35年間で7,000以上の池を巡った私が活用している、愛すべき「七つ道具」

35年間で7,000以上の池を巡った私が活用している、愛すべき「七つ道具」

はじめまして、市原といいます。趣味は「池巡り」で、中学生以来のライフワークとなっています。35年間で訪れた湖沼は約7,300。この活動が縁となって、2019年8月には書籍『日本全国 池さんぽ』(三才ブックス)を出版しました。

住むところがなくなったら池に棲むのかな、と思う今日このごろですが、最近ちょっと悩んでいることがあります。私は、本当に池を愛しているのだろうか?と。

その理由は、池を巡る上で欠かせない「道具」たちにあります。どうやら私は、池を楽しむための道具を吟味することに対しても、夢中になっている気がするのです。

池巡りと道具は、とても密接な関係です。池から池へとはしごするために車は必須ですし、私の場合は池で釣りや撮影にも興じます。時にはドローンを飛ばして上空から池を眺めたり、カヤックを使って水上散歩を楽しんだりすることも。

いずれの道具も、長い時間と情熱を注ぎ込んで選び、鍛え抜いてきた大事な相棒です。そして「これだ」と思えるものに出会うまで、数えきれぬ失敗を繰り返してきました。

これでは池そのものが好きなのか、それとも池を楽しむための道具の方を愛しているのか……どうも分からない。笑わないでください。私は真剣なのです。

今日は、私をこのように悩ませつつも、決して欠かすことのできない「池巡り七つ道具」についてお話したいと思います。

【1】池から池へとはしごするための「自転車」

私の池巡りの原点、それは自転車です。

最初の愛車は、小学生のときに買ってもらったミヤタ製「SUPER SALLYZERO (スーパーサリーゼロ)」。当時はデコトラのような自転車が大流行しており、このスーパーサリーゼロも例外ではありませんでした。

デコチャリ
昭和のデコトラならぬ、デコチャリ。こんな自転車が町中にあふれていた熱い時代を、今の若い人は想像できるだろうか


ただ走っているだけで楽しかった自転車ですが、中学生になってルアーフィッシングにハマったことで、自転車愛にブーストがかかります。ルアーフィッシングはあちこち移動しながら釣れるポイントを探すというスタイルなので、自転車がよく活躍してくれたのです。思えば、このときにはすでに私の池巡りスタイルが確立されていたように思います。

Cervélo(サーヴェロ)のスポーツバイク「P3」
Cervélo(サーヴェロ)のスポーツバイク「P3」は、空力を重視した翼断面形状のカーボンフレームで時代を一新した。現在は使用しておらず、壁掛けのオブジェとなっている


それから20年後。中年になった私は、空気抵抗を減らすエアロ形状のカーボンフレームに、エルゴノミクスデザインを取り入れた翼状のDHバー、20段の電動ギアを搭載した自転車で池を巡っていました。ひとたび自転車に乗れば、100km以上走ることも少なくはありませんでした。

田代ダム(静岡)へ向かうときの写真
池までの道のりには「自転車と徒歩のみ通行可能」という場所もある。これは田代ダム(静岡)へ向かうときの写真で、ガタガタの道を27kmほど自転車で走ることに。こういう状況では、10年かけて悪路走破性(道なき道を走る能力)を鍛え抜いたレーシングタイプのマウンテンバイクが役立つ。ただ、現在はほとんど使用していない


そして40代半ばになり、体力が衰えてくると、自転車だけで遠くの池まで行くスタイルから、車と自転車を組み合わせたスタイルが中心になりました。池の多い地域へ行き、道の駅などで車から自転車を射出させ、20〜40km程度の範囲にある池を重点的に攻略するのです。車では通れないほど狭い道や、駐車スペースが確保されていない池も多く、そういう場面でも自転車は実に心強い道具でした。

昭和に発売されたナショナル(現・パナソニック)
釣り道具が多くかさばるヘラブナ釣りでは、昭和に発売されたナショナル(現・パナソニック)の実用自転車が役立った。このレトロな見た目が、池の景観写真を撮る上で良き脇役になってくれた。一方で重い・遅い・大きい・部品が手に入らないといった弱点によって、ここ数年は出番なし


