ブログ「超音速備忘録」からぱたが語る、人生で衝撃を受けた“超絶高品質”プラモデルの世界
皆さんは最近プラモを買いましたか?
どうも。からぱたです。むやみやたらと巨大な写真を貼り付けまくる「超音速備忘録」というブログを書いています。ここ数年はプラスチックモデル(プラモ)ばかり取り上げているためにネットで「プラモ界のフォトヨドバシ」などと呼ばれており、大変光栄に思っております。
「プラモのブログ」というと、完成形のレビューや塗装のコツといったhow toのようなスタイルを想像されがちですが、ワタクシはまだ組み立てられていないプラモを眺めたり語ったりするのが好きです。
で、こういう人に「プラモにまつわるお金の話をしてくれ」と言われましても、ワタクシの場合は模型屋さんに入店して気が付いたらプラモを両手に抱えて帰宅していることが多いため、もはや金銭感覚が破壊されているわけであります。大丈夫なのでしょうか。
......ということで、今回は自分の金銭感覚をあえて客観的に分析しつつ、「プラモ(模型)の価格」について一席ぶってみようと思います。
プラモは本当に「安い趣味」なのだろうか
皆さんがプラモと聞いてパッと思い浮かべるのは、ガンプラではないでしょうか。1980年に誕生してから4億個以上も販売しているのだから、大したもんです。 1980年に発売された1/144スケール「RX-78 ガンダム」の当時の価格は300円。消費税が導入されてからも価格は変わっていませんし、パッケージもほとんど当時のままで販売されています。
用語解説【1】ガンプラ……「ガンダムシリーズ」のプラモデルのこと用語解説【2】RX-78ガンダム/ガンキャノン……『機動戦士ガンダム』シリーズに登場するモビルスーツ
値段も姿、形も40年近くほとんど変わっていない……という製品、他にはちょっと思い浮かびませんよね。実はプラモ界隈だと、こうした傾向はガンプラに限ったことではありません。中には再販のたびにジワジワと価格を上げるメーカーもありますが、プラモとは、海外製品も含めて「50~60年前の製品が今でも割と安価に買える」という不思議なプロダクトなのであります。
当然、今の時代に新製品を出すとなると、昔(プラモデルが人気で、みんながこぞって買っていた時代)よりも金型代や人件費といった初期投資額は高くなります。かと言って、それらを踏まえてドーンと価格設定をすれば、300円のような「ガンプラ感覚」とはかけ離れた値段になってしまいます。なので、長らく商売をしているプラモメーカーは、人気のあるキャラクターや何度も再販できるアイテムを慎重に選び、サイズを小さくしてなるべく安く売れるように尽力しているというのが現状だと思われます。
ワタクシはこの状態を「プラモの価格硬直性」と勝手に名付けています。そして「あくまで遊びであるプラモに支払う金額というのは、これくらいであるべし」というメーカーとユーザーの暗黙の了解みたいなものが、これを後押ししているのではないかと睨んでいるのです。
中には「大きい」「精巧」といった部分に注目した1万円超えの高額商品を販売し、世に価値を問うプラモメーカーもあります。しかし、それはあくまでも「その価値が分かる人」へのプレゼンテーションです。世の中のプラモ全体の価格を大きく押し上げるというよりは、一生に一度のビッグプレゼントとして消費されるものだと考えられます。
さらに、プラモをより美しく仕上げるためには道具が必要です。ワタクシ自身も、色を塗ったりパーツ同士の合わせ目を消したりするために、特殊なツールやマテリアルを使いたいという欲求が常にあります。
こうしたモデラーのニーズに応えるためか、最近ではツールやマテリアルを専門に開発・販売するメーカーがどんどん勃興しています。 一方で「100円均一ショップで買えるものを使ってどこまで面白いことができるか」という、DIY精神のあふれる戦い方をするモデラーもたくさんいます。
プラモというのは「安上がりで奥深い趣味」というイメージがあまりにも強いため、「高価なアイテムに投資して、楽してすごいものができちゃう」という姿勢はあまり支持されていないのが現状です。しかし、逆に言えば「自分が努力して他人と違うものが作れる(かもしれない)」というのがプラモの面白いところでもあります。
これだけ完成品の玩具市場が盛り上がっていてもプラモが絶滅しないのは、「俺の方がうまく仕上げられる(かもしれない)」と熱中する人が一定数存在するからに他なりません。世の中のモデラーが深層心理で感じているプラモの面白さは「安価なものがすごい作品に化ける」という可能性(もしくはストーリー)にこそあると思うのです。
