プリントシール機今昔物語──令和時代でも選ばれる「プリ」の魔力

プリントシール機今昔物語──令和時代でも選ばれる「プリ」の魔力

平成から令和になってもなお、10代女子たちの遊びの最前線にあり続ける「プリントシール(プリ)」文化。しばらく撮っていないという大人の方でも、プリ帳を作って友達とシールを交換したり、携帯の電池パックの裏に貼ったり……といった懐かしい思い出を持っている人は多いのではないでしょうか?

そんなプリントシールで、多くの人を魅了し、日本の文化として築き上げてきたのがフリュー株式会社です。当時大ブームだった市場へ後発参入、2007年ごろから現在に至るまで業界を牽引し、盛れるプリを作るために真剣にマーケティングを重ね続けてきた結果、女の子のトレンドにも詳しくなり、今ではそれが強みの一つとなっています。今回は、プリントシールを00年代後半に撮りまくっていた世代であるアラサーの筆者が、プリントシールの歴史やその魅力について、同社のガールズトレンド研究所研究員・今平亜希さんをメインにお話を伺いました。

かわいいピンクの会議室も完備(左から、筆者、今平さん、広報の疋田さん)

令和のプリを実際に体験してみた

──今日はよろしくお願いします。取材の前に実際に2機種でプリを撮らせていただきましたが、2019年のプリ、すごくオシャレなんですね……!? チェキ風のシールが出てきて「これがプリなの!?」と驚いてしまいました。

今平亜希さん(以下、今平):まず撮っていただいたのは「#アオハル」という機種ですね。シールに印刷される画像のレイアウトは自由に選べるのですが、撮影した画像の中から1枚だけ選んでチェキ風にするのが人気なんですよ。透けるシートを採用しているので、最近は女の子たちが空にこのプリをかざした写真をアップしてくれているのもインスタでよく見ます。

「#アオハル」の筐体

透けるシートを採用し、インスタ映えを狙う使用例も(#アオハル- フリューのプリ画取得サイト|ピクトリンクより抜粋)

──(プリ帳に貼らないんだ……!)写りもちょっとフィルムカメラっぽいというか、彩度低めのオシャレな雰囲気になっているのが新鮮でした。

今平:次に撮影していただいた新製品の「AROUND20」は中高生だけではなく20歳を超えた大人の方にもおすすめのプリ機です。ゲームも落書きもシンプルでオシャレに仕上げられていて、他の機種よりもサッと簡単に撮れるように作られています。

「AROUND20」の筐体。外装に巨大なモニターがついていて動画が流れる!すごくないですか!?

撮影は連写風で今どき、サンプルのポーズまでおしゃれになってる! 進化!

やっぱりプリを撮るのは、昔と変わらず楽しい!

編集画面もおしゃれ!

今平:顔の写りが自然ですっきりとしていて、過度な加工感がない仕上がりで盛れるので大人も満足していただけると思います。シールもミシン目が入っておりパキッと折ると2人で分け合えるカードのような作りになっています。

「AROUND20」で撮影したプリ。文字を入れ過ぎず、シンプルなのが令和のトレンドなのだそう。豊富な種類から選べるかわいいシールデザインもこの機種ならではの魅力

プリの進化にせまる

──すごい! ここまでプリは進化を遂げていたんですね! プリの写りってたしか、一時期はもっと黄色っぽかったですよね?

今平:そうですね。昔はどうしても肌が黄色っぽく写ってしまう機種が多かったのですが、最近はもっと自然で繊細な肌色や、機種によってはSNSで人気のある加工の雰囲気に合うような青みを出すようにしています。

──プリの写りって、ずっとトレンドとともに変化してきているんですか?

今平:はい、それぞれの時代に合わせて写りの違うプリ機を作り続けてきています。時代ごとに女の子の憧れの芸能人やモデルさんって変わっていくのと同じように、その時代に支持されているメイクに合わせていることが多いです。

2010年は全体的にオレンジがかっており、顔パーツが平面的かつはっきりしていないが年々、年代を追うごとにより自然な肌や髪の色味が出せるようになり、立体感のある繊細な顔へ(画像提供:フリュー株式会社)

ナチュラルな肌、くっきりしたパーツのトレンドが2018年まで続く。最近のものだと透明感のある淡い色味があり、盛れているが全体として自然なバランスの仕上がりに(画像提供:フリュー株式会社)

──なるほど。そもそも初代のプリって1995年にでた「プリント倶楽部」(アトラス{現セガホールディングス})でしたよね……?