旅向けフォールディング(折りたたみ)バイク「トレンクル6500」
パナソニックがJR東日本と共同開発した、電車と自転車のコラボ旅向けフォールディング(折りたたみ)バイク「トレンクル6500」。コンセプトは、持ち運びがラクで、駅のコインロッカーにも入る! というもの。現在の稼働率は低い


これまでに数多くの自転車を使っては手放すということを繰り返してきましたが、それでもまだ11機を所有しています。そのほとんどは、池巡りに欠かせない道具の変遷と失敗を知る歴史の生き証人のようです。

BROMPTON(ブロンプトン)の「S6L」
BROMPTON(ブロンプトン)の「S6L」


その一つとして今でもバリバリ活躍してくれているのが、イギリスのブロンプトンが販売する折りたたみ自転車「S6L」。折りたたまれた姿は、折りたたみ自転車の中で最も美しいと思っています。

デザイン性に優れているので、インテリアとして部屋に飾ることもできます。自転車置き場や物置で余生のほとんどを過ごすぐらいなら、居間で共に生活できる方がお互い幸せでしょう。池巡りの現場でも大活躍で、展開時と収納時にストレスがないところも気に入っています。

「収納のしやすさ」と「走行性に優れている」という要素の両立は、折りたたみ自転車の真髄とでもいうべきポイントです。これらを両立させた自転車も多くなってきましたが、加えて「収納」と「展開」の過程に美学を感じるものとなると……。多くは、どこか面倒くさく、やり方を思い出せなかったり、引っかかってうまくいかなかったり、ストレスを感じることになります。

砂沼(茨城県下妻市)の和舟とブロンプトン「S6L」
砂沼(茨城県下妻市)の和舟とブロンプトン「S6L」


ですが、S6Lの場合、これらの手順はストレスでないばかりか、むしろ喜びです。池の写真を撮るときも、レトロな自転車のデザインがなかなかの役者ぶりを発揮してくれます。手練れの職人のようにチャキチャキッと展開・収納がうまくいくと、ああ、今日はいい池巡りができそうだなという予感がするのです。

【2】ワクワク感を楽しむ「釣り道具」

中学生でルアーフィッシングに出会った私ですが、釣りそのものは小学校の高学年から1人で楽しんでいました。そして池巡りを始めてからも、釣り道具は必須アイテムとしていつも携帯しています。

池巡りに使う釣り道具の絵
池巡りに使う釣り道具はひたすら「シンプル」「モバイル」「オールドスタイル」で完成形を目指し、全国各地の池で研さんを積んでいる


偶然通りかかった池や初めて会う池を目の前にすると、どんな魚がいるのかとワクワクしてしまいます。腰を抜かすような大物が飛び出てくるかもしれません。なので、釣り場として認知されている池よりも、情報がなく、魚がいるかどうかも分からないような池の方を好みます。

水面に現れるわずかな気配や風に乗ってくる匂いに五感を研ぎ澄まして、お気に入りの道具を池に投じる瞬間は、何ものにも代えがたいスリリングなひとときです。

リールの写真
写真左は、中学生のときに買ったリールと、コンパクトに収納できるパックロッドを組み合わせたもの。写真右のリールは写真左の上位機種で、継ぎ目のないワンピースロッドを組み合わせている。こちらは大人になってから購入した


現在は、基本的に中学生時代と同じ釣り道具を愛用しています。最新の道具や釣法に興味はあるのですが、なるべくコンパクトにしたり、すでに持っている道具を使いこなしたりする方が性に合っているようです。

コンパクトな道具の写真
ルアーフィッシング以上に道具やエサがかさばるヘラブナ釣りでは、コンパクトな道具の洗練はなかなか難しい。長い時間をかけて池での実戦をもとにブラッシュアップを続けている。


道具をシンプルかつコンパクトにする改善は、あれこれ妄想するだけでも楽しいものです。池で釣りをする悦びの半分は、道具の改善点の実証テストと、さらなる改善を考えることにあるのかもしれません。

