「起雲閣周辺 街歩きMAP」を通して自走的な情報発信を支援!熱海商工会議所にインタビュー
都心からほど近い温泉地であり、海産物も豊富な静岡県熱海市。起雲閣をはじめとする文化的スポットもある観光地ですが、周辺エリアの商店が十分に認知されていないという課題も抱えています。
熱海商工会議所では各事業者の連携を促し、魅力的な商店が継続的に情報発信するための支援も取り組んでいます。
今回は熱海商工会議所の石井 裕隆さんに、「起雲閣周辺 街歩きMAP」の作成や起雲閣通り商店街の発足など、事業者の自発的な発信を支援する取り組みについてお伺いしました。
豊富な温泉資源に文化施設や海産物も熱海市の魅力
―本日はよろしくお願いします。熱海商工会議所では、どのような活動をされていますか?
熱海商工会議所では、市内の事業者・商店の経営支援をしています。今年の活動目標は、「稼ぐ・備える・繋ぐ」という支援の徹底です。
熱海商工会議所では現在約1,200の事業者が会員になっており、熱海生まれ・熱海育ちの私からすると、昔からよく知っている地元商店さんも数多くいらっしゃいます。こういった地域に根ざした事業者の方々の発展は、日本経済の発展につながると考え、さまざまな支援事業を行なっております。
具体的な支援内容としては、個店支援や商店街の魅力向上、融資、人材不足への課題感から労働力の確保などです。また、最近の円安による影響も考慮し、外国人観光客の誘致にも必要性を感じています。これからは、そういった部分の支援もしていきたいと考えています。
―では、熱海市の魅力を教えてください。
熱海市は元々、良質な温泉資源が豊富にある、湯治場として有名な観光地です。また、都心から近く、知名度の高さも魅力ではないでしょうか。
かつて、徳川家康が熱海の温泉を江戸へ持っていったことや、文人墨客が熱海に訪れて執筆活動をした歴史もあります。加えて、海産物やキャンプ地がある静岡県唯一の離島・初島の魅力を使った観光支援も行なっています。
自然豊かな熱海市には特色ある農産物も多く、なかでも「橙(だいだい)」という柑橘類の生産量が日本一です。一般的にはお正月の鏡餅に乗っている、飾りに使われるものですが、今は橙を使った新商品や雑貨類の開発にも力を入れています。
文人墨客に親しまれた起雲閣
―魅力的なスポットがあり、観光支援にも注力されているようですが、熱海市の起雲閣はどのような建物ですか。
起雲閣は1919年に建てられ、岩崎別荘・住友別荘とならぶ「熱海の三大別荘」の一つでした。別荘として売却されてから旅館となり、熱海を来訪する際の主要宿として人気を博したといわれています。志賀直哉や太宰治といった、日本を代表する文豪たちが多く訪れる宿となりました。
また、太宰治の『走れメロス』は、熱海の起雲閣や旅館がテーマだったそうです。国や時代背景は異なりますが、太宰治が宿泊中に散財してしまい、友人を置いて東京までお金を取りに行くエピソードが元になっています。
メロスは妹の結婚式に出たあと、人質になっている友人のところへ戻りますが、太宰治は戻ってこなかったという話も起雲閣にまつわるエピソードとして残っています。
そうした逸話もある起雲閣は、2000年から熱海市が所有する施設となりました。別荘や旅館として使われていたため、建物自体の造りが素晴らしく、庭園も整備されています。現在は宿泊できませんが、日本家屋の美しさと豊かな庭園を売りにした文化施設として見学が可能です。
―起雲閣は地域の魅力的なシンボルになっているんですね。そんな起雲閣の周辺エリアはどのような特徴がありますか。
起雲閣前の道路は電柱が地中化されたエリアでして、見通しの良い通りになっています。公園や海も近く、観光客で賑わう熱海駅周辺とはまた違った、落ち着いた雰囲気が特徴です。
起雲閣の近くには芸妓さんの稽古場である熱海芸妓見番もあり、複数の文化施設が点在する文化的なエリアですね。
起雲閣周辺にある商店が認知されていない課題
―起雲閣の周辺エリアについて、課題を感じていた点はどこですか?
30年ほど前は、起雲閣前の通りに長崎屋というデパートがありました。その頃はデパートを目的に地元の方が多く訪れ、周辺にあった魚屋さんやおもちゃ屋さんなどの商店も数多く存在していたことが地図で確認できます。
起雲閣前の通りには約50店舗の商店がありましたが、長崎屋の撤退以降は来遊客の減少を受け、商店も少しずつ減少しています。
ただ、2015年あたりから観光客誘致のメディア戦略が成功し、観光客が多く訪れるようになりました。若い世代の方が多く、若者に支えられて現在の熱海は発展している状況です。起雲閣周辺の抜けた店舗あとに少しずつ、飲食店を中心に新しいお店が増えている傾向がみられます。
新しいお店が増えてきたことは商工会議所でもチャンスと捉え、起雲閣周辺の商店さん数十件にヒアリングを行ないました。すると皆さん、自分たちのお店が地元の人も観光できた人にも知られていない、認知度の低さを課題に挙げられました。
特に印象的だったのは、長崎屋があった頃から営まれていた花屋さんのお話です。ずっと変わらず、その場所でお店をされていたのですが、最近地元の方が来られて「こんなところに花屋さんがあったんだね」と、ちょっと悲しいことを言われたと伺いました。
魅力ある場所ですが起雲閣の周辺は、お店の存在が認知されていないという課題があります。
―お店の存在が認知されにくい背景には、何かあったのでしょうか?
