奨学金の繰り上げ返済、考えたことありますか?

奨学金の繰り上げ返済、考えたことありますか?

ここ最近、何かと話題になることも多い奨学金。
学校卒業後から奨学金の返済に追われて苦しい生活を余儀なくされている若者もおり、社会問題にまでなっています。

ニュースやインターネットを見ていても、奨学金に関するネガティブな情報に触れることが多いように感じます。
その一方で、奨学金があったお陰で学校を卒業でき、現在の職業に就くことができた人もいるでしょう。

近年、親世代の収入の減少から、学生の利用が増え続けている奨学金。
実に、2人に一人の学生が奨学金を借りて、学校に通っているそうです。

「奨学金を先に返済するか、貯蓄を優先するか」
現在奨学金を返済中の方の中には、そのバランスに悩んでいる方もいるかもしれません。

今回は、奨学金の返済にあたってぜひ検討していただきたい「繰り上げ返済」について考えていきます。

1.日本学生支援機構 奨学金の仕組み

一言で「奨学金」と言っても、学校側が優秀な学生に支払いをする奨学金や、企業や財団法人が支払う奨学金など、さまざまなタイプの奨学金があります。

その中でも、特に多くの学生に利用されているのが、日本学生支援機構が運営している奨学金です。
特に有利子の奨学金である第二種奨学金については、選考が比較的緩いことから多くの学生が利用しています。
「現在も奨学金を返済中だ」という方も、日本学生支援機構の奨学金を返済している方が多いのではないでしょうか?ここで、改めて日本学生支援機構の奨学金の概要と返済の仕組みを確認しておきましょう。
第二種奨学金を借りた人の場合は、貸与時に決められている利率が返済に関係してくるため、一度確認してみて下さい。

日本学生支援機構の奨学金については、現在貸与型と給付型の大きく分けて二つの奨学金が準備されています。
今回は、貸与型の奨学金の内容を見ていきます。

貸与型の奨学金は「第一種奨学金」と「第二種奨学金」、「入学時特別増額」の三種類の奨学金があります。

(1)第一種奨学金(無利息)

①概要

これは、大学や専門学校などに通う学生の中から、特に優秀な成績を修め、経済的理由で修学が困難な人に貸与される無利息の奨学金です。無利息のため、卒業後に返済額が膨らんでいくということはありません。
貸付額は、学校種別(大学院・大学・短期大学・高等専門学校・専修学校)、設置者(国立・公立・私立)、入学年度、通学形態(自宅通学・自宅外通学)に応じて、二種類の金額から選ぶことができます。国公立自宅通学の場合には、3万円か4万5千円を選択します。

②返済方法

返済方法は、定額返還方式か所得連動返還方式を選択することができます。

定額返還方式:貸与総額に応じて月々の返還額が算出されます。所得の変動に関わらず、毎月、同じ額を返済していく方法です。

所得連動返還方式:前年の所得に応じてその年の毎月の返還額が決まります。毎年異なる額を、返還期間にわたって返済していく方法です。前年所得に応じて返還月額が変わるため、返還期間(回数)は定まりません。

(2)第二種奨学金(有利子)

①概要

第一種奨学金と同様、学生を対象に、有利子で貸与を行う奨学金です。しかし、第一種奨学金よりも比較的低い基準によって選定されるのが特徴です。

学校種別(大学院・大学・短期大学・高等専門学校・専修学校(専門課程))に応じて、それぞれ貸付額は異なってきます。大学生の方の場合、毎月貸与される金額は「3万円、5万円、8万円、10万円、12万円」から選択可能です。

②利率

奨学金を借り始めた時期(例:入学した時期など)や奨学金を借り終わった時期(例:卒業した時期など)に応じて、利率が変動していきます。
特に、平成19年3月以前と平成19年4月以降で、利率の決定方法は大きく異なります。