今平:そうですね。そして翌年ごろからプリブームに火がつき、さまざまなゲームメーカーや電機メーカーがプリントシール機を開発していくようになりました。フリューの業界参入は1997年でほぼ最後発な上、初号機はユーザーのニーズをつかみきれず大失敗でした。しかし苦労の末に1999年に出した「ハイキーショット」は、照明で顔を白く飛ばして美白になれるという機種で、当時の女の子たちから大変ご好評をいただきました。

「ハイキーショット」(1999年)

──1999年ごろというと、あゆ(浜崎あゆみ)ブームの時期ですよね。

今平:そうですそうです! 浜崎あゆみさんを中心とする美白・白ギャルブームにならって、プリの写りもより白く進化したんです。その後、2003~2007年ごろになると倖田來未さんや益若つばささんなどの華やかなギャルが人気になってきて、つけまつげやカラコンがはやり始めます。

そのころにはプリントシール機のカメラの性能もかなりよくなってきて、「美族」(2005年)という機種では写りのモードがかわいい系・クール系など数種類から選べたり、「姫と小悪魔」(2006年)では一眼レフが搭載されるなど、プリは写り(盛れ感)を重視する/楽しむもの、という空気が確立されていきました。

「美族」(2005年)

「姫と小悪魔」(2006年)

──アッ、「美族」も「姫と小悪魔」も懐かし過ぎて泣きそうです……。当時、プリ機の名前って漢字2文字や4文字が多かったですよね?

今平:他社さんですが、「花鳥風月」(2003年・バンダイナムコエンターテインメント)とか懐かしいですよね(笑)。機種の名前は基本的に企画者が機種のコンセプトに応じて考案しているのですが、当時は人気の機種をシリーズものとして発売するのがはやっていたので、撮ってくださるユーザーさまにもシリーズだと分かりやすいように「美」や「姫」といった文字はよく入れていたと聞いています。

2007年には「美人-プレミアム-」という機種が出て、このあたりから目が縦だけでなく横にも拡大されて「デカ目」になれるようになりました。そこからしばらくデカ目ブームが続き、2010年にはピークを迎えます。

「美人-プレミアム-」(2007年)

「BF manual」(2010)

今平:……私、当時はギャルメイクだったので、このころに撮ったプリは目が大きくなり過ぎて宇宙人みたいになっちゃってるんですよね。

現在の今平さん

高校生当時は渋谷のギャルだったという今平さん(2003年頃)

「盛れ過ぎた自撮りは恥ずかしい」という感覚

──たしかに一時期のプリって、今見返すとちょっと驚くくらい顔が変わりましたよね! でも、最近はまた少しずつナチュラル志向になってきているイメージです。

今平:そうですね。2011年ごろからはAKB48などアイドルがはやり出したこともあって、派手で華やかな女の子よりも、どちらかと言うとナチュラルな見た目・雰囲気のある女の子が人気を集めるようになってきました。そのころに登場した「LADY BY TOKYO」(2011年)という機種では「ナチュラル盛り」というのを前面に押し出していて、デカ目・小顔など過度な変形による加工ではなく、照明の当て方にこだわり綺麗な陰影をつけ立体感のある仕上がりにすることで“盛れた写り”を実現しています。

「LADY BY TOKYO」(2011年)

今平:その後はプリの技術が成熟してきたと同時に、SNSの影響で女の子たちの憧れの人物も多様化してきて。さまざまな女の子に満足してもらえるよう、プリの写りにも韓国風のツヤっとしたオルチャン肌になれるものや「ネコ目」や「タレ目」といった目の形のモードを選べるものなど、さまざまなバリエーションが出てきました。最近だと、さっき撮っていただいた「#アオハル」や「SUU.」(2018年)などの作り込み過ぎていない自然さや透明感のある写りが人気になってきていますね。

「SUU.」(2018年)

──なるほど……。ちなみにお話していただいたような女の子のあいだのトレンドって、どうやってリサーチされているんですか?

