売れるまで支援する。「熊野ブランド」を生んだ熊野商工会議所にインタビュー
三重県熊野市は、紀伊半島南東部にある自然と歴史豊かなまちです。世界遺産の「熊野古道」や囲碁の黒石「那智黒石」の産地などとして知られる熊野市ですが、地元だけではなく国内の他地域や海外に向けた事業展開にも力を入れています。
今回は熊野商工会議所事務局長・中小企業相談所の所長を務める齋藤さん、業務課の﨑久保さんに、特産品認定事業「熊野ブランド」などについてお話を伺いました。
熊野市の発展に全力を尽くす「熊野商工会議所」
―本日はよろしくお願いします。まずは三重県熊野市について教えていただけますか?
齋藤さん:熊野市は紀伊半島の南東部に位置しており、山と海に囲まれた自然豊かな地域です。
世界遺産の熊野古道をはじめとした歴史と文化を感じる場所が数多くあるほか、温暖な気候で育つ香酸かんきつ「新姫(にいひめ)」、「熊野地鶏」、囲碁の黒石や硯の素材として高評価を受けている「那智黒石(なちぐろいし)」などの特産品も豊富です。
令和4年3月現在の人口は約16,000人ですが、毎年8月開催の「熊野大花火大会」の日には全国から見物客が訪れるため、15~16万人もの人でにぎわいます。コロナ禍のここ数年は開催されていませんが、この花火大会は熊野市随一のイベントです。
―ありがとうございます。本日は熊野商工会議所さまが実施されている事業支援について教えていただけるそうですね。
齋藤さん:近年は人口減少によって過疎化・高齢化が進み、地元の事業者さんは地域外への商品・サービス販売やインバウンドにも注力していく必要がある状況になっています。
当所では事業支援として「熊野ブランド」認定事業や他の地域の商工会議所との連携、海外展開支援などをおこなっていますので、それぞれご紹介します。
熊野独自の資源や技術を活かす「熊野ブランド」
―最初に「熊野ブランド」についてお聞かせください。
﨑久保さん:熊野ブランド認定事業は2016年から始まりました。熊野の豊かな自然や歴史、産業に関する遺産を結び付け、独自の資源と伝統的な加工技術を活かして生み出された特産物、加工品等を認証するブランドです。
―ブランドロゴがユニークで、かわいらしいですね。
齋藤さん:ロゴはこの地域で活躍されているデザイナーさんにお願いしたものです。「熊野古道」を連想させる神社の鳥居や歴史文化を象徴する火など、熊野らしいロゴをデザインしていただきました。
―認定特産品には、たとえばどのようなものがあるのでしょうか。
﨑久保さん:有限会社もんいまぁじゅの「新姫チーズ」「酒粕フィナンシェ」、地域団体商標として登録されている「那智黒石」の加工品、熊野市藍染工房「そめやなないろ」の藍染布を封入した、LOGJAMによるハンドメイドサーフボードなど、現在24品目が認定されています。
齋藤さん:もんいまぁじゅさんの新姫チーズは、熊野市特産の新姫果汁を使用することで甘酸っぱい香りがアクセントとなっている、濃厚なチーズケーキです。
酒粕フィナンシェは、伊勢志摩サミットの乾杯酒としても提供された清水清三郎商店の銘酒「作(ざく)」の酒粕を使ったフィナンシェで、酒粕の豊潤な香りで大人の味となっています。
那智黒石は、熊野市神川町だけで採掘される希少な黒い石です。碁石の黒石は、そのほとんどが那智黒石で作られています。
硯石としても古くから使われているほか、アクセサリーやマッサージ用のエステストーン、粉末にした端材を樹脂と一緒に固めて作った招き猫・干支の置物など、さまざまな商品が生み出されています。
―熊野市ならではの特産品がたくさんあるのですね!認定された商品はどのような販路を新たに得ているのでしょうか。
齋藤さん:後ほど詳しくお話しますが、新姫チーズケーキや酒粕フィナンシェは海外にも販売を広げています。
熊野ブランド審査員のなかには経営コンサルタントの方や三重県のリゾートホテルの社長さん、伊勢神宮の門前町であるおかげ横丁の関係者の方などもいらっしゃるので、こうしたつながりから販路の開拓にもつながっています。
先日は三重県の取り組みの一環で、東京・銀座で那智黒石を販売する機会もありました。那智黒石の招き猫や勾玉磨き体験キット、エステストーンなどをご紹介し、購入にもつながっています。
