SNS活用でブロックチェーンを身近に。Nextmerge株式会社にインタビュー
ブロックチェーン技術を利用した暗号資産やNFT(非代替性トークン)などは近年注目を集めている存在です。しかし、保有や取引のためにウォレットアドレスを取得したり、手数料の支払いに特定の暗号資産が必要だったりと、始めるハードルを感じる方もいるのではないでしょうか。
Nextmerge株式会社では、既存ブロックチェーンサービスや送金サービスの使用ハードルを解消する、新しいWeb3ウォレットを提供しています。
今回は同社COOの飯島 春樹さんに、自社開発のウォレットや、ブロックチェーンを利用したプロダクト開発について伺いました。
ブロックチェーンの課題を解消するNextmerge株式会社
―本日はよろしくお願いします。まず、御社の沿革や主な事業内容を教えてください。
飯島さん:弊社はロボットを製作する会社から新規事業を立ち上げ、2023年4月に新法人としてスタートしました。ブロックチェーンを社会で活用する際の課題を解消するため、Web3ウォレットの開発やブロックチェーンを使ったコミュニティ結成などを行っています。
アプリケーションの設計やUIデザインといったプロダクト開発をCEOが行い、私はプロダクトを利用したサービスを開発してお客様に提案しています。
簡単にSNS連携できるデジタルウォレット「TIPWAVE」
―Web3ウォレットとは、どのような機能を持つものなのでしょうか?
飯島さん:Web3ウォレットは、ブロックチェーン上で発行されたデジタル資産やNFTなどのトークンを、特定のアカウントへ紐付けるためのものです。
その名称から、お金を入れて持ち運ぶ財布のようなイメージを持たれる方がいるかもしれませんが、ウォレットに資産を入れることが所有権を示すわけではありません。どのアカウントがどのトークンを保有しているかを証明するのにブロックチェーン技術が使われています。
ウォレットはデジタルデータを所有するための入れ物ではなく、アカウントに紐付ける情報の一つだと捉えていただければと思います。
最近は特定のNFTを保有すると物理的なサービスを受けられるものもありますが、それはウォレットが保有するNFTの情報に加えて、物質的なサービスがプラスされているようなものです。
―Web3ウォレットの利用と相性が良いのはどんな分野でしょうか?
飯島さん:自身のアイデンティティを表現する身分証としての利用や人材領域、エンタメ領域は相性が良いでしょう。
また、医療分野でも患者カルテをブロックチェーンのウォレットと紐付ければ、医療機関ではなく個人が自分の情報を管理できます。個人がカルテ情報を管理できれば、どこの病院でも情報を共有できますよね。
―御社のWeb3ウォレットサービスについて詳しく教えてください。
飯島さん:現在、「TIPWAVE」というウォレットを運営しており、SNSに連携して暗号資産やNFTの受け渡しができるようにしています。
通常、暗号資産の取引では英数字が無機質に並んだウォレットアドレスを取得しますが、「TIPWAVE」ではSNSアカウントを送付先として設定でき、個人間での取引やコミュニティ内での「投げ銭」も簡単です。下の画像はX(旧Twitter)IDを指定することで、トークン(暗号資産など)を送付しています。
私たちが開発するサービスは、暗号資産やNFTを扱うときの面倒な要素を取り除いて、カジュアルに使えることを目指しています。暗号資産やNFTというとまだ金融的なもの、投資的なものというイメージを持たれているのですが、日常のちょっとした決済や投げ銭などに気軽に使える状態になればと思っています。
「TIPWAVE」へのアクセスはこちらから
―連携できるSNSには何がありますか?
飯島さん:現在対応しているのはX(旧Twitter)とDiscordですが、今後はLINEやSlackなどにも対応していく予定です。SNSの壁を突破して、自分の保有するものを共有できるサービスにしていきたいと考えています。
―デジタルウォレットを普及させるには、世の中にどのような変化が必要なのでしょうか?
