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魅せる盛り付けで売り上げアップに貢献する「盛り付けデザイン」という仕事

魅せる盛り付けで売り上げアップに貢献する「盛り付けデザイン」という仕事

はじめまして、飯野登起子と申します。私は「盛り付けデザイナー」という仕事をしています。初めて聞く肩書きだと思いますが、この「盛り付けデザイン」という言葉自体、私が考案した造語です。

料理のおいしさは、味はもちろんですが、視覚も重要です。人が情報処理をするときに使われる五感の割合は、視覚が80%以上と言われています。

そのため、魅せ方や盛り付け次第で、料理の美しさやおいしさは何倍にもなって伝達されます。盛り付けデザイナーとは、料理や素材そのものの良さを感じ、盛り付けを通して、美しく魅せるデザイナーなのです。

気仙沼から届いた秋刀魚の盛り付けデザイン


畑で収穫したトマトのスタイリング


例えば、上記の写真のような新鮮な素材の盛り付けも仕事のひとつ。デパートや展示会で見るようなものも含め、食全般の盛り付けそのものをデザインしていると思っていただくと分かりやすいでしょうか。

デパートなどでは、こういった魅せる盛り付けによって、売上アップに貢献させていただきました。近年では、盛り付けとスタイリングのほかに、合わせて撮影そのものも仕事としてやらせていただいています。

今回は、そんな盛り付けデザイナーの仕事について、紹介させていただきます。

お客さまの購買欲を上げる、盛り付けデザイナーの仕事

まずは、盛り付けデザイナーの仕事でどういったことをやっているのか、印象的だった出来事とともに紹介したいと思います。

老舗料亭のディスプレイを担当したことがきっかけで「盛り付けデザイナー」の仕事が全国放送される

2014年3月、京都の老舗料亭が東京・新宿のデパートに初出店するときに、ディスプレイの仕事を任されました。

料亭の料理をお惣菜としてデパートで販売する際には、ディスプレイ用に食品サンプルが必要です。お客さまがお惣菜を見たときに、おいしそうと感じてもらうことはもちろん、購入後の楽しみのイメージも広がるようにしなければ「ディスプレイ用の盛り付け」とは言えません。

そこで器を選び、お惣菜の実物を盛り付けて、この通りに作っていただくようサンプル業者に発注をいたしました。もちろんサンプルが完成したときには色味や質感などがおいしそうに見えるかどうか、厳しくチェックしています。

また、このデパートには店舗の横に特別なディスプレイケースがありました。そこで季節を感じ、老舗の重厚感も伝わるよう、全体をディレクションし、飾り付けました。お惣菜の食品サンプルのスタイリングに加えて、季節の花々の造花を添えたり、2月の節分時には鬼のお面や枡に豆、3月のお雛祭りの時には大正期のお雛飾りを飾ったりしたのです。このディスプレイは1カ月に一度以上の頻度で変更していました。

京都の老舗料亭のためのディスプレイ


この仕事は7年間ほど継続させていただき、合わせて200以上のデザインを行っています。店舗の方から、このディスプレイがあることでお客さまの購買につながったと、好評を博しました。

新宿のデパートでの仕事が好評だったため、同じ老舗料亭から関西のデパートの店舗ディスプレイのアドバイス依頼や、京都本店でのメニュー撮影時の盛り付けやスタイリングもお願いしたいというお声がけをいただいています。

また、ここでの仕事が評価され、今から4年前にはNHKの「お仕事図鑑」という番組の取材を受け、ディスプレイ作業風景や自宅でのお惣菜の盛り付けなどが全国放送されました。

「盛り付けデザイナー」として仕事の幅を広げてくれた、大切な仕事として、特に思い出に残っています。

窯元の視察から付き合いが始まり、社員研修やディスプレイを担当するまでに

もうひとつ事例を紹介しましょう。島根県の代表的な窯元とご縁が生まれた仕事です。

2016年ごろに、広島の尾道自由大学へ講義で行った際に「お隣の島根県に器が生まれる素晴らしい場所がたくさんあります」と教わりました。そこで、講義後に出雲や松江の民藝の窯元視察に連れて行ってもらいました。

