東金商工会議所が発足した「福祉のまち推進委員会」とは?ご担当者にインタビュー!
千葉県東金市にある「東金商工会議所」では、2017年から「福祉のまち推進事業」をおこなっています。
しかし商工会議所というと、地域経済を活性化させる組織というイメージをもつ方が多いのではないでしょうか。
今回は「福祉のまち推進委員会」で委員長を務められている石原智志さん、社会福祉法人での知見を活かして携わる笠原正美さん、そして東金商工会議所事務局長の小川勝彦さん、井坂定義さんに、福祉という観点でまちづくりを進める理由について、お話を伺いました。
問屋街から中核都市として発展した東金市
ー本日はよろしくお願いします。まず、千葉県東金市についてご紹介いただけますでしょうか。
石原:東金市は千葉県のほぼ中央部に位置しています。温暖な気候に恵まれ、平野部は良質な田園地帯が太平洋に広がり、丘陵地は山武杉の森林に覆われているまちです。
江戸時代、徳川家康の鷹狩りのために「御成街道(おなりかいどう)」が造られ、この地に宿場町や近隣の農産物が集まる問屋街が形成されました。以降、東金は物流の集散地としてにぎわうようになり、九十九里地域の中核都市として発展してきました。
観光面においても、かつて「花のとうがね」と呼ばれ、春は桜の名所として市外から多くの観光客が訪れます。
現在では国道126号線と千葉東金有料道路、首都圏中央連絡自動車道(圏央道)をつなぐ交通の要衝となっています。東京駅までは車で約1時間、JR線で90分、成田空港まで車で約1時間です。
人口は2006年の約6万人をピークに横ばいで推移していましたが、昨今は減少幅が大きくなっていて、2022年4月時点では約5万7千人です。
高齢化率も上がっており、2000年は15.5%でしたが、2020年には倍近くの29.5%まで上昇しています。
商工会議所が「福祉のまち推進委員会」を発足した理由
ーつづいて石原さん、笠原さんのお仕事について教えていただけますでしょうか。
石原:私は介護用品・福祉用具、医療機器の販売やレンタル事業をおこなう企業と、小規模多機能事業とデイサービスの会社に勤めております。「福祉のまち推進委員会」では委員長職を任されています。
笠原:私は特別養護老人ホームで働いていまして、現場の仕事に加えて、外部でもさまざまな地域活動にも取り組んでいます。
ー「福祉のまち推進委員会」はどのような経緯で発足したのでしょうか。
石原:2017年に東金商工会議所が新体制となり、活動の柱の1つとして「福祉のまち推進事業」が掲げられました。東金商工会議所として初めて「福祉」を切り口とした、高齢者や障がいをお持ちの方をはじめ、誰もが安心安全で暮らしやすいまちづくりを目指す事業です。
委員会は笠原さんをはじめ、東金市の医療法人や老人ホーム関係者など、医療・福祉の専門知識をもつ方や高齢者の抱える状況を把握している方で構成されています。
ー商工会議所が福祉の取り組みを始めた理由についても教えていただけますか?
石原:近年の経営課題の1つに「介護離職する従業員が増えて、事業継続に支障が出る」というものがあります。
経済団体である商工会議所が福祉活動をするのは非常に珍しいことだそうですが、介護をする世代の悩みや不安を地域全体でサポートすることで、従業員の皆さんが仕事を続けられるようになれば、結果として企業経営にもプラスになります。
また、福祉や介護にやさしい街づくりをおこなうことで市外からの居住者を増やし、経済の活性化につなげることも長期的な目標です。
こうした考え方をもとに、東金商工会議所では福祉に重点を置いた街づくりの推進をしています。
参加者の声を大切にする「家族介護教室」
ー「家族介護教室」について教えてください。
石原:2017年から継続開催している教室です。要介護の方と同居されている方や、以前介護に携わっていたけれど勉強しなおしたいという方など、参加者はさまざまです。市内の福祉事業所職員の方や議員さんも参加されています。
介護技術だけでなく認知症そのものについて学ぶ回、専門の医師の方にお話を聞く回、「食べやすい介護食」のレクチャーも開催するなど、幅広いテーマで取り組んでいます。
2019年までは年に5回開催していたのですが、2020年からはコロナの影響で年1回となっています。今年5月には通算18回目の家族介護教室を開催し、11月にも第2回目の開催を予定しています。
ーどのようにテーマを決めているのでしょうか?