今平:関東と関西の2箇所で、高校生の女の子たちを集めて定期的にグループインタビューをしています。そこで開発途中の機種を撮影していただいて感想をヒアリングする中で、流行の写りを感じ取るようにしています。また写りの感想以外にも人気のプリの機種やはやっているアプリ、鞄の中身などさまざまな角度からヒアリングしていますね。それから、プリの企画者は常にSNSをチェックして女の子たちのはやりを肌で感じるようにしています。

例えば最近のインスタを見ていると、写真を複数枚アップするときに、自撮りを1枚目に載せない女の子が多いんですよ。キメキメの自撮りを載せるのがなんとなく恥ずかしい、という感覚なのか、1枚目は自分以外の写真で、2~3枚スワイプした先に自撮りやプリがあることが多くて。

──ああ! 高校生ではないですが、自分の写真が恥ずかしい感覚は分かります。15年くらい前はみんなプリをmixiのプロフィール画像にしてたのに……。

今平:mixiや前略プロフィールがはやっていた時代って、プリで盛れた自分の写真というのが非日常だったんですよね。でも最近は自撮りアプリで手軽に盛れた写真を撮ることができるので、反対に“日常感”の強い写真をSNSに載せるのがはやりつつあるのかな、と思います。人物だけではなく、例えばパンケーキを撮るにしても、わざわざちょっとナイフを入れて崩した自然なところを写したりとか……。

──確かにすごく今っぽいです。あ、そういえば今はプリの「落書き」もシンプル志向になってきていますよね……?

今平:単純に派手なものよりもナチュラルなものがはやっているというのもありますが、落書きに関しては、あまりゴテゴテした文字や色を使うとインスタに載せたときに他の写真から浮いてしまうというのもあるかもしれないですね。他の写真と並んだときにギャップがないように、白背景やシンプルな落書きを選ぶ子が多いのかなと思います。

2000年代中盤ごろのゴテゴテのスタンプ。懐かし過ぎる!

今はシンプルでおしゃれな、ゆるい動物や、文字スタンプなどが人気

プリのプレイユーザー数はほぼ横ばい

──個人的には今でも飲み会のあとにときどきプリを撮るんですが、社会人になってめっきり撮らなくなった、という人も少なくないですよね……。プリ機の設置台数やユーザー数って、どのように変化してきているんですか?

今平:設置台数のピークは1997年で、その後いわゆるブームとしては落ち着いたものの、ここ10年ほどは設置台数もユーザー数も横ばいなんですよ。2018年のプレイ数は約4539万回で、ペアで撮影する方が多いことを考えると年間1億人規模でご利用いただいていることになります。

ユーザーの年齢層も、圧倒的に高校生というイメージが強いかと思うのですが、実際は中学生が10.2%、高校生が24.2%、18~21歳が30.9%、22歳以上が34.7%で、幅広い年齢層に楽しんでいただいています。ただ、全年齢で区切ると17歳がピークなのはずっと変わらないですね。(2014年4月現在 ガールズ総合研究所調べ)

──高校生の遊びのひとつとしても定着し続けているし、それ以外の年齢層にも受け入れられ続けていると。

今平:そうですね。高校生だと友達と遊ぶプランの定番のひとつとしてプリがあるし、大学生の特に後半以降になると何かの記念にときどきプリを撮るという文化が年々濃くなっていくのかなと思います。

──プリの価格設定が400円というのはずっと変化していないんですか?

今平:実はプリ機にお客様が投入してくださったお金はアミューズメント施設様の売り上げになるんですよ。なので価格設定は我々メーカーではなく、プリ機を置いてくださっているアミューズメント施設さんなどでご設定いただいているんです。ユーザーが割り勘しやすい値段ということもあって、ほぼ400円なんですが。

──エッ、そうなんですか!? てっきり機種ごとに値段が決まっているのかと思っていました。

今平:よくそう思われるのですが、違います。実はプリ機は本体をご購入いただいただけでは採算がとれません。その後シール紙などの消耗品をどのくらい買っていただけるかというビジネスモデルなんですよ。だから、魅力的な機種を出し続けて、ユーザーにたくさんプレイしていただくことを常に考えています。

──そうだったんですね! 言われてみれば、プリントシール機のビジネスモデルってちゃんと理解していなかったです。プリ機一台はどれくらいの価格で販売しているのですか?

