交通系電子マネーのポイント還元はどれがお得か、それぞれの事情を探る!

交通系電子マネーのポイント還元はどれがお得か、それぞれの事情を探る!

10月からのキャッシュレス還元事業への参加で、最後まで動きが読めなかったのが交通系電子マネーでした。Suicaほか各社が参加表明しましたが、内容はまちまちです。

そこで今回は、キャッシュレス促進の利用者側に立ったオピニオンリーダーである、消費生活ジャーナリストの岩田 昭男さんに、交通系電子マネーの参加に至る事情と主な交通系電子マネーの特徴について語っていただきました。

月刊誌記者などを経て独立。流通、情報通信、金融分野を中心に活動するが、メインはクレジットカード&デビットカード、電子マネーなど。とくにSuicaは2001年のサービス・スタート以来の愛好者で、通勤から買い物まで活用している。年に4回ほどクレジット&電子マネーのムックを出版しており、最新情報にも詳しい。2020年東京オリンピックを目指して始まったキャッシュレス促進の利用者側に立ったオピニオンリーダー。

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交通系電子マネーはJR主導で進んできた

最初の交通系電子マネーは2001年に誕生したJR東日本のSuicaです。その開発には10年以上の年月がかかったといいます。

研究を始めた頃は、国鉄(JRの前身)が6社に分割された後で、JR東日本が作ろうとするSuicaは、バラバラにされた国鉄マンたちの統合の象徴になると期待を集めました。そのためICの規格作りの時から「共通化」が主要なテーマになっていました。

2001年にSuicaが誕生して、その使い勝手の良さで、たちまち人気が出ると、JR各社は独自の交通系電子マネー作りにのめりこみました。そして数年かけて出来上がったのが、すべてSuicaの技術を受け継ぐ互換性のあるものとなっていました。

JR東日本 Suica(スイカ)
JR西日本 ICOCA(イコカ)
JR東海 TOICA(トイカ)
JR九州 SUGOCA(スゴカ)
JR北海道 Kitaca(キタカ)

JR西日本がICOCA(イコカ〜さあ行こうか〜)、JR東海がTOICA(トイカ〜東海に掛けている〜)、JR九州のSUGOCA(スゴカ〜スゴイという意味の九州方言〜)、JR北海道のKitaca(キタカ〜来たかに掛けている〜)とそれぞれ個性的な名をつけましたが、みな語尾にCAが付いていることを見逃してはなりません。中味はほとんどSuicaそのもので、Suicaの兄弟ということをアピールしているのです。

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オールジャパンというわけにはいかなかった

もちろんこれは将来の共用化を目指したものでしたが、メンバーには消極的な会社もありました。

特にJR東海は、東海道新幹線というドル箱を抱えていますから、JRの盟主は自分だというプライドが強く、電子マネーには、JR東日本への反発もあり、それほど関心を見せませんでした。

一応Suica型のTOICAを作りましたが、他社のようにポイントサービスを使って顧客獲得に精を出すといった動きはしませんでした。そのため今回のポイント還元事業にも手は挙げたものの、参加は見送りました。

国の支援を受けて今からポイントサービスを立ち上げても、労多くして益少なしと考えたのでしょう。それよりはリニア事業に注力した方がよほど効率が良いと考えているのです。

こういうわけでグループ内でも温度差はありますが、今回のポイント還元事業では、グループ5社中有力3社が参加しているので、大きな影響力を発揮する事は確かでしょう。

キャッシュレス促進の起爆剤になる可能性は持っています。

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交通系電子マネーの発行枚数比較

では、Suicaほか交通系電子マネー各社のそれぞれの発行枚数を掲載しておきます。

<交通系電子マネー発行枚数(2019年8月)> 月刊信用情報9月号
  • 第1位:Suica(スイカ) JR東日本 7,616万枚 ●
  • 第2位:PASMO(パスモ) 関東の私鉄 3,844万枚 ●
  • 第3位:ICOCA(イコカ) JR西日本 2,148万枚 ●
  • 第4位:manaca(マナカ) 名鉄など 680万枚 ●
  • 第5位:nimoca(ニモカ) 西鉄 399万枚 ●
  • 第6位:PiTaPa(ピタパ) 関西私鉄 332万枚 ●
  • 第7位:TOICA(トイカ) JR東海  291万枚
  • 第8位:SUGOCA(スゴカ) JR九州 289万枚 ●
  • 第9位:KITACA(キタカ) JR北海道 160万枚
  • 第10位:はやかけん(福岡市交通局) 133万枚
※●印はキャッシュレス還元事業に参加


