高崎商工会議所の中心市街地活性化とは?ご担当者にインタビュー!
群馬県高崎市は、広大な関東平野の北端、群馬県中部に位置する街です。人口は約37万人で、雄大な榛名山などの自然と都市が調和した中核市といえます。
江戸時代には商人が行き交う中山道の宿場町として栄え、明治期には東京とつながる鉄道も開通しました。現在では高速自動車道や新幹線などが多数結ばれている、国内有数の交通拠点として知られています。
今回は高崎商工会議所の地域振興課で中心市街地活性化に取り組む、西山和久課長と髙田文也主任にお話を伺いました。
高崎商工会議所の地域活性化事業とは?
ー本日はよろしくお願いします。初めに、高崎商工会議所の地域振興課について教えていただけますでしょうか。
西山課長:私たちは高崎市全体を元気なまちにするため、様々な事業を実施していますが、特に駅周辺の商店街をはじめとする、中心市街地の活性化に取り組んでいます。
髙田主任:平成23年に都市再生特別措置法の一部改正があり、今回ご紹介するもののうち、2つの事業がこの法改正をきっかけに始まりました。
街のにぎわい創出を目的とする場合に道路空間の活用を許可する、「道路占用許可の特例」という制度が設けられたんです。
西山課長:これまでの道路占用は、道路の敷地外に余地がなく、やむを得ない場合で、一定の基準に適合する場合に限り、許可されておりましたが、「街が元気になり、道路を行きかう人々の利便性が向上する場合は特例を認める」という画期的な法改正がありました。
具体的には、自転車駐輪器具やオープンカフェなどで道路が使用できるという特例です。そこで、高崎商工会議所としてはこの制度を活用して、「高チャリ」「高カフェ」という2つの事業を始めました。
誰でも気軽に使えるコミュニティサイクル「高チャリ」
ー「高チャリ」について教えてください。
髙田主任:高チャリは平成25年4月から開始した、無料の貸し出し自転車サービスです。
中心市街地の回遊性の向上とにぎわいの創出を目的としており、高崎駅西口エリアで自由に利用できます。サイクルポートは16箇所に設置されており、どこで借りてもどこで返してもOKです。
自転車は現在150台あり、利用時間は9時から22時まで。料金は100円のデポジット制なので、返却時に返金します。利用者登録も一切不要で、どなたでも簡単に使えるよう運用しています。
ーもう10年近く続けられている事業なんですね。利用状況はいかがでしょうか。
髙田主任:まちなかで高チャリが走っているのをよく見かけますね。市外や県外から高崎駅に来られた方もすぐにお使いになれますし、利用者は増えてきているので、多くの市民の皆さんに認知されていると思います。
西山課長:当初は100台でスタートしたのですが、利用率が高く台数が足りず、50台増やして150台になりました。
自転車は「使われること」が第一
ー高チャリ事業を始めるにあたって、重視されたことはありますでしょうか。
西山課長:「自転車は使っていただくことが第一」と考えました。全国のコミュニティサイクルを視察したのですが、基本的に「管理すること」が優先されている印象を受けたんです。
多くのコミュニティサイクル事業では、ルール違反や事故を懸念する議論が最初にあるようでした。
でも私たちは、たくさん使っていただける状態を目指しました。交通事故や乗り捨てなど、あらゆる事態を想定し、対処方法をあらかじめ講じたうえで「どうしたら使っていただけるのか」を議論したんです。
また、当初はタクシーやバス業界の方々へご理解いただくことも重要でした。タクシーの1~2メーター分は高チャリで移動できてしまいますから。「街の活性化のために」と丁寧にご説明しながらのスタートでした。
ー高チャリは赤い水玉模様のデザインで、とても目立ちますね。これも何か理由があるのでしょうか?
西山課長:盗難・独占を防ぐために、とにかく目立つデザインにしたかったからです。赤い水玉模様の自転車を自宅に持ち帰ったら、近所の方に注目されてしまいますよね(笑)。
地元高校の美術部の学生さんに協力をお願いしたところ、提案されたのがこの水玉模様です。最終的にはデザイナーの方にブラッシュアップいただき、デザインを決定しました。
ちなみに、この水玉模様は全て反射材でできています。通りかかった車のライトなどが反射してキラキラ光るので、安全性の向上にもつながります。
車体識別用に貼っている鑑札より強力な糊(のり)で貼っているため、はがせないようになっています。これらも、いたずら防止のアイデアですね。
高チャリご利用者の声
ー高チャリに対して、市民の皆さんの反応はいかがですか?