課題の背景には、小規模な事業者が多いことが挙げられます。
約380万社といわれる全国の事業者のうち99.7%は中小企業、さらにその中で85.6%が従業員5人以下のサービス業や小売業などの小規模事業者です。熱海は全国的に見ても事業者の数が多いですが、代表者1人や家族経営の小さな店舗がほとんどです。
規模の大きい事業者であれば、業務の役割分担ができます。しかし、小規模な店舗ではすべて自分たちで対応しなければなりません。例えば飲食店だと、仕入れや仕込み、販売から提供、会計処理まで、全部やることになります。
やることが多くて忙しく、自分たちのお店を知ってもらうマーケティングや広告を考える余裕はほとんどありません。さらに、広告の打ち方もわからず、誰かが教えてくれるわけでもないという状況です。
そのような発信ができずにいる事業者に対し「頑張ってお店の情報を発信しましょう」と言っても、難しいですよね。
事業者が連携するきっかけになった「起雲閣周辺 街歩きMAP」
―お店の情報発信ができず、認知されていない課題に対して、商工会議所はどのような支援を行ったのですか?
小規模事業者同士の繋がりや協力によって、商店として扱うものは違っても共有できる部分を共有して、役割分担する支援方法があります。
熱海商工会議所でも事業者同士の面識を持たせて連携ができるよう、「起雲閣周辺 街歩きMAP」を作りました。
マップには18店舗が掲載されていますが、1店舗だけで配布せず、配布先も分担しました。A店はこのホテルとこのホテル、B店は観光施設のこことここへという形で、皆さんで配ってもらい、自分のお店でもパンフレットを置いてもらっています。
そうすることで、自店舗だけでなく起雲閣通りにはこういうお店もあると、みんなで周知できる体制ができます。
―「起雲閣周辺 街歩きMAP」を作られてから、手に取った方の反響やマップ作りを通じた商店の変化はありましたか?
今回のマップ作りはまち歩きをしてもらうためというより、事業者間の連携を目的にしていました。マップ作りというライトで分かりやすい内容にして集まってもらったのも、そのためです。
その点でいうと、今まで接点のなかった事業者同士が会話するきっかけになり、事業者連携としては効果があったと思います。
フィットネスジムと鰹節屋さんが連携し、ジム利用者へ鰹節の出汁ドリンクを試飲してもらうといった、新しいコラボも実際に生まれています。
また、起雲閣通り商店街が発足するきっかけになったのも、1つの効果です。全国的に見て商店街は衰退傾向にありますが、そのなかで商店街を作るというのは目を引いたようで、メディア取材も増えました。
熱海に協力したいというインフルエンサーの方が、起雲閣通り商店街の4、5店舗を無償で発信してくれたこともあります。ネット上でまち歩きを楽しめるアプリがあるのですが、そこでも「起雲閣通りの歩き方」というのを作って紹介してもらえるなど、さまざまな協力をいただくきっかけにもなりました。
―石井さんが担当として関わるなかで、印象的だったことはありますか?
私自身が起雲閣通りの近くで生まれ育った地元出身者ということで、事業者支援がやりやすかった印象はあります。
事業者支援は事業者と信頼関係を築けるかが、一番大変だと思います。その点、私は地元出身で、その地域で育ってきたことから知り合いも多く、ある程度構築された関係から活動に広げられたのは大きかったです。
また、まちの商店は大企業と違い、温度感のあるお付き合いが本当に多いと思います。
商店の方たちはサラリーマンと比べて時間の融通が利くからと、町内会やPTA、消防団などの地域活動に積極的に参加されている方が多くいらっしゃいます。その結果、商売に注力できない部分もあるのですが、逆にそうした繋がりがあったからこそ、マップ作りや商店街発足などスピード感を持って進められたメリットもありました。
メリット・デメリットになりますが、地域の繋がりは大事だと、改めて実感しましたね。
個店の光る部分を磨き、商店街全体の盛り上がりに繋げる
―今後の計画や展望があればお聞かせください。
まずは起雲閣通り商店街という、確立した組織体を作っていく必要があり、今年度取り組もうとしているところです。
ただ、組織体ができればそれで終わりかというと、そうではありません。組織体を作れば、熱海市のまち作り補助金も申請できるようになります。補助金も活用しながら、起雲閣通りの情報発信をやっていきたいと思います。
また、一つひとつのお店は小さくとも、光るものがあり、それらを繋げて力を集約させれば、起雲閣通りもより輝きます。そのため、組織体を作ったうえでここの光る部分を磨き上げて繋ぎ、起雲閣通り全体が盛り上がるようにしたいと思っています。
―今読者へ向けて、メッセージをお願いします。
小規模事業者の魅力を引き出し、繋いでいければ地域の発展になると、商工会議所では考えています。
地元出身者だけでなく、熱海の魅力を感じて他地域から入ってこられた創業者も多くいらっしゃいます。今回は起雲閣通りを中心にお話ししましたが、前向きに取り組む事業者や商店が集まっている地域です。
興味のある方は観光だけでなく、事業の視察としてもぜひ、熱海にお越しください。
―本日はお話いただき、ありがとうございました。
熱海商工会議所
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