カジノがない日本で「ポーカー」に関わる不思議な仕事 ~お店経営とポーカーディーラー~
皆さん、はじめまして。psyka(さいか)といいます。「アミューズメントポーカー」を提供するサークルと、プレイするための設備を整えたレンタルゲームスペースでお店の運営をしています。運営と一言に言っても、「ポーカーディーラー」として働いたり、トーナメントを開催したりと、さまざまな仕事をしています。
唐突ですが、まず「ポーカーをしているところ」を想像してください。手に何枚のカードを持っていますか? 多くの人は「5枚」と答えるかもしれません。
なぜなら、日本では5枚のカードでツーペアやフルハウスなどの“役”を作る「ドローポーカー」が有名だからです。これは『ドラゴンクエスト』シリーズのカジノゲーム(ゲーム内にあるカジノで「ポーカー」がミニゲームとして用意されている)でも採用されており、子供のころからこのルールに慣れ親しんでいる人も多いのではないでしょうか。
現在、ポーカーは世界的にプレイされているゲームになっていますが、それは5枚のカードではないポーカー「テキサスホールデム」と呼ばれるゲームです。
そして、このポーカーが日本でも静かに盛り上がっているのをご存知ですか? ゲーム性の面白さもあって、お金を賭けずに楽しむ「アミューズメントポーカー」として楽しまれています。
今回はそんな「アミューズメントポーカー」の紹介を交えつつ、それに携わっている私の仕事の話をしたいと思います。
「アミューズメントポーカー」の静かなブーム到来
現在、世界で行われているポーカートーナメントの多くは、カジノで開催されています。参加者は参加費を払い、参加者全員のチップを集めた人が優勝となります。参加費は賞金になり、分配されます。
世界最大規模のポーカートーナメントであるWSOP (World Series of Poker)のメインイベントは、優勝賞金が10億円を超えることもあります。桁違いの賞金ですが、8,000人近くの参加者が集い、参加費は1万ドル、優勝が決まるまでに6日間以上プレイします。
日本では賞金を賭けたトーナメントは原則できませんが、知的な戦略や駆け引きで勝敗を決める競技性や、沼のように奥深いゲーム性にハマる人も多く、お金を賭けない「アミューズメントポーカー」でも十分に楽しむことができます。
日本のアミューズメントポーカーの始まりは諸説ありますが、今から十数年前には都内に数店舗あったと思われます。
最初はサークル的な活動でしたが、2019年現在、東京都区内だけでもアミューズメントカジノ、ポーカー専門店、バーなどのスペース利用、レンタルゲームスペースなど様々な営業形態で40グループ以上あります。ほんの数年前まではおおよそ全てのお店の情報を把握していましたが、今は新規オープンも多く、情報収集が追いつかないほどです。
お店の増加は、ポーカープレイヤー人口が加速度的に増えている証でもあります。あまり知られていませんが、全日本選手権(AJPC)やジャパンオープンなど、全国規模で予選を行い決勝トーナメントを開催する大会もあるんです。
現在流行っているこのポーカーは「テキサスホールデム」と呼ばれるジャンルです。映画『007 カジノ・ロワイヤル』でジェームズ・ボンドがクライマックスにプレイしているポーカーと説明すれば、分かってもらえるでしょうか。
プレイヤーは2枚の手札を持ち、プレイヤー全員が使えるコミュニティーカードと呼ばれる5枚の共通カードと合わせて7枚で手役を作り、相手と勝負します。カードのチェンジなどはなく非常に分かりやすい仕組みになっています。シンプルなルールでありながら奥深いゲーム性を楽しめるというのが、世界中で爆発的にプレイヤーが増えている理由でもあります。
私は、麻布十番にあるレンタルゲームスペース「AZB10」という場所で、「GAPTOKYO」というアミューズメントポーカーのサークルを運営しています。カジノというよりは、公民館の会議室で行われるサークル活動のような雰囲気で、和気あいあいとポーカーを楽しんでいます。
うちのお店の場合は、アルコールが苦手な人や、純粋にゲームが好きな方、海外のカジノで覚えて興味を持った方をはじめ、「強くなりたいから」と勉強のために来ている方も多いです。
お店に来てくれるプレイヤーの中には、磨いた腕で海外のトーナメントに挑戦し、賞金を稼いでいるプレイヤーもいます。
日本における「ポーカーディーラー」という仕事
ポーカートーナメントを開催するときに必要なのが「ディーラー」というゲームを進行する係で、私もディーラーとしてお店に立つことがあります。進行の他にもいくつかの役割がありますが、カードを配ってくれる人がいないとまずゲームができません(笑)。
ポーカーディーラーは技術職です。カードをシャッフルしたり、配ったりする「カードさばき」の技術、チップを正確に数えられる技術、そしてプレイヤーに迅速かつ丁寧に提供する技術が必要になります。これらの技術は主にカジノゲームと同じ扱いになっているため、国内ではカジノディーラーの養成学校などで教えているようです。しかし、養成学校に通っていなくても受け入れてくれるお店は多いです。未経験者でも働きたい人には、一通りの技術を教えてくれますし、それで十分に働けるようになります。
ポーカーディーラーは知識として技術を覚えても、実際に現場で経験を積まないと分からないことが多いです。
私は本格的にポーカーディーラーを学びたいという方に、「ディーラー講義」も行っています。ディーラーとしての一通りの知識を覚えてもらい、基礎技術を習得してもらった後は、「GAPTOKYO」で開催しているトーナメントで現地実習を繰り返すという形で覚えてもらっています。
ただ、このポーカーディーラーという仕事は、現時点ではまだまだ食える仕事とは言いにくい状況ではあります。
まず、技術職ではありますが、時給は決して高くありません。お店のコンセプトや規模によっても異なりますが、時給は1,000円から1,400円程度です。ここ1、2年で時給を高く設定したお店が増えてきましたが、これは店舗やイベントの増加スピードに対してディーラーの数が不足していることが起因しています。
