地域活性化をサポートする高知商工会議所の3つの取り組みについてインタビュー!
高知県高知市は豊かな自然に囲まれ、県の中核を担う都市です。1954年から毎年夏に開催されている「よさこい祭り」は高知商工会議所が中心となって運営しており、今では高知県の夏の風物詩になっています。
今回は高知市の高知商工会議所が取り組んでいる「商店街の活性化」「人材育成事業」「事業承継支援」について、高知商工会議所の平島さん、小松さん、都築さんにお話を伺いました。
人と人の距離が近い街「高知市」
―本日はよろしくお願いします。まずは、高知市について教えていただけますでしょうか。
平島さん:高知市の人口は約32万人です。高知県の人口が約70万人なので、高知県の約半数の県民が集まっている街になります。
高知県は「1度お酒を飲んだら家族のような」という人懐っこい県民性もあり、人との距離が近いのが特徴です。市内にある「ひろめ市場」では相席ができる席をあえて設けており、交流の場としてもとても活気のあるスポットです。
高知市の南には海、北には山が広がっており、大きな隣町まで行くのに時間がかかってしまうため、生活に必要なことは市内で済ましてしまうというのも、高知市の人柄に影響しているのかもしれません。
また、高知といえば「よさこい祭り」が多くの方に知られていると思いますが、観光地としても、坂本龍馬が月見をしながら海を見たといわれている「桂浜」や、NHK朝ドラ化が決定して人気が上昇している「牧野植物園」などがあります。
とくに「桂浜」に関しては今年(2022年)中に再整備が終わって、来年度には周辺がとてもキレイになると聞いています。
高知商工会議所では、こうした高知市の魅力を伝えるのもちろん、商店街の活性化や人材育成事業、地元事業者の事業承継など、地域経済活性化を目的としてさまざまな取り組みをおこなっています。
行政・街・大学が協力して商店街活性化を目指す「エスコーターズ」
―ありがとうございます。商店街の活性化ではどんな取り組みをされているのでしょうか。
小松さん:高知商工会議所では、高知県立大学の学生と一緒に商店街活性化に取り組んでいます。エスコーターズといって、毎週日曜日に赤い服を着て街中のゴミ拾いや清掃をしながら、道に迷っている方への積極的な声をかけ、目的地までのエスコートをするということを学生の方にやっていただいています。
活動は高知県立大学が女子大学だった平成13年からおこなっているので、約20年続けています。長年続いている取り組みなので、商店街にも活動を受け入れていただいており、イベント企画を商店街の理事の方と学生が一緒に考えて組み立てていくといった、良好な関係を築いています。
学生だけのサークル活動だと街作りには限界があるかもしれませんが、私たちは商工会議所の活性化事業として商店街・学生・行政が協力しながら取り組みをおこなっています。活動資金やエスコーターズの報酬を商店街で用意していただいており、このような取り組みは全国でも珍しいと感じています。
あとは新規の顧客を取り込むために、商店街の店主が講師を務めるゼミナール「まちゼミ」を実施しています。近年はコロナの影響もあって実施は難しかったのですが、コロナが落ち着いてきましたので今年11月に開催し、客足を取り戻すきっかけにできればと考えています。
―エスコーターズのような取り組みを始めたきっかけを教えてください。
小松さん:取り組みを始めたきっかけは、当時の職員が企画・提案したことです。当時はメディアにも取り上げられて、このような取り組みを始める自治体も増えていったのですが、長年継続できているのは、高知市だけだと感じています。
エスコーターズの取り組みでは、商工会議所の職員と学生が毎週1回の打ち合わせをおこなっています。学生任せにするのではなく、職員も一緒になって学生の意見や悩みなどを聞いて取り組みに関わっていることが、継続できている大きな理由だと思います。
また、学生にはしっかりと案内ができるように、観光などの基礎研修も受けてもらっています。街に訪れて道に迷っている方は本当に困っているので、この取り組みは喜んでいただけていると考えています。
地元企業から人気の社員研修
―人材育成事業についても詳しく教えてください。
都築さん:人材育成については「新入社員研修」「中堅社員研修」「管理職研修」のステージ別の3つの研修を実施しています。
新入社員研修については今年(2022年)、96社250人が参加しました。2日間の研修でマナーや心構えなどをしっかりとやるので、企業の方からは人気があると感じています。
また新入社員研修は会社にとって「教える場」なのですが、参加者にとっては「高知で働いている仲間を見つける場」として運営しています。
高知の企業は小規模な企業が多いこともあり、新入社員と先輩が10歳以上離れているというケースが多く、それだけ歳が離れていると相談しづらいということがあります。そのため、研修ではその場で名刺交換をして同世代の友達を作れるように工夫をしています。
