小樽の歴史を物語る大型倉庫を保全・活用!小樽商工会議所にインタビュー PR

小樽の歴史を物語る大型倉庫を保全・活用!小樽商工会議所にインタビュー

北海道を代表する観光地のひとつである小樽市は、四季折々の魅力と歴史的建物が多数ある街です。運河や倉庫など、かつて栄えた産業の面影を残す施設も存在しています。

しかし、時代や産業構造の変化から、歴史的価値のある建造物に解体の話が持ち上がることもあります。

今回は小樽市の観光戦略に欠かせない「旧北海製罐(ほっかいせいかん)(株)小樽工場第3倉庫」の保全・活用を中心に、小樽商工会議所の取り組みについて、同所の山﨑さんからお話を伺いました。

四季折々の表情をみせる北海道小樽市

小樽市の街並み

―本日はよろしくお願いします。まずは小樽市の環境や交通アクセス、主な産業などについて教えてください。

山﨑さん:小樽市は北海道の西部にあり、札幌市からは40キロ程度の場所に位置します。

北海道には新千歳空港を利用して来られる方が多いですが、札幌・小樽間は快速列車で30分ほど、新千歳空港から小樽市へは快速列車で1時間程度です。高速道路も整備されていますので、車でも札幌市から1時間程度でアクセスできます。

小樽市は海に面した港町で、市街地側が海、後方が山です。四季の移り変わりを感じやすく、夏は海水浴やマリンレジャー、冬はスキーを楽しめます。海が見えるスキー場はなかなかなく、小樽市ならではのスポットといえるでしょう。

海岸沿いの断崖絶壁が続くエリアは国定公園に指定され、景観を楽しめます。坂が多いのも小樽の特徴で、坂から海が見える景観は撮影スポットとしても人気です。

観光業は市内の基幹産業の一つであり、宿泊業や飲食業、小売業が多くを占め、水産業も営まれています。

桜並木の坂道から小樽の海を望む写真

―自然豊かで、見どころの多い街ですね。

山﨑さん:季節ごとにいろいろな表情を見せてくれるのは小樽市の魅力ですね。ただ、毎年2,000人ほどの人口減が続いており、数年以内には人口が10万人を切ると言われています。

―小樽商工会議所では、主にどのような活動をされているか教えてください。

山﨑さん:地域の総合経済団体である商工会議所は全国に515箇所あり、小樽商工会議所では小樽市に暮らす方々や地域で事業を営む方を元気にするため、日々活動しています。

ここ12年ほどは人口減少になんとか歯止めをかけたいと、人口減少対策をテーマにしたプロジェクトを立ち上げて取り組んできました。「1次・2次産業振興プロジェクト」「まちの魅力向上プロジェクト」「みなと観光プロジェクト」「歴史まちづくりプロジェクト」の4視点でプロジェクトを進めてきました。

―それぞれ、どのような内容のプロジェクトなのでしょうか。

「1次・2次産業振興プロジェクト」は、「後志(しりべし)」エリアの一次産業である農水産資源と二次産業である小樽の製造加工業者の連携により、高付加価値化商品の開発を行っています。

また、北海道は十勝やオホーツクなど、13のエリアに分かれています。その1つで小樽やニセコなど20市町村で構成される「後志」では様々な果物や穀物、畜産物が生産され、北海道でとれる農水産物のほとんどは後志にあると言われています。後志の食を知って食べましょうという意味を込めた造語「知産志食(ちさんししょく)」をテーマに、後志の農水産物の消費拡大を図る取り組みを行っています。

「まちの魅力向上プロジェクト」では都市機能が低下しているJR小樽駅前周辺地区の活性化を図るため、小樽駅前広場の整備と老朽化が進む駅前第1ビルを一体とした再開発計画を取りまとめ、行政に早期整備を求めています。

また、近年は小樽にクルーズ客船が寄港するようになりました。「みなと観光プロジェクト」では、「港を巷(ちまた)に」をテーマとして港の「人流」に焦点を当て、小樽港第3号ふ頭周辺の賑わい創出に向けた機能や仕掛けを検討し、小樽市に整備プランを提案しました。現在、私たちが提案した整備プランがベースとなった整備が進められています。

そして「歴史まちづくりプロジェクト」は、小樽の歴史的街並みや歴史的建造物を保全・活用し、観光の高度化を図る取り組みです。こうしたプロジェクトの流れから、北海製罐㈱小樽工場第3倉庫の保全・活用に取り組んできました。

小樽運河とともに歩んできた旧北海製罐(株)小樽工場第3倉庫

小樽運河周辺を観光する人々の画像

―旧北海製罐第3倉庫とは、どのような建物なのでしょうか?建設された経緯や現在の状況を教えてください。

山﨑さん:小樽駅を背にして左手側に位置する旧北海製罐第3倉庫は、空缶を保管する倉庫として、今から99年前の大正13年(1924年)に完成した、鉄筋コンクリート造4階建ての建物です。小樽駅から700mほどの徒歩圏内にあり、4階まで合わせて7,000平米を超える規模の建物で、小樽市の歴史的建造物にも指定されています。

