飛騨のUターン促進!「ユーターンシップ」を提供する高山商工会議所にインタビュー
岐阜県高山市にある「高山商工会議所」では、地域を代表する総合経済団体として事業者の悩みを解決するため、さまざまな支援や事業を行っています。
同所が力を入れて取り組んでいるのが、「ユーターンシップ」事業です。飛騨地域が抱える人材不足の問題を解決するために、飛騨市・高山市・下呂市が市の垣根を超えて新たな取り組みを始めました。
今回は高山商工会議所の野尻英雄さんと島拓也さんに、「ユーターンシップ」について詳しく伺いました。
観光と家具づくりのまち、岐阜県高山市
ー本日はよろしくお願いします。まず高山市の環境や観光スポット、特産品などについて教えてください。
野尻さん:高山市は、北アルプスの麓に位置する広大な市です。市街地から新穂高まで車だと約1時間でアクセスでき、毎年多くの観光客や登山客の方がいらっしゃいます。
高速道路がつながったことにより富山名古屋へは約2時間で行けますし、長野県松本方面へも抜けることができます。以前に比べてアクセスは良くなりました。
高山市は約100年前から家具作りが盛んで、飛騨の家具は全国的に有名です。また、飛騨高山観光も産業の大きな柱となっています。
ー海外から観光に来られる方も多いのでしょうか?
野尻さん:コロナ前より現在のほうがインバウンドが非常に増えている印象です。市内を歩いていても日本人より海外の方を探すほうが簡単なほど、非常に多くの方が観光にいらっしゃっています。
飛騨地域へのUターンを促進するため「ユーターンシップ」を開始
―高山商工会議所のご活動について教えてください。
野尻さん:商工会議所は地域を代表する総合経済団体として活動しており、主に小規模事業者などの経営支援を中心に事業を展開しています。
具体的には、日々事業者さんの経営に関する悩みごとの解決に向けてご相談に対応し、専門家を派遣したり、国が提供している補助金の獲得に向けた支援をしたりしています。
昨年からは、「飛騨地域にUターンで帰ってきてほしい」という思いで「ユーターンシップ」という事業に力を入れて取り組んでいます。
飛騨高山の人口は年々減少傾向にあり、また、地域に大学がないため若者が県外への進学後なかなか帰ってこないというのが現状です。ユーターンシップは、飛騨高山を若者が帰ってくる地域にするために、市と協力しながら取り組んでいます。
―野尻さん、島さんも高山市ご出身ですか?
野尻さん:はい。私は高山市の出身で名古屋の大学に進学しました。卒業後はそのまま名古屋で就職し、その後東京へ転勤となり、2年前にUターンで地元の高山市へ帰ってきました。
高山へ戻りたい人の気持ちがわかりますので、「ユーターンシップ」はまさに自分ごとの事業だとも感じています。Uターンをした経験も活かしながら、飛騨地域の企業の魅力を伝えていきたいと思っています。
島さん:私も高山市の出身で名古屋に進学し、卒業後は高山市とは別の岐阜県内の企業に就職しました。5年前にUターンで高山市に戻り、今に至ります。
気軽に参加できる会社見学バスツアーも実施
―「ユーターンシップ」を開始した経緯を教えてください。
野尻さん:「ユーターンシップ」は、「Uターン」と「インターンシップ」を掛け合わせた造語です。少しでも飛騨の企業を知ってもらいたいという思いで、最初は飛騨地域の飛騨市、高山市、下呂市の3つの市の企業が20社集まり、昨年の7月から事業をスタートさせました。
我々は通常、高山市に関連した業務を行っていますが、「ユーターンシップ」に関しては初の試みとして飛騨市・下呂市とともに市をまたいで活動をしています。というのも、先ほどお話したように毎年非常に多くの学生さんが県外に進学され、そのまま飛騨地域に戻ってきてもらえないことが飛騨地域全体の共通の課題となっているからです。
飛騨の企業を全く知らないまま、進学先などでの就職を選ばれてしまうことを避けるため、少しでも飛騨の企業を知ってもらえるきっかけになればとこの事業を始めました。
―バスツアーも実施されたそうですね。
野尻さん:はい。初年度は活動を周知する広告活動をメインに行いましたが、今年(2023年)から高校生も対象にした会社見学バスツアーを開催しました。19社の企業を6日間のコースで振り分け、約50名の高校生と大学生に参加していただきました。
「ユーターンシップ」は、もともと大学3年生をターゲットとしたインターンシップ事業ですが、学生の多くは飛騨を知らずに進学しているため、そもそも飛騨でのインターンシップに興味を持ってもらうことが難しく集客に苦労しました。
そのため、まずはこの取り組みを知ってもらうことを目的に、対象を高校生まで広げてバスツアーを開催することにしたのです。バスツアーの参加者が数年後、就職活動をする時に「次はインターンシップに参加してみようかな」と思っていただけることを期待しています。
初の試みで上手くいくのか不安もあったのですが、終わってみると好評の声をたくさんいただけました。来年度も継続し、長い目で見ながら種まきして成果が出るのを待ちたいと考えています。
―インターンシップの内容についてもご紹介ください。
野尻さん:今年の参加企業は現在23社と少し増えました。業種は製造業や金融、観光、食品関連など、さまざまな企業に参加いただいています。
企業様にはリアルな就業体験ができるようにお願いをしており、座学ではなく体験をメインとしたプログラムになっています。実際に働かないとわからない、仕事の裏側の部分も見られるインターンシップになっていると思います。
―特に人気の業種はありますか?
