1泊2日、予算10,000円で美味しいものとお酒を楽しむ旅「山形県・酒田」

1泊2日、予算10,000円で美味しいものとお酒を楽しむ旅「山形県・酒田」

これまで鎌倉、仙台、金沢と紹介してきた。けれど、どうしても予算5,000円では自分が好きな街の「お酒」を紹介できなかった。そこで、今回は予算10,000円(食費のみ)で楽しめる「美味しいものとお酒」を紹介しようと思う。

自分が好きな東北の中から、大学生の時に2週間ほど滞在して以来気に入った山形県庄内地方の港町・酒田の魅力的な「美味しいものとお酒」を1泊2日の流れに沿って紹介したい。

東京から酒田へ行くには、列車であれば上越新幹線を使って新潟経由か、山形新幹線を使って新庄経由で行くことができる。どちらも所用時間は4時間~4時間半ほど。もしくは羽田空港から約1時間で庄内空港まで行き、そこから市内までバスで約40分。どちらにせよ行きやすいとは言えないが、だからこそやっと辿り着いた街で食べる美味しいもの、飲むお酒は格別だと思う。

《1日目》夕食前の軽食 「そば川柳」 ワンタンメン 700円


夕方前に酒田に到着すると軽く雪が降っていた。温かいものが食べたいなあ、とまず向かったのは「そば川柳」。酒田はラーメンが有名で、その発祥は大正末期からと言われている。自家製麺比率は約8割だそう。

この川柳で人気のワンタンメンの特徴は、思わず勢いよくすすりたくなる口当たりと喉ごしが素晴らしい細く縮れた麺。コシも抜群で、シンプルでありつつも完成度が高い醤油スープと相性が良い。

チャーシューは噛めば噛むほど、肉の旨味が口の中いっぱいに広がる。メンマもたっぷりでいい。ひと口食べるごとに、ああ美味い……としみじみ。

何よりもこのワンタンが驚くほどに美味い。非常に薄く、大きな皮が特徴的なワンタンがスープの中にたっぷりと入っている。ワンタンの中の肉は上品で主張しすぎることがないから何個でも食べられそう。麺とこのワンタン。2回楽しむことができるから、ちょっと“得した気分になれる”ラーメンだと思う。

澄んだスープはひと口飲み始めたら止まらなくなり、結局全て飲み干してしまった。

◇ ◇ ◇


川柳を後にして、近くのビジネスホテルにチェックイン。軽く街を散策することにした。「竹久夢二」という文字が気になり入った先は舞娘茶屋・雛蔵畫廊の相馬樓

「準備ができるまでお待ちください」と言われ、入樓料(入館料)を払って入口で待っていると、目の前に美しい舞娘さんが現れた。2階の大広間を案内をしてくれるという。時間が遅かったせいか贅沢なことに一対一で「この部屋の畳は紅花染めで……」「“商売繁盛”を願って“半畳”なんです」「この襖絵は……」と丁寧に説明をしてもらえた。



地元の人にも聞いておこうと、その舞妓さんに酒田の美味しいものを尋ねると、おすすめのお店とさらにはおすすめのスポット、温泉まで教えてもらった。「毎日14時から酒田舞娘の踊りがあるので、いつか機会があれば来てください」と言うので、明日もいるので行けたらと伝えると、「待っていますね。お店の感想も聞かせてくださいね」と、眩しい笑顔で返ってくる。酒田の人のこういう優しいところが好きだ。



その後一人樓内を巡って、かつて料亭だったという一つ一つの美しい部屋を、その昔行われていただろう華やかな宴会を想像しながら見て周り、竹久夢二美術館で絵と写真を楽しんだ。



《1日目》夕食・一軒目 「まる膳」 日本酒・納豆汁・はたはた・山形牛 3,060円


ホテルに帰って軽く休むと、夜になった。外に出てみると、すっかり雪が積もっている。誰も歩いていない雪道を歩きながら「雪見酒ってのも良いかもしれないなあ」なんて思いながら店を探す。

酒田は夜がとても楽しい街だ。一見、街には誰もいなさそうだが、歩けば右に左にぽつりぽつりと雰囲気がいかにも良さそうな居酒屋がある。中へ入ればどの店も気の良さそうな酒田の人々が賑やかに飲んでいる。今日はどこに入ろうか……なんて考えて店を決めるのが楽しい。

ふと目に留まり、今回一軒目に伺うことにしたのが、こちらのまる膳だ。店内はまだ誰もいなくて自分だけだった。まずはお酒だと思い、これまた笑顔が優しい女将さんにおすすめのお酒を聞いてみることに。

