ほぼ毎月「キーボード」を買っているプログラマーが、最高の作業環境を追い求めた結果

ほぼ毎月「キーボード」を買っているプログラマーが、最高の作業環境を追い求めた結果

はじめまして、プログラマーのhaljikです。

突然ですが、私の奥さんのツイートをご覧ください。

お分かりでしょうか。

皆さんはPC用の「キーボード」を何台持っていますか? 私の家には今、10台以上あります。
なぜ妻にこのようなツイートをされるまで、キーボードやそれに関連するグッズを買い求めるようになったのか。 この記事では、これまで私が使ってきたキーボードについて、そのときの心境を交えつつ振り返ってみようと思います。

キーボードは「キースイッチ」によって違いがある

まず「キーボードごとの違いって何?」という方のために、キーボード選びにおいて大切な「キースイッチ」の種類について、私が実際に触れてみた打鍵感とともに紹介します。

メンブレン
一番ポピュラーな方式のスイッチ。「ペタペタ」とした打鍵感。

メカニカル
機械式のスイッチ。種類はいろいろあるが「カシャコン」とした打鍵感が特徴で、ゲーム用のキーボードに多い。確実な操作性が売り。

光学
無接点。最近、ゲーム系のキーボードで採用され始めた。まだ打ったことがないので打ってみたい。

静電容量方式
現時点で最高のスイッチ。無接点。打鍵感は作りによって自由に制御できるが、だいたい「スコスコ」という感じがほとんど。この方式を採用したキーボードは、東プレの「REALFORCE」シリーズ、PFUの「Happy Hacking Keyboard」、NiZの「Niz PLUM」シリーズのみ。

大きく上記の4種類に分けられます。私が気に入っている静電容量方式のキースイッチはセブン銀行のATMにも採用されているので、セブン-イレブンでお金を下ろすときに皆さんもぜひ打鍵感を意識してみてください。

また、キースイッチが違えば、その打ち心地もさまざまです。

Nキーロールオーバー
同時に押して認識されるキーの数は、安いキーボードだと最大3つぐらいです。それだと、シビアな操作を行う必要のある場合や打鍵速度が速い場合、打った文字が入力されないという“キーの取りこぼし”が起こり「あれ、打ったのにな?」といらいらしてしまいます。これを解決するのが、Nキーロールオーバーです。対応しているキーボードなら、全キー同時押しでも認識します。

チャタリング
一度しか打っていないのに複数入力されたり、入力が無視されたりする現象をチャタリングといいます。メンブレンやメカニカルスイッチなど物理的な接点をもつキースイッチで、経年劣化などが原因で起こることが多いです。静電容量方式や、光学式では原理的に起こらない現象です。

タッチタイピングの速度が早くなってくると、Nキーロールオーバーに対応してなかったり、チャタリングが起こってしまうキーボードではストレスがたまります。

Nキーロールオーバーに対応していれば、高速入力したつもりなのに入力できていないといったことがほぼ起こりません。複雑なショートカットキー(複数キーを同時に押すことでソフトウェアに命令を与える)を設定して使っても正確に動作します。

「最高」を求めてどんどん“沼”へ 私のキーボード遍歴

社会人になって自分のお金で買った最初のキーボードは、今はもう日本から撤退して久しいGatewayというメーカーのものです。自分で選んだのではなく、購入したPCに同封されていました。メンブレンキーボードでしたが、当時は今と比べて私のタイピングも遅かったし、そこまで困らなかった記憶があります。

そんな私がこれまでに購入してきたキーボードを、ざっとご紹介しましょう。

「Majestouch Mini」で高級キーボードの世界をのぞき込む

“キーボード沼”の世界に触れたのは、趣味でやっていたプログラミングがある程度できるようになって1年程たった頃。タイピングの速さに入力が追いつかなくなったキーボードをなんとかしようと調べているうちに、キーボードはキースイッチによって違いがあるということ、そして操作性に優れているメカニカルスイッチの存在を知ったのです。

メカニカルスイッチのキーボードで有名なブランドを探して最初に購入したのが、約1万円で販売されていたFILCOの「Majestouch Mini」でした。今では販売が終了してしまっている上に、現物も手元には残っていません。当時はまだ社会に出たばかりで収入も少なかっただけに、思い切った出費だった覚えがあります。

DIATEC|ダイヤテック株式会社 製品情報

キーボードが届いてからは、技術書に載っているプログラミング例を嬉々として試し打ちしました。メカニカルキー特有の「カシャコンカシャコン」というかっちりとした打鍵感に驚くと同時に、「キーボードの世界って、奥が深いかも」と感じていたような気がします。思えば、このときにはもう沼”の入口に立っていたんですね。

究極のスイッチ! 「Realforce 91UBK」との出会い

Majestouch Miniは2年ほど使っていたものの、だんだんと打鍵音の大きさが気になり始めます。さらに、チャタリングや打ったキーの取りこぼしが増えてきて、私の中でメカニカルスイッチへの信頼が徐々に薄くなっていきました。そこで、もっとメンテナンスフリーで取りこぼしのないキースイッチはないかと探すようになったのです。

