これからカメラを趣味にしたいあなたへ。キットレンズを卒業して2万円台から始める“次”のレンズ
初めて買った、一眼カメラ。「すごく、写りがキレイだ! やっぱりスマホとは全然違う!」と喜んで数カ月がたち、いろいろな人の写真を見ていると、自分には足りない何かを感じ始めるかもしれない。
もちろん、明らかに不足している撮影テクニックや、撮影ロケーションの違いなどはあるだろう。だが、そもそも一眼カメラのボディを買ったときについてきたキットレンズだけでは、できない表現があるのだ。
初めて一眼カメラを手にした人は、このキットレンズで撮影を始める人が多いと思う。だが、カメラの本当の面白さや奥深さは、このキットレンズの“次”にあると言っていいだろう。
私が初めて一眼カメラを買ったのは、もう10年以上前のことになる。キヤノンがエントリー(初心者)向けに販売した、EOS Kiss Digitalのダブルズームキットだった。それまで撮影で使っていたコンパクトデジタルカメラでの写りとは全く違う美しさに、ただただ感動したのを覚えている。それから一眼カメラに魅了され、ボディは11台、レンズは30本以上購入してきた。
2017年ごろ、キヤノンからオリンパスへと機材を買い換えたことから、勢いが加速。わずか10カ月の間に、ボディとレンズだけで総額115万7,800円も購入していた。それほどまでに、レンズは魅力的で、沼なのである。
そこで、カメラやレンズの楽しみ方をもっと知ってもらえるよう、これからカメラを趣味にしたいと思った人がキットレンズからステップアップするための、2万円台から買える比較的安価で手が出しやすいレンズをいくつか紹介したいと思う。また、キットレンズとの違いとして分かりやすいのが「ボケ」感だと思うので、こちらも軸に取り上げていく。
紹介するレンズは「標準域単焦点レンズ」「マクロレンズ」「中望遠単焦点レンズ」の3種類。標準域単焦点レンズは、人の視角に近いと言われる50mm付近の標準画角で、さまざまな被写体に活用しやすい。このレンズに慣れてきたら、マクロレンズ、中望遠単焦点レンズと、どんどん“沼”を広げていってほしい。
そもそも、レンズはどう違う?
まずは、レンズの性能の違いをざっくりと紹介しようと思う。最低でも「焦点距離」と「絞り開放値(レンズの明るさ)」を押さえておくと良い。
焦点距離と画角
焦点距離は「レンズの中心から像を結ぶ点(焦点)までの距離」のこと。焦点距離が変わることで、画角(写せる広さ)が変わる。レンズの商品名に書かれている数字が小さいほど広く写すことができ、数字が大きいほど遠くのものを大きく写すことができる。単位は「mm」で表すのが一般的だ。
本来、画角は角度で表すものだが、スチル(静止画)カメラの場合は35mmフルサイズ換算の焦点距離で表されることが多い。レンズの焦点距離に対して、マイクロフォーサーズの場合は2倍、APS-Cセンサーの場合は1.5倍(キヤノンのみ1.6倍)で計算する。例えば、月をマイクロフォーサーズの300mmレンズ(実焦点距離)で撮影すれば、その月の大きさは35mmフルサイズで600mmレンズを使用した場合と同等となる。これがすなわち35mm換算600mmの画角ということだ。
絞り値(F値)
絞り値(F値)は、レンズの明るさを示す数値。絞りの開きを調整すると、レンズを通る光の量が変わるという仕組みだ。数字(F値)はF1.4、F2、F2.8……というふうに表記される。
数字が小さくなるほど、絞りが開かれてレンズを通る光が多くなるため、明るくなる。逆に数字が大きくなるほど絞りが絞られるので、レンズを通る光は少なくなり、暗くなる。大変ややこしいが、最大絞り(絞り開放)時にF値は最も少なくなる。また、レンズによって最大絞り値と最小絞り値は変わる。
レンズが明るくなれば、シャッタースピードを速くするためにISO感度を上げる必要がなくなる。ISO感度が下がると、写真に乗るノイズが少なくなるメリットがある。そして、F値が少ないほどピントを合わせた部分以外のボケが大きくなる。
A(Av)モード(絞り優先オート)を使えば、任意で決めた絞りに対して適切な露出となるシャッタースピードをカメラが自動で割り当ててくれる。F値を思いのままコントロールするには最適なモードだ。
ボケは、前述の焦点距離とも関わりがある。より焦点距離が長く、よりF値が小さいほど、背景や前景をボカすことができるからだ。被写体と背景の距離も関係しており、被写体が近く、背景が遠い方がよりボケやすい。例えば、F値が小さくて焦点距離が長い望遠レンズを使って遠くの景色をバックに近くの被写体を撮影すれば、背景はかなり大きくボケるのだ。前景も同じく、被写体から離れるほどボケやすい。