甘口の中から「地元のものならこれかなあ」とすすめてもらったのが酒田酒造株式会社の「上喜元 純米吟醸 おりがらみ 中秋の風花(なかあきのかざはな)だ 。白く薄くにごった美しいお酒が、グラスに注がれる。ひと口含めば最初にふわっと果実のような香りが広がり、後味はキレが良く飲みやすい。

突き出しでいただいたのが納豆汁。前回来た時に、地元の方から「美味しいよ」と聞いていたものの、食べることができなかった念願の一品。家庭ではよく食べられているが、手間がかかるのでお店ではなかなか食べられないらしい。今夜は運が良いなあ……。

細かく刻まれた葱と、白いこんにゃく、山菜、豆腐がそれぞれきちんとカットされていて食感がいい。適度な納豆の香りと汁のあたたかさに、ほっとする。


続いてははたはた湯上げ

お腹を開くと目の前にいっぱいの卵が。この卵は外側がややぬるっとしており、噛むと弾ける。噛むほどに美味しさが溢れ出し、ほのかに酸味のある出汁と合ってクセになる。身は柔らかく、甘い。

産卵期は11月~1月ごろらしい。訪れたころはまだ少し早かったが、運良く食べることができた。これはお酒がすすむなあ。



最後は山形に来たなら食べておかないと、ということで注文した山形牛焼き

脂が甘くて濃厚で、口の中で溶けてしまうくらいに柔らかい。ああ、幸せ……。



《1日目》夕食・二軒目 「久村の酒場」 日本酒・だだみ煮 2,127円

さて、二軒目に行こうと向かったのは「久村の酒場」。酒田でも特に有名な居酒屋の一つだ。

店内に入ると、入口付近に長方形のカウンターが並び、奥には座敷もある。居酒屋好きな著名人のサインも数多く飾られている。

壁や柱に張り紙があってお酒の説明が書かれている。

最初に、自分が山形のお酒でも特に好きな「三十六人衆」の「純米大吟醸 山田錦40%」という限定品を頼んだ。この三十六人衆は酒田が地元の菊勇株式会社のお酒で、旨味と飲みやすさのバランスが良い。以前来た時にいろいろと試した結果、このお酒が一番好きだと落ち着いた。

このなみなみ感が最高。

この久村の酒場が面白いのは、その日その日のおすすめの小皿が透明なガラステーブルの下に置かれていることだ。お客さんは皆立って、今日は何があるのか? とテーブル下を確かめて、じゃあこれでって注文をする。

自分が頼んだのは、このだだみ煮。だだみっていうのは鱈の白子のことで、このあたりではこう呼ぶそうだ。これがたまらなく美味い。

白子って濃厚で、時にしつこく思うこともある。けれど、これは違う。旨味が凝縮されていながらも、後味は信じられないくらいにすっきり。なんだこれは……。いくらでも食べられそうになる。話しを聞くと刺身がより美味しいそうで、これから出回るらしい。いつか必ず食べるぞ。




あまりにもだだみが美味いからもう一杯。「東北泉 純米大吟醸 瑠璃色の海」という、これまた限定品を頼んだ。お店のお母さんによると、酒田やこのお店を時々訪れるという居酒屋探訪家として有名な太田和彦さんも好きなのだそう。これがまた爽快感のある旨い酒なのだ。

お店の常連さんも皆気さくで、気がつけば一緒に飲んでいた。「美味しいなあ」と言えば「うめろ?」と方言で返ってくる。お店のお母さん、常連さんが話す「~~だの?」という酒田の優しい方言が気持ち良く耳に残る。ああ、良い店だ。良い街だ酒田。



存分に飲んで、さらには一緒に飲む人たちが皆良い人で……。気持ち良くなって名残惜しいが、店を後にしてこの日はホテルへ戻った。



《2日目》昼食 「こい勢」 特選 旬のおまかせ握り 3,240円

翌朝起きると雪は止んでいたので、早速散策に出かけた。

酒田の街は決して派手さはないが、この素朴でのどかな雰囲気が妙に落ち着くと自分は思う。





◇ ◇ ◇

美味い魚を存分に楽しもうと、昼に向かったのは寿司屋「こい勢。仙台にある好きなお寿司屋さん、小判寿司の大将からも酒田で美味しい寿司を食べるなら、とおすすめされたお店だ。