モデラーというのは、かくも業の深い生命体。「いつかすごいもんを作ってやるんだ!」という気持ちで次から次へとプラモを買い、どんどんとプラモの箱が積み上がっていくことに後ろめたさを感じつつも、やめられない止まらない……そんな悲しい生き物なのであります。
愛とこだわりが詰まった「Wingnut Wings」のプラモ
マニアックな模型を続々と製品化
「プラモが安いのではない、安いのがプラモなのだ」という考えに到達したワタクシも、かつては財布の中身を気にしながらチマチマとプラモを買い求めていました。ですが、こうした固定観念の外側から鈍器で殴られるような衝撃を、人生で二度感じたことがあるのです。高価格かつ高品質なプラモを販売するメーカーとの出会いです。
一つは、ニュージーランドのプラモメーカー「Wingnut Wings(ウイングナット ウイングス)」。2009年に設立されたこのメーカーは、第一次世界大戦におけるイギリスやドイツの飛行機といったマニアックなプラモをずらりと引っ提げて登場し、世界中のモデラーを震撼させました。
零戦やトムキャットといった飛行機模型の花形に対し、第一次世界大戦期の複葉機(主翼が二枚重ねになった飛行機)は、見た目があまり強そうではないためか、大手プラモメーカーでもなかなか手掛けることはありません。
そんな中、Wingnut Wingsは、1/32スケール(飛行機模型としては極めて大きな完成品)の複葉機モデルを、80〜130ドルを中心とした強気の価格設定で続々と製品化したのです。しかも立ち上げ当初から異常なクオリティーを実現しており、「一体このメーカーはなんなんだ!?」と心の底からうろたえたことを覚えています。
用語解説【4】ランナー……プラモのパーツが付いてる枠のこと
用語解説【5】零戦……正式名称は「零式艦上戦闘機」。第二次世界大戦期に日本海軍によって運用されていた
用語解説【6】トムキャット……アメリカで運用されていた艦上戦闘機。「F-14」ともいう
映画監督がプラモメーカーを作るという異常事態
Wingnut Wingsは高価格で高品質、かつマニアックなプラモを、これまでに60アイテム以上も製造しています。その理由を述べるには、この会社のオーナーについて語る必要があるでしょう。
熱心なモデラーならばご存知かもしれませんが、Wingnut Wingsという世にも酔狂なプラモメーカーを設立したのは、映画『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズなどを監督したピーター・ジャクソンです。ピーターは生粋のプラモファンであると同時に、実在するヴィンテージな兵器のマニア。映画監督をしながら、古い航空機や戦車の復元、レプリカ製作にも精力的に取り組んでおり、究極のモデラーとも言える存在です。
Wingnut Wingsのプラモは、これまでに集めた実機やパーツ、数々の図面や資料をもとに「俺が欲しいプラモを作る」というピーターの野望やこだわりがそのまま形になっているのです。
類が友を呼ぶというもので、Wingnut Wingsの設計やイラストレーターも、同好の士で固められたオールスター軍団です。ランナーに整然と並んだパーツの美しさはもちろん、パッケージの質感や箱を開けたときのミッチリ感、説明書の懇切丁寧さに至るまで、すべてに神経が行き届いています。恐ろしさを感じるほどのクオリティーは、まさに映画監督ならではの仕事ぶりといった風情。第一次大戦期の戦闘機に興味がない人でも、一発でとりこにするほどの魅力にあふれています。
第一次大戦期の戦闘機はほとんどが布や木で作られており、現代のツルッとしたフォルムとはかけ離れた複雑な構造をしています。しかし、ピーターは悲劇的でありながら希望に満ちていた航空史の黎明期をあらゆる人々に伝えたいと願うからこそ「宝物のような箱に入った、誰が手に取っても組み立てられそうだと思えるプラモ」に仕立てたのです。
つまるところ、これはプラモデルという形態をとった「ピーター・ジャクソンの作品」でもあるわけで、その時点でめちゃくちゃ素晴らしい価値があると言っていいでしょう。
ワタクシもこのメーカーのアイテムはいくつか完成させましたが、燃料を入れたらそのまま飛ぶんじゃないのかというくらい精巧なプラモデルが、説明書通りにスルスルと組み上がっていくさまには心の底から感動しました。
木目、布、金属が素材のまま露出し、複雑に組み上げられた戦闘機のプラモデルを目の前にすると、今からプラモデルテクニックの総仕上げテストに挑むような気持ちにもなります。ですが「誰にでも完成させられるプラモデルであってほしい」(それは説明書やパーツ分割にも現れています)というピーターの願いを純度100%のまま受け取るという体験は、他のどのキットでも感じることのできない感動的なものであります。