なお、在学している期間は無利息となっています。

【平成19年3月以前に奨学生に採用された方の金利】
在学期間中の金利変動を反映して、利率を決定します。

各月ごとに、基準となる金利が設定されています。
奨学金の貸与が完了した時点で、在学期間中の金利を反映して貸付利率が決定します。

【平成19年4月以降に奨学生に採用された方】
「利率固定方式」および「利率見直し方式」から可能です。

つまり、「貸与終了(卒業)時点に決定した利率の固定金利が採用される」ということです。

参考:平成20年3月→1.5%

「利率固定方式」 :貸与終了時に決定した利率が返還完了まで適用されます。将来、市場金利が上昇した場合は返還利率は変動しませんし、市場金利が下降した場合も返還利率は変動しません。

「利率見直し方式」:返還期間中、おおむね5年ごとに利率の見直しがされます。将来、市場金利が上昇した場合は、貸与終了時の利率より高い利率が適用されます。一方、市場金利が下降した場合は、貸与終了時の利率より低い利率が適用されます。つまり、約5年ごとの変動金利となります。

なお、いずれの方式も利率は年3%が上限です。在学期間中、および返還期限の猶予期間中であれば無利息となります。

③返済方法

最長20年間での元利均等返還です。
元本と利息をあわせて、毎月同じ額を返済します。
返済期間は、貸与総額に応じて変わります。
総額240万円(月5万円を4年間)を貸与した場合には、15年かけて返済することになります。

(3)入学時特別増額

入学時特別総額は、第一種と二種に加えて、入学月の奨学金を一時的に増額して貸与する奨学金です。
日本政策金融公庫の「国の教育ローン」に申し込んだけれども利用できなかった世帯の学生を対象としたものです。

以上のように、貸与型の奨学金には大きく分けて3つの種類があります。
現在返済中の方の中には、1種類だけ借りている方や、2つもしくは3つの種類の奨学金を借りている方など、さまざまな利用者がいるでしょう。
いつも返済日になると、「何となく、口座からお金が落ちていた。」という認識の人もいるかもしれません。

この機会に、ご自身が借りている奨学金の種類や利率を再確認してみると良いかもしれません。

2.奨学金を繰り上げ返済した方が良い2つの理由

ここまでは、主に日本学生支援機構の奨学金について、内容をおさらいしてきました。
さて、いずれの奨学金も一部または全部を繰り上げ返済することができます。

「繰り上げ返済」とは、残っている奨学金の一部または全部を返済期間に限らずまとまったお金ができた時点で返済することです。

「奨学金の残高があるが、貯金が減ってしまうのは不安だから繰り上げ返済をしようか迷っている」という方は数多くいるはずです。
一定額の預金があるのなら、繰り上げ返済を強くおすすめしましす。
繰り上げ返済をすすめる理由には2つあります。

(1)将来支払う予定であった利息を支払う必要がなくなる

日本学生支援機構の第二種奨学金のような有利子の奨学金を借りている方は、特に利息に気を付けてください。
その中でも、10年以上前に返済を開始している奨学金については、特に注意が必要です。

月5万円、4年間で240万円の奨学金を借りた場合で計算してみましょう。
卒業時に確定した利率は1.50%だったとします。
返済時には、これを15年間かけて返済することとなります。
この場合に15年間で支払う金額は、元本の240万円と、15年間分の利息である約30万円になります。

これを、学校卒業から10年経過した時点で繰り上げ返済をすると考えます。
この場合、残り5年間で返済しなければならない元本の額は約90万円です。
ここで、90万円を一括で返済すれば、その後にかかる予定であった利息約3万円は払う必要がなくなります。

また、この繰り上げ返済をするタイミングが早くなればなるほど、利息の軽減効果は大きくなります。
返済を開始した当初は奨学金の借入残高も多いため、利息も高くつきます。
15年間で返済をする場合、全部で180回に分けて返済を行うことになります。
このうち、最初90回の返済時に支払う利息は、約20万円と全体で支払う利息の約3分の2を占めることになります。

例えば、先ほどは、10年間経過した時点での一括繰り上げ返済の例を考えてみました。
今度は、返済開始から5年後に、元本約170万円を繰り上げ返済するとします。
この場合、約13万円の利息を支払わなくても良くなることになります。