髙田主任:「歩くと遠いけれど、車に乗るほどの距離ではない」というときなど、便利に使っていただいているようです。
市民の利用が多い駅や大型店、図書館、大規模駐車場の近くにサイクルポートを設置しているので、その点も使い勝手がよいと好評いただいています。
西山課長:冬の寒い日など、道路凍結のおそれがあるような日は、安全確認ができるまでロックをかけて、高チャリを使用禁止にしています。
そうすると「なぜ貸し出していないのか」とお電話をいただくことがあるんです。それだけ便利に感じてくださっているんだなと思います。
月に1回の点検時は全車の点検が終わってから貸出を再開するのですが、やはり「点検が終わった自転車から順次、貸出ししてほしい」とご要望をいただきます。
ー市民の皆さんの生活にすっかり必要なものとなっているんですね。お2人も中心市街地のにぎわいに変化を感じるでしょうか?
西山課長:高チャリも含めて、さまざまな取り組みの相乗効果が表れていると思います。
コロナ前までは毎年年間10%から30%ほど、高崎の中心市街地の歩行者と自転車通行量が増えていました。
「自転車を置けば街を元気にできる」とはいえないですが、とにかく色々なことを日々取り組んでいく必要がありますね。
「高チャリ」に地元企業からの協賛も
ー高チャリはさまざまな工夫を重ねて、地道に続けてこられた取り組みなんですね。
髙田主任:そうですね。ちなみに、高チャリの後輪には、赤い扇形のドレスガードが付けてあることにお気づきでしょうか。
西山課長:そのドレスガードに、協賛企業の会社名が入っています。高チャリは2年ごとに買い替えていて、自転車の買い替え費用を協賛企業が出してくださっています。
髙田主任:現在は、一番多くて20台分の協賛をしてくださっている企業がありますね。
西山課長:当初、まだ100台だった時期に30台分も協賛をしてくださる会社がありました。
理由をお聞きしたら、「プロ野球の3割バッターぐらい打たないと目立たない。うちも3割持たないと広告にならないから30台買う」とおっしゃっていました。今では協賛枠が空くのをずっと待たれている企業もあるんですよ。
高チャリを使ってキャンペーンを実施している企業もあります。「弊社も1台高チャリに協賛しているので、その写真を送ってくれたら500円のクオカードをプレゼント」という具合です。
また、自社のホームページのアクセス欄に「高崎駅西口に高チャリというコミュニティサイクルがあるからそれに乗ってお越しください」と書いているお店もあります。すごく自由に活用されていますね(笑)。
まちなかに会話と笑顔を生む「高カフェ」
ー 次に「高カフェ」について教えていただけますでしょうか。
髙田主任:高カフェは、ゆったりと食事をしながら会話や休憩を楽しめるオープンカフェの事業です。
スタートの背景は高チャリと同様、都市再生特別措置法の改正で道路占用の特例制度ができたことです。実証実験を経て、平成25年4月から本格的にスタートしました。
中心市街地のお店にご協力いただき、令和4年度は15店舗で実施しています。また、オープンカフェ参加店舗の情報を掲載した「高カフェMAP」を製作し、ホームページで公開しています。
西山課長:街中にパラソルが出ていると、それだけでおしゃれで楽しそうな雰囲気になりますよね。
もちろんにぎわいの創出が目的ではありますが、人がいてもいなくてもおしゃれな空間を作ろうと考えたのも、高カフェを始めた理由です。
高カフェ事業が始まるまで
ー「高カフェMAP」はとてもかわいいイラストで、アイコンにカーソルを合わせると各ショップの写真が大きく表示されます。参加店は、もともとオープンカフェの営業をされていたのでしょうか?
西山課長:いえ、どのお店も「高カフェ」を始める前は屋外の席を設けていませんでした。
オープンカフェは、毎日のテーブルの出し入れやお客さんへの目配り、料理やお水の提供など、実は労力がかかるんです。
そのため「街の賑わいのために協力してくれませんか」と一軒ずつお願いに伺って、現在の店舗にご協力いただけることになりました。
また道路使用に際して、幅員、つまり道路の余地についても警察署にご相談しました。椅子やテーブルを設置してもなお歩行者や自転車が通れる幅員が必要だからです。
ただ、参加意欲のあるお店の店先に歩道がないことがあります。その場合は法律上参加していただくことができないですし、居酒屋もカフェではないので特例に当てはまらないということで、やはり許可が下りないんです。
「コーヒーを出すから」とまで言ってくださる居酒屋もあるので、こうした場合はもどかしいですね。
高カフェ来店者の反応
ーお客さんの反応はいかがですか?
