環境に優しい「バガス容器」とは?食品包装のプロ、株式会社折兼に聞いた
日頃スーパーやコンビニで手に取る食品の容器。そこにどのような工夫が凝らされているか、考える方はあまり多くないかもしれません。
その一方で、環境への負荷が低い商品包装や食品容器、さらに循環型社会といったテーマに関心がある方や企業は増えてきました。
駅弁用の折箱製造・販売からスタートした折兼グループは、販売部門、管理部門、企画・開発部門、物流部門の4つの事業部門で連携し、フードビジネスのインフラを支えています。
今回は株式会社折兼ホールディングス広報ご担当の服部貞典さんと味岡愛恵さんに、折兼グループの強みや環境に優しい「バガス容器」についてお話を伺いました。
「駅弁の折箱」から始まった折兼グループ
―本日はよろしくお願いします。まずは折兼ホールディングス様の沿革や事業内容について教えてください。
味岡さん:当社は1887年に、駅弁用の折箱を製造販売する会社として創業しました。「折箱」の「折」と創業者・伊藤兼次郎の「兼」が社名の由来です。
その後プラスチック容器やエコ容器も販売するようになり、時代の変化とともにフードビジネスを拡げてきました。食品業界の中でもインフラをメインに担っています。
創業時から続く容器の販売事業だけでなく、衛生資材やフィルム、備品、機械化、売り場づくりの検討などを通じて、お客様にとって最適な提案をする食品包装関連資材の専門商社です。
服部さん:取引先としてはスーパーマーケットのお客様が約45%、食品メーカーのお客様が約20%、外食チェーン店のお客様が約10%となっています。
4つの事業部門が連携する「10の分野の専門部隊」
―御社ではグループ各社でさまざまな専門スタッフの方が活躍されているそうですね。
味岡さん:折兼グループは、管理部門を担う「株式会社折兼ホールディングス」、販売部門を担う「株式会社折兼」・「株式会社タニモト」・「栄産業株式会社」・「ニシヤ商事株式会社」、企画・開発部門を担う「株式会社パックスタイル」、そして物流部門を担う「株式会社折兼物流」で構成されています。
各事業部門の連携が折兼の強みで、たとえば企画・開発部門の株式会社パックスタイルは、販売部門の営業マンがお客様から得た声をもとに商品化しています。
2020年7月にコーポレートサイトを全面リニューアルした際、それぞれの部門の特徴がより分かりやすくなるよう、「フードビジネスのインフラを支える折兼の専門部隊」という特設ページも設けました。
―「店舗装飾の凄腕マジシャン」「フィルムのソムリエ」など、各部隊のネーミングがとてもユニークですね。
味岡さん:「店舗装飾の凄腕マジシャン」は、店舗備品部隊のキャッチコピーです。
この部隊は豊富な知識と経験から、お客様のご希望とご予算に応じてさまざまなメーカーの商品を組み合わせ、消費者との接点となる売り場(店舗)を演出します。
お客様がより商品を購入したくなるような売り場を作ることから「陳列のマジシャン」と呼ばれるスタッフもいて、テレビ番組などの取材をお受けすることも多いです。
―店舗装飾は売上を左右する大事な要素なのですね。たとえばどのような装飾の工夫があるのでしょうか?
味岡さん:「Yパネル」という弊社の商品を例に挙げると、白いYパネルを使うことで商品がより洗練されている印象を与えたり、野菜の陳列に茶色のYパネルを使うことで、農場の採れたて野菜の雰囲気を演出できたりします。
「ジャンブル陳列」といって、商品に値ごろ感を与え手に取りやすくする陳列方法もあるんですよ。
―「フィルムのソムリエ」のお仕事もよろしければ教えてください。
味岡さん:「フィルムのソムリエ」はフィルム部隊のキャッチコピーです。食品用フィルムは1枚のものだけでなく、実は複数枚のフィルムを貼り合わせたものもたくさんあります。
フィルム部隊が担うのは、食品によって酸素透過性や遮光性、保香性など、多数ある特性から必要な性能をカバーできるように、フィルムを選定し、構成を設計しています。
たとえばレトルトカレーだと、アルミのフィルムに包まれていることが多いかと思います。これは長期保存できるように遮光性を高くするためです。
最近使用が増えてきている真空包装にもさまざまな種類があります。真空包装で冷蔵・冷凍保存をすると保存期間が延びるため、消費期限による食品ロスを抑えられるのがメリットです。
服部さん:スーパーの肉売り場や魚売り場では、プラスチックトレーに入っている商品が多いかと思います。
昨今はプラスチック使用量を減らすことが食品業界の課題の一つですので、トレーをフィルム化する企業が増えてきています。
コンビニのお弁当についても、留め蓋をフィルム化することでプラスチック使用量を減らせますし、気密性を高めることもできます。今後もフィルムの需要は伸びていくのではないでしょうか。
―知られざる食品包装の世界、面白いですね。御社ではやはり日頃から研究されているのですか?
