IPO銘柄は上場後買っても儲かるのか?!上場122銘柄の騰落率を徹底検証
「IPOアノマリー」という言葉を皆さんご存知でしょうか。
IPOアノマリーとは、「未公開企業が初めて上場するIPOは上場後の株価は市場が期待する平均値より高くなる」とことをいいます。
簡単に言えば、IPO(新規公開株)銘柄は、上場して値段がついた時点で割高まで買われる傾向があるのです。
このアノマリーは日本だけではなく、世界各国共通とされています。
投資家の全てが合理的であるならば、このようなことは起こらないはずであるため、アノマリーと呼ばれています。
近年の日本ではヤフーなどが一世を風靡していた2003年頃、このようなIPOアノマリーを頻繁に見る機会がありました。
当時は「IPOバブル」と呼ばれ、株価が短期間で3倍や5倍になるような時代でした。
PER(株価収益率)も数百倍は当たり前で、企業が倍々で売上高を伸ばしていく高成長を織り込んだような株価でした。
現在では若干落ち着いているものの、当時と同様IPO銘柄は公開価格を大きく上回るケースが多くみられます。
IPO銘柄が好きな人や、IPOアノマリーを知っているけど様子見している人に向けて、気になるIPO銘柄の上場後の動きについて検証していきましょう。
上場日の終値と経過日数の終値の騰落率を比較
まずは、検証する銘柄の選定と計算方法について簡単に説明します。
銘柄は2015年6月16日~2017年4月7日までの間にマザーズ市場、JASDAQ市場(※東証一部、二部は市場変更もあり、値動きがIPOと言い難いので含まない)に上場した銘柄を対象にします。
この期間の上場した銘柄名でいうと、ネットマーケット【6175】からヘリオス【4593】までを対象にしています。
2年弱の期間ですが、この期間だけで122の銘柄が新規上場しています。
数値は初値が付いた日の終値と、一定日数が経過した日の終値の騰落率を算出していきます。
ネットマーケット【6175】ですと、上場初日に初値が付いて1,630円、次の営業日は1,530円、3日目は1,370円が終値ですので、以下のような騰落率になります。
経過日数 | 終値 | 騰落率 |
---|---|---|
1日目 | 1,630円 | - |
2日目 | 1,530円 | (1,530-1,630)/1,630=▲6.13% |
3日目 | 1,370円 |
(1,370-1,630)/1,630=▲15.95% |
この計算方法で122銘柄の騰落率の単純平均(総和÷サンプル数)を出すと、以下の表になります。
経過日数 |
上場初日終値との騰落率 (単純平均) |
サンプル数 |
---|---|---|
2日目 | +0.65% | 122 |
3日目 | +1.09% | 122 |
4日目 | +1.98% | 122 |
5日目 |
+1.54% |
122 |
9日目 | +1.77% | 120 |
10日目 | +0.75% | 118 |
14日目 | ▲2.30% | 113 |
18日目 | ▲6.08% | 108 |
20日目 | ▲4.34% | 108 |
40日目 | ▲2.28% | 103 |
60日目 | ▲1.42% | 101 |
80日目 | ▲4.59% | 89 |
100日目 | ▲1.96% | 81 |
200日目 | ▲2.85% | 56 |
(※)終値が無い場合は前営業日の終値を使用
(※)分割した株は分割調整を行う
(※)上場初日に初値が付かなかった場合は翌営業日に持越し
次の項目から、「2日~5日・20営業日~60営業日・中期」と解説付きで詳しく見ていきます。
上場から2日~5日の動き
短期的な動きを把握するため、初値から2日~5日の動きを見てみましょう。
初値から5営業日経過後がおおよそ1週間程度経った時期です。
経過日数 | 上場初日終値との騰落率(平均) | サンプル数 | 上昇もしくは横ばい数 | 下落数 | 最大騰落率 | 最小騰落率 |
---|---|---|---|---|---|---|
2日目 | +0.65% | 122 | 54 | 68 | 30.67% | ▲22.75% |
3日目 | +1.09% | 122 | 48 | 74 | 79.75% | ▲28.87% |
4日目 | +1.98% | 122 | 49 | 73 | 128.83% | ▲28.26% |
5日目 | +1.54% | 122 | 50 | 72 | 96.32% | ▲35.83% |
平均値を見ると、初値が付いた後も1週間程度は騰落率の平均はプラスになっています。
しかし、上場初日終値から『上昇もしくは変わらずの銘柄数』よりも『下落数』のは投資をする上で注意しなければいけません。
騰落率の平均はプラスなのに、銘柄数で見ると下がっている銘柄が多いというのは、『上がる株は上場後もそのまま強く上がり続けるが、それ以上の銘柄数が下がる』ということの裏返しでしょう。
騰落率が最大となった4日目の128.3%を記録した銘柄は、JQスタンダードのアクサスHD【3536】です。
上場初日は163円で終了しましたが、4営業日後は373円まで上昇して取引を終えています。
上場初日の終値で拾った人は短期間で倍以上になった計算になりますから、短期投資としてはうまみのある取引になりました。
