動画活用やSDGsに着目した取り組みで地域の事業者を支援!松本信用金庫にインタビュー
信用金庫法に基づいて運営する信用金庫は、地域社会の発展を図るため、中小企業や個人事業主と取り引きする金融機関です。日々、地域事業者を支えて活性化に貢献しています。
長野県松本市に本店を置く松本信用金庫も、そんな信用金庫の一つ。地域の事業者をさまざまな形でサポートしています。
今回は松本信用金庫の地域リレーション支援部 企業成長支援課課長の小松さんに、地域に根付いた事業者支援の取り組みについて伺いました。
地域全体の支援に関わる松本信用金庫
―本日はよろしくお願いします。まずは沿革や事業内容について教えてください。
小松さん:松本信用金庫は大正11年(1922年)2月に設立し、2022年に創立100年を迎えました。松本市議会議員で議長を務めていた百瀬興政が、地域の中小・零細企業を助けるため地元の名士から資金を集めて創業したそうです。
2023年3月末時点での預金量は4,396億円、貸出金は2,066億円で、役職員は295名おり、店舗数は27店舗あります。本店住所は松本城のすぐ隣の「松本市丸の内1番地1号」で、観光業が盛んな地域です。
―小松さんのご担当業務について教えてください。
小松さん:私は地域リレーション支援部 企業成長支援課の「しんきんビジネスサポートセンター~まついんぐ~」に勤務しています。その名の通り企業の成長・発展を支援する部署で、創業から販路開拓、人材確保、経営改善、補助金申請、事業承継・M&Aなど、企業のライフサイクルに応じた支援を行っています。
もともとは営業統括部に個人業務支援課と業務推進課が属していましたが、今年(2023年)独立し、7月から地域リレーション支援部直下の単独部署となりました。地域リレーション支援部ができたことで、事業者さんだけでなく自治体とも連携し、地域全体の支援にも関わるようになりました。
近隣地域と連携して、官公庁の補助金を活用しながら松本市が取り組んでいる富裕層向けのインバウンド事業や、松本市が推進するゼロカーボンコンソーシアム、県から委託された人材確保事業にも関わっています。
YouTubeチャンネルの活用でコロナ禍の事業者を支援
―貴庫ではYouTubeチャンネルを運営されています。開設のきっかけを教えてください。
小松さん:YouTubeチャンネルは、コロナ禍でもできる事業者支援の取り組みとして始めました。
感染拡大により、地域の飲食店やサービス業が大打撃を受け、当金庫の強みだった顧客への訪問活動もできなくなりましたが、営業店の職員や現場感覚を磨いてきた当課の職員、若手職員から事業者支援のアイディアが多数出てきたのがきっかけです。
若手職員を中心に、掲載企業の募集から商品の取材、チラシ作成までを短期間で進め、YouTubeを使った動画配信も始めました。
この取り組みが2021年の秋、コロナが一度落ち着いたタイミングで、テイクアウト商品を販売するフェアの開催にもつながりました。以前もテレビ局主催の展示即売イベントがありましたが、新型コロナウイルスの影響で中止になっていたのです。
当庫の独自イベントということで地元テレビ局と協力して開催したところ、20社以上の企業に参加いただきました。ほとんどのお店で商品が売り切れるほど大盛況のリアルイベントになり、事業者さんからも好評でした。
―YouTubeチャンネルではどのような動画を配信していますか?
小松さん:最初はテイクアウトチラシから発展してお店紹介の動画をアップし、4,000回以上再生されています。その当時、客足が途絶えていた企業の皆さんにとって、多くの方に見ていただけたことは心の支えになったのではないかと思います。
その後もテイクアウト特集の第2弾や、松本信用金庫を紹介する動画などをアップしています。まだ実際の配信には至っていませんが、松本出身のYouTuberの方とコラボして地元企業のPRをする企画が上がったこともあります。
2022年7月には、創立100周年記念ソングの動画をアップしました。今後も事業者支援の施策にマッチするアイデアがあれば、新しい企画を考えたいですね。
松本信用金庫ビジネスクラブで経営に役立つセミナーを開催
―2019年6月に発足された松本信用金庫ビジネスクラブについて教えてください。
小松さん:松本信用金庫ビジネスクラブができたのはコロナ禍が始まる前年でした。信用金庫は信用金庫法の制約があり、取引先は中小・零細企業や個人です。人口減少が進む状況でどのように地域経済を発展させていくかが、我々にとって最大の使命でした。
そこで、「未来を担う経営者や後継者、経営幹部、松本信用金庫の職員も含め、力を合わせてさまざまな経営課題を解決していく取り組みができれば」という思いから立ち上げたのが松本信用金庫ビジネスクラブです。
―松本信用金庫ビジネスクラブでは、どのような活動をされていますか?
