趣味の一つに食べ歩き、鮨の食べ比べを組み込んでみてください! この文章がきっかけとなり、一人でも多くの鮨ファンが生まれることを願いつつ、筆を置かせていただきます。

20代後半に鮨の魅力に魅入られて食べ歩きを開始。鮨専門のブログやwebサイトが無いことに気付き、2015年2月に「すしログ」を開設。全国を飛び回り、鮨、日本料理、和菓子などを食べ歩いている食の旅人。経費や「ゴチ」の世話にはならず、身銭を切って消費者目線でリアルな意見を伝えている。勿論、飲食店から便宜供与を図るなどは言語道断。有名店だけでなく知られざる名店を開拓するのが大好き。「辣油は飲み物」というハンドルネームで食べログにも投稿中。(こちらはオールジャンル)

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*1:マグロでいうと「トロ」にあたる部位
*2:コハダは出世魚のため、成長により名称が異なる

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