逆に、5日目に-35.83%を記録してワーストになったのは、バリュゴルフ【3931】になります。
3,355円で初日を終えた後、5日目には2,153円まで下がっています。
騰落率(平均)は13営業日経つとマイナスに転じ、その後はマイナスが大きくなっていきます。
3週間くらい経つと目新しさも消えて買い手が消え、下げる銘柄が増える傾向がIPO銘柄にはあるのかもしれません。
上場から20営業日~60営業日の動き
今度は上場から20営業日~60営業日経過後の騰落率平均を見ていきます。
20営業日後はおおよそで1か月、40営業日は2か月、60営業日は3か月といった中期の期間で、注目度も薄れてきて売買や値段も本来の実力に近づいてくる時期です。
経過日数 | 上場初日終値との騰落率(平均) | サンプル数上昇もしくは横ばい数 | 下落数 | 最大騰落率 | 最小騰落率 | |
---|---|---|---|---|---|---|
20日 | ▲4.34% | 108 | 33 | 75 | 194.71% | ▲55.68% |
40日目 | ▲2.28% | 103 | 33 | 70 | 266.26% | ▲64.19% |
60日目 | ▲1.42% | 101 | 29 | 72 | 151.68% | ▲63.01% |
騰落率の平均は20日営業日後が▲4.34%といった数値で一番低くなっていますが、注目すべきは下落数の数です。
上場初日からの下落している数が上昇している数の倍以上の数になっています。
1か月程度経つとIPO銘柄の勝率は極めて低くなり、その後も中々回復しないでストレスの溜まる展開になることが多いとデータから読み取れます。
そんな中でも、初日の終値から40日営業日後に266.26%もの上昇を続けている銘柄があります。
266.26%を記録したのはアカツキ【3932】です。
上場初日終値は1,802円でしたが、40営業日後には6,600円まで上昇しています。
3倍以上ですから、2か月程度の短期トレードとしては十分な値幅が取れたのではないでしょうか。
目立ったワースト銘柄は同じく40営業日後に-64.19%を記録したダブルスタンダード【3925】です。
こちらは上場初日に5,750円で終了していますが、その後は2,059円まで下落しています。
上場から約200日から240日の動き
最後に、上場から200日と240日の騰落率平均を見ていきます。
1年間の営業日数は240日位ですので、ちょうど1年くらい経ったころの騰落率になります。
経過日数 | 上場初日終値との騰落率(平均) | サンプル数 | 上昇もしくは横ばい数 | 下落数 | 最大騰落率 | 最小騰落率 |
---|---|---|---|---|---|---|
200日目 | ▲2.85% | 56 | 15 | 41 | 332.49% | ▲71.33% |
240日目 | ▲0.51% | 52 | 21 | 31 | 193.28% | ▲75.06% |
騰落平均だけ見れば、全体では初日の終値から大きく下がっているわけではないようです。
しかしながら、上昇銘柄数は下落銘柄数よりも低く、上場初日に飛びついた人は含み損を抱えている人の方が多いことになります。
銘柄ごとに見ていくと、3倍以上と一部の大きく上昇している銘柄が平均を押し下げていくのを防いでいるため、平均値がそれほど悪くなくなっています。200日目の332.49%を記録した銘柄はブランジスタ【6176】です。
この銘柄は上場初日の終値こそ551円で終わったものの、200日目には2,383円まで上昇しています。
最高値は上場日から156日目の12,850円で、初日終値からおよそ22倍まで上がっていますこの数字が全体の数字を大きく押し上げ平均で見ると堅調に見える理由のようです。
「初日終値でIPO銘柄を買って1年程度持つと勝率が悪い」と言える結果となっています。
上場後のIPO銘柄にも夢があるが数でみるとマイナス
ここまで検証してわかったことをまとめると、以下のようになります。
- 一部の銘柄は上場後に買っても上がる銘柄はとても上がる(最大で20倍以上も)
- 上がる銘柄は上がるが、下がっている銘柄の方が数は多い
- IPOアノマリーに見えるものは確認できる
上場後にどの銘柄が人気化し、20倍になるかは予測不能な部分があります。
ブランジスタのような人気化する銘柄を掴めれば、大きく利食いができるチャンスもあります。まさに、夢のある取引と言えるかもしれません。
しかし上がるか下がるかの確率だけで言えば、200営業日後の上昇数15に対する下落数41の数値が示すように、半々よりもさらに低くなり、「当たりよりはずれの方が多く、期待率もマイナスなくじ」と言えそうです。
「公募で外れてしまったら、銘柄に魅力を感じても安くなるまで様子を見る」くらいが正しいIPO銘柄との付き合い方だと言えるでしょう。
まとめ
- IPO銘柄を上場日の終値で購入したとして検証
- 1週間くらいなら平均で見ればプラス、13営業日目くらいからマイナスに
- 初日の終値より下げている銘柄数の方が圧倒的に多い
- 「IPOアノマリー」と言えそうな現象が確認できる
- 公募で外れてしまったら、長期投資の人は手を出さないのがベター
著者:先ず隗より始めよ
現役金融マン。証券アナリストの資格あり。ちょっとマニアックな金融知識やニュースをわかりやすく書いていきます。