小松さん:コロナ禍に入ってしばらくはWeb配信でセミナーを開催しました。経営に役立つセミナーでは、池上彰さんや橋下徹さん、青山学院大学陸上競技部の原晋監督、ジャパネットたかたの高田明さん、ソフトバンクの工藤公康監督など、多方面で活躍されている皆さんに講師を依頼しています。
他にも、テレワークが普及したことを受け、デジタルツールの使い方を学んでスキルアップを図るセミナーや、補助金申請のセミナーなども開催しました。
最近はリアルでのセミナー開催も可能となり、今年(2023年)6月には競泳金メダリストの鈴木大地さんを招いてコーチングセミナーを実施しました。また、9月末からは会社の未来をデザインしていくためのセミナー「みらい創造経営塾」を3回セットで開始しています。
―セミナーの主な参加者は、経営者の方でしょうか。
小松さん:そうですね。基本的には会社単位で参加していただく組織なので、経営関連のセミナーには経営者や幹部の方が参加されています。新入社員向けセミナーでは、企業の新入社員の方が参加されます。
―ビジネスクラブの活動に対する反響をお聞かせください。
小松さん:先ほどご紹介したテイクアウトチラシやYouTube動画、リアルイベントは会員企業を優先して取り上げたということもあり、大変好評でした。コロナ禍ですぐに役立つ補助金セミナーも喜ばれています。
SDGsやESGに着目し、事業者の背中を押す新しいローン
―「SDGs/ ESGサポートローン」の提供を新たにスタートされたそうですが、開始された背景を教えてください。
小松さん:SDGsやESGは企業も取り組むべき課題になっていますし、SDGsのバッジを見たお客さまから「それはSDGsのバッジですね」「最近よく見かけますね」と声をかけられる機会が増えています。でもお客さま自身がこのバッジを付けるにはどうすれば良いかは意外と知られていません。
また、当金庫の取引先にアンケートをしたところ、SDGs・ESGに取り組みたい気持ちはあっても何から始めればよいかわからない、マンパワーが限られているといった状況で、実際に着手できていない事業者さんは少なくありませんでした。「SDGs / ESGサポートローン」はそうした企業の後押しをするために始めた商品です。
まずSDGsやESGはそれほど難しい取り組みではないと発信し、融資条件であるSDGsやESGの取り組み、認証取得のサポートを行っています。
―どのような融資条件があるのでしょうか。
小松さん:「SDGsのいずれかの項目で目標を立て、達成に向けた取り組みをしている」、あるいは「当金庫が認めるいずれかの認定を受けている」という条件のどちらかを満たす必要があります。
当金庫が認める認定は、「長野県SDGs推進企業登録制度」や同じく県の「職場いきいきアドバンスカンパニー」、厚生労働省「くるみん認定」「えるぼし認定」、「ISO14001」認定、日本健康会議「健康経営優良法人」認定などです。
そして、長野県信用保証協会のサスティナビリティ推進保証「ともにみらいへ」申込人資格要件を満たし、当該保証制度に基づく融資を当金庫で同時実行する方が利用できます。
融資だけではなく、SDGsの取り組みや認定制度を受けるための支援をすることが、このローンの本当の目的です。認定を取得すればSDGsに興味がある企業として登録され、事業の輪が広がることも期待できます。
「SDGs /ESGサポートローン」を利用するだけでなく、持続可能な社会を作る取り組みへ参加する企業の背中を押し、新しい事業や収益にもつながると伝えながら広めていきたいと考えています。実際、こちらの商品を出してからは、認証制度への支援依頼が寄せられています。
―認証取得に向けた支援の例を教えてください。
小松さん:商工会連合会から紹介いただく認証取得に詳しい専門家の先生と一緒に、事業者さんのもとへ伺い、必要書類の作成や申請手続きをサポートしています。
私たちが専門家の先生と事業者さんの間に入り、専門用語をよりわかりやすく解説したり、事業者さんの普段の取り組みのなかに、申請で問われている項目に含まれるものがあるのではないかと提案したりしています。事業者さん側が普段やっていることは、自社の強みとして認識していないことも多いです。
専門家と事業者さんの架け橋になり、一緒に申請書類を作って手続きまで支援しています。
事業者の目線で考え、ともに課題へ取り組む金融機関でありたい
―今後の計画や目標があればお聞かせください。
小松さん:松本市の金融業界では現在、第1地銀と第2地銀の合併が大きなトピックです。合併の影響を気にされている事業者さんもいますので、できる限り支援したいと思っています。
また、コロナ禍で売上減となった事業者さんが実質無利子・無担保で借りられていた「ゼロゼロ融資」の据置期間が終わり、返済期限が迫っています。今後、どのようにして返済するか、頭を悩ませる事業者さんもいらっしゃると思いますので、こちらも支援していきたいです。
そして、コロナ禍で事業承継について相談いただく件数が増えました。以前ならM&Aで事業規模を拡大したいという相談が多かったのですが、事業が展開できない期間や売り上げ減の影響を受け、事業承継について考える方が増えたようです。
高齢の事業者さんに対して、どのような支援が必要かを尋ねるアンケート調査も実施しました。今年度はその結果に基づき、事業承継の支援も専門家と連携して対応していきたいと考えています。
―最後に、読者へメッセージをお願いします。
小松さん:事業者支援をしていく上では、事業者さんが何にお困りで何が必要なのか、同じ目線でしっかり理解した上での支援が大事だと考えています。
金融機関としての専門知識や的確なアドバイスも必要ですが、経営者の方々が抱える孤独や不安に寄り添い、ともに考えて行動することで、本当の意味での信頼関係を構築でき、それが本業支援につながると考えています。
今後もお客様とともに知恵を絞り、行政などとの連携も重視して地域課題の解決に取り組んでまいります。
―本日は貴重なお話をお聞かせいただき、ありがとうございました!
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