石原:ある程度の年間計画は立てていますが、開催後にアンケートを取って参加者のニーズを探っています。回答内容によっては次回開催の内容を少し変更したり、講師の方に参加者の方の希望をお伝えしたりしていますね。
笠原:普段から医療・福祉の現場で仕事をしている私たちと一般の方の「当たり前」が同じとは限りません。
当初は「話が硬くてわかりにくかったです」「難しかった」といったお声もいただきましたが、そうしたご感想をもとに企画内容を見直し、より実用的で皆さんのお役に立つ教室になるように改善を続けてきました。
皆さんの介護に関する困りごとをとらえ、教室を企画するためにアンケートはとても重要ですね。
「誰に聞けばいいかわからない」という不安をサポート
ー「家族介護教室」に参加された方からは、どのような感想が寄せられているのでしょうか?
笠原:毎回必ず参加されるリピーターの方々がいらっしゃって、大変喜んでくださっています。「今度はこういう話を聞きたいわ」というリクエストもいただくので、参考にさせていただいています。初参加の方が2回目以降も足を運んでくださったときも嬉しいですね。
医療や介護には自分だけで解決できないことがたくさんありますが、誰に聞けばいいかわからず不安を抱えている方がたくさんいらっしゃいます。
福祉のまち推進委員会は、「1人で抱え込まないで」というメッセージをお伝えしながらいろいろな情報を発信しているので、少しは皆さんのお役に立てているのかなと実感しているところです。
とにかく楽しく!認知症・介護予防エクササイズ
ー「東金元気プロジェクト スマイル体操 レッツコグニサイズ」についても教えてください。
笠原:ショッピングモールや各地区の公民館、コミュニティセンターなどに出張して、1回30分ほどの認知症・介護予防エクササイズをご紹介しています。
とにかく楽しく笑いながら体を動かして脳を活性化させることが大切です。そのため「皆さん、今からオリンピック選手にはならないですよね?」「じゃあ楽しくやりましょう!」という雰囲気を作って実施しています。
コロナ禍前より活動頻度は少なくなってしまいましたが、以前は1か月で16地区を回って活動していました。「家族介護教室」のブレイクタイムにも皆さんと一緒にこの体操をしています。
「できる」より「やる」が大切
ーエクササイズの場で、何か配慮されていることはありますか?
笠原:プログラムは「介護予防運動指導員」の資格を持っている私と、体を動かすことに関する専門家の理学療法士とで知識を合体させて考えています。
私たちのエクササイズで大切にしているのは「評価をしない」「楽しく笑って体を動かしてもらう」ということです。
国が推奨する介護予防の取り組みでは、運動できた回数などをチェックして評価をする形式になっています。でも高齢者の方々もプライドをお持ちなので、「前は〇回できたけれど今日はできなかった」「あの人はできたのに、自分はできない」などと気にされてしまうんです。
こうした気持ちが続くとエクササイズの場自体に参加しづらくなってしまう場合もあります。
なので「できなきゃいけないんじゃなくて、やることが大事なんですよ~」「できなくてもいいんです、やろうと思う気持ちが大事ですよ~」「間違えたら笑っちゃいましょう!笑ってごまかしましょう!」と声をかけながら体を一緒に動かしています。
「その場に来ていただけることが大事」という前提で活動しているからか、参加者はどんどん増えていますね。「また来てね」「来月はいつ来てくれるんですか」といったお声もたくさんいただいています。
上を向くきっかけに。バルーンリリース「東金Stories」
ーバルーンリリースイベント「東金Stories」についても教えてください。
石原:全国各地で開催されている認知症啓発イベントを、東金市でも2018年から始めました。
ただ「福祉のまち推進委員会」の活動方針は「高齢者や障がいをお持ちの方をはじめ、誰もが安心安全に暮らせるまちづくり」ですから、認知症啓発に特化したイベントだけではなく、市民の皆さんが幅広く参加できるものを企画することになったんです。それが、2021年12月に開催した「東金Stories」でした。
これは1,000個の風船を一斉に空に放つイベントで、万全な感染対策のもと、東金中央公園で開催しました。
東金市や市の社会福祉協議会にも協力いただき、市内の福祉・医療・障害に関わる事業所の職員さんや利用者の方々など、約200名の方に参加いただきました。
コロナ禍の福祉事業所では、一般の方以上に制限のある生活をされています。それでも空高く飛んでいく色とりどりのバルーンを見上げることで、上を向いて生活していくきっかけにしていただけたらと思い、開催しました。
当日はカラフルな1,000個の風船が青空に映えて非常にきれいで、有意義なイベントになったと思っています。
願いを込めた1,000個のバルーン
ー動画を拝見したところ、空に飛んでいくバルーンを見て参加者から歓声が上がっていました。直接ご覧になった皆さんの反応はいかがでしたか?