さて、近年は金利が低くなっていることもあり、奨学金の利率も低くはなっています。
しかし、毎年利息を支払っていることには変わりありません。
また、10年ほど前に返済を開始した奨学金であれば、1%以上の金利でお金を借りている可能性もあります。
今回モデルで使用した1.5%は、平成20年度3月時点の奨学金の利率です。

その内容が奨学金であれ、住宅ローンであれ、借金が残っているということは「負債と同額の資産に対して、何もしなくても数パーセントの利回りで資産が減っていく」ということです。
手元にお金があることで、負債以上の利回りで運用や投資ができている場合を除いては、まずは「借りているお金の返済に回せないか?」ということを検討したほうが良いでしょう。

(2)何か行動を起こしたいと思った時の心理的負担が少なくなる

奨学金に限らず、借入金があると、なかなか新しいことにチャレンジすることが難しくなってしまいます。

ただでさえ転職や独立など、新しい環境に入っていく時というのは勇気がいるものです。
場合によっては、今までよりも収入が下がってしまうケースや、安定的な収入がなくなる環境を選択するケースもあるでしょう。

そのような時に奨学金などの借入金があると、支払いへの不安から新しい環境にチャレンジすることを躊躇してしまうかもしれません。
また、病気やストレスなどによって職を変えたいと思った時にも、職を変えることができずに状況を悪化させてしまうこともあるでしょう。

その他、会社の倒産や親の介護など、やむを得ない事情で職を離れなければならなくなることもあります。
そのような事態に陥らないのが一番ですが、もしもの時にも備えて借入金額は減らせる時に減らしておいた方が良いでしょう。

普段はあまり気にすることがないかもしれません。
しかし、いざという時の心理的負担も考えると、早めに返済することをおすすめします。

3.「一括繰り上げ返済は無理!」という方も・・・

さて、ここまで読んでいただいて「繰り上げ返済の効果やメリットはわかったけれど、貯金は減らしたくない」という方や、「月々のやりくりでいっぱいいっぱいなので、繰り上げ返済は無理」という方もいらっしゃるかもしれません。

しかし、一括繰り上げ返済ができなくても、「一部繰り上げ返済をする」という方法もあります。
上記のような方は、ボーナスなどで一部繰り上げ返済ができないか検討してみて下さい。

中には、繰り上げ返済どころか、月々の返済も危うい利用者もいるかもしれません。
その場合にも、日本学生支援機構では月々の返済額の減額や、返還期限の猶予などが準備されていますので、まずは一度相談をしてみて下さい。

4.繰り上げ返済の申し込み方法

繰り上げ返済の申し込みはインターネットだけでなく、郵送やFAX、電話で行うことができます。

インターネットについては、「スカラネット・パーソナル」という日本学生支援機構の各種手続きができる奨学生専用HPがありますので、こちらから手続き可能です。

また、郵送・FAXの場合には、日本学生支援機構のHPから繰上返済の申込書をダウンロードして、手続きができます。
電話での問い合わせは、奨学金変換相談センターで対応しています。

5.まとめ

このように、奨学金の繰上返済をすることによって、お金の面でも精神的な面でも負担を軽くすることができます。

「現在ある貯金残高を取るか、奨学金の返済をとるか」と長年迷っているかたもいるかもしれません。
「絶対にこちらを選択したほうが良い!」という答えはありません。

自分のお財布事情を確認しながら、上手に奨学金と付き合う方法として「繰り上げ返済」も検討してみてはいかがでしょうか?

(1)「奨学金(借入)が残っている」ということは、「利息分だけ自動的にお金がマイナスになっていく」ということ。繰り上げ返済での利息軽減効果は大きい。
(2)借金があることで、将来の行動(転職や独立)が制限されてしまう。
(3)無理のない範囲で繰り上げ返済を。貯金を取り崩したくない場合でも、ボーナスだけでも一部繰り上げ返済に回しておくといった工夫ができる。
(4)「そもそも繰り上げ返済どころではなく、返済自体が難しい」という方は、月々の返済額を減らすなどの対応ができる場合がある。奨学金の貸与を行っている団体への相談を考えてみる。

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