また、ディーラー自体が可動できる時間が短すぎるので、収入が少なくなってしまうという問題もあります。多くのお店で、営業時間は平日が18時〜23時の時間帯、週末も午後からが中心になります。1週間で見たときに、お店が可動できる時間は45時間ほどしかなく、1カ月で考えても、働ける時間が短く、もらえる給料も少ないため、これ1本では食べていけないというのが大きな理由となっています。
そのため、現在この業界で生計を立てている人たちは、お店の運営などを兼任しながら、ディーラーとしても勤務している人たちがほとんどです。それ以外の人は、あくまでもアルバイトとしてやっている人、昼間は他の仕事をしながらという人が多いようです。
この業界でディーラーをやっている人たちの多くは「お金のため」というわけではなく、「ディーラーという仕事が好き」な人が多いです。技術職なので、自分の技術が磨かれていくことも実感できます。また、ポーカートーナメントに集まってくるプレイヤーの方々は、世代、職業ともに多岐に渡っており、日常では会う機会のない職種、業界の人達と出会えるというのはなかなか刺激的なようです。
ポーカーをうまくなりたい人達のための「道場」的活動
私は麻布十番でかれこれ7年ほどポーカーに関わる活動をしています。自身でポーカーサークルを運営するだけでなく、ポーカートーナメントを開催している方や仲間を集めてテーブルを借りて遊ぶ人たちへスペースを提供するなど、多くの方にポーカー啓蒙活動をしています。
レンタルゲームスペースを利用した運営をしているですが、ロケーションが良すぎて(麻布十番駅徒歩0分)、運営維持費はカツカツですが(笑)。
この面白いゲームを皆さんに知ってもらいたい。そして興味を持った方にはより深くポーカー道を探求してもらい、より強くなってもらいたい。そんな想いから私のサークルはポーカートーナメントの「道場」のような雰囲気になっています。
ポーカーは、ハマると中毒性が高く、毎日でもプレイしたくなるため、プレイヤーの金銭的な負担が減るよう、プレイするための料金を可能な限り低価格にしています。トーナメントを通じ、上手くなりたいプレイヤーにはアドバイスすることも私の大事な仕事のひとつです。参加してくれているプレイヤーさんが他の大きなトーナメントで優勝し、トロフィーをお店に持ってきて勲章のように飾ってくれると、育ての親のようなうれしい気持ちになります。
実際に、お金を賭けないポーカーにお金を出してもらうために、私から提供できることは多くありません。ポーカーを始めて10年以上たちますが、私が覚え、考え、作り上げたポーカーの知識をお客さまに役立ててもらうこと。私のお店で働くディーラーのスキルをどの店にも負けないレベルまで高めること。この2点は私が仕事する上で大切にしていることです。プレイヤーがストレスなく気持ち良くポーカーに集中できる環境作りを心がけています。
日本にカジノができたら働きたい! どうすればいい?
この仕事をしているとディーラー志望の人や、すでにポーカーディーラーとして働いている人から、時折「日本にカジノができたらディーラーとして働きたい」という相談を受けることがあります。
私なりのアドバイスはしてあげられるのですが、これに関してはさまざまな意見があると思いますので、あくまでも私個人の考え方である、というお断りだけしておきます。
まず、ディーラーの技術で大切なことは、それぞれの現場でその現場にあったルールや考え方に修正できることだと思います。基礎技術があることはもちろんプラスですが、生半可な知識だと、逆に自分の成長の妨げになったり、お店のルールに合わせる補正ができなくなってしまいます。
国内のアミューズメントで多々そのようなことが起こるくらいですから、これが本場のカジノとなると実際に金銭を賭けている現場になるので、店ごとのルールの差異はシビアに存在すると予想されます。なのでカジノディーラーになりたいのであれば、国内でキャリアを積むよりも、海外の現場で実際にやってみることが必要になるかもしれません。でも、日本の現場で基礎技術を研鑽(けんさん)することはとても大事です。
ただ、より重要になるのは「語学力」です。日本にできるカジノはIR推進法(特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律)によって作られます。カジノにやってくるお客様は日本人だけでなく、外国の旅行者も多くなることが予想されます。そのため、同じようなディーラーの基礎技術を持った人が複数人いるとしたら、日本語しか話せない人よりも、英語や中国語など、複数の言語を話せる人を採用する可能性は高いと思います。
日本にカジノができた際、その運用面を国内の会社が行う保証はありません。国内の会社に対して海外のカジノ運営会社がアドバイザーとして入る可能性も高く、最低限、英語を喋るスキルは必須のような気がします。
この仕事を生業にしているのに変な話ですが、将来カジノディーラーになりたかったら、ディーラーのスキルを磨くだけでなく、語学力を身に着けておいたほうが良い! というアドバイスをしています。
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アミューズメントポーカーというちょっと変わった文化と、それにまつわる仕事の話をさせていただきました。このコラムを通じてポーカーとディーラーという仕事にちょっとでも興味を持っていただけたらと思います。
日本でポーカーというと何かいかがわしいものをイメージされてしまうので、そんな誤解を少しでも解くきっかけになればうれしいです。
プロマジシャン、アミューズメントポーカーサークル「GAPTOKYO」主宰、イベントプランナー、さまざまなジャンルの仕事をしながら、ギャンブルとしてではなくゲームとしてポーカーの面白さを伝える為に活動中。
編集:はてな編集部