石原:高齢者の方や障がいをお持ちのお子さんなど、皆さんすごくいいお顔で空を見上げられていましたね。本当にやってよかったと感じました。
笠原:裏方の話をすると、気候条件から風船が飛んでいく方向を計算したり、環境負荷の低い方法を考えたりと大変なこともありましたね。
ちなみに風船は天然ゴム製のものを使用しました。上空で割れて粉々になり、落ちてきて自然に還るという材質なので環境にも優しい風船です。
当日は参加者の皆さん1人ひとりに、風船に願いを込めて飛ばしていただきました。空高く飛んでいく風船を見えなくなるまでずっと見守ってくれている方、泣いていらっしゃる方もいたんですよ。
「感動しました」「また参加したい」というお声をいただいて、事前準備の大変さは吹き飛びました。
ー大成功のバルーンリリースだったのですね。今後も同じ企画はあるでしょうか?
石原:多くの市民の方に向けた取り組みの1つとして、バルーンリリースは本年度も事業計画に入っています。商工会議所の会頭からも好評で、今年は風船2,000個を目指して進めていくつもりです。
ネットワークをつくり、まち全体で福祉に取り組みたい
ー「福祉のまち推進委員会」の今後の計画をお聞かせください。
石原:コロナ感染状況によって調整は必要ですが、基本的にはこれまで通り、市民のニーズに合わせた「家族介護教室」を開催していく予定です。
「認知症サポーター養成講座」という講座も当委員会で開催しています。厚生労働省の「認知症施策推進大綱」を踏まえた取り組みで、街ぐるみで認知症対策を練っていくというものです。
今年5月に東金市内にある商店街の1つでお店にお声がけをして、最初の講座を開催しました。今後も他の商店街の皆さん、会議所会員の皆さんにもお声がけをして、参加いただければと考えています。
ほかには、市内の福祉・医療・障害の事業所どうしの横のつながりをつくることを目的とした、事業所さんの交流会も続けていく予定です。
笠原:5月の「家族介護教室」では視覚から学んでいただくために、劇団をつくりました。教室の内容をより多く持って帰っていただくために、座学や調理体験以外の方法も取りたかったんです。
寸劇方式は参加者からとても好評だったので、今後もこうした方法を取り入れながら実施していきたいですね。
「家族介護教室」の開催回数を減らしている分、現在は「福祉のまち通信」という広報誌も年に4回作成しています。市役所や道の駅など、市民の皆さんに手に取っていただけるところに置いていて、好評いただいています。
先ほど石原さんがお話した「認知症サポーター養成講座」は「キャラバン・メイト」と呼ばれる講師が企画・開催します。ただ千葉県にはまだ認知症サポーターが非常に少ないので、ぜひ皆さんに認知症という病気をしっかり理解していただければと考えています。
ーありがとうございます。最後に東金商工会議所のお2人からも、この記事を読まれた読者の方へメッセージをお願いします。
小川事務局長:従来は経営支援や地域経済活性化を主な目的として活動してきた商工会議所も、少子高齢化や地域の人口減少といった状況に対して、新たな取り組みを支援していく必要があると強く感じています。
井坂:商工会議所には福祉事業者さんの悩みがよく寄せられます。どの方も志を持って福祉事業を創業されるのですが、継続が難しくて廃業される場合もあるんです。
そのため、当所では企業と企業がネットワークを作って事業が継続できるような取り組みをしていきたいですね。「福祉のまち推進委員会」というネットワークを作ることによって、行政とともに地域のまちづくりを進めていけると考えています。
ー医療・福祉・介護は1人で抱え込むのではなく悩みを相談すること、そして事業者どうしもつながりをもつことが大切なのですね。本日はお話をお聞かせいただき、ありがとうございました!
東金商工会議所 福祉のまち推進委員会 委員長
東金商工会議所 福祉のまち推進委員会 委員