細かいパーツ分割に仰天する「Games Workshop」
日本市場の5~10倍に相当する高価格&高品質プラモ
もう一つの衝撃は、イギリスのプラモメーカー「Games Workshop(ゲームズワークショップ)」と、その会社が展開する「Warhammer 40,000(ウォーハンマー 40,000)」や「Warhammer Age of Sigmar(ウォーハンマー エイジ・オブ・シグマー)」というゲームとの出会いです。
用語解説【7】Warhammer 40,000……41千年紀という遠未来を舞台にしたSFモチーフのミニチュアゲーム。さまざまな惑星上で行われる戦闘を題材にしており、プレイヤーはミニチュアで軍隊を編成して対戦に挑む用語解説【8】Warhammer Age of Sigmar…… 魔法に満ちあふれた奇怪なファンタジー世界が舞台となったミニチュアゲーム。強力な戦士やモンスターなどで構成された軍勢を指揮して進めていく
Games Workshopは、ルールに従って模型を動かして勝敗を決める遊び……いわゆる「ミニチュアゲーム」の老舗として知られています。昔は金属やレジン(無発泡ウレタン)でできた模型を販売していましたが、今ではほとんどの製品がプラモの形態をとっています。
......などと知ったようなことを書きましたが、ワタクシがGames Workshopを知ったのは今から1年ほど前のことです。ミニチュアゲームが何かも知らず、たまたま「プラモっぽいものを売っているお店」に入ってパッケージの中身を見せてもらい、びっくり仰天。半分腐ったドラゴンやブヨブヨのモンスター、びっしりと紋様の入ったアーマーを着込んだマッスル兄貴などが、とんでもないパーツ分割で整然とランナーに並んでいたのです......。
これはどう考えてもやばい。プラモデルは硬くて強そうなメカを立体化するメディアだと思いこんでいたワタクシは、目からウロコが1億枚くらい剥がれるのを感じました。
用語解説【9】モータリオン……Warhammer 40,000の世界において、元・人類の守護者でありながら腐敗と疫病の邪神に魂を捧げた総魔将。2017年に発売されたミニチュアの中でもかなり大型のアイテムで、メカメカしさと有機的な造形の融合はどんなモデラーにも刺さること必至の内容となっている
そして値段を尋ねて二度びっくり。日本におけるプラモ市場の5~10倍に相当する価格が付けられているのだから、アゴも外れるというもの。試しに一つ買ってみれば、パーツの色合いも造形も見たことのない高クオリティーで「今までプラモだと思っていたものは何だったんだ......」と打ちひしがれるほどの内容だったのでした。
高い! 高いけど、これと同じものは他で手に入れることができない! この身悶えするようなジレンマと、実際に財布の中身を支払ったときの高揚感たるや、ほとんど麻薬的な何かだと言えましょう。
この辺の顛末についてはブログ「超音速備忘録」につづっていますので、未読の方はぜひご覧ください。
キミは腐ったドラゴンのプラモデルを組んだことがあるか(前編) : 超音速備忘録
キミは腐ったドラゴンのプラモデルを組んだことがあるか(後編) : 超音速備忘録
メーカーとユーザーにとっての「幸せな世界」を構築
1975年に小さな小売店として創業したGames Workshopの2017年度における売上額は、日本円にしておよそ240億円でした。
プラモメーカーとしては巨大と言っていい額ですが、これらの金額は単にプラモ(ミニチュア)だけでなく、ルールブックや塗料、工具などを含めたもの。Games Workshopのすごいところは、プラモを買い求めるきっかけとなる世界観から、それを作り上げるツールやマテリアル、そして完成したプラモで遊ぶフィールドまでをすべて提供していることです。加えて、これらを購入できる店舗を全世界で展開しています。
一度Games Workshopのプラモを組むと一発で体感できると思いますが、ディテールは目がさめるほど細かく、常人には塗り分けることができないように思われます。
しかし、彼らはこれを塗るための専用水性塗料「シタデルカラー」を製品化しています。筆でサラッと塗るだけで一気に発色し、一度乾けば二度と剥がれず、上から塗り重ねても溶け出すことがないという恐ろしい性能を持っており、ビギナーでも扱いやすいことこの上なし。
さらに「シタデルペイントシステム」という簡単かつ便利な塗装法を一発で習得できるスマホアプリもリリースされており、見よう見まねで塗装するだけで立体感のあるシャッキリとした仕上がりになるという魔法のような仕組みまで用意されています。