Suicaが7,000万枚を突破する勢いでダントツです。つづいてPASMOが3,800万枚で追っています。やはり首都圏の電子マネーが強いのですが、関西のICOCAも猛追を始めており、2,000万枚を突破して三位に食い込みました。この3マネーが全体をひっぱる構図にあるといえます。

ポイント還元策に一番乗りしたのはSuica(スイカ)

ところで、10月1日の「キャッシュレス・消費者還元事業」で、政府は、中小店でキャッシュレス決済すると、2%5%のポイント還元する事業を始めていますが、参加する電子マネー事業者を夏から募集しました。

さらに政府は9月に入って、電子マネーの還元上限を最大チャージ額の5%分と規定しました。

JR東日本のSuica(スイカ)なら2万円までチャージできますから、その5%の1,000円が還元上限となります。少額決済が多い交通系電子マネーでは、この金額で妥当といえます。

その発表を受けて、9月初旬に最初に参加の名乗りをあげたのが、Suicaでした。他の交通系電子マネー事業者のPASMO(パスモ)、ICOCA(イコカ)、TOICA(トイカ)、SUGOCA(スゴカ)などは還元事業への登録はしたものの、参加する動きはみせませんでした。

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Suicaは乗り物ポイントまで用意する周到さ

一方のSuicaは、還元事業の加盟店(中小店)で買い物すると、5%のJRE POINTが付くというスキームで独走体制を整えました。

また、10月1日から、Suicaは乗車ポイントを始めると宣言しました(還元事業とは別のサービス)。

こちらは電車に乗るたびに最大2%のポイント(JRE POINT)を付けるというのですから、驚きました。

これでSuicaはますます便利・お得になって、他の追随を許さなくなったようにみえました。

(※1)加盟店の目印は「キャッシュレス・消費者還元事業」マーク+Suicaマーク+JRE POINTマークの付いたステッカー
(※2)乗車ポイントを受け取るにはJRE POINT WEBサイトへの登録が必要で、モバイルSuicaは2%、Suicaカードは0.5%のポイント付与となっています。ただし例外として、無記名Suicaや記念SuicaはJREPOINT WEBサイトに登録できないため、乗車ポイントは付きません。詳細はJRE POINT WEBサイトをご確認ください
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危機感を持ったPASMO(パスモ)が動く

その動きは、首都圏のサラリーマン・OLのうち、PASMO(首都圏の私鉄事業者が発行する交通系電子マネー)の利用者たちを直撃しました。続々とSuicaに乗り換え始めたからです。

Suicaでも首都圏の私鉄とJRの両方に乗れるので、無理にPASMOにこだわる必要はないわけです。

「同じ乗るならポイントがたくさん貯まる方がいいから」(40代サラリーマン)という判断でした。

それを知ったPASMO陣営は、焦ったようです。油断していたら置いていかれると思ったのかもしれません。予定していた「キャッシュレス・消費者還元事業」のスタートを早めました。

PASMO陣営が準備に時間がかかったのは、関東圏の鉄道事業者27社、バス事業者33社の大所帯で、何をするにもまとまらないためです。

モバイルPASMO(スマホにPASMOを入れて使える機能)が未だに登場しないのは、このためだともいわれています。

PASMOに続いて関西勢が動いた

ところが、9月17日になって突然のようにPASMOのホームページに還元事業参加の知らせがでました。これには、みなが驚きました。「いよいよやる気なんだ」と、私もそう思って、PASMOの動きを取材しようとしました。

すると、すぐにICOCA(イコカ)も参加するようだという噂が流れました。ICOCAはJR西日本の交通系電子マネーでした。Suicaほど普及していませんが、スペックはSuicaとほとんど同じなので便利に使えます。

そのICOCAが参加するとなれば、「ウチも」というので、今度は同じ関西の私鉄のPiTaPa(ピタパ)がサービス参入を発表しました。

PiTaPaは大阪の地下鉄や阪急、阪神といった私鉄で使うことができますが、ここまで手間取ったのも理由があります。他の交通系電子マネーとの違いを出すために、特にSuicaやPASMOとの違いを出すために、「入会審査」を設けるなど、独自の後払い方式を採用していましたから、仕組みが複雑なのです。それもあって時間がかかったようです。

さらに名古屋にも動きが出てきた

そうする間に、名古屋地区からはmanaca(マナカ)が出てきました。これは名鉄の交通系電子マネーですが、ポイントサービスのついたエムアイシー発行のものと、ポイントサービスのない名古屋交通開発機構発行の2方式がありました。参加を表明したのは、ポイントサービスのついたエムアイシーの方でした。