味岡さん:勉強会が定期的に開催されていますし、スーパーで商品を手に取る際も、どのような素材の容器なのかが気になってつい裏側を見てしまいます(笑)。
服部さん:パッケージの裏側を見るのは「折兼あるある」ですね。食品メーカーはパッケージに素材表示をする義務がありますので、紙なのかプラなのかなど、必ず表示されています。
環境に優しい「バガス容器」を展開中
―環境に優しい容器も製造販売されているそうですね。
味岡さん:さとうきびの搾りかすと竹や麦を混ぜ合わせて作る「バガス容器」の販売に力を入れています。バガスとは、さとうきびを圧縮した後に排出される大量の茎や葉などの繊維質です。
容器の原料にすることで廃棄されていたバガスの有効活用につながり、土や海に還る生分解性があるのが特徴です。
「フードサイクリング」といって、食事後のバガス容器を回収して堆肥化する取り組みも行っています。バガス容器で土壌改良剤となる土を作り、その土でまた野菜を育てるというサイクルを実証実験中です。
先ほど各事業部門の連携が強みとお話したように、営業マンがお客様から「バガスの寿司容器が欲しい」というお声をいただき、株式会社パックスタイルに情報共有してすぐに商品開発をしたという例もありました。
―製造時も使用後もエコフレンドリーなのですね。どのようなお客様から需要がありますか?
服部さん:個人で経営されているカフェや、コロナ禍をきっかけにテイクアウト・デリバリーを始めた飲食店からご希望をいただくことが多い印象です。飲食業を始める方の環境保護に対する感度は高まっていると思います。
ただコスト面では、1~2円の差であっても何十万枚という数になると大きな金額差になります。そのため当初は大手のお客様の採用があまり多くありませんでした。
しかし地鶏居酒屋チェーンの「塚田農場」を運営されている株式会社エー・ピーホールディングス様では、「減プラ」への取り組みとして、今年(2023年)4月から、テイクアウト・デリバリー用包材をバガス容器へ切り替えていらっしゃいます。
また、グループ中の一部のブランドでは、店舗の取り皿もバガス容器にするテストも検討されています。肉料理の皿は脂汚れがつきますので、洗う際に大量の洗剤と水を使うためだそうです。人件費への貢献性も期待できるようです。
生分解性のあるバガス容器を提供し、お店でそれを回収して堆肥にする取り組みを検討されています。
お客様の課題解決に向けて、営業マンと専門スタッフが密に連携
―ほかにも貴社製品・サービスの導入事例がありましたら教えてください。
味岡さん:近年深刻化している人手不足を解消するために、省人化につながるような機械の導入もご提案しています。最近は冷凍商品の人気が高くなっていますので、大学生協様で冷凍機械を導入いただくことも増えてきました。
また、当社はデザインから印刷まで一貫することで、コストとお客様の手間を削減しながら訴求力のある食品容器・パッケージの提案もしております。
たとえば愛知県の小笠原製粉株式会社様では、キリンの絵がトレードマークのご当地即席ラーメン「キリマルラーメン」を看板商品として販売されています。
このラーメンをフィルムデザイン、フィルム選定などから当社が一貫して担当することで、複数の会社に見積りを依頼したりデザインを依頼したりする必要がなく、無駄なコミュニケーションとトータルコストの削減につながりました。
―お客様からのお声もお聞かせいただけますか?
