知っていました?!年金破綻はありえないと言う事実
ちょっと前まで、「年金は破綻する」と言ったニュース特集がブームになった時期を覚えていますか。
「今の世代は将来年金をもらえない」「年金制度は破綻する」とメディアで不安をあおっていたため、「年金制度は将来破綻するのではないのか」と漠然とした不安を感じている人は多いのではないかと思います。
ところが最近では、将来年金が破綻すると言うようなニュースは少なくなってきました。
これには「近年の状況変化から、年金破綻はあり得ない」という考え方が主流になってきたためです。
そこで今回は、「年金破綻が何故ありえなくなったのか」について解説します。
年金積立金管理運用独立行政法人のポートフォリオはどの位?
現在の年金制度を正しく理解するためには、人々から預かった年金を運用している年金積立金管理運用独立行政法人(通称GPIF)のポートフォリオを見ていくのが近道になります。
GPIFはどの様なバランスシートになっているのか、想像してみましょう。
まずほとんどの人は、「年金は今預けている人に対して将来必ず支払うものだから、安全な資産で運用して、ローリスク・ローリターンのバランスシートを作っている」と想像するでしょう。
ところが、現在のGPIFのバランスシートは想像とかなり違うようです。
直近となる2017年12月末のGPIFの資産の割合を見ていきましょう。
国内債券 |
27.67% |
---|---|
国内株式 |
26.05% |
外国債券 |
14.13% |
外国株式 |
25.08% |
短期資産 |
7.06% |
見てわかるとおり、安全資産としての国債を購入してはいますが、割合としては約25%になっています。
他への投資は、リスク資産とされる国内株式への投資が約25%、為替リスクのあるリスク資産の外国債券と外国株式への投資で約40%となっています。
もし仮に個人投資家で資産を1,000万円持っている人が、株式に250万円、外債と外国株に400万円、残りは預金などに350万円で運用していると考えると、「結構なハイリスク・ハイリターンな投資運用を行なっているな」と感じられます。
GPIFのバランスシートは、「年金は将来必ず払わなければいけないものだから安全な運用を心掛ける」のではなく、リスクをとってリターンを得るハイリスクハイリターンの運用を行なっているのです。
「運用ってそんなものなんじゃないかな」と感じる方もいらっしゃるかもしれません。
参考までにGPIFと似た業態で、長期的な配当や支出(民間の年金の機能も果たしている)を行なっている大手生命保険会社・日本生命の運用資産構成割合を見てみましょう。
日本生命の2016年度末一般資産構成の構成
公社債 |
35.40% |
---|---|
株式 |
13.70% |
外国証券 |
29.70% |
外国証券 |
12.20% |
不動産 |
2.60% |
その他現預金等 |
6.40% |
株式の割合はたったの13.7%、為替リスクがある外国証券(ほとんど外国債券と思われる)は29.7%ですから、ほとんどが安全な資産で運用していることがわかります。
バランスシートを見ると、GPIFは生命保険会社と比較しても、かなりハイリスク・ハイリターンな運用を行なっていることがわかります。
株価が下がるととんでもない事に
このハイリスク・ハイリターンバランスシートを構築しているGPIFですが、アベノミクス(2012年度に民主党政権と交代)による株価上昇の恩恵を受けて、現在ものすごい収益をあげています。
2014年からの第3四半期累計収益額
2012年度第3四半期 |
252,209億円 |
---|---|
2013年度第3四半期 |
354,414億円 |
2014年度第3四半期 |
507,338億円 |
2015年度第3四半期 |
454,239億円 |
2016年度第3四半期 |
533,603億円 |
2017年度第3四半期 |
689,822億円 |
ちなみに民主党政権下では、下記の表となっています。
2009年度 |
116,893億円 |
---|---|
2010年度 |
113,894億円 |
2011年度 |
139,986億円 |
このことから、政権が変わるということは、自分たちの将来の生活への影響も小さくはないと肝に銘じながら投票に行かないといけません。
今のところ利益を上げているGPIFですが、ハイリスク・ハイリターン投資をしていることから、株価が下がったときはとんでもない損失が発生します。
もし仮に、日経平均株価が1万円くらい(騰落率マイナス50%)となった場合を想像してみましょう。
日経平均株価は為替との連動が大きく、日経平均株価が下がるときは円高になりますので、外国債券でも損失発生が予想されます。
また、外国株式は単純な価格下落に加えて、外国債券と同じく為替差損が発生するダブルパンチを受けることになるでしょう。
国内債券は株が売られたリスクオフの動きから資産価値が上昇するでしょうが、ゼロ金利の現在では上昇したとしても微々たる収益しか得ることはできません。
国内株式が▲50%とすると、イメージとして国内債券+5%、外国債券▲15%、外国株式▲50%位の騰落率が発生すると考えられます。
この数字を、GPIFの運用額を100と仮定して当てはめてみますと、
国内債券 |
27.67→29.05 |
---|---|
国内株式 |
26.05→13.025 |
外国債券 |
14.13→12.0105 |
外国株式 |
25.08→12.54 |
短期資産 |
7.06→7.06 |
計 |
100→73.6855 |
なんと、73%くらいに落ち込むと考えられます。
現在GPIFの運用規模は160兆円と言われていますから、117.8兆円まで減る事になります。