日露戦争に勝利した日本では、講和条約によってロシア領内の漁業権を獲得して以降、サケ・マス漁、カニ漁などの北洋漁業が盛んになりました。

そのため北海製罐の前身となる堤商会が、カムチャツカ半島に缶詰工場を建設し、北洋漁業で獲れた水産物を缶詰に加工し始めました。缶詰を入れる缶も必要となりましたので、缶を作って工場へ送る拠点として、堤商会を起源とする日魯漁業(株)の全額出資により、大正10年(1921年)に北海製罐倉庫(株)が小樽に創設されたのです。

堤商会は当時、函館市にある会社でしたが、わざわざ小樽に製缶工場を建てたのには次のような理由があったと聞いています。

1つは小樽が当時、石炭の集積地だったことです。北海道の内陸部で取れた石炭を、小樽港から全国へ運ぶために鉄道が敷かれ、小樽に石炭が集まってきました。そのため、函館よりも小樽のほうが石炭1トンあたり2円安かったようです。

もう1つの理由は、カムチャツカ半島まで行くのに、函館からよりも小樽からのほうが一昼夜短く済んだことです。これらの理由から、北海製罐倉庫(株)が小樽に創設されました。

ー倉庫というと荷物の運び出し・搬入が多いイメージですが、どのように作業をしていたのでしょうか。

山﨑さん:当時の小樽港には現在のような岸壁がなく、大きな船を直接港につけての荷下ろし・積み込みができない状況でした。そのため、艀(はしけ)と呼ばれる台船を使って、沖合に停めた船へ荷物の積み込み・荷下ろしをして倉庫に運んでいました。

その艀を使った運搬を効率よく行うため小樽運河が造られ、旧北海製罐小樽工場第3倉庫もこの小樽運河に面しています。第3倉庫は小樽運河が完成した翌年に完成したため、運河とともに歴史を歩んできた建物ともいえます。

―建造物としての第3倉庫には、どのような特徴がありますか。

山﨑さん:運河で艀を使った荷物の運搬をするため、第3倉庫の運搬機能は全て運河側に集約されているのが特徴です。

建物にはエレベーターが1基設置されていますが、建物内は主に倉庫としての機能を発揮するため、収納空間の確保を重視し、運河側の建物外部に荷物を積み下ろしする設備を集約しています。また、階段も建物内にはなく、作業員は建物の外に作られた階段で上り下りしていました。

独特なのは、らせん状に回るすべり台のような「スパイラルシュート」という装置です。空缶が詰められた木箱を、上階から「スパイラルシュート」に乗せると、箱がくるくると回って1階まで下ろせました。

スパイラルシュートの画像

このような機能を集約した建物は大正時代には先進的であり、産業遺産としても価値があるといわれています。

ほかにも、第3倉庫は映画や小説に登場したり、小樽運河とともに絵画の題材として描かれたりされてきました。市民生活と直接的な接点は薄いですが、地域を象徴するモチーフや風景として扱われ、身近な存在として親しまれてきた建物です。

解体危機から保全・活用に向けた取り組みへ

インタビューに答える山﨑さん

―歴史的価値があり、市民に親しまれる建物であった旧北海製罐第3倉庫はなぜ、保全・活用の取り組みが必要となったのでしょうか。

山﨑さん:今から3年前の2020年10月「北海製罐第3倉庫、年度内解体検討」という記事が、地元紙・北海道新聞の一面で報じられました。

長年親しんできた建物がなくなるかもしれないことに、市民に大きな衝撃が走りました。

小樽市長は「第3倉庫はこれからの小樽観光や街づくりにおいても重要な存在」と考え、早速「解体を猶予してもらえないか」と、北海製罐側へ申し入れました。まずは建物を今後どうするか考えるためです。

―行政側から働きかけるほど第3倉庫は地域にとって重要な存在なのですね。

山﨑さん:はい。第3倉庫がある北運河地区には歴史的な建物が集まり、小樽市の原風景が残るエリアで、観光戦略上も重要な存在です。

ちなみに1923年(大正12年)に幅40m・長さ1,140mの小樽運河が完成しましたが、そのあとすぐ小樽港ではふ頭の整備が始まりました。

ふ頭が整備されれば大きな船も直接岸壁に着けることができて、荷物の積み下ろしに艀を使う必要がなくなるので、運河としての役割も終わりを迎え、やがて壊れた船が運河に放置されたり、汚れが浮いて悪臭を放ったりするなど、小樽運河は忘れられた存在となってしまったのです。

そして、車社会になったことによる渋滞を解消するため片側3車線の道路を造ることになり、そのルートとして小樽運河の一部区間を埋め立てる計画が持ち上がりました。

しかし、道路建設で次々と壊されていく石造倉庫を目の当たりにし、「歴史的な遺産である小樽運河を残そう」という声が上がり、保存か埋め立てかで大きな論争となりましたが、最終的には小樽運河を半分残し、半分は道路にすることになりました。

