モノはこれからのコミュニケーションツール。鯖江商工会議所の事業支援をインタビュー
福井県鯖江市にある鯖江商工会議所では、地域の中小企業の事業支援を積極的に展開しています。なかでも「モノづくりのまち」として知られる鯖江ならではの先端的なイベントは、大きな反響を呼びました。
今回は鯖江商工会議所の事務局長 田中英臣さんに、モノづくりを通じた産地の新しいあり方を考える展示会「MADE FROM(メイド・フロム)」についてお話を伺いました。
モノづくりのまち、福井県鯖江市
―よろしくお願いします。まずは鯖江市と鯖江商工会議所について教えてください。
田中事務局長:鯖江市は、福井県の中央にある「モノづくり」で知られるまちで、眼鏡・漆器・繊維が三大基幹産業となっています。しかし現在では生産額・出荷額ともに減少しており、地場産業を取り巻く環境は厳しくなっています。
鯖江商工会議所は、活気あるモノづくりのまち、人の集まるまちの実現に取り組んでいる経済団体です。
当所の1階は会員事業所のブランド拠点になっていまして、カフェやソファーがあり、壁一面がモニターになっているプレゼンスペースがあります。地下は企業様の商品PRに活用できるYouTubeスタジオとして使用しています。
1階に実際に商品を置くことで消費者の反応を見ることができ、ブレーンストーミングや3Dプリンターでプロトタイプづくりができる空間もあるので、アイデア出しからブラッシュアップ、商品化、商談準備までとデザイン思考の一連のプロセスを行えることが特徴です。
関わる人全員を「ツクリテ」と考えるハイブリッド展示会
―本日は鯖江商工会議所さまが主催する展示会「MONOZUKURI EXPO MADE FROM(モノづくりエキスポ メイド・フロム)」についてご紹介いただけるそうですね。
田中事務局長:「MADE FROM」は、2022年1月~2月に初開催したリアルとバーチャルのハイブリッド型展示会です。2023年も2回目の開催を終えました。
鯖江はモノづくりのまちとして有名ですが、「モノ」自体を「コミュニケーションツール」として再定義したのがこの展示会のポイントです。
モノづくりというと職人さんだけがフォーカスされがちですが、私たちは職人さんだけでなく、モノがお客さんに届くまでに関わる人全員がそれぞれの役割をもつ「ツクリテ」だと考えています。デザインの源は消費者ニーズですから、消費者もツクリテです。
経理担当者や配送ドライバーの方なども含め、全ての人の思いが積層して形になったものが「モノ」だと定義しました。
無形である人の思いが集まって形を成し、その思いは受け取った人にも宿ります。そう考えると「モノ」はこれからのコミュニケーションツールですから、モノづくりにおける新時代の幕開けということで「MADE FROM」を始めました。
モノの「解像度」を上げる4つのプラットフォーム
―2023年に開催された第2回「MADE FROM」について詳しく教えてください。
田中事務局長:今年度はモノづくりに関わる企業とモノ自体の本質的な魅力を見える化し、世界に発信することを目的に「RESOLUTION/解像」というテーマを据えました。
2022年に開催した第1回のテーマは「距離をなくす、日本の衝撃を鯖江から」だったのですが、産地と国内外の消費者との距離をなくすには、消費者がモノに対して多角的にアプローチできることが重要だと考えました。
そこで、リアル空間とバーチャル空間をかけ合わせて世界中どこからでもアクセスできるプラットフォームを設け、モノに対する「解像」度を上げるというテーマにしたのです。
―解像度を上げるために、どのような仕掛けをされたのでしょうか。
田中事務局長:メインイベントと3つの特設展、合わせて4つのプラットフォームをつくりました。メインイベントは「SANCHI 2023」と題した、産地の方々と唯一インタラクティブにコミュニケーションがとれる8日間のイベントです。
人とモノ、情報を当所のリアル空間に集め、産地企業による展示会やトークセッション、体験型ワークショップなどを開催しました。
このメインイベントを支えるプラットフォームとして、「モノ」を切り口にモノづくりの解像度を高める特設展「Digital twin exhibition(デジタル・ツイン・エキシビジョン)」、「場」を切り口にモノづくりの解像度を高める特設展「Virtual mall(バーチャル・モール)」、そして「人」を切り口にモノづくりの解像度を高めるパリの特設展「Paris satellite exhibition(パリ・サテライト・エキシビジョン)」を設けました。
「モノ」「人」「場」を切り口に解像度を高める
ーそれぞれの特設展について詳しくお聞きします。まず「Digital twin exhibition(デジタル・ツイン・エキシビジョン)」について教えてください。
田中事務局長:この特設展は、今までにない「モノ」の見え方を体験できる場として設けました。
モノを糸で吊る、什器に反射させるなど、見せ方をキュレーションすることでさまざまな角度からモノの美しさや価値を再発見できるという展示です。リアル空間だけでなく、オンライン会場も設け、PCやモバイル端末からも参加できるようにしました。
―「Virtualmall(バーチャル・モール)」は「場」を切り口にしたとのことですが、こちらはどのような展示なのでしょうか。
田中事務局長:バーチャル・モールは「MONOZUKURI PLANET SABAE」と名付けました。メタ空間に鯖江が誇る3つの産業「眼鏡」「漆器」「繊維」の商品があり、クリックすると商品や産地企業についてのリアルな情報が得られます。
もちろんその場で購入もできます。3D空間を探検しながら買い物ができるこのバーチャル・モールは、ほかに類を見ない取り組みです。