こうした製品ラインアップや遊び方の提案を1社でまるまるパッケージングしているプラモメーカーは、世界広しと言えどもそう多くはありません。日本でプラモ、工具、塗料をすべて自社展開しているのはタミヤだけです。
「プラモを使ってゲームをする」というシステムを構築し、プラモを組み立てたり塗ったりするのに最適化されたツールやマテリアルも用意する、というのは一朝一夕にできることではありませんし、他のメーカーのアイテムと簡単に比べることのできない価値です。
あるメーカーが構築した世界観や方法論にどっぷりと浸かり、その気持ちよさとお付き合いするのもまた、一つの趣味のあり方として深く納得できるものです。
実際にワタクシ、今はGames Workshop製の塗料や工具をひたすらそろえまくっております。マッチョな炎の化身や疫病にかかったおどろおどろしいヒーローなどなど……「プラモなのに有機的で塗るのがめちゃくちゃ楽しい」という同社製ミニチュアの世界にどっぷりとハマってしまいました。
ゲームを楽しむところまではまだ到達していませんが、ランナーをしげしげと眺めながらビールを呑むだけで永久にニヤニヤしていられるほどの彫刻というのは唯一無二。皆さんもだまされたと思って、Games Workshopのプラモを一つでいいから手に取ってみてください。そこには「こんなもの、どうやったら設計できるの!?」と驚き呆れる(そして組み立てたくて、塗りたくて、いてもたってもいられなくなる)造形がびっしりと並んでいます。一度見たら、絶対に忘れられません。
お金を払うって、楽しい
これら二つのメーカーのプラモは、おそらくプラモをたしなまない人からすれば、どちらも大変に高価だという印象を受けるはずです。しかし、プラモの値段の相場というのは何で判断するものなのでしょうか。パーツの数でしょうか。それともパッケージの大きさでしょうか。
最初に書いた通り「自分の努力で価格以上の価値を持つ作品を仕上げる」というのがプラモの醍醐味(だいごみ)ではあるのですが、それと同じくらい「自分の信じるプラモにドカンとお金を払ってみる」ということにも面白みがあると思っています。
少なくとも、上記のメーカーにお金を払うのは、本当に楽しい。納得ずくで覚悟して払うお金は尊いもんです。
ワタクシはいつも、「趣味とは覚悟の物語である」と思っています。いつでも逃げ出せるように、少しの投資でちょっとだけやってみよう......という態度が必ずしも趣味ライフの標準的な入り口でないことは、この記事を寄せている「趣味とお金」シリーズのバックナンバーを読んでも一目瞭然。
「ちょっと背伸びをしたけどいいものを手に入れた!」という充足感と「手に入れたからには有効に使わねば!」という渇望感がスパイラルとなったとき、趣味は心と体を満たしてくれます。だからこそ、本当に趣味にハマる人は「押すなよ!押すなよ!」と言いながら、一瞬にして沼へとダイブするもんなのです。
個人的には、飛行機のように人気のあるモチーフだけじゃなくて、かつて扇風機やカラオケマシンなどもプラモになっていたように、この世のあらゆるものがプラモのパーツになった状態を見たいんです。
模型屋さんの棚からにじみ出てくる「プラモは全部安いもの」「簡単なものから少しずつ難しいものにステップアップするもの」というなんとなくの共通認識をぶっ飛ばして、日本のメーカーとユーザーが共に成長できると、新しい景色が見えてくるんじゃないかなぁ、と思うのは余計なお世話でしょうか。
具体的にどうすればいいかは、ワタクシの中にまだ答えとして存在していません。なので、自分が今できることとして、世界中のいろいろなプラモの写真をブログに載せては、沼の入り口をせっせと広げているわけです。
もしよければ、このテキストを読んでいるモデラーのあなたも、「このプラモ、こんなに面白いんですよ!」というのを非モデラーの人にバンバン発信してください。趣味とは覚悟の物語であるからこそ、新しくダイブする人たちに一番効くのは「かっこよく楽しんでいる先輩の姿」だと、心の底から思うのです。
皆さんは、プラモをかっこよく楽しめていますか?
1982年東京生まれ、中学時代にプラモデルの世界と出会い、高校大学時代に没頭していたプラモデル専門誌の編集部に就職。現在はブログ「超音速備忘録」(http://wivern.exblog.jp)にてさまざまな視点からプラモデルのレビューを執筆し、各種メディアへの寄稿や作例製作なども行なっている。好きな食べ物はシメサバ。
*1:1970年代以降に見られるようになった、現代美術における表現手法の一つ