チェーン店の1号店は、どこか違う。飲食店の起源を知るべく日本中を巡った私が、500万円かけて楽しむ「本店巡り」の魅力
はじめまして、BUBBLE-Bと申します。音楽家であり、PRプランナーをしているフリーランスです。
そんな私のもう一つの肩書きは「チェーン店トラベラー」。なにそれ? とお思いでしょうが、「日本全国のチェーン店の本店や1号店をひたすら探訪する」という酔狂な旅を、2005年ごろからしています。
チェーン店ならばどこでもあるように思えます。ですが、私が行くのは創業の1号店や、イメージリーダーのような立派な本店のみ。この自分で定めたルールに則って、北海道から沖縄まで420店を超えるお店を巡りました。
何度も飛行機に乗り、何度もホテルに泊まって全国のチェーン店を巡った費用はざっと500万円。高級外車の1台くらいは買えたかも知れません。それぐらいお金を注ぎ込むほど私が夢中になっている「本店巡り」の楽しさやチェーン店の魅力を、皆さまに紹介したいと思います。
「天下一品」総本店のまろやかさと深いコクがきっかけで本店巡りへ
本店巡りのきっかけは、ラーメン店「天下一品」にあります。
学生時代から天下一品の「こってり」が大好きだった私は、何度も京都の北白川総本店に通っていました。
「天一の本店はおいしいなぁ」
総本店で食べるラーメンはなぜか他の店舗よりもおいしく感じられました。麺に絡みつくスープは、他のどの店舗よりもまろやかで、深いコクがあるように思えたのです。
おそらく総本店だけは調理方法が違うのだろう、総本店にはプライドがあるから特別なことをしているのではないかと思い、そのことについて店員さんに尋ねてみたところ、
「他店と同じですよ」
との回答。完全に肩透かしを食らってしまいました。
他店と同じ調理手順のはずなのに本店で食べるとおいしく感じるというのなら、他のチェーン店だって同じ現象があるのではないかと思ったのが、私の果てしないチェーン店探訪、本店巡りの始まりです。
まずは身近なチェーン店の1号店に行ってみようと、首都圏にあるさまざまなチェーン店の1号店を巡りました。東京だと成増の「モスバーガー」1号店、渋谷の「富士そば」1号店(現在は閉店)、江古田の「松屋」1号店、築地市場の「吉野家」1号店(現在は閉店)、羽田の「ラーメンショップ」1号店……などなど。
「おなじみのこの味は、この場所から始まったんだ……!」
不思議な感動がスパイスとなり、日常的に接していたはずのチェーン店たちが、特別な場所として輝き始めたのです。
「リンガーハット」1号店をきっかけに、全国区のチェーン1号店のために遠征するように
有名なチェーン店でも遠方に1号店を持つ店舗が多く、「遠征」の必要が出てくるようになりました。そこで、特にこれといった理由はなかったのですが、最初に遠征するなら長崎ちゃんぽん専門店「リンガーハット」の1号店にしようと思ったのです。
しかし、有名なチェーン店でも遠方に1号店を持つ店舗が多く、全国チェーンの店舗数が多い順に1号店を巡っているうちに、「遠征」の必要が出てくるようになりました。新幹線や車で行ける距離の「遠征」ではなく、飛行機に乗らなければたどり着けないほどの「遠征」を初めてしたのは長崎ちゃんぽん専門店「リンガーハット」の1号店でした。
今や全国に店舗を持つリンガーハットですが、発祥の地は長崎県。当時首都圏に住んでいた私には気軽に行けるような距離ではありません。私は腹を括り、航空機のチケットを買い、宿を押さえ、長崎へと向かいました。
リンガーハット1号店である長崎宿町店は、長崎駅から数キロ離れたバイパスの中腹にあります。長崎駅から乗ったタクシーは延々とバイパスを走りながら、運転手さんは私にこう言いました。
「長崎のちゃんぽんは、やっぱりリンガーハットがおすすめですよ」
えっ! 長崎の郷土料理として根付いていて、数あるちゃんぽんの名店を差し置いて、チェーン店を勧めるとは、リンガーハットはどれだけ愛されてるんだ……!