飯島さん:まず、ウォレットを持っていないとブロックチェーン技術の利用に参加できないという状態が良くないと考えています。例えるなら、ブロックチェーンの世界に入るためにはウォレットという資格が必要で、知識がないと資格が取得できない状態です。
弊社ではその障壁を取り払って、SNSのアカウントがあればブロックチェーンの世界に参加できるようにしました。詳しい知識がなくても、まずはブロックチェーンの世界に入って、技術に触れられることが大切だと思います。
企業向けサービスもまだ需要が少ない状況です。地方自治体や一部の企業がNFTを発行していますが、ユーザーにはウォレットを持ってもらうことから説明する必要があり、その工程を考えると面倒な取り組みになってしまっているのです。
我々が開発したウォレットを広めることで、その「面倒臭さ」を解消できればと思っています。下記の画像では、ウォレットを準備せずにNFTを受け取った人が、後からウォレットを有効化しています。
今まで面倒だった、NFTを受け取る前のウォレット開設やNFTを受け取ったものの、どうやって使えば良いかわからないといった不便を解消できます。
そうすることにより自治体や企業側もブロックチェーンを利用した施策を実施しやすくなり、日常にブロックチェーンを普及させることができます。
自己表現や活動記録としての活用も期待
―日本国内のウォレット保有率は、どれくらいなのでしょうか。
飯島さん:少し古いデータでは、人口の1%にも満たなかったと思います。一方、自国通貨が不安定な新興国では、暗号資産のほうが価値あるものとされて普及しているケースがあるようです。
日本円は安定した強い通貨ですので、金融目的でデジタルウォレットを使うシーンがあまりなく、日本ではまだあまり普及していないのではないでしょうか。
今後日本でブロックチェーン技術が流行るのは、エンタメ領域のアイデンティティなど、金融以外の分野ではないかと思います。
―エンタメ領域というと、ライブの優先チケットやプラスアルファの権利付与といったメリットを付与するような使い方でしょうか。
飯島さん: はい、ユーザーがSNSアカウントから作成したウォレットで、チケットを買ったり、NFTを入手したりと、ウォレットに記録が蓄積されるからこそ、長年応援してくれているファンや熱量の高いファンに適切に還元ができるようになります。
また別の領域では、活動記録としても使えると考えています。例えば、清掃やゴミ拾いといったボランティア活動をする人は、基本的に報酬を受け取れませんよね。でも、もし活動に参加した証としてバッジがもらえるという仕組みにすれば、バッジ保有者に対して地域がインセンティブを付与できます。
例えば僕が運営するNPOの活動に参加した人へ「飯島ボランティアバッジ」を与えるとします。「飯島ボランティアバッジ」を持つ人の評判が良ければ、バッジ保有者にボランティアへ来てほしいというニーズが生まれるでしょう。
地域のために活動してくれる「飯島ボランティアバッジ」保有者には地域の商店街で割引を適用するといった使い方ができると思います。
こうした取り組みができるのはもう少し先だと思いますが、活動の対価として、他者に譲渡できないNFTを付与すれば個人的なコレクションになると同時に、他者からは活動実績として映ります。そのためデジタル上のアイデンティティ確立ができるのではないでしょうか。
ブロックチェーンは汎用性の高い技術ですので、使い方次第では他にも面白いことができそうです。
ブロックチェーンを活用してコミュニティを活性化
―御社のプロダクトを使った事例は他にどのようなものがありますか。
飯島さん:資産性のないトークンを使い、コミュニティの活性化に利用している事例があります。
MEISO合同会社が運営するNFTプロジェクト「ベリーロングアニマルズ」では、「ポテト」というトークンをコミュニティ内の独自通貨のように扱っています。コミュニティ参加者は「ポテト」を貯めるとオフ会への参加やグッズとの交換ができるほか、面白い発言をした人へ「ポテト」の投げ銭も可能です。