今平:新機種1台のオペレーター価格は240万円です。筺体を導入していただいた後のビジネス展開は、大きく2つあります。

1つは、弊社で販売しているシール紙をアミューズメント施設様に購入・交換していただくといった、いわゆる消耗品ビジネス。そしてもう1つは、ユーザー様に「ピクトリンク」というフリューのプリ機と連動してプリ画が取得できるWEB・アプリサービスがあり、有料会員様から月額をお支払いただくサブスクリプションモデルです。「ピクトリンク」は無料会員を含め、月間570万ユーザー(2019年3月現在)にご利用いただいています。

令和時代もプリが選ばれ続けるための戦略

──今って、自撮りアプリで盛れた自分の写真がいくらでも撮れる時代ですよね。それでもプリが支持されて続けているのって、どうしてなんでしょうか。

今平:特に10代の女の子たちにとって、自撮りは日常生活のワンシーンを手軽に切り取るもの、プリは撮っている瞬間そのものを楽しむものというイメージがあるのかなと思います。アプリよりもわざわざ撮りに行く分、特別感もありますね。楽しい思い出を残すという点では、さきほど撮っていただいた「#アオハル」などは撮影中の様子をスマホ動画で撮影して残せるムービースポットもあったりするので、特にその傾向が強いのかなとも思いますね。

「#アオハル」の中にスマホが置けるムービースポットを発見

今平:あと、自撮りをする人が増えたからプリを撮る人が減ったとよく思われるんですが、自撮りをする人ほどプリをよく撮っているというデータもあるんですよ。今ってプリ待ちの時間や落書き中に自撮りをする、みたいな子も多くて、プリと自撮りアプリが自然と一緒に楽しまれているんだなと感じます。

──プリ待ちで自撮りするんですね! すごい……!

今平:それを意識して、プリントシール機本体のデザインをフォトジェニックにした「PINKPINKMONSTER」(2018年)という機種もあります。一時期、この機種の前で自撮りをするのが高校生の女の子たちのあいだではやって、インスタによく写真があがっていました。そういった自撮りが拡散されていくことがプリ機自体の宣伝にもなると考えていたので、ありがたかったですね。

「PINKPINKMONSTER」(2018年)

──なるほど! 最後に、令和の時代にもプリという文化が女の子たちのあいだで定着し続けるための戦略があれば、教えてください。

今平:ひとつの機種で全ての世代を取り込むことはこの多様化傾向の今においては難しいので、やっぱり、最初にお話ししたように機種のバリエーションを増やしていくつもりです。例えばさっき撮っていただいた「AROUND20」(2019年)という機種だと、「大人のためのプリ」がテーマなので、通常のプリよりも撮影時間が短めなんですよ。飲み会の帰りにテンションが上がってプリ撮ろうってなったとしても、1プレイに15分かかると終電なくなっちゃうからやめようか、みたいなことってあるじゃないですか(笑)。

──確かに、想像つきますね!

今平:だからサクッと撮れるようになっていて、お金を入れるところがプリ機内にあるなど、動線も最短になっています。

それから、近くにプリがなかったり、アミューズメント施設に行かなくなってしまったという女の子もいると思うので、ファッションビルや駅ビルなどにプリ専門店『girls mignon(ガールズミニョン)』などを出店しています。生活の導線上に撮影機会をご提供することで、おでかけのついでなど、より気軽に楽しんでいただけるようになったと思っています。

今後もそういった店舗を拡大していったり、魅力的なプリ機を増やしていくことで、プリという文化がこれからも女の子たちのあいだで続いていってくれればと思います。

筆者高校時代のプリ帳

取材協力:フリュー株式会社

文・取材:生湯葉シホ
カメラ:小高雅也
編集:はてな編集部