西山課長:ペット同伴者や愛煙家の方も利用しやすいというお声をいただきました。
意外だったのは、ベビーカーを押しているお母さんのご来店が増えたことです。あまり予想していなかったのですが、たくさん来ていただけるようになりました。
コンビニや他のお店で購入したものをオープンカフェの席で飲食されている方もときおり見かけます。
ー持ち込みもとくにお断りはしないんですね。
西山課長:高齢の方が移動中の休憩で腰かけていらっしゃることも多いですし、そういう方も受け入れてくださるよう、お店の方々にお願いしています。できればおしぼりとお水も出していただけたらとも。
「前例のない挑戦」に全国から視察も
ー高チャリを始めるにあたって他のコミュニティサイクルを視察したと伺いましたが、高カフェについても視察はされましたか?
髙田主任:基本的に新しいことを始める際には、参考にできそうなまちや取り組みをリサーチして、事前視察を行っています。
西山課長:実は、平成23年の法改正後に「道路占用許可の特例」制度を使ったのは、高崎市が初めてでした。どちらの事業も前例がなく、とくに高チャリは全国から多くの方が視察に来られましたね。
メディア関係者の方や他の自治体の方からは、「自転車の管理がすごく大変ではないですか」とよく言われます。でもあらかじめ対応策を用意していたので、大きな問題もなく運営できています。
高カフェの場合、道路管理者である市や県に道路占用料を支払うのですが、街の美化に取り組むことを提案して減免していただきました。道路の清掃はお店の方々にご協力いただいています。
5年間有効の「高崎飲食店応援チケット」
ー次に「高崎飲食店応援チケット」について教えてください。
髙田主任:新型コロナウィルスの影響で多くの方が外出を自粛していた令和2年度より実施している、飲食店を支援するための事業です。
外出自粛や、飲食店の営業時間短縮などにより、お客さんも気軽に外食を楽しめなくなりました。その結果、飲食店は運転資金の確保が難しくなりました。そこで、なじみのお店で後から使えるチケット購入を通して、お店を応援していただくことにしたんです。
購入したチケットはそのお店のみで使えて、店内での食事にもテイクアウトにも使えます。チケットの販売期間は令和2年5月から令和2年12月末まででしたが、使用期限は5年間としました。
チケットは1枚500円で、購入は3000円以上からです。お客さんに販売する際は、各店舗で1割以上の割引を設定していただきました。
チケット販売期間 | 令和2年5月~12月 |
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チケット使用期限 | 令和7年12月末(5年間有効) |
チケット料金 | 1枚500円(3,000円分から購入可) |
特典 | 各店舗1割以上の割引を設定 |
万が一購入店が閉店した場合 | 高崎商工会議所から払い戻し |
西山課長:「Go To Eat」との違いは、お客さんがチケットを購入したら、お店はすぐに現金収入を得られるというところです。
何カ月も換金を待たなくてはならない仕組みだと、運転資金の確保はしにくいですから。この取り組みの事業費にかかったのも印刷代だけなので、すぐに実行できました。
高崎飲食店応援チケットの反響
ーお客さんからの反応はいかがでしたか?
西山課長:「お店を応援したくてチケットを買ったのに、特典があるなんてかえって申し訳ない」というお声があります。
お店によって違いますが、注文の品を1~2割増しにする、ドリンクやデザートを付けるなどのサービスがあるからですね。
「お金は預けておくから、コロナが収束したときに食べに行くよ」というお客さんもいらっしゃるので、チケット使用期限を長くしてあるんです。
食事そのものをするためというより、そのお店を応援したくてチケットを買う、という方がたくさんいらっしゃいましたね。
高崎の「まちなか」を元気にするために
ー今回のお話では、どの事業も、1つひとつ工夫を重ねて運営してこられたことがわかりました。
西山課長:高チャリと高カフェに関しては、道路占用の特例制度を使う取り組み自体が初だったこともあり、各所に交渉をしたり、ご協力をお願いしたりしながら進めました。
高崎飲食店応援チケットは、令和2年の春に外出自粛が始まって、在宅勤務を実施する方が増加していた頃に設けた制度ですね。
私は開始当時からこれらの事業担当者でしたが、今は異動してきた髙田とともに担当しています。
中心市街地の活性化は日本中で課題となっていますが、私たちは「まちなか」が仕事場のようなものです。
今でも日常的にこの街を歩いてお店の方々とお話していますが、今後もこの街を元気にするために、日々取り組んでいきたいですね。
ー本日は貴重なお話をお聞かせいただき、ありがとうございました!
高崎商工会議所 地域振興課 課長
高崎商工会議所 地域振興課 主任
気になるけど、なかなか話しづらい。けどとても大事な「お金」のこと。 日々の生活の中の身近な節約術から、ちょっと難しい金融知識まで、知ってて得する、為になるお金の情報を更新していきます。