現在「北運河」と呼ばれているのはその時に道路建設ルートから外れた場所で、今も幅40mの当時の運河が残されています。第3倉庫がある場所は、埋め立てて道路になった運河と当時のままの運河が残る場所のちょうど境目に当たります。

小樽駅から港に向かって右側のエリアには観光スポットが集中しており、第3号ふ頭周辺では賑わいを創るための整備も進んでいます。ただ、持続的な小樽観光を考えると新しい観光資源の発掘も必要です。第3号ふ頭周辺の整備だけでなく、小樽市の原風景が残る北運河も重要な場所になると考えています。

市民からアイデアを募るオープン勉強会も

第3倉庫に関するオープン勉強会の様子

―旧北海製罐第3倉庫の解体猶予が決まってから、どのような活動をされたのでしょうか?

山﨑さん:1年間の猶予ができたとはいえ行政だけで解決できる問題ではありませんので、商工会議所と観光協会が中心となって、2021年1月に「第3倉庫活用ミーティング」という組織を立ち上げました。

メンバーには建築や文化財の専門家、街づくり団体の方々、地域FMのパーソナリティなど12名と、所有者である北海製罐、行政がオブザーバー参加するオール小樽の組織となり、事務局を商工会議所が担いました。

このミーティングの目的は大きく2つあり、1つは第3倉庫という建物の価値を市民に広く知ってもらい、市民意識の醸成を図ることです。そしてもう1つは、広く市民からアイデアを募って保全・活用の方向性を取りまとめることです。

第3倉庫は民間企業が使っていた倉庫ですから、これまで市民が中に入る機会はありませんでした。そこで行ったのが内部見学会です。

さらに、第3倉庫の特徴や歴史的価値を知ってもらい、活用方法のアイデアを募るオープン勉強会の開催や、ライトアップ、芸術的観点から見てもらうため、第3倉庫を描いた絵画の展示も行いました。

―活動の結果、どのような効果がありましたか?

山﨑さん:市民意識の醸成を図る活動の結果、コンクリートと鉄筋の劣化具合を調査する診断費用を集めるガバメントクラウドファンディングでは、目標の2倍以上もの寄付が集まりました。旧北海製罐第3倉庫へ大きな関心が寄せられていると実感した出来事です。

また、オープン勉強会では建物の活用方法に関するアンケートを実施したのですが、小学生から80代ぐらいの方まで、参加者の8割から意見を得られました。

建物の診断調査の結果は、手すりの一部に腐食の進行が見られたり、外壁の一部に剥落があったりしたものの、コンクリートや鉄筋そのものは健全であるとの評価を受けました。問題のある箇所を部分的に補修すれば建物を今後も使えることがわかり、保全・活用に向けた提言をまとめ市に提出しました。

最終的に、北海製罐から小樽市に第3倉庫の土地と建物が無償で譲渡され、第3倉庫の解体が回避されることとなりました。

現在は第3倉庫活用ミーティングでまとめた保全・活用の考えを引継ぐNPOを立ち上げて活動しています。第3倉庫活用ミーティングの一部メンバーに加え、これからの小樽を担う若い方や国内外に多くのネットワークを持つ方など、小樽にゆかりのある方々が役員として参加しています。

―これから保全・活用を展開するにあたり、課題があればお聞かせください。

山﨑さん:建物を使うためには法や条例に合わせた改修工事が必要で、保全・活用には、市民の理解をさらに深めていくことも重要です。

そしてこの旧北海製罐第3倉庫は非常に大きな建物ですから、すべてを地元で担うのは厳しく、私たちの活動内容に共感してくださる開発事業者の方と連携しながら活動することも必要ではないかと考えています。

本格活用期間に向け、さまざまな社会実験も実施予定

第3倉庫の外観画像

―旧北海製罐第3倉庫の取り組みは今後、どのような計画をされていますか?

山﨑さん:2021年に取りまとめた保全・活用プランでは、2つのフェーズに分けて計画を進めることになりました。

2021年~2025年まではスタート期間とし、現在、本格活用に向けた環境整備をしている段階です。まずは、事務所として活用できるように改修工事を行いながら、本格活用への課題を把握するため、今年10月~11月にかけて社会実験イベントを行うという形で事業を始める予定です。

そして2026年~2046年までを本格活用期間とし、「市民交流・活動拠点」「持続可能なローカルツーリズム拠点」「文化・人材育成拠点」の、3つの拠点で整備を進める予定です。

―まだ小樽市を訪れたことがない方やまちづくりに関心のある方へ向けてメッセージをお願いします。

山﨑さん:まちづくりは、大変なこともありますが、取り組みによって街が動いていき、街の将来ができていくので、やりがいを持って仕事をしています。

小樽商工会議所では、小樽にまだまだ眠っている資源を発掘して光を当てようとしているところです。小樽に来たことがない方も、すでに何度も来られている方も、ぜひ小樽を応援していただければと思います。

―本日は貴重なお話をお聞かせいただき、ありがとうございました!

小樽商工会議所 事務局次長

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