まさかのリンガーハット推しにどんどん上がる期待値と、どんどん上がる料金メーターの数字にドキドキしているうちに到着した、リンガーハット長崎宿町店。
創業当時の写真などが飾られた店内で食べる長崎ちゃんぽんは、長崎の「愛」を味にしたような暖かさにあふれていました。往復数万円をかけて食べに来た、リンガーハットのちゃんぽん。その1杯は、まさに特別な1杯でした。
このときの体験がきっかけで、その後どんどん各地の本店へ遠征するようになったのです。最初は全国区のチェーン店の本店を次々と回っていきました。
全国区だけでなく、ローカルチェーン店の本店巡りを行い、420店舗を踏破
全国区のチェーン店の大半を探訪した私は、徐々にローカルチェーン店も探訪するようになりました。
ここで言うローカルチェーン店とは、九州にしかないお店だったり、首都圏にしかないお店だったりと、特定の地域にしかないお店のことを指しています。私の基準だと、首都圏にしか無い「富士そば」や「日高屋」もローカルチェーン店としています。
ローカルチェーン店の魅力は、自分の生活圏じゃないエリアの空気に混ざれるところです。地元の人たちが日常的に利用している空間に「よそもの」の自分が混ざり、地元の人たちと同じものを食べるのです。
また、さりげなく地元の食材が使われていたら、最高です。九州だから甘めの味付けがされているな……とか、さすが北海道、じゃがいものおいしさは群を抜いているな……といった、その地ならではの食材に出会い、魅力に気づかされることも少なくありません。
そして、愛されて根付いているからこそ、こうやって地元の人たちが多く集まってるんだなあと考える食後のひとときは、至福の時間です。
地元では当たり前でも、旅人には特別な空間。それがローカルチェーン店の面白いところだと思いますし、こうやって私がたどり着いたのも、創業者がチェーン店という形にして敷居を下げてくれたからだろうなあ、と思います。
そうして探訪したチェーン店は、2021年10月現在で47都道府県、合計420店舗。撮った写真の枚数は1万枚以上、写真のファイル容量だけでも62GBにもなります。
そんな魅力的なローカルチェーン店ですが、自分の住んでいるエリアならまだしも、縁もゆかりもない土地にはどんなローカルチェーン店があるのか分かりません。だから、その土地にはどのようなローカルチェーン店があるか?を探すところから始めなければならないのです。ここで、私が行っている探訪手順を紹介します
【1】エリアを決め、調査を行う
行くエリアを決めたら、まずはGoogle マップと食べログを駆使し、行くべき本店や1号店をリストアップしていきます。ただし、これが実に難しいのです。
というのも、運営会社のWebぺージ内に本店や1号店に関する情報が記載されていればよいのですが、記載されていない場合や、Webページ自体が存在しないチェーン店もあるからです。こういった場合は本社へと電話確認をし、本店や1号店を教えてもらいます。
【2】交通手段を決める
行くべき店舗が決まったら、どのように行くかを考えなければなりません。車や電車で行ける場所なのか、それとも飛行機が必要なのか?
