「おせっかい」を誇りとする企業支援。DX推進を支える福岡商工会議所にインタビュー
福岡県福岡市は国内有数の商業都市で、今も人口が伸び続けている活気ある街です。ここで小規模事業者を中心にさまざまな企業を支えているのが、今回ご紹介する福岡商工会議所。
会員のほとんどが従事している第三次産業はコロナ禍で大きな影響を受けましたが、生産性の向上や新たなビジネスモデルの構築を重視し、令和3年からはデジタル化支援の取り組みを進めています。
「おせっかいを誇りとします。」というスローガンを掲げる福岡商工会議所では、どのようなデジタル化支援をしているのでしょうか。総合企画部デジタル化推進グループの樵田(こがた)さんにお話を伺いました。
日本と世界をつなぐ商業都市
―本日はよろしくお願いします。まず福岡市について教えてください。
福岡市はアジアの玄関口で、東京よりも韓国の釜山が近くにある街です。韓国からの訪日来客数も非常に多く、特にコロナ禍を経た現在は日常的に韓国語が飛び交うほど、インバウンドが回復してきています。
福岡市は人口も伸び続けていて、2022年11月~2023年11月の1年間で1万2千人近くも増え、160万人を超えています。なかでも若い世代の流入が増えてきており、不動産需要も伸び続けている街です。
当所ビルの前には今年(2023年)3月に福岡市営地下鉄七隈線が延伸開業し、6月には九州初の「ザ・リッツ・カールトン福岡」もオープンしました。今後、海外の富裕層を増やしていくことが福岡市のミッションの一つとして掲げられています。
―とても活気ある街なのですね。どのような産業が盛んですか?
福岡市は昔から商業都市と呼ばれていて、支店経済圏でもあるので第三次産業が盛んです。福岡市の事業所数・従業員数の約9割が第3次産業に従事されています。そのためコロナ流行によって大きな影響を受け、厳しい状況がこの数年間続きました。
民間企業と連携してデジタル化支援を開始
―貴所では企業のデジタル化支援をされているそうですね。その背景からお聞かせください。
現在、約1万9,000社の企業様に会員として所属いただいています。委員会が6つあり、そのひとつが「デジタル化推進委員会」です。
会員もやはり半数以上が第3次産業の企業様で、小規模な企業様が多いため、デジタル化による生産性向上や、新たなビジネスモデル構築を進めていくことが必須だと考えました。そこで、令和3年度から3年の中期方針としてデジタル化支援の取り組みを行っています。
もともとは専門部署がありませんでしたので、より体系的に支援をしていくために当所の総合企画部内で「デジタル化推進グループ」を立ち上げ、会員企業のデジタル化推進を始めました。
―会員企業様では、デジタル化においてどのような課題があったのでしょうか。
アンケートを実施したところ、約8割の会員企業が、そもそもIT活用ができる人材が不足し、運用体制ができていないことが分かりました。
また、ITツールを導入する際は前からお付き合いのあるベンダーさんや代理店さんに相談する企業様が多く、本当に自社に適したITツールが分からない、デジタル化推進に対する社内の理解が進まないといった課題も浮き彫りになりました。
一方、「第三者の立場にあるDX専門家の意見を聞きたい」「利害関係なしで自社に合ったツールを提案してほしい」といった声もありました。最近はSaaS企業が増えてきて、会計システムだけでも選択肢が数多くあります。自社に合ったものがなかなか分からないのも無理はありません。
こうした課題やご要望を聞く中で、当所だけで支援をするのではなく、外部の支援機関や民間企業と協議をしながら課題の整理から実際の運用までサポートすることが必要だと感じました。
ワンストップでDX推進をサポートする「よかデジ」
―貴所と民間が一体となって、どのようにデジタル化を支援されていますか?