さらに最初の研修だけで終わるのではなく、3ヶ月後くらいに定着研修をおこない、1年ほど経過したあとは企業に言葉遣いの定着度合いなどのアンケートを実施しています。アンケートをとると、8割、9割は定着していると回答をいただけるので、私たちもうれしく感じています。また、アンケートの結果を次年度の研修内容に反映させるようにしています。
「中堅社員研修」「管理職研修」に関しては、「どうやって部下に指示をだせばいいのか」「部門をひっぱっていけばいいのか」ということを中心におこなっています。
「中堅社員研修」「管理職研修」はまだ歴史が浅いのですが、「新入社員研修」については50年以上おこなっています。東京や大阪など大都市の商工会議所では、人材育成研修が充実していることも多いのですが、高知の規模で新入社員から管理職まで研修を実施しているのは珍しいかもしれません。
とくに新入社員研修については認知度が高くなっているので、実施する時期になると多くの企業から申込みがありますね。
全国的にも珍しい「ネームクリア」を活用した事業承継支援
―続いて、事業承継支援の取り組みの概要を教えていただけますか。
平島さん:全国には事業承継・引き継ぎセンターという組織が設置されており、高知県は高知商工会議所が運営しています。
個人で商売をしている方は、跡継ぎがいないと自分の代で廃業するというイメージを持っている方が多く、第三者に事業を引き継ぐという感覚を持っていないケースが多いです。
そのため、事業承継についての相談をする方ってなかなか多くないのですが、高知は事業承継に対する相談がたくさんあり、例えば、譲渡の相談件数は令和4年9月現在、全国3位になっています。
銀行や県内の商工会・商工会議所に協力をいただいて、年齢の高い経営者を紹介して引き合わせてもらうということをやっているので、多くの方に直接、さまざまな事業承継の方法があることを説明できる機会があります。
スタッフが直接話をすることで、廃業や休業以外の方法もあるということを理解してくださる方も多く、「それなら事業承継を相談してみようか」という話に繋がることが大きな理由の1つだと思っています。
また、事業承継を希望している事業者の名前を公開する「ネームクリア」という手法を活用している点も高知商工会議所ならではの特徴だと感じています。
廃業や休業をするときは、噂が立ってしまうと営業に支障がでるので、直前まで公表しない方が多いのですが、「名前を出してもいいよ」といってくれる場合は、高知県が移住者向けに運営しているホームページの「オーナー募集事業所紹介」に載せています。
全国的に見てもネームクリアを活用しているのは珍しいですし、いろいろな組織と案件を掘り起こしていくことができていると思います。
―田舎への移住を考えている方も、事業を引き継げるのであれば移住のハードルが下がりますよね。
平島さん:そうですね。田舎に移住して創業したいと思っている方は、顧客を確保した状態で開業できますし、設備なども元々ある物を使えばある程度費用を抑えながら始められると思います。そういう意味ではメリットが大きいと感じます。
―ネームクリアは全国でもめずらしい取り組みとのことですが、始めたきっかけを教えていただけますか。
平島さん:事業承継を考えている事業者の名前を出す方法があると聞いて、試してみようという話になったことがきっかけです。
また、事業承継・引き継ぎセンターがある建物には、移住促進のセンターも入っているので、移住希望者にオーナー募集の情報が届く仕組みができているのも良かったと思います。
私たちのおこなっているネームクリアは、ほかの組織との協力体制がしっかりとできていて、少しずつ事業承継の相談も増えている感じがします。
―取り組みでの実際の効果や制度を利用した方の反響などを教えていただければと思います。
平島さん:実際の声は聞いてみないとわかりませんが、去年は55件の事業承継を達成しています。
例えば、私がお手伝いした地元でも人気の飲食店の事業承継つきましては、利益率や来店可能人数の計算など事業成立のためのサポートをおこないました。実際に再オープンしたお店の前を通りかかると、いつも行列ができているのを見てうれしく思っています。
地元企業の悩みや相談、事業承継などをサポートしていきたい
―最後に、この記事を読んでいる読者へのメッセージをお願いします。
平島さん:高知商工会議所では、地元企業の支援に長年力を入れています。コロナ禍で経営の厳しい状況が続いている企業も多いと思いますが、商工会議所が一緒になってサポートしていきたいと考えています。
また、創業を検討している方がいれば事業承継案件の紹介などを含めてサポートしていきたいと考えているので、ぜひ相談いただければと思います。
―本日はお忙しいなかありがとうございました。
事業承継担当 総務企画部副部長
商店街担当 地域振興課
人材育成研修担当 経営支援2課