当時は、光学式のマウスが一般的になりつつあった時期。「物理的に接点を持たないキースイッチであれば、チャタリングやキーの取りこぼしがなくなるのではないか?」という仮説をもとに、新たなキーボードを探しました。そして静電容量方式という究極のスイッチを持ったキーボードと出会います。東プレの「Realforce」シリーズです。

Realforce 91UBK


私が購入したのは「Realforce 91UBK」で、価格は約2万円。当時、この静電容量方式のスイッチを採用するキーボードは、東プレのRealforceシリーズしかありませんでした。当然、即購入しました。

届いて設置した時にまず感じたのは、その重さ。打ってみると、ずっしりとした本体の重みが操作の安定感につながっていることが分かります。そして「スコスコ」という軽快な打ち心地にもかかわらず、タイピング速度を上げても全く取りこぼしがないことに驚きました。

自宅用に購入したものでしたが、この後すぐ会社用にもう1台注文しました。同僚からは「キーボードに2万円はありえない」などと言われていた記憶があります。まぁ、自宅用と合わせると4万円だったわけですが……。

持ち運び用に「HHKB Professional2」を購入

Realforce 91UBKを3年ほど使った頃、就業環境が自社からお客さまのオフィスに常駐するという形に変化しました。そして、一定の頻度でお客さまが変わるため、その度にパソコン一式を持ち歩くことになったのです。そうなると、だんだんRealforce 91UBKの重さと大きさが気になり始めます。ちょうどその時、Realforceシリーズと同じ静電容量方式のスイッチを採用したPFUの「Happy Hacking Keyboard(HHKB)Professional」が発売されました。

Happy Hacking Keyboard | PFU

ノートパソコンのように10キー(数値入力用のキー)が付いていない英語キーボードは、一般的に約78個のキーで構成されています。ですが、HHKBの場合は60個に減ります。通常F1〜F12まであるファンクションキーもありません。なので、ファンクションキーを押したいときは「Fn」キーと数字キーを押すという形で補う必要があります。

このファンクションキーは、ある程度コンピュータの操作に慣れている人であれば、指が覚えていて無意識に使えるということも多いでしょう。しかしHHKBではそれが通用せず、新たに覚え直す必要があるため、仕事でコンピュータに触れる人にとってはかなり特殊な配列ということになります。

私も、最初は「カーソルキーがない」「独立したファンクションキーがない」といったシンプルでストイックなキー配列を見たときに、使いこなせるか不安になり、購入に踏み切ることができませんでした。

HHKB Professional2


しかし、後継モデルの「HHKB Professional2」が2万5000円ほどで発売されたときに、どうにかして買う理由を探す自分がいました。そして「『Fn』さえ押せば、今までのホームポジションからファンクションキーが近くなるし、良いのでは?」「独立したカーソルキーはないけど、これも『Fn』を押しながら使えるし、良いのでは?」など、今考えるとよく分からない理由を並べた上で、ようやく購入に踏み切ったのです。

HHKB Professional2 無刻印モデル


そして、鞄から出すのが面倒という理由で自宅用にもう1台追加購入しました。このときはもうHHKBのキー配列に慣れていたので、キーに刻印のない「無刻印モデル」を選択しました。

この頃になると、すでに「キーボードは自分の体を拡張するための装置なので、それに対して2〜3万円は安い」ぐらいの金銭感覚だったように思います。

肩こり解消のために購入した、左右分離式「Matias Ergo Pro for Mac」と「Mistel Barocco」

HHKBをだいたい4年ほど使った頃、一旦Macのデフォルトキーボード(US配列)のみ使うことを自らに課していた時期を経て独立し、フリーランスになります。この頃から自宅で仕事をするようになるのですが、年齢もあるのか「肩こりと、それに伴う頭痛」や「腕の付け根から胸周辺までの筋肉が頻繁につる」といった症状に悩まされるようになります。

その後、体をほぐすために訪れた鍼灸治療院で先生のお話などを聞き、「キーボードのホームポジションに両手を置くと、肩幅よりも狭い窮屈な姿勢になってしまっていて、これが腕の付け根から胸周辺までの筋肉がつる原因になっているのではないか」という仮説を立てました。

要するに、肩幅より開いた状態でホームポジションに手を置ければ良いんだろうということで、左右分離式のキーボードを探し始めます。

Matias Ergo Pro for Mac


まずは、Matiasの「Matias Ergo Pro for Mac」を25,800円で購入。このときはMacのデフォルトキーボードにすっかり体が最適化されていたので、なじみやすいMacのキー配列であることが購入の決め手でした。

Ergo Pro Keyboard for Mac – Matias

Ergo Dox」(完成品「Ergodox Ez」だと、価格は325ドル)*1という自作キーボードも検討したのですが、このまま“自作キーボード沼”に突入したら戻ってこられなくなるという危機感があったのでやめておきました。

使ってみると、効果はすぐに実感できました。肩こり・頭痛・胸周辺がつる、などの症状が全て緩和されたのです。これにはかなり驚き、しばらくの間「これはいける!」と使っていたのですが、左右分離式という形に問題があるのか、キーの取りこぼしが多さがストレスになっていきました。