味岡さん:たとえば機械を導入するとなると、予算を考慮し、限られたスペースで適切に機械を設置する必要があります。
しかし商品製造のプロであるお客様は、必ずしも機械のプロではありません。そのため当社の専門スタッフがご提案することで予算内の省人化を実現し、業務改善につながったというお声をいただくことが多いですね。
商品のデザインやフィルムにおいても同様で、それぞれのプロがいることが折兼の強みです。
服部さん:当社は食品包装専門商社ですから、グループ会社のパックスタイル株式会社が販売するオリジナル商品以外は、同業他社でも同じ商品を取り扱っています。
その中で当社を選んでいただけるのは、現場の営業マンがしっかり情報収集をし、必要に応じて専門スタッフをコーディネートしているからではないかと思います。
見積もりを出すだけではなく、お客様が一番困っていらっしゃることを解決するのが営業マンの仕事であり、その課題解決を実現するのが専門スタッフです。
食品業界のニッチな情報を届ける「折兼ラボ」
―Webメディア「折兼ラボ」についても教えてください。
味岡さん:食品業界のニッチな情報は、インターネットで検索してもなかなか見つからないため、お客様が知りたいことがあっても分からないまま終わってしまうというお声がありました。
そこで、専門的な知識やお客様への営業・提案経験を豊富に持つ当社が情報発信をしようと考えて開設したのが「折兼ラボ 『食』と『地球』のことを考える研究所」です。
読者は食品業界に携わるすべての方を想定していますが、海洋プラスチックごみ問題を扱ったものなど小中学生を対象にした記事も少しずつ増やしており、お子さんがSDGsについて調べる際のツールとしても活用いただいています。
「エコNo.1企業」を目指して。次世代への啓蒙も推進中
―今後のご計画や目標がありましたらお聞かせください。
味岡さん:当社の目標は、「エコNo.1企業」になることです。環境に優しい容器を販売するだけでなく、消費者の方に、環境に優しい容器を使うことの大切さを今後もお伝えしていけたらと思います。
ただ、プラスチック容器が必ずしも悪いわけではありません。プラスチック素材には透明性がある、水漏れしないといった素晴らしい特長がありますので、よく使い分けることが大切だということをお伝えしています。
また、特に力を入れていきたいのは次世代を担う小中学生に向けた啓蒙活動です。環境問題について学び、自分ごととして意識・実践してもらえるよう、バガス素材が土に分解していく様子を実験する課外授業などを実施しています。
―他企業とのコラボレーションも進めていらっしゃるそうですね。
服部さん:最近は、フードサイクリングの取り組みを始めたいとお考えの企業様が増えています。
たとえば人材派遣業のパソナグループ様は、本社機能を東京から兵庫県淡路島に移行中なのですが、昨年秋に「ワールドシェフ王料理大会」というイベントを淡路島で開催されました。
世界20ヶ国のシェフが集まって各国の自慢料理を提供するという、食を通じたWell-Being(健康)がテーマのイベントです。
このイベントはプラスチックフリーで開催され、当社からバガス食器を提供させていただきました。
当日はリサイクルステーションが設置されて燃えるごみを細分化し、食物残渣とバガス食器も回収されました。
―多くの方がバガス容器を知る機会になったのではないかと思います。回収されたものはどうなったのでしょうか?
服部さん:農業分野での人材育成事業を展開するパソナ様のグループ会社「Awaji Nature Lab&Resort」内の農地にて、回収した食物残渣とバガス食器はその畑の堆肥として活用されました。
さらにその堆肥を使ったジャガイモの栽培も行われ、当社も先日その収穫に参加したところです。このような取り組みを、今後日本の各地でできたらと考えています。
―最後に、読者に向けてメッセージをお願いします。
味岡さん:エコ容器は環境に良いだけでなく、デザインがおしゃれというメリットもあります。コストが上がる側面はありますが、環境に優しい製品の選択が少しでも広まっていったら嬉しいです。
服部さん:食品包装には、内容物を崩れにくくする、賞味期限を延ばすといったさまざまな機能があります。
しかし一度家庭で開封してしまうとごみになってしまいますので、購入される時にパッケージの材質に関心を持つ消費者の方が少しずつでも増えていくといいですね。
再利用する、再資源として堆肥にするといった選択肢もあることを知っていただき、そのうえで食品をご購入いただけるような方が増えていくことを期待しています。
また、2025年の大阪万博では、万博協会が会場でのフードサイクリングを目指されています。
海に囲まれた場所で開催する万博では、風で飛ばされた容器が海に浮かんでしまう可能性がありますので、海でも自然分解するような材質の容器を使用する、それを回収して堆肥にするといった取り組みも必要ではないでしょうか。
万博で採用される食品容器はまだ決まっていませんが、当社としても環境負荷の低いパッケージ開発を今後もさらに展開していきたいです。
―本日は貴重なお話をありがとうございました!
株式会社折兼ホールディングス 広報
株式会社折兼ホールディングス 広報
気になるけど、なかなか話しづらい。けどとても大事な「お金」のこと。 日々の生活の中の身近な節約術から、ちょっと難しい金融知識まで、知ってて得する、為になるお金の情報を更新していきます。