だが、ボケを大きくしたいからといってテーブルフォトで望遠レンズを使うと、被写体との距離が近すぎてピントが合わなくなり、席からかなり離れる必要がある。これでは不便だ。
こういう場合は、使用したいシーンに合った画角でレンズを選択すると良い。一般的には、テーブルフォトだと28〜50mm、ポートレートだと50〜100mm(いずれも35mm換算)が望ましい。
キットレンズからカメラを始めた人が“次”に買うべきレンズ
ボディとレンズがセットになっているズームレンズキット……特にダブルズームレンズキットにもなれば、広大な景色はもちろん、遠くのものも大きく写すことができるのでかなりの焦点距離はカバーされている。だが、レンズは比較的暗めで、描写は及第点程度のものがほとんどだ。なので、ここからステップアップするために、次に買うべきだと私が思うレンズを紹介したい。
取り上げるのは、私が実際に使用して良いと思ったマイクロフォーサーズ(オリンパスとパナソニック他が採用している一眼カメラシステム共通規格)用のレンズが中心。また、2万円という価格帯からは少し広がるが、初心者向けの一眼カメラとして最も普及しているであろうAPS-Cカメラ用のレンズもピックアップしてみた。
カメラ沼に突き落とされる“撒き餌”のような、明るい標準域単焦点レンズ
一眼カメラを買う人の多くが憧れるのは、背景の「ボケ」だろう。スマホに比べればキットレンズでもそれなりのボケが表現できるとはいえ、さらに大きくボカしたいと思うのが人の子というもの。
そこで、初心者のカメラユーザーでも使いやすく、「標準画角」とも表現されている50mm(35mm換算)のレンズをピックアップしてみた。これがカメラユーザーをレンズ沼に突き落とすためにメーカーが用意したとも言える、安い・明るい・写りが良いの三拍子がそろった、いわゆる"撒き餌レンズ"の代表格だ。このレンズがきっかけとなって、ズブズブとレンズ沼にハマっていく人も多いだろう。
パナソニック LUMIX G 25mm/F1.7 ASPH. H-H025-K
パナソニックの「LUMIX G 25mm/F1.7 ASPH. H-H025-K」は、私が初めて手にしたパナソニックのカメラ「LUMIX GX7 markII」と同時に購入した。2019年5月現在、2万1,000円程度で販売されている。
当初は、安いレンズだから性能もそこそこだろうと侮っていた。しかし、見た目と手触りこそチープなものの、撮影後にデータをMacに取り込んで写りの良さにびっくりしてしまった。あまりの描写の良さに、間違えて高価な方のレンズを使ったのではないかと、Exif(撮影情報)を確認してしまったほどである。
キットレンズしか使ったことがないのであれば、このとろけるようなボケと、繊細で柔らかな描写のとりこになるはずだ。私も以前、キヤノンの撒き餌レンズでこのような描写を見てレンズの奥深さを知り、底なしのレンズ沼に足を踏み入れてしまった。
キットレンズの多くは、焦点距離が可変するズームレンズで、絞り開放値はF3.5〜5.6程度。しかし、このレンズは25mmの焦点距離が可変しない単焦点レンズで、絞り開放値はF1.7だ。焦点距離が可変できないということは、被写体の大きさを変えるには、自分の足で対象に近づく必要がある。
これを体験すると、否が応でも画角と焦点距離を意識するようになるので、対象を見たときに「あの位置からこの焦点距離で撮影すると良い感じに写るんじゃないか!?」などと狙いを定められるようになる。ロケーションを見たときに、自分が撮影したい絵が想像できるようになるのだ。まずは標準画角である50mm(35mm換算)の感覚を身に付けると、他の焦点距離にも応用しやすい。
そして、絞り開放値は1.7もの明るさになるので、ボケの量もキットレンズよりはるかに大きい。このレンズの場合、ボケはほんの少しざわつきやすいものの、コントラストと色乗りは非常に良い。ピントが合っている部分のシャープさも、この価格のレンズとしてはかなり優秀である。
圧倒的にコンパクトで軽量なことも相まって、一度はこのレンズを手放してしまった私も買い戻したいと思っているほどだ。
また、これらと同じような性能を楽しめる、APS-Cカメラユーザー向けの50mm前後(35mm換算)のレンズをピックアップしてみた。表記している価格はメーカーの希望小売価格なので、実際はもっと安く購入できる。
・キヤノン一眼レフAPS-C シグマ 30mm F1.4 DC HSM……5万5,000円(税別)
・キヤノン ミラーレスAPS-C EF-M32mm F1.4 STM……7万2,000円(税別)
・ニコン一眼レフAPS-C AF-S DX NIKKOR 35mm f/1.8G……3万5,000円(税別)
