Y!mobileは格安SIMではありません。MVNOの基本を解説します。
格安SIM(正式名:MVNO)が注目を集めており、今や「定番」や「大手」と言われるような存在もでてきました。
そんな中で安さを売りにしたCMを多く行っているYmobileに人気が集まっていますが、実はYmobileはMVNOではありません。
同様にCMを多く行っているUQmobileを提供するUQコミュニケーションズはMVNOであり、MNOでもあります。
何を言っているのか、さっぱりわかりませんよね。
ここでは「そもそもMVNOとは何か」という基本の解説をしていきます。
「実質的な通信業者」とするのが適訳か。MVNOの意味
MVNOを日本語訳すると、「仮想移動体通信事業者」となります。移動体通信とはモバイル端末で利用する通信を指します。
通信事業者は色々な種類があるのですが、ここでは「携帯電話回線の提供をする会社」を言います。
日本で言う所の「大手キャリア」のような存在と考えて貰えばいいです。また、移動体通信事業者は「MNO」となります。
ではMVNOの「V」とは何かですが、これは「virtual」のことです。
最近ゲーム機も販売され注目を集めている「Virtualreality(通称:VR)」を「仮想現実」と訳すのと同じように、MVNOを「仮想移動体通信事業者」と訳すことが多いです。
しかし、この「virtual」を「仮想」と訳すのは勘違いを起こしやすい翻訳であって、よく批判がなされています。仮想とは本来「仮に想定する」という意味なのですが、virtualは仮想以外にも「実質的な」という意味があります。
前述のvirtualrealityも「仮に想定された現実」ではなくて「実質的には現実」と捉えれば意味が分かりやすいかと思います。このvirtualを仮想と訳す行為はIT分野で定着化しているので、MVNOの翻訳でも同様に訳されていますが、本来の意味合いとしては「実体は違うけど実質的には通信事業者」となります。
何が「実質的」か。MVNOとMNOの違い
MVNOの何が実質的かというと、自分では通信設備を持って居ないという部分が違うためです。MNO、つまり大手キャリアは自社で通信設備を運営や維持をしています。
しかし、MVNOは自前の通信設備を持って居ません。そこでMNOから一定の通信帯域を借りて、それを顧客に販売しています。
「自分では通信設備を持って居ないが通信サービスを提供している会社」つまり「実質的にはキャリアと変わらない会社」をMVNOと呼ぶのです。
一般顧客には関係が無い「MVNE」
ちなみに「MVNE」という業種もあります。一般顧客にはほとんど関係ありませんが、「Enabler」つまりMVNOの設置を助ける業種のことを言います。
具体的にはMVNOに参加したい企業に対してコンサルティング業務を行うほか、MNOとの交渉やメールサービスなどの提供サービスを作ったりします。
いわばMNOとMVNOの間に立って交渉などをスムーズに通すアシスタント的な業種です。
MVNOのメリット・デメリット
MVNOのメリットは「安価な通信料金」でデメリットは「速度が遅い事」ですが、これは上に書いたようなMVNOの構造から来ている部分が大きいです。
MVNOがなぜ安価な通信を提供するかというと、大手キャリアと差別化を行うためです。
基本的な部分は大手キャリアと同じなので、どこかで大手キャリアと差別化する必要があります。
そこで、借りた回線を出来る限り小分けにして、安価に売ることで差別化を図っているのです。
また、運営に一番費用が必要になる店頭を廃止してアフターサービスを一括化するなどの工夫を凝らし、低価格を実現しています。
大手キャリアから借りている以上、大手キャリアより通信速度が速くなることはありません。
これはよく道路で例えられるのですが、大手キャリア自分達で通信帯域という大きな道路を持っており、利用者が多くてもそこに余裕があるので早い速度を維持できます。
また、利用者が増えれば自分たちで道幅を増やす工事をすることができます。それでも、新年のあけおめメールなどで利用者が急激に増えるときは道路が混雑し、通信速度は遅くなってしまいます。
MVNOはその道路の一部を借りているので、道幅自体が大手キャリアより道路自体が狭く、安価な料金で沢山の人を集めるので、どうしても狭くなってしまいます。