【3】池巡りの幅を広げてくれた「オートバイ」

20代から30代半ばまでの主力機材となったのがオートバイ。これを手に入れたことで、池巡りは全国区になりました。そして自転車と同じように、移動手段を超越して、道具そのものを追求する不毛の道へと突き進んでしまいます。

オートバイを手にした当初は、いわゆるバブルの時代。今では考えられないほどアルバイトで稼いでいた私は、就職活動もせずひたすらオートバイを追求することに明け暮れていました。

弟も同じようにオートバイにハマっていたので、1800ccの「ゴールドウイング」から50ccの「モンキー」まで、兄弟合わせて通算80機ほど所有していました。距離にして地球7〜8周分は駆け巡ったかと思います。

当時は異色な存在だった「デュアルパーパス」
1990年代の池巡り用オートバイとして最も完成度が高かったのは、当時は異色な存在だった「デュアルパーパス」と呼ばれるタイプ。オンロードもオフロードも走ることができ、かつ長距離の移動もこなすことができた。写真は北海道のクッチャロ湖とヤマハの「TDM850」


1989年製のカワサキ「ZXR750」
1989年製のカワサキ「ZXR750」は、あまりに愛が嵩じすぎて改造に500万円以上をつぎ込んでしまった


オートバイを手にしたとき、全国へ行ける上に小回りもきいて池巡りに便利だ、という発想は全くなかったと思います。それよりは「これは失敗だったから次はこうしよう」と次々とオートバイを買い替えては改造を重ね、その成果を試すために目的地を遠くの湖沼に設定するということを繰り返していたのです。

そんなふうにオートバイを楽しんでいた1995年のある日、四国の池を巡るべくオートバイで延々と下道を走っていたときに、ふと「全国の池をデータベース化しよう」と思い立ちました。そして、ただ漫然とオートバイで池を巡って釣りをするだけでなく、池の目録みたいなものを作れないかと意識しながら活動することになります。

カワサキの「ZX-12R」と千葉県の中原堰という池とホンダの「GL1800」
(左)当時、世界最大の馬力を誇ったカワサキの「ZX-12R」と千葉県の中原堰という池。あまりにピーキーすぎて疲労が大きく、細かな池巡りには不向きだった
(右)ホンダの「GL1800」。一眼レフ機材一式と三脚をボックス内に納めることができたので導入したものの、オートバイらしい機敏性がなく、行った池は長野県上高地の大正池ぐらい。魅力のあるオートバイであることは確かだが、池巡りではあまり活躍できなかった


35歳のときに車の免許を取ってからは、池巡りスタイルが激変。オートバイに求める役割は、自転車で行くには遠すぎるけど、車では小回りがきかずアプローチが難しい池の探索へと変わりました。結果、維持費が安くて走破性(予定した距離を走り通すこと)の高い、小型二輪(125ccまでのバイク。原付二種とも呼ばれる)が主体になっていきました。

ホンダの「ベンリィ110」
ホンダの「ベンリィ110」は、その圧倒的な積載力で釣り具や撮影機材を満載しても余裕。池巡りで大活躍してくれたが、ハイエースに積載すると車中泊での就寝スペースを確保するのが難しいという問題もあった


ですが、小型二輪は高速道路を走行することができません。なので、おおむね下道で行ける範囲の池巡りが終わってしまうと、今度は車にオートバイを積んで遠方の池を重点攻略するスタイルへと移行します。

ハイエースにオートバイを積んで池を攻略するという、究極スタイルの考察図
ハイエースにオートバイを積んで池を攻略するという、究極スタイルの考察図


この頃から離島の池も視野に入れていましたが、離島に車を持ち込むとなると、かなり高額な航走費用がかかります。そこで、車は港の駐車場に置いて、車に積んでおいた小型オートバイだけでフェリーに乗り込むことにしたのです。大幅に費用を節約できると同時に、池へと向かう道が狭い島池の攻略も可能になりました。島の風を切って池までの道を走る時間は、もう何もいらないと思える至福のひとときです。