Mistel Barocco


このとき、ちょうどMistelから左右分離式の「Mistel Barocco」が約18,000円で発売されたので、早速買ってみました。Mistel Baroccoはメカニカルスイッチのキーボードで、キー配列もHHKBに近く、今までにない製品でした。キーの取りこぼしもありません。ですが、やはり静電容量方式のキースイッチを搭載したRealforceやHHKBの打ち心地が忘れられないわけです。

Mistel Keyboard | BAROCCO SERIES

そういえばちょうどこのあたりで妻がこんなツイートをしていました。

左右分離式で、究極のキースイッチを搭載するキーボードが欲しくなった結果……

やはり、キースイッチは静電容量方式が良い。そして、家にはHHKB Professional2が2台ある。このことに気付いた私は、この2台で左右分離式として使えるのではないかと思い、実際にやってみました。

2台のHHKB Professional2


これが最高でした。持ち運びができないのと、机の面積を取るというところ以外、何も文句はないです。当たり前ですが、打ち心地はHHKBのそれで、キーの取りこぼしもなく、チャタリングもありません。そして左右が分離した状態なので、肩が開いた姿勢で打つことができるというメリットもそのままです。

(左から)HHKB Professional BTとHHKB Professional2 Type-S


2018年11月現在は、持ち運び用に買ったワイヤレスの「HHKB Professional BT」(27,500円)と、音を静かにしたいという理由で買った「HHKB Professional2 Type-S」(27,500円)に、特に実用性はないものの「かっこいいから」という理由で付けたカラーキートップ(1,800円)を組み合わせて使っています。

なので、家には今4台のHHKBがあるんですよね……。でも、両方ケーブルレスにしたくて、HHKB Professional BTがもう1台欲しいです。

ちなみに、キーボードの下にある木製の板は、冒頭のツイートで妻が触れていたアームレスト(3,980円)です。

キーボードルーフ


さらに、持ち運ぶときにキーが押しっぱなしにならないよう、HHKB用のキーボードルーフ(4,000円)も買いました。

左右分離式キーボードの魅力は伝わったでしょうか? 長時間キーを打つ職についている方で、まだ試したことがないという場合は、ぜひ触れてみてください。

私が考える最強のキーボード

より自分に合ったキーボードを追い求める様子を紹介してきましたが、現在の「2台のHHKB Professional2を左右分離式のように使用する」という構成にも、実は不満なところが4点あります。

  • 2台分の面積を取る
  • 2台は持ち運べない
  • キータッチが少し重い
  • ワイヤレスを選ぶと静音性が下がる

これらの不満点を解消すれば、私が描いている理想のキーボードになるということです。その理想のキーボードの特徴を挙げると、次の7点を満たしたものになります。

  • 静電容量方式のスイッチ
  • Nキーロールオーバー対応
  • 左右分離式
  • HHKBと同じキー配列
  • HHKB Type-Sのような静音性
  • 押下圧(キーを押すのに必要な力)30g
  • ワイヤレス

要は「HHKB Professional BTとHHKB Professional2 Type-Sのスペックを融合させ、さらに押下圧を30gまで下げて、左右を分離してほしい」ということです。この条件を満たすキーボードがあれば、私は10万円でも払います。どこか作ってくれないかな。

左右分離式のキーボードに注目が集まってほしい

実用上の課題を見つけ、それを改善していく過程で、これまでにいろいろなキーボードを試してきました。この記事を書くにあたって振り返ってみたところ、今までキーボードに使ったお金は、約18年間でだいたい30万円ぐらいです。

そのうち20万円は、ここ3〜4年で使っています。購入ペースが加速している理由としては、フリーランスでリモートワークという比較的自由度の高い仕事スタイルに変わったことが大きく、最近は毎月のように購入しています

操作に慣れる必要があるのを考えると、投資という言い訳は難しく、完全に趣味の世界だと言わざるを得ないです。それなりのスペックを搭載したPCが1台買えてしまう金額ではありますが、それがキーボードだから高いと感じるだけで、その他の「沼」と呼ばれるような趣味としては少額で楽しめている部類ではないでしょうか。

今欲しいものは、先述したワイヤレスのHHKB Professional BTをもう1台。あとは、光学式スイッチを採用したキーボードで、左右分離式のものがあれば試してみたいですね。そして、深そうな沼だなと思いつつも、ずっと気になっている自作キーボードの「Ergo Dox」。こうした自作でも、光学式スイッチが使えるのかどうかが気になっています。

このように、現在の私は左右分離式のキーボードに夢中です。なので、今後はもっと左右分離式が人気を集めて、各社から新たな左右分離式のキーボードが発売されることを楽しみにしています。

フリーランスのプログラマーで1歳児の父親。プログラミングとその環境改善が好き。

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※記事中の情報は、全て2018年11月時点のものです

*1:ErgoDoxは、設計情報が公開されている、いわゆるオープンソースハードウェア。「バラバラになっているパーツセットを自分で組み立てる」というものではなく、「公開されている設計情報と互換性のある好きなパーツを買い集めてキーボードを作る」というもの。Ergodox Ezは、自分で作る時間がない人のために、完成品を販売している

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