―消費者と産地、モノがシームレスにつながるプラットフォームなのですね。パリの特設展についても教えてください。
田中事務局長:パリの特設展は、「リアル」を深堀した取り組みです。2022年に初開催した「MADE FROM」から、「やはりモノは直接手で触れないと良さがわからない」という課題を見出だしました。これはリアル体験とバーチャル体験の距離を縮められないから生じる課題です。
今回はパリに2か月間の展示会場を作り、39社の商品を実際に展示しました。会場ではVRゴーグルを使って、モノに関わる「人」の情報も見ることができます。その商品をどんな人がどのような思いをもって作ったのか、あるいは売っているのか。さまざまな立場でモノに関わる人の情報を集め、シリコンバレーの企業とコラボしてこれらをデータ化し、AIが読み取れるようにしました。
このサテライト会場が目指したのは、「モノとは人の思いが形になったものだ」ということを感じていただくことです。在仏の日本大使館や商工会議所などにも広報活動へ協力いただいた、非常に稀なイベントだと思います。
これまでにない「感動的な出会い」をつくるXR技術
―「MADE FROM」において、DX(デジタルトランスフォーメーション)がポイントとなっているようですね。
田中事務局長:モノづくりに対する解像度アップを加速させるのがDXです。私たちは3つのDXチャレンジをしています。
まずXR(クロスリアリティ)体験です。ARグラス等を活用した購入システムを通じて、没入感のあるXR体験および購買体験を提供します。
これによって、消費者は購入前から、感動とともにモノづくりのリアルを知ることができます。
田中事務局長:2つ目のDXチャレンジは、海外YouTuberプロモーションと越境ECのワンストップサービス「CROSS BORDER SABAE」です。
このサービスは、全国の中小企業が、商品を低予算で気軽に海外の一般消費者や小売店へ販売できる越境ECを提供しているのがポイントです。
消費者は全世界からシームレスに商品を購入できます。
田中事務局長:そして3つ目のDXチャレンジは、真贋判定システムの導入です。JAPAN MADE事務局株式会社のブロックチェーン真贋判定システム「HyperJ.ai」を導入しました。
近年は模倣品の購入被害が世界的に問題となっていますが、私たちは、ブロックチェーンを活用した世界初PR動画付き真贋判定システムを提供しています。
ブロックチェーンのなかに日本語と英語、フランス語の3言語でその企業に関する映像を組み込んでいます。
海外展開で生じうる模倣品被害から商品価値を守り、ビジネス価値を担保できるということです。
消費者に購入後の信頼・安心を提供することで、リピート購入にもつながります。
購入前・購入時・購入後の体験価値を最大化することで、ファンを増やせると考えています。DXがもつ役割の一つはファンを作り、増やすことです。それが積み重なると「ブランド」になっていきます。
参加企業は海外展開にも意欲的に
―「MADE FROM」のご来場者や参加企業の方々からは、どのような反響がありましたか?
田中事務局長:来場者へのアンケートでは、XR体験の満足度がとくに高かったです。参加企業に関しては、今回の開催で9割ほどの企業様に注文がありました。
開催後に取材を受けたテレビ番組内でも「今までは職人や売り手について発信する場が少なかったが、デジタル活用によって詳しく知ってもらうことができた」など、参加企業の方のコメントが紹介されました。
また、事業者の方の海外展開についての考えが変化した点も、大きな成果だと思います。「MADE FROM」に参加される前は海外展開のハードルは高いと考えている方が多くいらっしゃいました。
しかし今回の開催後は、海外展開に対して「どんどん挑戦したい」という回答をした方が43%、「できれば挑戦したい」と回答した方が34%になっています。まず企業側が、海外を市場としてとらえるようになったということは、大きな変化です。
―鯖江商工会議所では、越境EC展開のサポートも充実していると伺っています。
田中事務局長:貿易実務や代金回収のリスクを心配される企業様もいらっしゃると思うのですが、当所ではそれらを全てフォローしています。
また、当所で提供している越境ECプラットフォームは、売り上げが立つまで経費をいただきません。ランニングコストゼロで、売り上げが立ったときに初めて費用が発生しますので、「メルカリ並みに手軽な越境EC」です。
消費者のニーズに近づき、経済効果アップを目指す
―今後の展望をお聞かせください。
田中事務局長:「MADE FROM」の成果は大きいですが、経済効果は今後も伸ばしていく必要があります。2025年に開催される大阪・関西万博を目指し、あと2年でお客様のニーズにぐっと近づけていきたいですね。
ツクリテとモノへの共感を生むことができれば、経済効果はその結果としてついてくると考えています。
最近の動きとしては、京都産業会館ホールで開催されたメタバース展示会において、近畿経済産業局のブースに出展しました。
同局が運営する「関西XRポータルサイト」にも、「近畿地域でXR技術を実際に体験でき、理解を深めることができる施設やコンテンツ」として「MADE FROM」が紹介されています。
以前は当所の活動にあまり興味をもたれていなかった企業様からも、「MADE FROM」を機に相談をお受けすることが多くなりました。今後も経済団体として、鯖江のさまざまな中小企業から信頼される商工会議所でありたいと思います。
―本日は貴重なお話をお聞かせいただき、ありがとうございました!
鯖江商工会議所 事務局長
気になるけど、なかなか話しづらい。けどとても大事な「お金」のこと。 日々の生活の中の身近な節約術から、ちょっと難しい金融知識まで、知ってて得する、為になるお金の情報を更新していきます。