ホンダ「モンキー」
ホンダ社「モンキー」


現在も活躍しているオートバイは、ホンダの「モンキー」と、カワサキの「Dトラッカー125」

モンキーは小型なので、車載しても車内を広く使えるだけでなく、物を引っ掛けたり洗濯物を車内干しするハンガーとしても使用できたりと重宝しています。北海道から鹿児島までの全国へ連れて行ったものの、走行安定性が低いので、池巡りをしているとどんどん疲れてくるところが欠点です。

カワサキ製「Dトラッカー125」
カワサキ製「Dトラッカー125」


Dトラッカー125は、車載時も室内居住性はぎりぎりレベルで確保しつつ、車からの出し入れも簡単です。リヤボックスを付けた状態で二人乗りもできる上に、悪路走破性も高いです。このバイクが、今のところ私にとって最も完成形に近い池巡り車載バイクです。

【4】池を記録するための「一眼レフカメラ」

オートバイで全国の池を巡るうちに一眼レフカメラを持ち歩くようになり、また新しい楽しみ方を知りました。当時はまだフィルムの時代。美しい湖沼の写真を撮りたくて、機材やレンズ、三脚などを買いそろえていきました。

バズーカのような望遠レンズを付けて、池の対岸で遊ぶ水鳥に照準を当てて、シャッターを切るときの緊張感を味わって、メカニカルな音と手の感触に酔いしれる。フィルム代が高いので滅多にやらないものの、連写などしようものなら背筋に法悦の稲妻が走ったものです。

長野県の八方池
長野県の八方池


デジタルカメラ時代になってからは、キヤノン製のハイアマチュア用デジタル一眼レフ「EOS5」シリーズを数年に一度のマイナーチェンジごとに買い替えて使っていました。

ですが、これといった美しい池の写真を撮れなかったのです。それは、池を美しく撮る技術を上げたいというより、愛機のシャッター音を聞きたくて池巡りをしていた側面もあったからかもしれません。

池の写真

40代になると、数時間も登山をして会いに行くような山上の池まで機材を背負うのがさすがにきつくなってきたので、ミラーレス一眼レフに機材を一新しました。

これまで一眼レフ以外も含めると50機ほどのカメラを所有してきましたが、自分に必要なものは何かというのが見定まってきて、一生これでいこうと思うカメラにやっと出会えました。

それは、オリンパス製のカメラボディ「OM-D EM1」と、パナソニックから出ているライカの広角レンズという組み合わせ。そして、パナソニック製のカメラボディ「LUMIX DC-GH5」とオリンパス製のプロズームレンズ(12〜100mm、実質24〜200mm)を組み合わせたもの。この2セットを主な機材として、静止画から動画まで撮影しています。

夕焼けの池

三脚もいろいろ買っては悩みを繰り返し、結局、プロ御用達というsachtller(ザハトラー)製のアマチュアハイエンドモデル「Ace L 」で落ち着きました。恐らく一生、修理しながら使っていくんだろうなと思える道具です。パン棒(雲台に固定したカメラを動かす棒)を触っているだけで、幸せな気持ちになります。

池の写真②

どんな道具も、深い愛着と共に使いこなしていくことが何より大事です。気に入った一機に出会えたら、指がボタンの位置を覚えるぐらい使い込み、何年もかけて自分だけのカスタム設定をブラッシュアップしていく。結局、それが良い写真を撮影できる確率を上げるのかなと思っています。

池の写真③
池の写真④

さて、そんな話をしておいて何なのですが、実は今後、新たな撮影スタイルへ移行していきそうな予感がしています。

これまで魅力的な池の写真を撮ろうとしてきた私ですが、最近では、その池を池たらしめている堤や取水設備といったディティールを、鳥瞰図として漏れなく「記録」していくことに重点を置き始めているのです。

鳥瞰図では、その池がどんな苦労の上で作られ、どんなふうに人の暮らしに役立っているのかを示すディティールを落とし込んでいます。なので、それぞれの設備が池のどこにあるかという位置情報はとても重要になるのです。