飛行機の場合はなるべく安価なLCCを使用しています。ところが、LCCだと発着する空港が限られるため、到着空港から目的地までのルートも考えなければならないのです。もしかしたらルート上に何らかのローカルチェーン店があるかもしれません。追加で調査し、あればルートに組み込みます。
【3】胃腸と相談しながら探訪するルートを決める
一度の旅程で複数の店舗を訪れる場合、探訪する順番も大切です。お店によっては営業時間が短かったり、ランチタイムとディナータイムの間に3時間ほどお休みがあったりするので、まずは営業時間を優先して順番を決めます。
しかし、ここにも罠があります。ヘビー級のラーメンが2店続くとか、焼肉が2店続くような順番だと、私の胃袋が持ちません。そうならないように、ラーメンとラーメンの間にはカフェ系を挟んだり、サウナを挟んで腹ごなしをしたりと、胃袋の状態を想定しながら無駄のないルートを決めていくのは、意外と大変です。
これまで最も大変だった行程は、2019年11月に行った東北チェーン店行脚でした。金曜日の仕事が終わった夜に川崎市の自宅を車で出発。高速道路で福島県、宮城県、山形県、秋田県、青森県、岩手県と、3連休をフルに使って東北を一周したダイナミックな行程でした。走行距離は2,000キロ、有料道路とガソリン代、3泊分のホテル代とで10万円近くの経費がかかったのではないでしょうか。
その分、なかなか行く機会の無い秋田県の能代市にあるラーメン店「吾作」や、青森県の五所川原市にある焼肉店「一心亭」、岩手県の北上市にある蕎麦チェーン店「南部屋敷」などを訪れることができ、大充実の旅になりました。
本店巡りをしていると、時には創造主と出会うことも
いままでで一番印象に残っているお店は、香川県高松市にある「はなまるうどん」1号店(木太店)です。
香川県といえば「うどん県」の名をほしいままにする讃岐うどんの聖地です。数多くの讃岐うどん店がひしめいており、名の知れた名店の味を堪能しに全国から多くのうどんマニアが集まってくるのですが、チェーン店のはなまるうどんが目当ての人はおそらく少ないでしょう。
でも、現地のはなまるうどんは、昼時には大混雑していたのです。もしかしたら地元の人にとって、気兼ねなく入れて分かりやすく、肝心のうどんの味もストライクで利用しやすいお店なのかもしれません。
衝撃はそれだけではありませんでした。初訪問した2013年当時に厨房に立っていらした女性の方は、創業時から厨房に立ち続け、うどんやカレーのレシピ開発に携わったという、はなまるうどんの創造主のような方だったのです!
創造主から直接作ってもらった「ぶっかけ 並」と、目の前で揚げていただいた天ぷらの数々は、自分の中にあったはなまるうどんのイメージを大きく覆すほどの、繊細な味が隅々まで冴え渡るようなおいしさに溢れていました。
それは、本当に味が違ったのか、香川の1号店にまで行って創造主から直接調理していただいたからそう感じたのか……。結局のところ結論は出せませんが、おいしいことに変わりはありません。
いずれは世界のチェーン店1号店へ。チェーン店探訪の旅はまだまだ終わらない
天下一品の総本店で体験した「理由の分からないおいしさ」をきっかけに、多くのチェーン店本店や1号店を回ってきました。
その中には、1号店には創業当時の写真やメニュー表を飾ったりして、創業の地を大事にしているお店や、創業時の狭小なフロアのままで営業を続けるお店もありました。
言われなければ分からないような、何の変哲もない1号店や、区画整理や売上不振などで閉店を余儀なくされた1号店もありました。
また、後年になって大きく派手な「本店」を作り、ここが究極の姿! と言わんばかりのお店もありましたし、逆にとても控えめで、どの辺が本店なのだろう? というお店もありました。
チェーン店の個性が最もにじみ出るのは、1号店や本店という場所だと思います。その個性とは、創業者の想いが形になったものだと思います。
どんなチェーン店でも、最初の1歩は苦労の連続でしょう。創業者がなけなしのお金でお店を作り、狭い厨房の中で試行錯誤を繰り返してきた歴史があります。
それは、全国に数百店舗クラスの大規模チェーン店でも、わずか数店舗の小規模チェーン店も、熱量は同じでしょう。そう気づいた時、全国チェーン店でも、ローカルチェーン店でも、フラットな目線で接することができるようになりました。どのお店も、おいしさを提供することや、楽しんでいただきたい気持ちは、同じなのです。
日本には、自分の知らないチェーン店はまだまだありそうです。特に店舗数が一桁台のチェーン店にもなると、一体どれだけあるのでしょうか。今後も時間とお金の余裕が許す限りこつこつと探訪を続けて行きたいと思います。
そして今後の大きな野望として、世界のチェーン店1号店探訪という夢も持っています。アメリカで発祥したマクドナルドやKFC、サブウェイやタコベルの1号店探訪から、日本には上陸していない世界各国のチェーン店探訪のことまで考えると、この旅はまだまだ終わりそうにありません。
飲食チェーン店トラベラー、PRプランナー、ミュージシャン。 全国各地で音楽活動をする傍ら、全国各地の食を楽しむ外食好き、旅好き。 著書に「全国飲食チェーン本店巡礼~ルーツをめぐる旅」(大和書房)。
編集:はてな編集部