ユーザー間での投げ銭によってコミュニケーションが生まれ、運営が用意した場を楽しむだけでなく、ユーザーにとってそのコミュニティ自体が好きな場所になっていく効果が得られます。「ベリーロングアニマルズ」は、そうした緩いコミュニティ運営でファンを増やすというKPI(重要業績評価指標)を設定しています。
もう一つは投資家コミュニティでの事例です。投資銘柄や便利なツールの紹介、投資予想などをコミュニティで投稿するとポイントが発行されます。発行されたポイントの使い道はまだ決まっていませんが、投資予想や意見交換を活性化させてコミュニティの質を高める目的で使われています。
また、コンセプトカフェ業界での導入も検討中です。来店したり、店側が求めるアクションをしたりするとポイントが付与される仕組みをデジタル化すれば、サービスに還元されるサイクルを作り出せます。
―「TIPWAVE」利用者からの反響をお聞かせください。
飯島さん:投資家コミュニティではトークン発行への反応が良く、参加者が増えていますので、コミュニティ内のコミュニケーションの質が上がっていくことが期待されています。
運営から一方的にトークンを付与するのではなく、コミュニティの参加者同士でも、トークンを渡しあうことにより、新たなコミュニケーションが生まれています。
例えば、投資についての議論やちょっとした質問のやりとりに感謝の印としてトークンが送られると、自発的にその行為(議論や質問など)をしたくなるようになります。
そのサイクルを通じてコミュニケーションが活発になれば良いコミュニティになり、より参加者が自然と増えていく状態を作れるでしょう。
また、トークンを使ってコミュニティに貢献している人を評価することもできます。例えばコミュニティ内のルールを作った、あるいはルールに詳しい古参メンバーが、新しく参加してきた人へ教えるコミュニティ形成ができるでしょう。
通常はコミュニティ参加者が増えると、それに応じて運営側の人数も増やす必要があります。でもインセンティブを活用して元からいるメンバーが新メンバーに教えるよう推進すれば、自治的なコミュニティにしていけます。
教わった人も、次に新しい人が入ってきたときに教える側へ回れますから、だんだん運営の手がかからない状態に持っていけるでしょう。運営側の規模を拡大せずとも、メンバーがどんどん集まる構造を作れると思います。
誰もが日常的に使うサービスを目指して
―今後の計画や目標をお聞かせください。
今まではブロックチェーンを利用した取引に手数料がかかり、特定の暗号資産を用意する必要がありました。ですが、そもそも暗号資産の購入も手間で、誰もが手軽にできる状態ではありません。
我々のウォレットは、SNSアカウントがあれば、暗号資産を用意しなくても誰でもカジュアルに取引できるよう開発しています。今後は弊社が開発するウォレットが、日本一使われるものにしたいという目標があります。ユーザーが特に技術的な知識を持たなくても、日常的に使える状態にしていきたいです。
―最後に、マネ会読者へメッセージをお願いします。
飯島さん:ブロックチェーンのお話をすると、生活の劇的な変化やデジタル資産への投資で利益を得ることを期待される方もいるかもしれません。しかし、その本質はシンプルで、ブロックチェーンとは他の技術と組み合せて利便性を向上させるものです。
ですから、もしブロックチェーンの話題で「資産価値」や「運用益」の話題を全面に出して投資を持ちかけるような人にはご注意いただければと思います。
また、我々は現在エンタメ系の事業者へブロックチェーン活用の提案をしています。SNSと連携したプロダクトを開発していますので、情報を拡散した人(RTやいいねなど)やレビュー投稿した人へNFTを送るといったアプローチが可能です。
SNSのAPIを使った情報取得もしておりますので、マーケティングやコミュニティ内でユーザーの行動を促す施策にも役立ちます。
NFTプロジェクトやブロックチェーンのビジネス利用をお考えの企業様はぜひ、ご相談いただけますと幸いです。
―本日は貴重なお話をお聞かせいただき、ありがとうございました。
Nextmerge株式会社 COO
気になるけど、なかなか話しづらい。けどとても大事な「お金」のこと。 日々の生活の中の身近な節約術から、ちょっと難しい金融知識まで、知ってて得する、為になるお金の情報を更新していきます。