千葉県印西「牛むぐり池」の鳥瞰図
千葉県印西「牛むぐり池」の鳥瞰図。拙著『日本全国 池さんぽ』(三才ブックス)から


礼文島の久種湖では、300枚を超える資料写真を撮りました。資料が膨大になると、その写真が池のどこを撮ったものなのか後で分からなくなることもありますが、そういうときにiPhoneのGPS機能が役立ちます。撮影した写真に位置情報も記録してくれる上に、写真も必要最低限の解像度があるので、とても便利です。それでいて、なかなか美しく池を捉えてくれることもあるんですよね。

雨でも気軽に使えますし、ポケットから取り出してすぐに撮影できるし、電源供給も簡単。メリットだらけです。ただ、それでも、一眼レフカメラという機械を操る悦びを手放すことはないでしょう。どんなにiPhoneが進化したとしても、一眼レフカメラを持たない池巡りは、どこか寂しい気がします。

【5】池の楽しみ方を広げてくれた「カヤック」

快哉を叫びたくなるような池に巡り会えたとき、岸から見ているだけでは飽き足らず、舟で漕ぎ出してみたくなるのは池好きなら自然な発想でしょう。それが貸しボートではなく、自分のお気に入りの舟だったら、どんなに素晴らしいことか……と、長く夢想していた私。かねてから自分のカヤックを持つことは憧れでした。しかし、舟で漕ぎ出すというのは危険が伴うため、他の道具と違って参入障壁が高いというのも事実でした。

ですが、40代になり、たまたま同じ集合住宅に住んでいた同年代の人がカヤッカーだと知って、カヤックの購入を決心。自宅近所の浜から海へと漕ぎ出せたこともあり、この“カヤック師匠”のもとでいろいろな技術を学び、マイカヤックの導入が実現したのです。

最初は、有名アウトドアメーカーが数万円ぐらいで販売していた、インフレータブル(空気を入れるタイプ)のレジャー用カヤックを購入。しかし、カヤックのような形をしたゴムボートといった感じで直進性は弱く、釣り具を積んでぐんぐんポイントまで突き進むという用途には力不足でした。

インフレータブルタイプでありながら、波切り性が高い舳先を持ち、直進性と積載性を両立したカヤック。山梨県の四尾連湖にて
インフレータブルタイプでありながら、波切り性が高い舳先を持ち、直進性と積載性を両立したカヤック。山梨県の四尾連湖にて


それから、インフレータブルでも舳先部分がシャープな、少し本格的なカヤックに買い替えました。このカヤックで、池を進む爽快感ときたら。釣り具もしっかり積み込めて、至福の時間をもたらしてくれた舟でした。

分解することができないリジッドタイプのカヤック「New Nomad」
分解することができないリジッドタイプのカヤック「New Nomad」。水深100m以上を探れる魚探やバッテリーを装備している。リジットタイプのカヤックでは、専用パーツやホームセンターで手に入るものを組み合わせてDIYする「艤装(ぎそう)」を楽しめるというのも大きかった


そして、リジッドタイプのfeelfree製のカヤック「New Nomad(ニューノマド)」を導入してから、寝ても覚めてもカヤックカヤックの熱病に冒され、またも“道具道”を邁進してしまいます。近場にカヤックを浮かべることができる池や湖沼がなかなか見当たらず、近場の海で修練を積みました。

しかし、頻繁に出艇するようになると、カヤックの展開・収縮に手間がかかるだけでなく、船体が布地のため家でも展開して乾かさなければならなかったので、かなりの負担でした。船体を折りたたむことができないので、集合住宅には収納できず、とうとうカヤックのためにコンテナガレージを借りるはめに。池巡りということで考えれば、またもや大きな脱線でした。

その後、パンクしたカヤックを修理に出したのを機に、樹脂で成形されたリジッドタイプのカヤックを導入します。池巡りの道具を選ぶ上で大切にしていた「シンプル」「モバイル」「オールドスタイル」というポイントに立ち戻った結果、2018年に、これと思える究極の一艇に出会ったのです。