案の定、出会った器は大変素晴らしく、すぐに尾道自由大学に講義化を切望。そこから4年間毎年、島根県の窯元や手仕事を巡る講義を開講したのです。(2021年11月現在は新型コロナウイルスの感染予防のため中止となっています)。

この際にお邪魔した窯元の代表が「盛り付けデザイン」の重要性を感じてくださいました。

今までは器を作ったり売ったりする際に「盛り付け」にあまり着目をしていなかった。あらためてデザインされた盛り付けを見ると、器が料理の魅力を引き出していることに気づいた。これからは「盛り付け」についても学びたい。とおっしゃってくださったのです。

そこで講義とは別に、窯元で盛り付けの社員研修や、窯元のディスプレイのご依頼を受けるようにまでなりました。

島根県の窯元の器達の自宅での撮影風景


この窯元とは定期的に器をお送りいただいたり、コロナ禍でスタートされたオンラインストア用にリモートで盛り付け+スタイリング+撮影を行い画像を提供したりと、その後も続けて仕事させていただいております。

集めた器は数百万円分。「盛り付けデザイナー」のお金事情

盛り付けデザイナーとして活動するためには、器やカトラリー(箸、スプーンやフォーク)が必要です。料理を美しく魅せるためには器が大切で、その種類もたくさん必要になります。

そのため、長年にわたってかなりの数を購入いたしました。安いものでは100円ショップのものから、高価なものだと窯元の大皿で50,000円ほどまであります。近年では、前述の通りいただいたものも多いため、正確な額は算出できないのですが、数百万円は超えていると思います。

収納の一部、この他に4箇所ほど器を収納している棚があります


また、美しい写真を撮ったり編集するためにパソコン、モニター、カメラ、レンズ、ライティング機材、背景用機材も重要です。これらは50万円以上は購入しています(今も新しいレンズやパソコンの購入を考えています)。

盛り付けデザイナーという仕事そのもので、実際にどれくらいお金をもらえるかというと、もちろんクライアントや仕事内容によっても大きく異なりますが、時給に換算すると、平均して2万円ぐらいかと思われます。

ディスプレイの仕事ですと、什器の貸し出しも含めて、ディスプレイ期間にもよりますが一案件で平均して10万円ぐらいです。

お惣菜の魅力を引き出す。家で試せる盛り付けデザインのテクニックを紹介

ではここで実際の盛り付けテクニックを紹介します。例として、市販されている豚ヒレカツ弁当を使ってみました。こちらは家でも実践できる内容なので、お惣菜を買ったときはぜひ試してみてください。

上の写真が買ったときの状態のもの。これを盛り付けデザインしたのが下の写真です。もちろんそのまま食べてもおいしいのですが、食べさせたい人のことを思い、一手間かけて盛り付けると市販のお弁当でも愛情が伝わるようになります。

このように、同じお弁当でも、盛り付け方ひとつで印象は大きく変わるのです。

この盛り付けでは、「大きめの器を用意して余白を大きくする」「色合いが単調にならないようにする」「料理の邪魔をしない色合いの器を選ぶ」「ポイントを作る」といったテクニックを使っています。詳しいやり方は以下の通りです。

  1. 料理素材の色や形を観察する
    まず行うのは、元になる料理の色合いや形をじっくりと観察しメインは何かを見ることです。「豚ヒレカツ弁当」は、やはり豚ヒレカツが主役といえます。

    そこで豚ヒレカツをよく見ると、衣と断面では明るさが異なります。ということは、衣部分だけが見えるようにするのではなく、断面をうまく使うことで明るい印象を持たせられ、盛り付け方によってリズミカルにもなります。

