美容師のためのオンライン学習サービス「HAIRCAMP」とは?HAIRCAMP株式会社にインタビュー
国家資格の取得や美容室での下積みなど、一人前の美容師になるまでの道のりに大変そうなイメージを持つ方は多いのではないでしょうか。実際に美容師の離職率は高く、十分な収入を得るために必要なスキルを習得するには時間のかかる職業です。
そんな厳しい美容業界の常識を変えるため、美容師のスキルアップに役立つオンラインサービスを提供する企業があります。
今回は、美容業界に特化したオンライン学習サービス「HAIRCAMP」を運営する、HAIRCAMP株式会社 代表取締役 森本賢志さんに事業にかける想いや今後の展望についてお話を伺いました。
美容師に必要な知識・技術をオンラインで学べる「HAIRCAMP」とは
―本日はよろしくお願いいたします。まずは、御社の事業内容や沿革について教えてください。
弊社は「HAIRCAMP」という、美容師向けのオンライン教育プラットフォームを提供しています。おもに教育コンテンツとメディアコンテンツの2つを軸に、事業を展開しています。
「HAIRCAMP」は創業当時からの事業ではなく、14年前の会社設立時にはヘアメイクやヘアセットを専門とするセットサロンの運営からスタートしました。
そこから美容業界に特化した人材紹介事業も立ち上げ、6年前に美容師向けの教育プラットフォーム「HAIRCAMP」の提供をスタートしました。
―「HAIRCAMP」には、どのようなコンテンツがあるのでしょうか?サービスの概要を教えてください。
「HAIRCAMP」は美容師個人を対象にしたサービスで、コンテンツごとに課金、視聴してもらうサービス形態です。2022年からはサブスクプランをスタートさせ、法人向けのeラーニング教材となる「ヘアスク」も提供しています。
「HAIRCAMP」は現在、12カリキュラム、約2,500の動画コンテンツを用意しており、美容師に必要なカットやカラー、パーマ、アイラッシュ、アイブロウなどの技術を学べるほか、接客やホスピタリティ、金融リテラシーに関わるコンテンツも提供しています。
現在、個人ユーザーはおよそ6万人となり、美容師の数は全国で約50万人といわれているので、およそ10人に1人の割合で利用いただいている状態です。
―教育コンテンツを事業の軸にしようと考えたきっかけを教えてください。
美容業界の人材紹介サービスを展開するなかで、人材の管理や育成面でのつまずきがありました。最大で500人が所属する規模にまで成長できましたが、人材のマネジメントや各種スキルを均一化する難しさに直面したんです。
そのなかで、動画を使った教育コンテンツを用意し、オンライン教材とオフラインの講習を連動させたところ、高い効果を感じられました。それがきっかけとなり、このやり方はサービスとして広く提供すべきではないかと考えたことが現在の「HAIRCAMP」につながっています。
法人向けサービス「ヘアスク」も展開
―法人向けサービスとしてスタートされた「ヘアスク」は、個人向けの「HAIRCAMP」とどのような違いがあるのでしょうか?
「ヘアスク」はコンテンツが見放題で、なおかつ導入した組織内での学習進捗を可視化できるシステムも実装しています。
ある程度の規模に成長したサロンでは、独自の教育システムを確立し、社内教育をしているでしょう。
しかし、立ち上げたばかりのお店や小規模なサロンでは、そこまでの教育体制が整っていないケースが多いと思います。美容師個人が動画配信など独学で技術習得している場合もあり、自社スタッフが今何を学んで、どんなスキルを持っているかを店側が把握できないのが課題です。
「ヘアスク」なら自社の教育システムが確立していないサロンも、学習コンテンツをスタッフに提供でき、各スタッフの学習状態を可視化できます。どのコンテンツを視聴して何を学習してきたか、どの分野に関心を持っているかを把握し、人材マネジメントへの活用も可能です。
現在、「ヘアスク」は全国1,600の店舗で導入いただいています。
また、2023年8月には、学習カリキュラムをカスタマイズできる新機能を実装予定です。
自社の教育システムがあるサロンでは、自社カリキュラムを軸にしてスタッフ教育をしたい要望もあります。「ヘアスク」が用意するコンテンツから、取り入れたいものだけをピックアップし、独自カリキュラムと併用できる仕組みにする予定です。
技術習得だけでなく接客スキルやマインドセットを学ぶコンテンツも人気
―「HAIRCAMP」では、どのようなコンテンツが人気ですか?