事業者が抱える課題の洗い出しからツール導入、導入後のフォローまでワンストップでサポートする「福岡中小企業デジタル化・DX推進コンソーシアム よかデジ」を立ち上げました。当所の経営指導員とコンソーシアムのITコンサルタントが連携して、デジタル化・DXに関する幅広いご相談に対応しています。
共同事務局に入っているのは私たち福岡商工会議所と、NTT西日本さん、九州の大手通信会社であるQTnetさん、リコージャパンさんです。企業様からデジタル化のご相談を受けたら、まずこの共同事務局4社の中で課題整理と提案の検討を行っています。
―経営支援のプロである商工会議所と、ITのプロである民間企業とで連携してDX推進をされているのですね。
そうですね。まだ今年(2023年)4月に立ち上がったばかりなので、「商工会議所はデジタル化の相談にも対応しているんだ」ということを会員企業様に知っていただくことが大切だと思います。
先端技術を体験できる「FUKUSHO DIGITAL EXPO」
―デジタル化を後押しするイベントも開催されているそうですね。詳しくお聞かせください。
DX推進を後押しするのに必要なのは「そもそもDXとは何か」「なぜデジタル化が重要なのか」を経営層の方々に知っていただくことです。
そこで、NTTドコモさんと連携協定を結んでこれらを周知するイベント「FUKUSHODIGITAL EXPO(フクショウ・デジタル・エキスポ)」を2022年1月に開催しました。初開催はドコモさんのオフィスビル内で実施して、21社に出展していただきました。
企業様から伺った課題の中で一番多かったのが「DX推進にかかる費用」でしたので、「FUKUSHO DIGITAL EXPO」ではさまざまなデジタルツールの優待サービスを用意しました。
他にはDXやデジタル化に関する講習会、インボイス制度や改正電子帳簿補保存法など足元の課題への対応から、5GやXR、メタバースなど、先端技術を体験するブースも提供しました。
約700名もの方が来場されたため、やはりデジタル化・DXについて知りたいという企業様のニーズは大きいのだと感じています。
―「DXの最初の一歩をおせっかいする」というキャッチコピーがユニークですね。
当所は普段から「おせっかいを誇りとします」というスローガンを掲げており、伴走型支援を実践しています。企業の悩みごとや課題を明確にするのはなかなか難しいですし、DX推進は心理的・予算的ハードルが高いと感じる企業様も多いため「頼まれていないけれど勝手に支援させてください!」というくらいの気持ちを持って取り組んでいます。
―出展内容についても教えてください。
まず管理業務のDX化から推進しようということで、会計システムや人事労務関連を支援されている企業様を中心に集まっていただきました。
会員事業者にとったアンケート回答から、DXに対する経営者の理解が重要だということが分かっていましたので、いきなり商談というよりもまずは製品・サービスを経営層や管理職の方々に見て触っていただくことを目的としました。
エキスポをきっかけにロボット導入も
―2回目の開催となった昨年12月は展示会だけでなくセミナーも実施されたそうですが、どのような目的があったのでしょうか。
2回目の開催では、目の前の業務のDX推進だけでなく、将来的なデジタル先端技術についてもお伝えするために展示会と多種多様なセミナーを開催しました。
具体的には、NTTドコモさんが持っているメタバースの技術を紹介していただく、ニューズピックスの稲垣社長をはじめとする経営者の方に、デジタルを最大限活かすための経営方針や組織文化づくりについてお話いただくといったセミナーです。
―来場者の反応はいかがでしたか?
近年は動画配信サービスなどのコンテンツが充実しているので、どこにいても新しい情報に触れやすいですが、地方では「生で」新しい情報を聞く機会がまだまだ多くありません。
デジタル化において目下進めていく必要があることと将来的な展望、その両方に直接触れられることが、来場された皆さんから好評でした。
特に、ドコモさんによるメタバース技術やロボットの展示は反応が大きかったですし、ドコモさんも、ロボットを飛行機で運んできたのは今回が初めてだったそうです。
このロボットは「スマート配送ロボット」といって飲食店の配膳・下げ膳などができる製品で、近年福岡でも大手チェーンの飲食店では見かけるようになりましが、広く浸透していたわけではありませんでした。
しかし今回のエキスポを機に、福岡市に本社を持つ歴史ある企業様がこの配送ロボットを自社で導入されました。現在、那覇空港に入っているレストランで2台のロボットが働いています。
人手不足が深刻化していて、時給を上げてもなかなか採用できない、従業員さんの高齢化が進んでいるといった課題があり、従業員さんが接客に集中できるようにと配膳ロボットの導入が決まったそうです。
―お店でのロボットの活躍ぶりはいかがでしょうか。
ディスプレイの表情が豊かで、音声も流れるのでお子さんに大変人気だそうです。BGM機能で沖縄風の音楽を流しながら店内を回っています。従業員さんそれぞれが名前を付けていたり、かりゆしウェアを着せる計画があったりと、お店でも愛着を持たれているようです。
企業とともに汗をかき、地域を越えてデジタル化を進めていきたい
―「DXの最初の一歩をおせっかいする」というコンセプトが存分に感じられるお取り組みでした。今後のご計画や目標がありましたらお聞かせください。
第3回目の「FUKUSHODIGITAL EXPO」を2023年12月7日と12月22日に開催予定です。これまでは展示会とセミナーを同時開催していましたが、今回は展示会とセミナーの日程を分けて開催することにしました。
既にある程度デジタル化が進んでいる企業の方は情報収集のためにセミナー目的で来場される一方、展示会に来られる方はまさにこれからデジタル化に着手するというケースが多いからです。
―最後に、デジタル化・DX推進に関心がある企業の方や、支援をされている皆さまにメッセージをお願いします。
私たちが日々接している小規模企業様は人手が足りていないことが多く、業務以外で新しい取り組みを始めるのはハードルが高い状況です。商工会議所や支援機関がどこまで寄り添い、おせっかいをしていけるかだと思いますので、デジタル化・DX推進の大切さを根気強くお伝えし、ともに汗をかいて取り組んでいければと考えています。
同じようなサポートをされている企業様があれば、地域を越えて一緒に取り組み、全国にデジタル化支援を広げていければ幸いです。
―本日は貴重なお話をお聞かせいただき、ありがとうございました!
福岡商工会議所 総合企画部 デジタル化推進グループ
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