    お弁当にそういった彩りが生かせる部分がないか、まずはじっくりと観察することが大切なのです。

  2. どのような器に盛り付けるか選ぶ
    次に、盛り付ける器を決めます。先ほど観察した色合いをもとに、器を選びましょう。

    今回は色数があまり多くないのと、主役である豚ヒレカツを生かしたいと思い、明るい色合いの木製のお皿を選びました。

    また、器は少し大きめのものを用意するといいと思います。余白を大きくすることで、空間を生かし、料理を大きく魅せることができるからです。

    余白が少ないと、料理が窮屈に見えてしまいます。逆に言うと、お気に入りのお皿に盛り付けるという、器ありきの場合は、全て盛り付けるのではなく少なめに盛り付けるとおいしそうに見えると覚えておいてください。

  3. 置き方にポイントをつける
    同じ色が続くとどうしても単調に見えてしまいます。そこで、レタスなどの葉ものをうまく使いましょう。

    さらに今回の場合は、豚ヒレカツの断面やご飯が明るい色なので、少しのっぺりとした印象を与えてしまいます。そこで、ご飯は一口大に握って漬物を載せ、ヒレカツにはソースを一滴垂らしてみました。ご飯を握るのは、食べやすくするのと器の余白を生かす効果があります。

    握ったご飯には漬物と同じ色系統の竹のピックを刺してみました。

    最後に、盛り付け全体を引き締める意味で、竹のお箸を添えて完成です(正式には箸は箸置きに置きますが、今回はカジュアルにお皿に添えました)。

以上を踏まえて、もうひとつの写真を見てください。

先ほどの豚ヒレカツ弁当と同じく、650円前後のお弁当を盛り付けてみました。

こちらは豚ヒレカツ弁当に比べると使える色が多く、明るい器にするとかえって見た目がうるさくなり過ぎてしまうかもしれません。そこで、島根県の窯元の美しい飴色の器に盛り付け、同じ島根の織物のランチョンマットを敷いてみました。

どうでしょう。グッと高級感が増したように見えませんでしょうか?

どちらも、念頭に置いたのは、食べる方が器を見たときにすうっと目が入っているようなデザインです。料理の色彩が茶色中心だったら明るい色合いの器に、多彩な色合いだったら落ち着いた器にすることで、器が料理の邪魔をせず、それでいて引き立てていることが分かると思います。

もうひとつ、紹介しましょう。こちらはコロナ禍で飲食店の応援も兼ねて、お気に入りの飲食店にテイクアウトをお願いしたときのものです。確か、お刺身も含めて7,000円だったかと思います。

これだけでも見応えがあり、十分おいしそうに見えます。ですが、器を選び、手間をかけて盛り付けてみると……どうでしょう?

多彩な色合いのお惣菜には落ち着いた色の器を用意し、焼き色中心の魚などは明るいお皿に盛り付け、全体的に余白を多めに空間を生かして料理を大きく魅せることに気をつけました。

少し緑が足りなかったので、南天などの葉物を別途用意し、ポイントになるように仕上げています。お酒も進む豪華なおうちディナーになりました。

「紙の上のデザイン」から「皿の上のデザイン」へ。私が盛り付けデザイナーになった理由

ここからは、私が盛り付けデザイナーになるまでを振り返りたいと思います。

もともと私は、多摩美術大学デザイン科グラフィックデザイン専攻在学中から「紙の上のデザイン」を中心に作品を発表し、活動していました。学校を卒業後はグラフィックデザイナー粟津潔氏のアシスタントとして「紙の上のデザイン」を仕事にしていたのです。

結婚後、出産をきっかけに退職し、子育て期は専業お母さんとなり、デザインの仕事からは遠ざかっていました。子育てが一段落した頃(約20年前)から再び「紙の上のデザイン」を中心に作品を作り、個展も開催するようになったのです。

専業お母さん期に 「食」の大切さを強く感じていたため、個展開催時には「紙の上のデザイン」と共に「皿の上のデザイン」も数点発表しました。紙の上にデザインしたものと実際に盛り付けたものを合わせて表現しました。