それでもちゃんとした会社は利用者の増加に伴い、追加で大手キャリアから道を借りて速度の維持に取り組んでいます。
しかしながらいい加減な格安SIMだと、利用者は増やしても回線の増強などしないので、ひどい場合は繋がらないということもあり得ます。
冒頭の疑問についての回答。Ymobile編
冒頭に書いたようにY!mobileはMVNOではありません。Y!mobileですが、これは名実共にソフトバンクが運営し提供しているブランドです。
元々、Y!mobileはウィルコムとイーモバイルが合併して生まれた会社です。この合併騒動の時、Softbankが筆頭株主である「Yahoo!株式会社」が買収に参加する話がでたため、「ワイモバイル株式会社」という社名にしたのですが、結局買収には参加しませんでした。
その後、ワイモバイル株式会社をSoftbankが買収します。ですが、Ymobile自体は商品ブランドとして提供しているという形になります。
別の分野で考えると、同じグループの会社が提供しているが商品や値段帯が違う「ユニクロ」と「GU」の関係に近いと言えるでしょうか。Y!mobileはSoftbankと同じ会社ですから、通信設備を自前で持っていることになり、MVNOではありません。
また、Y!mobileとSoftbank間での乗り換えは「MNP」ではなく「番号移行」となります。
Y!mobileの店頭で「auとdocomoからのMNPはキャッシュバック」などというキャンペーンを見る事はありますが、同じ会社なのでSoftbankからの乗り換えキャッシュバックキャンペーンは滅多にありません。
ちなみに、Yahoo!Japanやヤフオクを運営するヤフー株式会社ですが、親会社はアメリカのYahoo!本社ではあるものの、ソフトバンクも筆頭株主として出資しているため、連結子会社でもあります。
ですから、ソフトバンクはYahoo!とよく提携していますし、自社が運営するサービスによく「Yahoo!」という名前を付けます。他にも、Yahoo!もSoftbankのモバイルルーターと同じものを「Yahoo!Wi-Fi」として提供しています。
冒頭の疑問について。UQmobile編
もう一つのUQmobileを提供するUQコミュニケーションズはauブランドを提供するKDDIの完全子会社です。UQコミュニケーションズは自前で携帯電話向けの通信設備を持って居るという訳ではありません。
ですので、auから回線を借りてUQmobileを提供しています。
一方で、UQコミュニケーションズはモバイルルーターの方面でも人気があります。むしろ昔からUQコミュニケーションズを知っているという人は「UQWiMAXの会社」というイメージが強いでしょう。
UQWiMAXとは「WiMAX」という通信技術を使って提供しているモバイルルーターで、無制限プランがあることから、昔から人気がありました。そしてUQコミュニケーションズはWiMAX回線を他社に開放しています。そのため他社でもWiMAXを利用したモバイルルーターを提供しています。
ですから、UQコミュニケーションズは「auから回線を借りてUQmobileを提供するMVNO」であり、「WiMAXを提供するMNO」でもあるのです。
MNO化するMVNO
上に挙げた二社は家電量販店などにも販路を持っており、場所によっては店頭での開通も可能というMVNOの中でも「大手企業」です。
こういった大手企業は顧客を獲得するために、家電量販店に販路を持ったり、モデルルームを都心に設置したりするなど、さまざまなサービスを展開しています。
それ以外にも、端末とのセット販売や追加料金でのアフターサービス、別のサービスとの連携などに力を入れ始めています。
こういったサービス拡大の結果、料金も「格安SIM」と言えるほど安くはない会社も出てきました。こういった傾向を一部の雑誌などでは「MNO化するMVNO」と表現したりします。
まとめ
MVNOとは正確にはキャリアではありませんが、MNOから通信設備を借りて運営する「実質的なキャリア」のことを言います。ですから、Y!mobileは大手キャリアのソフトバンクが運営しているのでMVNOとは言えません。
UQコミュニケーションズはauから回線を借りる「MVNO」ですが、同時にWiMAX回線を他社に貸し出す「MNO」でもあります。