KXoneの「SLIDER 445」
KXoneの「SLIDER 445」は、8気圧の高圧ボードを3枚合わせ、バウ(船首)とスターン(船尾)にハードな樹脂パーツを組み込んでいる。ペダルを交互に踏んで前進させるスタンドアップパドルボード(SUP)を3枚合わせたような構造で、インフレータブルカヤックの欠点だった水切り性・直進性・積載性を見事に解決した。集合住宅住まいにもうれしいコンパクトさ、運搬性の良さ、展開収納性能の高さを持ち、リジッドタイプのようなシャープな外見もその気にさせてくれる。山梨県の本栖湖にて


それが、KXoneのインフレータブルカヤック「SLIDER 445」。普通の空気入れでは歯が立たないぐらいの高気圧で、舟全体を立ち上げます。船腹も船底もカチカチになり、舳先はシャープに引き絞られ、見た目も乗り心地もまるでリジッドタイプ。居住空間も広いのでクーラーボックスや釣り道具も余裕で積み込めます。個人的に、インフレータブル特有の欠点をほぼ完全に克服した一艇だと思います。

バッグサイドにはパドルや釣り竿を収納できるポケットがついていて、これは便利だ。バッグの材質は柔らかいが、車輪のついている底部には樹脂の補強板が入っている
バッグサイドにはパドルや釣り竿を収納できるポケットがついていて、これは便利だ。バッグの材質は柔らかいが、車輪のついている底部には樹脂の補強板が入っている


布地が使われていないので、乾かす手間もありません。専用の収納袋はリュックにもなるし、キャリーケースのようにゴロゴロと地面を転がして運ぶこともできます。移動・展開・出艇・撤収という一連の作業がスムーズにできるので、湖上散歩の強力な相棒になってくれています。ルックスも良く、池のほとりで立ち上げていざ出艇!というときは、毎回「いいな〜」とにやけてしまいます。

将来的には、このカヤックを使って、魚群探知機を搭載して池の生態系を調べたり、水深測定や水中撮影もしたりと、新たな切り口で池を楽しみたいと思っています。

【6】池を俯瞰して捉えるための「ドローン」

大きな池ともなると、岸からの撮影では全貌が掴みにくいので、大きく俯瞰して捉えた湖沼の写真や動画はそれだけで情報的価値を持ちます。……というと立派な動機に聞こえますが、そもそものきっかけは、ドローンを使って空から池を撮影してみたかっただけです。

「Phantom 1」を背負い、池を見下ろせる高い場所を探して登坂。空撮機材が手元にあるのに、なぜ自分の足で高所を目指すのか。空撮アルパインスタイルの原型である
「Phantom 1」を背負い、池を見下ろせる高い場所を探して登坂。空撮機材が手元にあるのに、なぜ自分の足で高所を目指すのか。空撮アルパインスタイルの原型である


最初に購入したのは、4つのプロペラで自立飛行できる、DJI製の「Phantom(ファントム)」。素人が玩具感覚で操縦できるだけでなく、GoProなどのアクションカメラを搭載できる仕様になっていたので、空撮という異次元の世界を身近にしてくれた革命的な機材でした。

ドローンで撮影した池の様子
ドローンで撮影した池の様子


しかし、不安定だったバッテリーの管理は何かと面倒で、飛行にもある程度の操縦技術と経験が必要だったのも事実。カメラやスタビライザー(安定させる装置)も別途用意しなければならず、それなりの知識が必要でした。

最近のドローンともなると、比較的安価な10万円ほどのものでも、カメラやスタビライザーがデフォルトで搭載されています。バッテリーも進化しているので、管理から飛行まで家電並に楽になったと思います。自動操縦もすごいですね。今の機材は三方向に目が付いていて障害物を識別してくれるので、ボタン1つで勝手に着陸してくれます。

ただ、家電並に手軽になった反面、法規制で縛られた空撮の場合、似たような写真や見飽きた動画を世の中に氾濫させることにもなってしまいました。そんな制限の中で、ひと味違う空撮をするにはどうすればいいのか?