・ソニーミラーレスAPS-C E 35mm F1.8 OSS SEL35F18 ……5万3,000円(税別)
・富士フイルム XF35mmF2 R WR……5万6,000円(税別)
・ペンタックス smc PENTAX-DA 35mmF2.4AL……2万4,300円(税込)
この中だと、シグマの「30mm F1.4 DC HSM」の旧型を使用したことがあり、これまで体験したことのないボケの量に圧倒されたものである。
ググッと被写体に寄って撮影できるマクロレンズ
次は、被写体に近づいて大きく撮影することができるマクロレンズだ。
イメージセンサー上に被写体が同じ大きさで映るものを「等倍マクロ」と呼ぶ。撮影倍率はイメージセンサー上での実物との比率なので、上記の図のように実際にプリントしたり画面で見たりする場合は、イメージセンサーサイズが小さい方がより被写体を大きく写すことができる。
こちらも画角と同じく、35mm換算で2倍相当など、他のセンサーサイズと比較しやすいように表すことが可能だ。通常のキットレンズだと、イメージセンサーに映る対象の大きさは、対象の実物サイズの0.2倍程度が多いのではないだろうか。大きく写せるもので0.5倍程度となり、「ハーフマクロ」などと呼ばれている。焦点距離もさまざまだが、60〜100mm(35mm換算)あたりが使いやすいだろう。
私がよく使うのは60mm(35mm換算)だが、最大倍率で撮影するには、被写体とレンズがくっつかんとばかりに近づく必要がある。被写体とある程度距離をおける90mm(35mm換算)前後の方が、使い勝手が良いシーンも多い。接写性能に優れたマクロレンズは接写性能だけが優れていると思われがちだが、実は描写の優れた単焦点レンズとして使用できる。
オリンパス M.ZUIKO DIGITAL ED 30mm F3.5 Macro
そこでオススメしたいのは、オリンパスの「M.ZUIKO DIGITAL ED 30mm F3.5 Macro」。2019年5月現在の販売価格は、約2万7,000円となっている。最大撮影倍率がなんと2.5倍(35mm換算)にもなる、スーパーマクロレンズだ。サイズは非常にコンパクトで、焦点距離も60mm(35mm換算)と、スナップなどにも大変使いやすい。
その上、この価格とサイズからは想像できないほどシャープで端正な写りになるので、マイクロフォーサーズユーザーなら買わない理由がないほどの魅力を備えている。特に最大撮影倍率2.5倍(35mm換算)というのは、キットレンズではどう転んでも写すことのできない世界だ。
2.5倍(35mm換算)の撮影倍率では、今まで見たことがないようなミクロワールドを撮影できる。マクロなのにミクロとは……。ややこしい話になってしまったが、ミクロを大きく写せるのはマクロレンズなのだ。
ただ、撮影するに当たって難しい点もある。被写体との距離が近いのでブレが起きやすく、さらに被写界深度(ピントの合う範囲)が非常に浅いのだ。
自分が撮影したい被写体全体をなるべくはっきり写すためには、絞りを絞ってF値を大きくする必要がある。しかし、そうするとシャッタースピードが遅くなってしまい、ブレが発生しやすくなる。シャッタースピードを速くするためにISO感度を上げれば、ノイズが多くなってしまうし……と、撮影におけるジレンマを顕著に体験することになる。
このように、被写界深度・絞り・シャッタースピード・ISO感度などの関係性をよく考えるようになる上に、限られた条件で自分の撮影意図をはっきりさせる必要性に迫られる場面も多々あるので、自分の撮影レベルを上げるには最適なレンズだ。
最初は難しく思うだろうし、通常の撮影より失敗写真は多くなってしまうが、試行錯誤するうちにその楽しさに気づくだろう。室内で花を撮るだけでも良い。風がなく照明も確保しやすいので、幾分か容易になる。フィールドよりも負担が少ないので何通りもチャレンジできる。小さい被写体と最小限の設備で立派な作品が撮れてしまうのも、マクロ撮影の楽しいところだ。
先ほどと同じく、APS-Cカメラ用で比較的手頃な価格のマクロレンズを選んでみた。こちらも記載しているのはメーカー希望小売価格なので、実際の販売価格はもっと安い。
・キヤノン一眼レフAPS-C EF-S35mm F2.8 マクロ IS STM……5万5,000円(税別)
・キヤノン ミラーレスAPS-C EF-M28mm F3.5 マクロ IS STM……4万5,000円(税別)
・ニコン一眼レフAPS-C AF-S DX Micro NIKKOR 40mm f/2.8G……4万円(税別)