頼んだのは特選 旬のおまかせ握り。昨晩、久村の酒場のお母さんからも「こい勢さんなら旬のおまかせが一番」と伺っていた。



最初にやってきたのはヤリイカ。ねっとりとしていて甘い。イカの上には柚子。見た目も味も爽やかだ。

続いて来たのはのどぐろ。好きなネタとして挙げる人が多いイメージのあるのどぐろ、やはりここ酒田でも人気だという。ああ……やはりのどぐろは美味いなあ。

鱈の昆布締め。上に綺麗に乗せられた梅肉が、さっぱりとしていいアクセントになっている。

こちらはイシナギの柚子胡椒ポン酢味。

本カワハギの肝乗せは濃厚な肝が、もうたまらない。

もはや眩しい、輝く

そして。一つ一つのネタが大きいのが嬉しい。

これはガサエビ。金沢などでは「ガスエビ」と言うが、こちらでは「ガサ」と呼ぶそうだ。しっかりとした歯応えが気持ちよく、甘さもちょうどいい。

そして、この日一番気に入ったのがこの近海の大マグロ。135キログラムという大きさで、地元の新聞にも載ったそうだ。大間のマグロと遜色がないくらい、と笑顔で主人が話す。思わず「美味い」という言葉が漏れてしまうくらいに、感動的なおいしさ。そしてこの大きさ。

最後はバフンウニ。とろとろ……。もう最高……。

呑気に食べていたら13時30分を過ぎていた。昨日聞いた14時から始まる酒田舞娘の踊りを観ないとと、急いで相馬樓へ。開演前ぎりぎりの5分前に到着した。2階の大広間へ行くと既に大勢のお客さんがいて、踊りが始まるのを待っている。しばらくすると酒田舞娘の二人が現れた。二人のうちの一人は昨日案内をしてくれた方だ。名前は小春さんというらしい。



三曲行われた踊りは、もうただただ素晴らしく美しく、時が経つのを忘れて夢中になった。



踊りの後には希望すれば酒田舞娘のお二人と無料で写真を撮ってもらえるということで、せっかくだからと記念に一緒に撮ってもらった。「来てくれたんですね。お店どうでした?」という言葉をかけていただいたものの、踊りを見た後のせいか緊張してしまい、しっかりと答えられなかったけれど……。その気遣いが嬉しくて酒田がより好きになった。





◇ ◇ ◇

お世話になった相馬樓を後にして、山居倉庫に寄った。ここはNHKの朝の連続テレビ小説「おしん」のロケーションの舞台でもあったそうだ。ケヤキ並木は夏に来たら緑が綺麗なんだろうなあ。






土門拳記念館もまた酒田に来たら行きたかった場所。世界でも珍しいという「写真専門の美術館」だ。約7万点の写真が収蔵されており、建築家・谷口吉生氏設計の建物自体も格好良く、見ていて飽きない。館内は撮影をすることも可能(作品の接写やフラッシュの使用はNG)。

《2日目》夕食 「花鳥風月」 濃厚辛みそ海老ワンタンメン 850円

夜になり帰りの列車の時間が近づいてきた。今回の酒田旅の〆として食べようと思ったのは、やはりラーメン。ラーメンで始まってラーメンで終わる旅。

海老ワンタンが有名で酒田でも人気なお店の一つだという花鳥風月でいただいたのは、今だけ限定販売という濃厚辛みそ海老ワンタンメンだ。

初日に食べた川柳のラーメンとはがらりと変わって、麺は太くてもちもち。スープは濃厚な味噌味。上の赤い味噌を溶かせば味が徐々に変わっていって面白い。疲れた体にこの濃い味がじんわり染みる。人気の海老ワンタンはぷりっぷりで、確かにこれは人気が出るなあ、と思った。めちゃくちゃうまい。

駅前でもらった「酒田のらーめん&街さんぽ」というパンフレットを見ると、満月、三日月軒、新月、清宝苑……と気になるラーメンがまだまだある。次回は全部周って、自分の好みにあったラーメン探しなんてこともしてみるか。





◇ ◇ ◇

ということで、ラーメンに、居酒屋で地酒と郷土料理に、寿司まで楽しんで合計金額は9,977円(税込)となった。予算10,000円で当初予想していた以上に美味しいものとお酒を存分に楽しむことができた。



「酒田」の魅力はこの市のプロモーションビデオを見ていただければ、きっと感じてもらえるのではと思う(ちなみにこの動画の左側の酒田舞娘さんが小春さん。大変お世話になりました)

美味しいものと地酒を楽しみに、少々遠いけれど行ったら絶対に美味しいものに出会える酒田。人も優しいあたたかい街だ。機会があれば、是非旅行に行ってみてほしい。



【今回食事に使った合計金額:9,977円】



※本記事に記載のものは2016年12月18日取材時点の情報です

※予算10,000円に含まれるものは食事代(全て税込金額)のみです

編集者&ライター。1987年神奈川県生まれ。ブログ「ウォーキング✕美味しいもの」では日々見つけた美味しいものや歩いた街について書いてます。

…続きを読む

関連記事