また、同じ名古屋地区のJR東海のTOICA(トイカ)は、還元事業者に登録はしていましたが、現場でポイントサービスを行っていないために、今回は見送りになったようです。

九州については、JR九州のSUGOCA(スゴカ)が手を挙げ、西鉄のnimoca(ニモカ)も参加を表明しました。一方で福岡市交通局のはやかけんは参加しませんでした。

また北海道のKitacaも参加を辞退しています(こうした動きは9月20日になってやっとはっきりしたのです)。

ポイント発行企業が有利になる図式

ポイント還元制度対象 Suica、ICOCA、TOICA、SUGOCA、PASMO、Pitapa、manaca(エムアイシー発行)、nimoca
ポイント還元制度対象外 manaca(エムアイシー発行でないもの)、TOICA、はやかけん、KITACA

私たちが何気なく利用しているポイントサービスですが、その有無が、今度の還元事業では大きな影響を企業に与えているといえるでしょう。

ポイントを展開していた企業が還元事業をすんなり受け入れてお得を取り、ポイントに消極的だった企業は、何もできず、還元事業への参加を見送らざるをえませんでした。

その結果、manacaの一部、TOICA、はやかけん、KITACAの4社は、残念ながら参加することができませんでした。

それでも、東京・名古屋・大阪の大都市圏で一定規模以上の業者が参加できたので、多くの人がこのポイント還元の恩恵を享受することができました。

しかし、全国の利用者の側からいえば、今回不参加だった事業者にこそ、国は援助の手をさしのべて欲しかったと思います(国はある程度の資金を用意したといいますが、時間・予算的な問題で4社は参加を断念したと言います。残念なことです)。

交通系電子マネーの参加で急速に進むキャッシュレス

岩田昭男さんの画像

しかし、わずか15日間で全国の主な交通電子マネーが参加表明したのは驚くべきことでした。

キャッシュレスといっても、これまではQRコード決済業者中心で、キャンペーンで引っ張るしかなかったのですが、毎日使う交通系電子マネーの本格参戦で、やっと地に足がついた「リアル感」のあるサービスになるのではないかと期待します。

キャッシュレスについてはそういう意味では、追い風が吹き出したといえるでしょう。

ただ問題もあります。利用するのにいちいち登録したり、細かな付帯条件があるので、敬遠する向きが多いのです。そこで、ここでは主力3マネーについてポイント還元の内容をざっとまとめてみました。

Suica

Suicaは、事前にJREPOINT WEBサイトから登録が必要です。その後で、還元ポイントをWeb上でSuicaにチャージできるから、この点は便利。

また、Suicaはカード型でなくモバイルSuicaがオススメ。JR東日本の在来線利用額に応じて貯まるポイントは、カード型は200円で1ポイントですが、モバイルSuicaは 50 円ごとに1ポイント。ビューカードをモバイルSuicaに紐付けて定期券を買えば、合計3.5%の還元率になります。

というのも、JR東日本系の「ビューカード」をSuicaチャージに使うと通常の3倍の1.5%をポイント還元。モバイルSuicaでの定期券購入による2%のポイント還元と合わせて、3.5%になるからです。

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PASMO

定期券をTo Me カードで購入すると還元率0.5%相当のメトロポイント、同率のカードポイントが付き、合計1%になります(事前に専用サイトから会員登録が必要)。

ただし、政府のポイント還元の登録は別で、「PASMOキャッシュレスポイント還元サービス」からおこないます。獲得ポイントは3カ月間まとめて還元されますが、実はその際に東京メトロや各私鉄などの駅の窓口に行く必要があるから注意してください。

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ICOCA

大阪のICOCAも乗車ポイントがあります。「時間指定ポイント」は1か月間の適用区間で平日10~17時に入場または出場した場合の利用と土休日の終日利用について、4回目以降の利用1回ごとに運賃の50%または30%のポイントが貯まります。

「利用回数ポイント」は、1か月間の同一運賃区間の11回目以降の利用1回ごとに運賃の10%のポイントが貯まりますから、お得度の高いサービスです。

まとめ

いよいよ始まったキャッシュレス決済ですが、交通系電子マネーについていえば、波瀾含みのスタートになったといえます。

成功のカギは「どこまで事業者が自らの手続きをシンプルにできるか」、やはり還元率がいくら高くても使い方が複雑では利用する人はありません。簡便さ、シンプリシティが第一ではないでしょうか。

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