野尻さん:家具製造メーカーの「ユーターンシップ」申し込みは少し多い印象です。飛騨が家具製造で有名なため、UターンだけでなくIターンで木工関係の技術を学びに来られる方も多くいらっしゃいます。また、観光ホテル業も人気が高いです。
飛騨地域以外からの参加者にも好評
―「ユーターンシップ」、バスツアーに参加された方の反応を教えてください。
野尻さん:バスツアーという形で友達と参加できるようにしたことで、会社見学のハードルを下げ、高校生の皆さんも気軽に参加できたようです。「この会社が気になって申し込みました!」という、目的をもって参加された方の声もいただきました。
「企業の対応が良かった」「普段見られない会社の中が見られた」「来年も参加したい」といった声もいただいています。
私たちは少しでも「飛騨で働く」という選択肢を持っていただければと思っているので、学生さんたちに楽しんでもらえるプログラムの提供を心がけています。
―県外からバスツアーに参加された方もいらっしゃったそうですね。
野尻さん:はい。私たちも驚いたことに、高山や飛騨が地元ではない方にも参加いただきました。「自然が豊かだし、飛騨の方はとても温かい」という声をいただいたのは嬉しかったです。「ユーターンシップ」は地元だけでなく県外の大学にもアプローチをかけているので、広報活動の成果を感じました。
―仕事を体験できるだけでなく、飛騨の雰囲気を感じられるプログラムでもあるのですね。バスツアー受け入れ企業の反応はいかがですか?
野尻さん:企業側からも「地元の学生に自社を知ってもらうきっかけになった」などポジティブなフィードバックをいただきましたし、より良いツアーになるように工夫を重ねながら学生を迎え入れていただきました。
働き手をただ待つのではなく、商工会議所と企業側が積極的に取り組みをすることで、新しい風が吹くのではないかと思います。
企業の垣根を越えた情報交換も活性化
―「ユーターンシップ」を開始されてから、高山商工会議所のご活動全般に変化はありましたか?
野尻さん:これまで私たちが接するのは会社の代表者や個人事業主の方が中心で、総務や事務のご担当者と密にやり取りをすることは多くありませんでした。「ユーターンシップ」を通じて各企業の総務部や人事ご担当者と接する機会が増えたことは良かったですね。
ちなみに「ユーターンシップ」事業は定期的に総務・人事の方にも参加いただき、ミーティングを開催しています。企業の枠を超えて情報交換をする場を設けられたことも、「ユーターンシップ」の一つの成果だと感じています。
「ユーターンシップ」で飛騨高山の仕事・生活を知ってほしい
―今後のご計画や目標がありましたらお聞かせください。
野尻さん:まずは年間で約35名の方に参加していただきたいと考えています。「飛騨でインターンシップを受けるならユーターンシップ」と言われるくらい、知名度を高めたいです。また、IターンやJターンで高山に戻ってくる方にも「ユーターンシップ」を活用して飛騨の企業を知っていただければと思っています。
実は私自身、東京から高山に戻る際は遠距離の転職活動だったということもあり苦労しました。当時「ユーターンシップ」があれば、就職先を探しやすかったのではないかと思います。
島さん:参加者がまだまだ少ない段階ですので、参加企業数×2名ずつを目下の目標に、広報活動を展開していきたいと考えています。飛騨の企業を探す際にはぜひ「ユーターンシップ」を有効活用していただきたいです。
―最後に、読者にメッセージをお願いします。
野尻さん:飛騨は観光地のイメージが強いかもしれませんが、地元密着で元気な企業や全国的・世界的にも活躍している企業が多数ありますので、広い世界を相手に仕事をすることも可能です。また、自然豊かな環境での生活や子育てをしたいと考えている方にとっても最高の環境が整っています。
飛騨地域に興味がある方はUターン、Iターン、Jターンでぜひ来ていただき、私たちと一緒に飛騨地域を盛り上げていただければ幸いです。ご興味ある方は、ぜひ「ユーターンシップ」で検索してみてください。
―本日は貴重なお話をお聞かせいただき、ありがとうございました!
高山商工会議所 中小企業相談所 業務支援員
高山商工会議所 中小企業相談所 経営支援員
気になるけど、なかなか話しづらい。けどとても大事な「お金」のこと。 日々の生活の中の身近な節約術から、ちょっと難しい金融知識まで、知ってて得する、為になるお金の情報を更新していきます。