・ソニーミラーレスAPS-CE 30mm F3.5 Macro SEL30M35……3万円(税別)
・富士フイルム フジノンレンズ XF60mmF2.4 R Macro……8万7,000円(税別)
・ペンタックス smc PENTAX-D FA MACRO 50mmF2.8(フルサイズ対応レンズ)……5万3,600円(税込)
キヤノンの2つのレンズの先端にはリングライトが内蔵されている。被写体を明るく照らしてくれる優れもので、マクロレンズのさらなる楽しみを作り出してくれるはずだ。
さらに大きくボカすための、中望遠単焦点レンズ
最後に紹介するのは、大口径中望遠レンズ。いわゆる「ポートレートレンズ」と呼ばれる類だ。最初に紹介した単焦点の50mm標準レンズよりも望遠となるため、ボケの量も大きくなり、より被写体を浮き立たせることができる。
オリンパス M.ZUIKO DIGITAL 45mm F1.8
オススメなのは、オリンパスの「M.ZUIKO DIGITAL 45mm F1.8」。屋外のポートレートはもちろん、明るさを生かして、室内における子供のバストアップ・フェイスアップ写真を撮影するにも最適だ。窓際からのサイド光で撮影すれば、今までになく雰囲気のある写真が撮れるだろう。2019年5月現在、2万5,000円前後で購入できる。
ポートレートレンズなどと言いながらポートレートの作例がなくて申し訳ないのだが、このようにスナップや風景も新鮮な感覚で切り取ることが可能だ。特に「丸ボケ」と呼ばれる点光源のボケが絞り開放からここまで端正に丸く描写されるのは、大口径レンズの中ではなかなか珍しいように思う。
そして、中望遠の大口径レンズながら軽量かつコンパクトなのも特徴だろう。カメラバッグに忍ばせておけば、いつでもスナップを楽しむことができる。前述のLUMIX G 25mm/F1.7 ASPH. H-H025-Kもそうだが、これほどの明るさは夜のストリートスナップにも適している。
こちらも、画角やF値が近いAPS-Cカメラ用のレンズをチョイスしてみた。
・キヤノン一眼レフAPS-CEF50mm F1.8 STM(フルサイズ対応レンズ)……1万9,500円(税別)
・ニコン一眼レフAPS-C AF-S NIKKOR 50mm f/1.8G(フルサイズ対応レンズ)……3万2,500円(税別)
・ソニーミラーレスAPS-CE 50mm F1.8 OSS SEL50F18……3万5,000円(税別)
・富士フイルム フジノンレンズ XF50mmF2 R WR……6万2,000円(税別)
・ペンタックス smc PENTAX-DA 50mmF1.8……1万5,800円(税込)
50mmはフルサイズ用の“撒き餌レンズ”として用意されているものが多いが、APS-Cカメラで使用すると中望遠の画角となる。
さらにステップアップしたいなら、超広角・超望遠レンズを手に入れよう
今回はボケ表現を求めたレンズとマクロレンズのラインアップを紹介した。それらのレンズはボケやマクロだけにとどまらず、絞っても離れてもキットレンズより良い描写を見せてくれる。ぜひ常用していただきたい。
ここからさらにステップアップするとすれば、超広角や超望遠など、画角が大きく変わるレンズをオススメしたい。
超広角レンズを使えば、広大な景色を画像いっぱいに写すことができる。極端なパース(遠近法による画像の歪み)がつくので、遠近感もダイナミックに表現できる。
遠くのものを大きく写すことができる超望遠レンズは、鳥やスポーツなどの撮影で大活躍する。 背景をさらに大きくボカしたり、遠近感をぎゅっと圧縮させた表現も可能だ。
ただし、超広角・超望遠レンズはかなり高額となる場合が多いので、自分の撮りたい写真をしっかりイメージして画角を選びたい。何でもかんでも買ってしまうと、私のように財布が火の車となるので気をつけたいところだ。まずは、今回紹介したお手頃な3ジャンルのレンズのうちどれか一つを手に入れて、カメラライフを楽しんでいただきたい。
もし、この比較的安価なレンズでも価格の面で手が出しにくいと感じたならば、中古レンズを検討してみるのもいいかもしれない。さらにお手頃な価格で購入できるのでオススメだ。きっと、さらなる撮影の楽しさに気づくことだろう。そしてまた違うレンズが欲しくなる。そしてまた……。
これがあなたの素晴らしきカメラレンズ沼人生のスタートとなることを、私は願っている。良き沼を!
アートディレクター/グラフィックデザイナー。 デザインとともに撮影技術を学ぶ。写真は仕事1割、趣味9割。キヤノンフルサイズ機を経て、現在メインカメラはマイクロフォーサーズ機を愛用。ブログにてカメラ/レンズ/写真をさらに楽しんでいただける情報を発信中。
編集:はてな編集部