GPIFは想定利回りを大幅なプラスで長期計画を立てているため(そうしないと年金が払えなくなるので)、年金の先行きが問題になります。
ハイリスク・ハイリターンのポートフォリオは、株価が下がるとダメージも大きく、継続性が揺らぎ危機に陥るのです。
株価を下支えする政策が行われているので、年金破綻はあり得ない
株価が下がるととんでもないことになるGPIFのハイリスク・ハイリターン運用戦略になりますが、「徒手空拳でこのようなリスクを取っているのか」と言うと、ちょっと違います。
株価が下がると年金の継続性に疑問符が付き始めますので、
①政府から日本銀行に委員を送り込む
②日本銀行は株価が下がりすぎないように株式の購入
③株価の下支え要因となり、GPIFの運用成績も上がり年金の継続が約束される
というように、政府-日銀-GPIFが連携を行ない運用しています。
それでは、日本銀行は具体的にどのような株価の下支えをしているのでしょうか。
日本銀行は現在、金融政策で国内株式であるETFを年間6兆円購入しています。
ETFを購入するお金は一体どこから湧いてくるのかと言うと、日本銀行が購入するETFの原資は税金ではなく、中央銀行である日本銀行が円の創出として無限に創出しています(お札は日本銀行が印刷しており、日本銀行が原資を創出するイメージ)。
原資は日本銀行であるならば無限に作り出せます。
もし株価が大規模な売りに押され、再び1万円割れを起こすような事態になったときは、現在の年間6兆円の買い入れ額を増やす金融政策に変更することが可能です(日銀が企業の大株主になる問題などは置いといて、理屈の上では幾らでも買い上げられます)。
どのタイミングで買い入れ額を増やすのか
「どのくらい株価が下がったら、日本銀行は政策を変えていくのか」というのが気になるところでしょう。
GPIFの国内株式の想定利回りは6%と計画されており、この数字が維持できないと年金の継続性が危うくなります。
つまり、数年程度のスパンで国内株式が想定利回りを下回って来るようであれば、現在の政府-日銀-GPIFラインが動き出さなければいけなくなり、ETFの購入を増やす金融政策の変更を行ってくると考えられます。
参考:資産配分を変えて以降のGPIFの国内株式パフォーマンス
2015年 |
30.48% |
---|---|
2016年 |
-10.80% |
2017年 |
14.89% |
単純平均 | 11.523% |
現状では、平均値は6%を上回っていますので、現状の金融政策を続けていくでしょう。
ただし、長期スパンで6%を下回ってくるような事態が定着してくるのであれば、金融政策の変更が現実味を帯びてきます。
年金破綻はありえません
これまでの説明を応用して、年金破綻は絶対にありえないという事について解説しましょう。
年金破綻が起こるためには、
①年金を納める現役世代の減少、受給世代の増加
②運用に失敗
③積立金が枯渇
④政府も肩代わりできなくなり、年金が支払われなくなる
といったプロセスをとります。
日本はバブル崩壊以降、長らく株価の下落が続いたために、運用の大失敗からこのまま高齢化社会に突入すると積立金は枯渇すると言われていました。
しかしながら、現在は政府-日銀-GPIFと連携をとって、この問題に対処するようになっていますので、年金破綻が起こるくらいなら日本銀行が運用の大失敗を帳消しにするほどの金融政策を実施してきます(もっというと日本銀行が購入したETFをGPIFに移動させ、原資を増やすことも法律改正で可能)。
また、金融政策を行いすぎると、インフレーションが激しくなるかもしれませんが、「緩和をし過ぎて激しいインフレが起こる」、「緩和が足りなくて年金制度が破綻する」を比べた場合、どちらの方が重要な問題かというと間違いなく後者となります。
そのため、有害なインフレーションが起こってもそう簡単に買い支えは止める事ができません。
緩和を行い続ければ年金制度は維持され続けることから、年金破綻と言ったワード自体が今では古臭いワードになってしまっているわけです。
年金は納めておいた方がいい
年金の受給開始年齢は現在65才からですが、これを70才以降に伸ばすという計画が出ています。
若い人は間違いなく年金支給開始年齢は70才以降と考えておいた方がいいでしょう。
しかしだからといって、年金制度の崩壊が起こると考え、年金を納めるのを止めるようなことはしない方が得策です。
年金制度の目的は、高齢で体が動かなくなり、働くことができなくなった人たちの収入を約束するところにあります。
現在は医療技術の向上で平均寿命が延びており、体が動かなくなる期間も後ろにずれています。
また、昔の様に体を使う仕事よりも、頭を使うような仕事の方が増えていますので、働ける期間は長期化しています。
年金の支給開始年齢を遅らせるのは、年金の運用状態の良し悪しではなく、年金制度の本来の目的となる、働けなくなった世代への給付に目的を戻しているだけなのです(年金制度はアーリーリタイヤを促進する制度ではありません)。
年金制度は、死ぬまで給付金が出る優れた制度です。
民間の保険では、平均寿命が長寿化するような時代に、死ぬまで給付金を出すと言った保険は作る事はできないでしょう。
年金破たんはあり得ないことですから、年金はちゃんと納めておくことをお勧めします。
まとめ
- 年金制度について解説
- 現在のGPIFの運用割合はかなりハイリスク・ハイリターン
- 株価の下落は年金制度の基盤を脆くするため、中央銀行が買い支えざるをえない
- 中央銀行の買い支えによって、年金破綻はあり得ないシナリオに
- 今後受給開始年齢は適正化される事はあるものの、年金破綻はあり得ないだろう
- 年金は優れた制度なのできちんと納めておいた方がいい