美容師に必要なカットやカラー、パーマといった技術を習得するコンテンツはもちろん人気です。ただ、最近はホスピタリティやカウンセリングといった、接客面を学ぶコンテンツの需要も高まっています。
こうした内容は規模の大きいサロンでも指導が難しい分野で、外部に委託しているケースが多いようです。「HAIRCAMP」は美容業界に特化したホスピタリティやカウンセリングの教材を、専門家も交えて作成しているので、そういったコンテンツの再生回数が上位になることも多いですね。
―豊富なテーマでコンテンツを作られているようですが、制作にあたってこだわっているポイントはありますか?
こだわりとしては、コンテンツ制作チームには元美容師のメンバーが参加し、知見を活かしつつ、より現場で働く美容師が求める内容を意識して作っていることです。カリキュラムの方向性については私も意見を出しますが、中身の細かい部分については制作チームのメンバーに任せています。
また、各分野専門の先生方にもヒアリングし、現代の美容業界ではどういったものが必要なのかを掘り起こして、コンテンツ制作に反映させています。
美容技術だけでなく、マーケティングやブランディング理論、マインドセット、金融リテラシーを身につけるためのものなど「美容師の人生を豊かにする」ことを軸にさまざまなコンテンツを配信しています。
美容業界をより良くするためにサービスの拡大を計画
―「HAIRCAMP」や「ヘアスク」など、教育コンテンツの運営を通して美容業界の変化を感じることはありますか?
今までにない教育機会を提供しはじめたので、反発を感じる部分は確かにありました。しかし、美容業界のパワーバランスといいますか、構造を変えていくきっかけになっているように感じます。
業界内における美容師の立ち位置も変化してきているので、より良い形に近づけている思います。
―今後の展望として、注力されていることや計画があれば教えてください。
個人向けサービスだけでなく、法人向けeラーニング教材も提供し始めたので、美容師の学習状況やスキルの見える化は、今後も取り組むべきテーマの一つと考えています。
美容師が何を学んできて、どのようなスキルを持っているか、データベース上で可視化できれば、どんな人材なのかを正確に把握し、店舗オーナーも指導やキャリア提案に活用できるでしょう。
また「HAIRCAMP」が用意するコンテンツを、全国270の美容学校を対象に、美容学生への無償提供も始めました。
美容学校での2年間は、美容師として働くために必要なスキルを身につけるより、国家試験に合格するための学習に時間を割きます。卒業して資格を取っても、すぐに美容師として即戦力人材になれるかというと、難しいのが現状です。
資格取得からさらに2年、3年の下積みを経てようやく、美容師として働ける状態になるため挫折する人も多く、離職率は3年で80%にも上ります。美容学生へのサービス無償提供は、それを防ぐ一手になればと考えています。
HAIRCAMPで学んだことは現場でも活かせますし、学習状況を可視化できれば採用活動や求人サービスへの展開も可能です。サロンが必要とする人材とのマッチングに活用すれれば、美容師の離職率を下げられるのではないかと思うので、今後の展望として考えています。
海外へのサービス展開も計画しており、韓国版HAIRCAMPの提供を開始しました。
日本の美容技術は世界的にも評価されています。他の国では美容師になるために資格を必要としないことも多く、あっても専門校での学習は不要なケースがほとんどです。日本には技術を基礎からしっかり学ぶ仕組みがあり、それが美容技術を高めていると感じています。
美容業界の市場規模は2.5兆円といわれていますが、世界に進出できればもっと大きな市場規模になるはずです。美容技術の教育インフラを世界市場へ売り込みつつ、日本の美容師がグローバルに活躍できる世界を目指しています。
―最後に、マネ会読者へのメッセージやPRがあればお聞かせください。
「HAIRCAMP」は美容師を対象としたサービスですので、一般の方が直接触れる機会は少ないかもしれません。
しかし、多くの方が定期的に美容室や理容室を利用しているでしょうし、身近な存在だと思います。現在「HAIRCAMP」は美容師全体の10人に1人ぐらいの割合で利用いただいてますので、間接的に弊社サービスと関わっている人は意外と多いと考えています。
髪型や髪の色を少し変えるだけで気分が変わり、ちょっと世界が明るく感じることもあるでしょう。弊社サービスで学び、豊かな経験を積んだ美容師を通じて、美容室を利用する方にもより良い価値提供ができればと思います。
―本日は貴重なお話をありがとうございました。
HAIRCAMP株式会社 代表取締役社長
気になるけど、なかなか話しづらい。けどとても大事な「お金」のこと。 日々の生活の中の身近な節約術から、ちょっと難しい金融知識まで、知ってて得する、為になるお金の情報を更新していきます。