「紙の上のデザイン」と「皿の上のデザイン」


「皿の上のデザイン」を考えたことが、「盛り付けデザイナー」になる出発点となったのです。

「盛り付けデザイン」でどうやって収入を得るか。講義がきっかけで「仕事」になった

「皿の上のデザイン」は料理のおいしさを伝えるために重要であり、必要であると思い至ったので、まずは実践してみようと考えました。

そこで、自宅にてテーマを決めて持ち寄り形式で料理を持参する「料理研究会」を開催しました。まずは幼馴染、親友、義妹に声をかけて、少人数でのスタートです。その後は友人の勧めでブログを始め、少しずつネット上で広がっていきました。まだSNSがない時代です。

さらに、自宅で友人たちを招待し料理をご馳走する架空のおもてなし食堂「green食堂」も開店しました。そこで「皿の上のデザイン」である「料理の盛り付け」を、実際に行っていったのです。これらはそれぞれ100回以上主催・開店し、かなりの好評を博しました。

ですが、いずれも会費などはとらなかったため、お金を生むことはありませんでした。一体自分の「盛り付けデザイン」で、どうやったらお金を稼ぐことができるのだろう? と悩む時期でもありました。

そんなときに、自由大学を知り、講義のプランニングコンテストに挑戦することにしたのです。これまでの「料理研究会」や「green食堂」の経験を元にプレゼンをしたところ、見事に講義化が決定。そうして誕生したのが、おうちで開くパーティーをどうやって楽しみ、開催したらいいか、パーティーを盛り上げる料理のアレンジやスタイリングを学ぶ「おうちパーティー学」でした。

自由大学 おうちパーティー学のための盛り付けやスタイリング


「おうちパーティー学」はこの10年で24期開講し、卒業生も200名以上輩出する人気講義となりました。残念ながら現在は新型コロナウイルスの影響を受けて休講中です。

その後に、同じく自由大学では「おいしい盛り付け学」や「おいしい写真を撮ろう」といった講義を開講。姉妹校である広島県の尾道自由大学でも7年前に「盛り付けデザイン学」を開講し、こちらは現在までに16期、卒業生を100名近く輩出しています。

さらには島根県の「GO つくる大学」でも盛り付け関連の講義を開講させていただけるようになりました。

尾道自由大学。盛り付けデザイン学のための盛り付けやスタイリング


こうして自分自身の「盛り付けデザイン」を評価いただき、盛り付けを教えてほしいという​​​​​​講義の場も増えて「盛り付けデザイナー」として活動していくようになりました。そして、これらの講義からさらに他の仕事へとつながっていくようにもなったのです。

その土地の「仕事」に「素材」を盛り付けることで、魅力を引き出すのも盛り付けデザインの役目

「紙の上のデザイン」から「皿の上のデザイン」へと活動の重心を移したときから考えると「盛り付けデザイナー」として20年以上がたちました。実は今年ちょうど60歳、還暦を迎えるので、あとどのぐらい現役で動けるかは分かりません。

途中、出産や子育てのために歩みがゆっくりのときもありましたが、それも「食のデザインの大切さ」を考えるために大切な時期だったと思っています。

今後やりたいことは、海外に向けて「日本の食」を魅せていきたい、ということです。その一歩として、2016年にはニューヨークのブルックリンで、2019年にはフランスのトゥールーズでと、海外でも盛り付けデザインの教室を開催することができました。いずれはドイツやオランダ、台湾など他の国でも開催したいと思っています。

また、国内のまだ伺えていない地方へもお邪魔して、その土地で生まれた手仕事(器、籠、木工製品、和紙など)に、その土地の素材(野菜、果物、魚、お酒など)を盛り付け、その土地の魅力が伝わるような「盛り付けデザイン」をたくさん残していきたいと思っています。

鎌倉生まれ。多摩美術大学デザイン科グラフィックデザイン専攻科卒業、グラフィックデザイナーの粟津潔氏のアシスタントを務める。スタイリングと撮影も合わせて行い、フードの盛り付けデザインやデパートのディスプレイ、日本各地の食のデザインを数多く手掛ける。海外でも盛り付けデザイン教室を開催。その他受賞多数。

編集:はてな編集部