逆説的ですが、池の場合、空撮しなくてもいいぐらい高い場所……つまり絶好のビューポイントを探し出し、自分の足で行ってみることだと思っています。

そうしたビューポイントからドローンを飛ばせば、高度制限や有視界制限の問題もクリアできます。ちょっと登るのがしんどいところであれば人も来ないので、ドローンが墜落した際に人的被害を与えることもありません。何より飛行距離・飛行高度を最低限に抑えた低リスクの中で、ほぼ確実に好結果を得られます。

DJI「Mavic Pro」
DJI「Mavic Pro」


現在愛用しているのは、DJI製のハイエンドアマチュア機「MAVIC PRO」。性能に対して約10万円とリーズナブルかつ、折り畳み式でコンパクトなのがポイント。通販で注文すれば翌日には届く手軽さも含めて、今や池巡りの必須アイテムとなっています。

私は同型の2機を所有しており、バックアップ体制をとっています。「ドローンは落ちるものだ」という前提に立てば、高価すぎる機材を購入するのはリスクがあると私は思っています。その前提を忘れないことで、無理のないフライトプランに結びつけることができるのです。

【7】全ての機材を詰め込む「車」

七つ目の道具は、これまでにも何度か登場している。現在の池巡りに使っているトヨタの「ハイエース」は、走行11万kmを越えました。その前に乗っていたのもハイエースで、15万kmを走行後に今のハイエースへ買い替えています。完全同車種の乗り替えでしたが、全く同一グレード・同一オプションだったわけではなく、こだわりの変更ポイントもありました。

具体的には、オートマからマニュアル、5ドアから4ドア、フル内装から鉄板内装、リクライニングシートからベンチシート、キャンピング仕様からデフォルト貨物内装……といった感じ。どう見てもダウングレードじゃないかといわれそうな内容ですが……。

ハイエース
荷物の内容
現在愛用している「ハイエースバン ロングDX」は、物の輸送を目的とした4ナンバー枠。車内の左側にはマウンテンバイクを、右側には折り畳み自転車(ブロンプトン)を載せている。さらに、ホームセンターで入手可能な樹脂製ボックスを用途に応じてパズルのように組み合わせて使っている。その上にマットを敷けば、フラットなベッドスペースにも


池巡りでは車に積載したいろいろな機材を使うので、必要なものを素早く出し入れできるよう普段から改善を重ねています。5ドアではなく、あえて右側のスライドドアがない4ドアを選択したのもその一つ。ドア部分が壁になることで、大小の機材の指定席を設けやすくなります。

確かに右側のスライドドアは日常使いや仕事使いでは便利ですが、池巡り用の機材を配備するという視点に立つと、かなり大きなデッドスペースになってしまいます。

ハイエース②
オートバイを積載しつつ、就寝スペースを確保している様子。オートバイにはちょっとしたものをかけたり、洗濯物を干したりするときにも役立っている


車のドアだけでなく、あらゆる道具にも言えることですが、何か一つの便利さを加えるということは、同時に大切なものも少なからず失っているとも言えます。

失敗も少なくありませんでしたが、じっくり自分にとっての用途を見つめ直せば、何を取って何を捨てるか、もっと正確に言えば、何を取らずに何を残すかが見えるようになりました。

夢は、厳選した道具たちとじっくり池に向き合うこと

若い頃は新しい道具が大好きでしたが、最近は手になじんだ古い道具の気安さや、池を巡ってできた傷のひとつひとつに愛着が湧くようになってきました。

今、目標にしている池巡りスタイル
今、目標にしている池巡りスタイルは、じっくり滞在型。絵にするとこんな感じ?


せっかちな性分らしく、中学生以来わりと忙しく池を巡ってきた私。今後の夢としては、いいな〜と思った池で、厳選された道具たちと共に、雨の日は雨に打たれ、晴れの日はお陽さまを仰ぐ……こんなふうに、じっくり滞在型で池と向き合うことをしたいと考えています。

「池に棲んでいる変なおじさんがいる」と、周りから言われなければいいのですが。

14歳から35年、池や湖沼に惑溺し、ライフワークとして全国の湖沼を巡り、その数は七千を超える。初の著書『日本全国 池さんぽ』(三才ブックス刊)を8月に刊行。

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編集:はてな編集部