毎週打ち合わせをする事業者も。オンライン商談にも同席
―熊野ブランドに認定された事業者さまに対しては、どのように支援をされているのでしょうか。
齋藤さん:熊野市は小さい町ですから、当初の会員事業者さんとの関係性も距離が近く、毎週のように相談をお受けしている事業者さんもいらっしゃいます。
たとえば、魚肉練り製品を扱う有限会社新兵衛屋さんは、昨年(2022年)の秋に開催された東京の展示会へ一緒に出展しました。そのときに商談をした方とまだ商談が続いていますので、私たちもオンライン商談に同席して条件折衝をサポートしております。
その後、沖縄の商談会にも一緒に参加して、それが香港への商品輸出につながりました。そのときはフィナンシェとチーズケーキのもんいまぁじゅさんも一緒でしたね。沖縄の商談会から、いくつかの事業者さんのアジア各国、アメリカへの輸出が実現しています。
直接貿易の場合は言語の壁もあって手続きなどが大変ですので、基本的には商社を通してこうした販路拡大を支援しています。
地域間連携や海外展開の支援も
―他の地域にある商工会議所との連携事業もされているそうですね。
齋藤さん:山梨県の甲府会議所、岐阜県の中津川商工会議所さんと相互に特産品を販売し合う事業を展開しています。令和4年度が3年目で、初年度は当初と中津川商工会議所、2年目から甲府商工会議所も3商工会議所になりました。
連携事業を始めた理由としては、コロナ禍で観光ができなくなってしまったという背景があります。お客様が直接出かけなくてもそれぞれの地域の特産品を購入できるようにしたいと考え、物産品交換をして販売しているんです。
―他地域の商工会議所と連携して、地域の外に良いものを広める取り組みなのですね。先ほどお話があった海外展開の支援についても教えてください。
齋藤さん:たとえば熊野ブランドに認定されている「熊野魚道せんべい」の糸川屋製菓さんが、海外展開を希望されていたので沖縄の商談会へ一緒に出展しました。
また、2022年10月~2023年1月を期間としてアメリカAmazonの越境ECテストマーケティング事業がありましたので、先ほどの新兵衛屋さん、糸川屋製菓さん、あと熊野薬草園という事業者さんにご参加いただきました。
このテストマーケティングでの成果は大きく、たとえば熊野薬草園さんの唐辛子七味は3ヶ月間で200個近くの販売につながり、非常に喜んでいらっしゃいました。今後も海外展開を続けていきたいと言ってくださっています。
―海外の方にも喜ばれるという手ごたえがあったのですね。そのテストマーケティングでは、どのようなことを分析されたのでしょうか。
齋藤さん:まずアメリカAmazonサイトで何人がその商品ページを閲覧したのか、どのようなキーワードで閲覧されたのかですね。また、カリフォルニア州で売れたのか、ニューヨーク州で売れたのかといった地域的な違い、競合商品と比較した場合の購入率なども分析対象でした。
「売り上げ」につながる支援をしたい
―事業支援において、熊野商工会議所様が大切にされていることを教えてください。
齋藤さん:越境ECの場合はユーザーに検索をしてもらうことが大前提ですが、それ以外の海外展開は基本的にBtoBです。そのため、商社や小売店、飲食店などへどのような提案をするかが重要となります。
私たちは商談会があれば同行しますし、後日の交渉も継続してサポートしています。やはり熊野のような小規模の地域では、事業支援も一気通貫で進めることが大切です。
私は入職時からずっと「熊野の商品を日本全国や海外に広めたい」と考え、事業者のご相談に対応しています。そのためには、新商品開発の計画を一緒に作るといった「入口」だけでなく、商品が実際に売れる「出口」までサポートすることが重要だと考えています。
今後も、入口だけ関わるのではなく、しっかり「売り上げにつながる支援」までしていきたいですね。
―本日は貴重なお話をありがとうございました。
気になるけど、なかなか話しづらい。けどとても大事な「お金」のこと。 日々の生活の中の身近な節約術から、ちょっと難しい金融知識まで、知ってて得する、為になるお金の情報を更新していきます。